独演の始まり
昨日の宮内さんの襲撃には驚いたけど、俺にしてはかなり冷静な対処ができてたと自負してる。
最近の俺の成長は目覚ましいものがあるね、うん。
でも恐れていたことが起きてしまった。
宮内さんの俺に対する執念は誰から見ても異常で恐ろしいものだ。彼女の地位を用いたとしても覆ることじゃない。
俺は何もせずともいずれ彼女を撃退してしまう。
少なくとも昨日の現場にいたクラスメイトは宮内さんの話しより俺のほうを信用しているだろう。
何度もそれが続けばいずれ宮内さんの限界が来てしまう。というかそろそろまずいかもしれない。
……ホント、どうにかしないとなあ。
といっても俺にできることと言えば説得しかないし、真摯に向き合って少しでも理解を求めるしかない。でも実は出会わないようにするのが一番いいのかもしれない、といっても向こうから探してくるから避けようがないんだけどな。
見通しがつかないなあ。
加えてである。今朝から凛の様子がおかしい。
またかよって思いつつも少し思いあたるふしがあるから困っている、というかお願いだから間違ってて欲しい。
昨日スマホを教室に忘れて凛から琴葉経由で俺に届いた。
そしてスマホを全くロックしてない無警戒人間だった俺は気づいてしまったのだ。
あれ? もしかしてエッチなサイトの検索履歴みられたんじゃね? と。
スマホが帰って来たときも琴葉が含み笑いで、俺を煽るような視線をぶつけてきた。
いやもう確定じゃん。
こっちを見てる凛を見ると目を反らされる。
俺が反らすとまた俺を見てる。
朝からそれの繰り返しだ。
しかも今は授業中どんだけ気になってるんだよ。凛のことだから『こうゆうのが趣味なんですか!?』とかそのうち聞いて来そうで怖い。
どう言い訳しようか……そうだ! 男友達が勝手に検索したってことにして俺は知らないふりを……
いや無理だよね友達いないもの。
こうなったら潔く認めてしまうのもいいかもしれん。
それがどうかしましたかスタイルで突き通してやる。それしかない。
もうすぐ昼だ、そうすればさすがに凛も腹を決めて聞いてくるに違いない。
俺は断頭台に登っていくような気持ちで時計の針を見つめていた。
そして無慈悲に鳴り響くチャイム、俺は内心達観して凛からの突撃を待っていたのだが一向に奴は来なかった。
まだ心の準備ができていないのか。
先に俺の精神が擦りきれてしまいそうだよ。
「なに気持ち悪い顔してんだよお前」
安定した罵倒と口の悪さで登場したのはもちろん杏梨。
弁当箱をひっさげて早くも隣人の席を占拠した。
「まあ色々とな」
「良介なんかに色々なんてあんのかよ、せいぜいゲームのことくらいだろ?」
「失礼極まりない奴だな、ゲーム以外のこと考え過ぎてもうキャパオーバーだっつの」
たまには大きくため息をつかせてもらおう、ついでに背もたれにも働いてもらうか。
「なによ景気が悪ければガラも悪いわね」
渚はだらけた俺と椅子の上で古座をかいた杏梨を見てそういった。
弁当を持ってきたってことは渚も今日は一緒に食べるらしい。
ちょっと前なら考えられないないメンツだ。
「──? 早く座れば?」
なかなか座らない渚をみかねた杏梨が声をかける。
「いえね、この教室にレディの席も用意できないグズがいるとは思いたくないのよ」
「ああ、そ」
いつもの病気かなんかねと杏梨は思っているのだろう、付き合ってらんないと肩をすくめた。
こいつ俺が動かなかったらずっとそのまま立ってんのか?
だが俺は一瞬の逡巡ののち席を作った。
そのほうが早く飯にありつけると思ったからだ。
「わかればいいのよ、次からは女性を待たせないようにしなさいよ?」
「がああ! やっぱなんなきゃ良かった!」
深くため息を吐きながら座る渚の人を煽る才能はピカイチだ。
俺は飯の為にプライドを捨ててしまったことに頭を抱えて発狂する。
「なにやってんだお前ら……」
これにはギャルも呆れ返っている。
「もうちょっとそっち詰めなさいよ」
「いや詰めるってかなんで君たちは1つの机に弁当を3つも広げられると思ったの? 場所の用意したじゃん、弁当の数分机使おうよ」
「は? お前あたしが邪魔だっての」
「いや邪魔もなにも食べずらくない? 近くない? あたまがごっつんこするわ!」
「貴方女子が近くて緊張してるだけでしょ、いい加減なれたら。生徒会だって男子1人なんだから、情けないわよ?」
「そうゆう問題じゃねーよ! つかだとしてもこれ恋人かやたら仲良い女子同士がやる奴じゃん! しかも3人て──んおっ!」
喋ってる途中に渚から弁当の卵焼きを突っ込まれた。
「んぐっ……なんで卵焼きにマヨネーズ? いやでもこれめっちゃ旨いな」
「でしょ? 自信作よ。この見た目で料理もできる、取ったわね世界」
こいつ料理もできんのかよ……
そういや1人暮らしなんだっけ。お嬢様のクセに案外やることは庶民より……でもないんだよな考えると。
学校で意味わからん権力ふるってるし。
「な、お前らな、な、なにあーんしてんだよ!」
そしてこっちでは意外と純情なギャルが顔を赤くしてる。
こうゆうギャップが杏梨の可愛いとこなんだけど、今のは断じて恋愛てきなもんじゃなかったぞ。
そんな杏梨を見た渚の目が光る。
ふう、標的が変わったか。
「別に普通のことなんじゃない、おかずの交換くらい。なんなら杏梨もやる?」
……あ、俺の唐揚げが消えてやがる。渚の弁当箱に入ってるし、いつの間に取ったんだよこいつ。
「え!? あたしが!?」
「い、いやそんなに驚かないでよ、ビックリするわね」
「じゃ、じゃあ良介! あたしの唐揚げとその唐揚げ交換しようぜ」
「唐揚げと唐揚げを!?」
「杏梨、テンパり過ぎよ……」
でも確かによその家の唐揚げって食べたことないかも。
まさか変わった味付けとかしてんのか? ……杏梨か。
「まさかメロンの果汁で味付けとかしてないよな?」
「するわけねーだろっ!」
こんな感じでやいのやいのと昼食を楽しんでいる時だった。
どの教室にもついているスピーカーのスイッチが入る独特なノイズがした。
うちの学校は昼に放送とかしないから誰かの呼び出しとかでしかスピーカーは使われない。
何かあったのかなーと気楽に構えているとスピーカーからガタガタと雑音に紛れて聞いたことがある声がする。
『ウシシ! 使い方分かりませんねリンリン先輩!』
『んーこれでスイッチ入ったと思うんだけどなあ……あ! ここに向かって喋ればいいんだ! ことちゃん聞こえるか確認して!』
『了解でーす!』
その会話を聞いた瞬間俺はわかった。
うちの妹がなんかやらかしやがったと。
「……凛と琴葉ちゃんね」
「そうだな、凛と琴葉だな」
渚と杏梨がボソリと確認を取り合ってる横で俺は琴葉が何をやらかしてるのか気が気じゃない。
『リンリン先輩!なんか喋んないと聞こえませんよーって自分の声が聞こえた! マイク入ってますよリンリン先輩!』
『え!? ホントに!? よ、よし!』
テレビを食い入るようにスピーカーを見ていた俺だが、周りも同じだ。教室にいるほぼ全員が楽しそうにスピーカーを見てる。
いつでも娯楽に飢えている高校生にこんなイベントは楽しくてしょうがないだろう、俺だって身内じゃなきゃ楽しく聞けたのに。
琴葉の奇行に内心頭を抱えた。
『ん、んん! 2年1組の鈴村凛です! まず始めに1年生の川上琴葉ちゃんに命令して職員室から放送室のカギを拝借させました! ごめんなさい!』
こうして凛の独演が始まった。
渚は片手で顔を覆ってため息をつき、杏梨はうなずきながら笑っている。
この2人がグルってことは無さそうだ。
とりあえずうちの妹をカバってくれたことに感謝か? いや巻き込んでそうだしな。
まあ琴葉は喜んで巻き込まれるんだろうけど。




