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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第三章】臆病な元気女子のラブコメ
60/69

深読み


 青春だ。

 これは青春に違いない。

 放送で告白されて答えるために走る、これが青春じゃなきゃ恋愛ドラマのワンシーンか何かだろう。


 というかこれは現実か? なんだこのシチュエーションは。こんなことありえるのか? 現実の学校で。


 ……凛のやつ恋愛漫画の読みすぎだろ。

 これもまた1つの中2病じゃないのか? メルヘン病?


 まあ落ち着け、落ち着け俺。


 よく考えよう流されてはダメだ。

 これまでのことを振り返ってみよう、何か取り返しのつかないことが起こってしまう気がしてきた。


 凛の()()はなんだ?


 ……確定してるのは俺を助けたいってこと、それと宮内さんへの怒りだと思う。俺を助けたいのはもう凛の責任感の強さからわかりきってるし、放送自体が宮内さんへの牽制だった。


 これは確かだ。


 じゃあ俺への告白は?

 これはおかしいだろ。陰キャで散々凛の期待を裏切った俺に告白なんて絶対ありえない。


 いやまてまて、そもそもこれまで何度も()()で告白されてきてたのに俺は何で今回だけ本気の告白だと少しでも思ったんだ!?


 な、なんか急に恥ずかしくなってきた。

 自意識過剰にもほどがあるだろ。

 

 ま、まずいちゃんと整理してから返事しないと凛の()()から外れてしまうかもしれない。

 

 俺はさっきから自分の立場のことばかり考えている。凛はどうなる?

 

 そうだよ俺は凛の損得を理解しないといけない。


 告白した凛はもう振られるか受け入れられるかの2つしか選択がないんだ。けど本気の告白じゃない、ということはこれには正解があるってことだ。


 YESかNOの正解が。


 YES、これまでの年上の大学生が好きという誤魔化しと違い現実に彼氏ができる。しかも同じクラスで過去に因縁がありドラマがある。

 恋人になり男子は牽制できるし、女子からの批判が今まで以上にへる。

 でもクラスで俺と恋人の演技をするデメリットがある。

 

 NO、学校1の陰キャの俺に振られるという恥をかき、可哀想なヒロインになる。男子からはどうだろうな…… 凛が諦めない姿勢を見せれば男子もさすがにちょっかいかけられないと思うな。


 女子からはフラれた女として可哀想という気持とざまあというガス抜きが果たされる。批判も減りそうだ。


 こうして2つに分けるとわかりやすい。

 というか片方の()()()()()が余りにも大き過ぎるし、考える余地もなかった。


 恥ずかしい。

 即断即決じゃんこんなん、場の雰囲気に流された。

 なんだよあの空気と恋愛ドラマみたいなシチュエーションは、俺のせいじゃねーからな!


 あれのせいでホントの告白なんじゃないかって少しでも考えてしまったんだ! 俺のせいじゃない! 自意識過剰じゃない!


 ……ああくそ、なんでもいいから殴りたい枕をしばきたい。


 夢中で考えていた俺は目の前にニヤついている妹がいることに気がつかなかった。

 いつからいた?

 しならないうちに放送室の前まで来てしまったらしい。


 いたんじゃなくて俺が来たのか。


 でも今はこいつにかまってる暇はない。

 まあ琴葉もそれが分かってるから声をかけないんだろうけど。


 ニヤつくだけの琴葉に軽くガンを飛ばし俺は凛のいる放送室の扉を開く。

 

 何の迷いもなく扉を開いたのはいいがそこにいる凛を見て急に緊張してきた。

 

 マイクの前に座る凛は頬というより顔全体を赤らめて上気している。

 その顔は見たことないくらい真剣な表情で俺を見据えていて目尻には涙が溜まっているように見える。


 全校放送だ、凄いストレスだったんだろうな。それに加えて頼りない俺だ、余計なことをしないか心配しているのかもしれない。


 だが安心してもらおうか、俺もそこまで馬鹿じゃない。凛の期待に答えることなぞ造作もないことよ! はっはっは!


 緊張はするがなんて答えればいいか分かっていれば簡単だ。

 俺は凛の隣に腰を下ろす。


 ビクリと肩を震わせる凛はまるで告白の返事を待っている恋する乙女のように見えた。

 直ぐに安心させてやらないと。


 マイクチェック……よしスイッチ入ってるな。


「凛、告白ありがとう」

「りょ、りょうくん……」


 まるでホントに告白の返事を待つ少女のようだ。凄い演技力だな、さすが凛、思わず見惚れてしまうほどだ。


 いつか凛と付き合う男に天誅をお願いします神様。

 

 俺は凛に心配するなと微笑み、マイクに向かってハッキリと告げる。


「でもごめんなさい! 好きな人がいるんで!」


 たじろいだ凛は上目遣いで俺を見る。


「う、……どうしてもアタシじゃダメ?」


 おいおい、そこまで完膚なきまでに振って欲しいのか?

 全校放送の時点で過剰だと思うんだけど、でも凛がそれを求めるなら俺もそれに答えなければならない。


 凛を妬む女子にはいい発散になるか。


「そうだな、なんていうか凛って女子っていうより男友達みたいなんだよな、恋愛対象に見れなくってさ、あはは!」


 おっし完璧だろ。

 やはりここは川上良介なんてしょーもない陰キャに徹底的にフラれることが重要だ。

 ()()()()()()()()()()()()()なんて不名誉過ぎるレッテルは最悪だろ。


 だからこそ完璧だ。


 凛の求めに余りにも完璧に対応できた俺は笑顔だ。

 むしろ笑みが止まらない。マイクに笑い声が入らないように口を固く結ぶ。


「……り、り、」


 凛がわなわなと拳を震わせて何か言っている。

 顔は下を向いていて見えないが、俺の完璧な演技に感動したに違いない。


 友達の助けになるって素晴らしいな。

 凛が俺を信用してくれてるのも嬉しかった。だって自前に相談がなかったってことは俺なら求める答えをしてくれるって信じてたってことだもんな。


 いやー友達ってすばらしい!


「りょうくんのバカーーーーーッ!!」


 意識の外から空気をかき分けて俺の頬に吸い込まれるのは凛の手のひら。

 女バスで鍛えた高身長女子の平手打ち。


 顔と手のひらが高速でぶつかり合う乾いた音の後、続くのは俺の情けない悲鳴。


「ぷげらっ!」


 な、なんで? 俺上手くやったのに、これも演技……


 混乱して考える暇もなく今度は両手で胸ぐらを掴まれる。


「川上良介ぇぇぇーーーッ!」


 ガクンガクン前後に振られて考えるなんて出来たもんじゃない。


「ちょっとお兄ちゃんなにやってん……ってリンリン先輩なにやってんの!?」


 放送を聞いて琴葉が駆けつけてくれた。ムスッと俺を見たのもつかの間、キレた凛を見て動揺している。


「こ、ことっは……たす…………けて」

「セリフが飛んでるよお兄ちゃん! てかリンリン先輩ちょっと落ち着いて! まだマイクのスイッチ入ってるじゃん!」


 俺を助けることよりマイクのスイッチを切ることが優先されたおかげでムチ打ちは確定した。

 というかこのままじゃ死ぬ。


「りょうくんのアホーっ! ボケッ! おたんこナスッ! マンモスムカつくッ!」

「バカな兄に代わって謝ります! とりあえず離さないと死んじゃうから!」


 琴葉が凛の腰に抱きついて俺から引き離す。

 その間も凛は俺を睨めつけてフーフーと荒い息を吐いていた。怖いって、殺人鬼のそれじゃんか。


「な、ナイス琴葉。助かった」

「もうナイスじゃないよ! 次は助けないからね! なんで人生最大のチャンスを無駄にしちゃうかな」


「え!? 何かミスった!? そ、そうだよなじゃなきゃ凛がこんなに怒るわけないし…… まだ振り方が甘かった? ……そうか渚だ。俺は渚に告白して好きだってことになってる。それを利用して凛を振った後にマイクをつけたまま渚に告白。それくらいやらないとパンチが弱かったのか!」


 今さらになって後悔が襲ってくる。

 人生はいつもそうだ、あの時こうしてれば、あの時こうだったら。そんなことばかりだ。

 俺が1人納得して頷いていると、琴葉からはゴミを見るような目でため息をつかれ、凛は涙目でさらに激昂した。


 マジか。これ以上は俺には思いつけないんだけど。

 これが人間関係を断ち切っていた弊害か。


「もう今日は口開かないでお兄ちゃん」

「ううう!! ううううっ!!」

「先輩が猛獣みたいに…… ごめんなさいうちの兄が。あたしがいくらでも愚痴ききますから今日はこれくらいで許して下さい。一応こんなんでもあたしの兄なんで……」


「…………………」


 ショックだった。

 凛が琴葉に引きずられながら放送室を出ていくのも見えていたが、俺はショックでそれどころじゃなかった。


 人の期待を裏切るのは怖い。


 今回は誰よりもどんな時も俺の味方でいてくれる妹でさえ俺を擁護できない失態を犯したらしい。

 しかも理由が判然としてないのもいただけない。


 たぶん振り方が悪かったのだとは思うんだけど……

 ダメだわからん。


 そもそも振ること自体が間違っていた?


 そんなわけない。いかに付き合うメリットのほうが多いといっても、俺と付き合わないとならないというデメリットは絶大だ。


 教室で毎日付き合ってる振りなんてリスキー過ぎるし、俺に演技力があるとは思えない。

 それに俺がカッコ悪すぎて凛に恥をかかせてしまいそうだ。


「結局どうすればよかったんだ?」


 いくら考えても答えは見つからない。

 俺の小さな呟きは誰にも届かず放送室に溶けていった。


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