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ep11〜お義兄様とその後〜

第十一話投稿です。



『トーリ・ノルニエ教諭はご実家の都合で退職されました。Sクラスには引き続き私がーーー』



トーリ先生が休職されてから5ヶ月後。正式に退職した事が生徒達にも通達された。表(・)向(・)き(・)の(・)理(・)由(・)ではあるが。


あの日、わたくしがお義兄様と教室でキスをした後、お義兄様はわたくしを邸に送り、『最後の仕上げをするから』と蝶々を通じて手紙の送り主であったトーリ先生と会話をし、それが終わったのちにトーリ先生が捕まったと知らされた。

わたくしと教室でお喋りしたりキスしたりした理由は『トーリ先生が魔薬を取りに研究室へくる所を抑えたかったから』らしい。

もっと別の方法だってあったと思うのだけれど、お義兄様曰く『あれが一番効果的』なのだそうな。

気味の悪い手紙の送り主を見つけるためだと思っていたのに、知らない内に捕物になっていたことには驚いた。

流石に学院の教員が生徒に対して魔薬を使おうとしたという本当の理由は公表できない為、あの表向きの理由が用意された、ということ。


まぁ無事捕まったならいいのだけれど、なんとももやもやする。

トーリ先生は良い先生だと思っていただけに、まさかわたくしを手に入れる為に魔薬まで製造してしまうなんて。

お義兄様は『私の蝶々の魔毒に冒されないエリファには多分効かなかったと思うけどね』と笑っていたけど、それでも普通に恐怖を感じた。

もしその魔薬の効果である惚れ薬が効いてしまって、わたくしがお義兄様ではなくトーリ先生を愛するようになってしまったら…

想像しただけで嫌な気持ちになる。

わたくしの心は全てはお義兄様のものなのだからーー


不安が顔に出ていたのか、お義兄様がわたくしを抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

お義兄様の体温とシトラスの香りが、わたくしを落ち着かせてくれる。


「エリファ、やっぱり怖かったよね。あいつを捕まえる為とはいえエリファを囮にしたようなものだ。本当にごめん」

「お義兄様…。…確かに思い返すと怖いですわ。魔薬がもしわたくしに投与されて、お義兄様を愛せなくなってしまったらと思うと、本当に怖い…。わたくしはお義兄様のものなのに…」

「そうだね。逆の立場だったら私も怖いよ。私の全てはエリファのものなんだから」


お義兄様はわたくしを抱きしめたあと、優しくキスを送ってくれた。何度も啄むように。




「おい、蝶々公爵家の仲良し兄妹。俺とメルバ嬢がいる事忘れてないか?」

「殿下!邪魔しちゃだめですよ!折角良いところだったのに!」

「あら、わたくしったら…ごめんなさい。お見苦しいところを見せてしまって」


殿下は呆れた顔をしながら持参したクッキーを口に入れた。

シンディは少し顔を赤らめながら、そんな殿下を諌めている。

ここ最近はこうして4人で放課後に学院の庭のあの四阿でお茶をする機会が増えている。

ユリシス邸で開催した初めてのお茶会の時と比べ、皆格段に仲良くなっていると思うのよね。


「ジークはいつも私とエリファの邪魔をするね。そんなに羨ましいなら早くメルバ嬢を口説き落としなよ」

「「えっ?!」」


思わずわたくしとシンディの声が重なった。

やっぱり殿下はシンディのことを…?


「うるせぇ。俺は慎重派なんだよ。あんまぐいぐい行ったらシンディが可哀想だろ。シンディは自然体が可愛いんだから」

「えっ、え、えぇ?!」

「まぁ!やっぱり殿下、シンディの事お好きだったのね!」

「エリファ、気付いてたのか?」

「ええ。初めてのお茶会の時に『あら?』と思ったのよ!わたくし大当たりだわ!」


嬉しくてぱちぱちと小さく拍手をしてしまう。

わたくしとお義兄様の幼馴染である殿下。そんな方がわたくしのお友達に恋するなんて、とても嬉しい。


「まさかエリファが気付くとはなぁ。俺そんなにわかりやすかったか?」

「うーん、殿下がシンディを見る目がとても優しかったの。でもわたくし恋愛に関して疎いことは自覚していたからずっと黙っていたのよ?」

「あはは、確かに私のエリファは本当に疎いもんね。ああでもジークの変化に気付いたのなら疎いと言うより『鈍い』なのかもしれないね」

「はは、確かにエリファは自分の気持ちすら気付いていなかったもんな!あんなにいちゃいちゃしてたのに数ヶ月前まで気づかなかったなんて」

「でもしょうがないと思いません?わたくし、お義兄様以外の同年代の男の子って殿下しか知らなかったのだもの」


6歳から学院入学前まで、わたくしはお義兄様に外界から遮断されていたらしい。

わたくしたちが結ばれた日にその事を聞いた。

だから『エリファはそのままでいい』なんて言って誤魔化したのねと笑ってしまった。

どれだけわたくしのことを愛してくれていたのかがわかるエピソードだと思う。


「ならなんで俺とノアを比べなかったんだ?」

「あの頃は殿下のことを『ジークお兄様』って呼んでいましたし、そういう意識はなかったんですもの。比較なんてしなかったわーーというか、シンディ?大丈夫?さっきから固まっているけど…」


シンディはわたくしの声ではっと意識を取り戻し、わたわたとしはじめた。


「あっ!えと、はい!えっと、はい!」

「ふふ、大丈夫ではなさそうだね。メルバ嬢」

「そりゃ突然あんなこと言われたら驚くよな?悪かったな、シンディ」


殿下は柳眉を下げながら笑ってシンディの頭をぽんと撫でる。

それに対してシンディは顔を真っ赤にしてあたふたし、最終的に顔を手で覆った。


「シンディ、あんま気負わなくていい。俺はそのままのお前が好きなんだ。無理に俺の気持ちに応えようとかしなくていいからな」

「……………………んです」

「え?シンディ、なんて言ったの?」

「……ちがうんです、あの、確かにびっくりはしました…。けど……その……」

「けど?」

「ぅ、うれしくて………」


その言葉を聞いた殿下はがたんとガーデンチェアから立ち上がり、シンディの元は跪いて彼女の顔を見上げた


「嬉しい、と思ってくれたのか…?」

「……はい……わたくしも……その、、お慕いしていますから………」

「本当か?でも、今までそんな素振り…」

「…わたくしなんかが王太子殿下をお慕いしても報われないと思っておりましたので……」

「ずっと…隠してきたのか…?」


シンディはその問いにこくんと頷く。

殿下はそんなシンディの手を握った。


「シンディ・メルバ伯爵令嬢。俺の妃に、なってくれないか?」

「………わたくしで務まりますか…?」

「大丈夫だ。何があっても俺が守る。シンディはそのままでいてほしい」


殿下のその真剣な眼差しがシンディの心を射止めたようで、彼女は花が綻ぶように笑って答える。


「……嬉しい…です…。ジークフリート殿下…わたくしを、あなたの妃にしてください」

「……ああ!ありがとうシンディ。必ず大切にすると誓う」


殿下はシンディをぎゅっと抱きしめ、その幸せを噛み締めた。

わたくしも嬉しくて涙が止まらない。


「よかったわ…!本当に…!わたくしの幼馴染とお友達が結ばれるなんて…!」

「エリファがお茶会を開催したおかげだね。たった5ヶ月前の話なのが嘘みたいだ」

「殿下、シンディ…おめでとう。幸せになってね」

「エリファ様…本当にありがとうございます。エリファ様のおかげで殿下に出会えました…」

「本当だな。あとまぁノアにも感謝する。お前が誘ってくれていなかったら、シンディには出会えなかった」


そういえば最初に殿下を誘ったのはお義兄様だった。


「ならわたくしとお義兄様が2人の縁を繋げたのね!『ユリシスの縁』だわ!」

「ははっ、確かにそうだね。そう考えると、私とエリファも『ユリシスの縁』かな?」

「!本当だわ!素敵!」

「ああ良いなそれ。婚約発表の時使わせてもらってもいいか?」

「わたくしからもお願いします!『ユリシスの縁』、とても素敵です!」

「ええ、是非とも使ってくださいませ」


わたくしはにこりと微笑み、冬の天を仰ぐ。

二組の未来の夫婦に、神の祝福を祈りながらーーー





ジークとシンディの恋の話とか、また書いてみたいなぁとも思います。


お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いしましょう!

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