お義兄様とエピローグ
最終話投稿です。
最後までよろしくお願いします!
カーン、カーン、カーン
近くの教会の鐘の音があたりに轟く。
その音が鳴る方向に目をやった後、わたくしは再び歩き出す。
わたくしの手には、真っ赤な薔薇の花が入った籠。
わたくしの大切な人たちが好きな花。
こつ、と音を立てて足を止め、その場にしゃがみ込んだ。
その墓石には、一匹のコバルトブルーの蝶々が羽を休めている。
「あら、お養父様もいらしていたのね」
蝶々に向かって話しかける。
わたくしの声に反応して、蝶々はふわりと舞い上がり隣の墓石へ移る。
二つの墓石の間をふわふわと舞ったあと、蝶々は宙空へ溶けるように消えた。わたくし1人で参れるようにというお養父様の気遣いだろう。
持参した薔薇を各墓石の前に供え、2人に向かって話しかけた。
「お父様、お母様。お久しぶりです。エリファですわ。一年ぶりくらいかしら?」
お父様とお母様の返事代わりのように、風がさぁっと吹く。
「…わたくしね、今年16になったわ。学院に入ったのよ?なんとSクラス。すごいでしょう?でもあだ名が『蝶々公爵家の秘密の薔薇姫』だったの。わたくしびっくりしちゃった」
薔薇の花が風に撫ぜられ、気持ちよさそうに揺れる。
「初めてのお友達もできてね。シンディって言うのよ。シンディは今度王太子妃になるの。目の前で殿下のプロポーズ見て、わたくし泣いてしまったわ」
シンディの嬉しそうな笑顔を思い出し、くすりと笑う。
「それでね、わたくしも実は結婚するの。お相手はなんとお義兄様!来月、お義兄様が卒業してすぐに結婚式なの。……お母様が産んでくださって、2人で育ててくださって、お父様が命を賭して守ってくださったわたくしが…」
視線を伏せて、2人の笑顔を思い出す。10年経っても忘れない、大好きな笑顔を。
「ローズ伯爵令嬢だったわたくしが、将来ユリシス公爵夫人になるなんて思ってもみなかったわ。…お父様と同じ、ユリシスよ」
顔を上げ、もう一度微笑む。
「将来、わたくしの子が『ローズ伯爵』を名乗る日がきたら、お祝いしてね」
2月の風は冷たく、身体がふるりと震えた。
「それじゃあね。次はもっと早く来るわ。次は…お義兄様の蝶々をたくさん見せてもらいましょう?この子と同じ、コバルトブルーと真紅の綺麗な蝶々だから、きっとお父様達も気にいるわ」
肩に乗せた蝶々をちょんと触る。反応はないので、お義兄様は見ないようにしてくれていることがわかる。
わたくしが立ち上がり、元来た道を歩き出したその時、背中を押すような風が吹いた。
わたくしは振り返らず、籠を持つ手に少しだけ力を入れた後、前を見据えて再び足を踏み出したーーー
◇
荘厳なステンドグラスから、色とりどりの光が差し込む。
それはまるで神からの祝福のよう。
大勢の人達に見守られながら、わたくしは今日を持って『ユリシス公爵家養女』から『次期ユリシス公爵夫人』となる。
お養父様がお義兄様にわたくしを引き渡し、席に戻る。
そこに言葉はいらないみたい。
「エリファ。私の極上の薔薇。本当に綺麗だよ」
「お義兄様も、本当に素敵だわ。わたくしだけの蝶々」
「…そろそろ『お義兄様』は卒業しない?」
「…それもそうね。…ノア」
「うん。エリファに名前を呼んでもられるのは嬉しいよ」
「ふふ、ならもっとはやく呼ぶべきだったかしら?」
「…この可愛いお口から『お義兄様』って呼ばれるのは好きなんだ。だからどちらも捨てがたいね」
ふに、とわたくしの唇の縁をベール越しに触るノア。
つい顔が赤くなってしまう。
ベールに紅がつかないようにしてくれているようだけれど、少し手の指の動きが…。
「もう、神聖な大聖堂なんですからお控えくださいませ?」
「ええ?場所なんて関係ないよ。エリファが可愛すぎるのがいけないんだから」
「まったく!ノアったら!」
「ふふ、ごめんね。怒った顔のエリファが可愛くて」
「まったく…。でもそういういじわるなところも好きよ」
「エリファ…」
「ノア…」
ノアがわたくしのベールを上げ、キスをしようと顔を近づけてーー
「ん゛んっ!新郎、まだ誓いのキスは早いですよ」
大司教様から呆れた目を向けられる。
ちらりと周囲を見ると、皆同じような表情だった。
「おい次期蝶々公爵夫妻。おまえらどんだけお互いしか見えてないんだ?皆呆れてんぞ」
「うるさいよジーク。私はいつだってどこだって可愛い妻を全力で愛でるのが生き甲斐なんだ。こんなに綺麗なエリファのウェディングドレス姿なんて見たらキスしたくなるのは当たり前だろう?呼ぶ気はなかったのにエリファがどうしてもと言うから仕方なく呼んでやったんだ。静かにしていろ」
お養父様たちとは反対側の最前列に座る殿下もいつものようにわたくしたちに呆れた顔を向ける。
「ノア…わたくし嬉しいわ…ノアと一緒の気持ちだもの…」
「…ああもう可愛い。私のエリファはやっぱり世界一可愛いね。もうこのまま攫ってしまいたいよ」
「まあ、どこに攫われてしまうのかしら?」
「言わなくてもわかるでしょう?」
ノアはわたくしをさっと抱き上げ、大司教様に向き直る。
「誓いの言葉」
「…はい?」
「誓いの言葉。はやく」
「あ、はい。では… ノア・ユリシス、エリファ・ユリシスを妻とし、健やかなる時も、病める時も、愛し、敬い、慰め、助け、その命の限り真心を尽くすことを誓いま「誓います」早いよ君…」
大司教様は、ノアに抱き上げられたわたくしに目をやる。
「エリファ・ユリシス、あなたはノア・ユリシスを夫とし、健やかなる時も、病める時も、愛し、敬い、慰め、助け、その命の限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓いますわ」
「あ、君はまだまともなんだね…」
大変失礼なことを言った大司教様。
はぁとため息をついてから気を取り直し『誓いのキスを』と促された。
「やっとエリファにキスできる」
「ふふ、わたくしも待っていたわ」
2人の顔が徐々に近づき、とても幸せなキスをする。
たった数秒のキスなのに、わたくしの心は震えるほど満たされた。
これでわたくしは本当にノアの妻になれたーー。その喜びで胸がいっぱいになる。
唇が離れ、わたくしたちは見つめ合い、ふふっと笑ってもう一度ノアが唇を啄んできた。
周りは再び呆れた空気になっていたが、わたくしたちは気にしない。
だってこんなに幸せなんですもの。少しくらいはいいわよね?
「ーーーこれにて婚姻は相成りました。皆様、次期ユリシス公爵夫妻へ祝福を」
大司教様の言葉をかわきりに、皆呆れながら拍手を送ってくれた。
これはこれでわたくしたちらしくて良い式になったと思うーーー
◇
ーーある夜会の会場に、一組の夫妻が入場してきた
銀月の光を集めたような髪に、澄んだ空のような瞳を持つ美しい夫。
そしてその夫に宝物のように丁重に扱われる妻。
眩い金の陽光の髪を揺らしながら、真紅の薔薇のような瞳で夫を愛おしそうに見つめている。
「ねぇ見て、蝶々公爵夫妻がいらしたわ」
「あら本当だわ。いつ見てもお美しいご夫妻よねぇ」
うっそりとした表情で2人を見つめる参加者達。
「ご結婚されて10年以上経つらしいけど、あれで元々義理のご兄妹だったというのが信じられないわよね」
「まぁ学院の頃何度もお見かけしましたけど、当時からご兄妹には見えなかったわね。周りなんか目に入っていない、お2人だけの世界が出来上がっていたわ」
会場にワルツの曲が流れ始めた。
その中央で、夫妻は優雅に踊る。幾匹かの蝶々が、夫妻の周りをひらひらと待う。真紅のドレスを着ているせいか、それはまるで蝶々が薔薇に惹きつけられているかのように見えた。
「それほどご自分達しか目に入っていないなんて、少し羨ましいわ」
「…あなた周囲の目を気にせず一日中殿方に愛を囁かれて平気な自信あるの?」
「…無理だわ。恥ずかしくて卒倒してしまう気しかしないわ…」
「あれは蝶々公爵夫妻だからできるのよ。鑑賞しているのが一番いいわ」
ワルツが静かに終わり、夫妻が互いに礼をした直後
夫は妻を抱き締めて口付けをし、そっと何か耳打ちをした。
妻はくすくすと笑った後、それを返すように夫の耳元で囁く。
妻の言葉に満足そうな表情で頷き、そっと腰を抱き寄せて歩き出した。
人混みに紛れ、気付いた時にはもう夫妻の姿はそこにはなく。
代わりに蝶々達がふわふわと舞っていたーーー
fin
これにて『蝶々公爵家義兄妹はお互いしか見えていないようです。』完結です!
初めてのR15、ちゃんとレーティング下げられていたでしょうか…?笑
元がたった五話なのに分割して加筆修正すると話数が4倍近くになるとは思いませんでした…!
お読みいただきありがとうございました!
また次回作でお会いしましょう!




