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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第三章】臆病な元気女子のラブコメ
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作戦会議


 友を得て信頼を築くのはとても時間を要する。

 でも壊れるのは一瞬だ、まるでそこには何もなかったかのように瓦解して、別の性質を持った人がそこにいる。


 その光景は筆舌に尽くせない無力感と失望、最後に悲嘆がやってくる。


 俺には経験があるからよくわかる。


 昨日までの凛も酷いものだったけど、今日はさらに酷くなってしまった。


 ──あの後。

 

 凛には月島や矢神、他の男子が慰めに寄っていって、明石(あかし)さんには女子が集まった。

 そして何人かの女子が凛を睨むという足のすくむような光景が広がった。


 後から渚に聞いたんだけど明石さんは月島のことが好きだったらしく、凛が度々月島と仲良くしているのを目撃していたらしい。

 それで我慢の限界がきたってことらしい。


 渚と杏梨のバトルを思い出すような光景だったけど、凛は酷く憔悴していたから、男子が優しくしていたのが印象的だ。

 それが余計に凛と女子の間に亀裂を入れることになるなんて知らずにな。


 ただ御劔は遠目にその光景を見て、ため息をついていたからどんな状況なのかわかっていたんだと思う。

 たぶん奴は渚並みに人の感情が読めているんだ。

 凛をずっと見ていた俺でさえ元気ないなくらいにしか思ってなかったし。


 俺がダメなだけか? どちらかというと人の機微には聡いほうだと思ってたんだけどな……まああの2人が別格なだけだ。


「はい、じゃあ私の作戦を説明するわね」


 渚がパチンと手を叩いた。


 生徒会室に昨日と同じ4人、昨日と同じ場所に座っていた。

 渚は全員を見回して続ける。


「一番簡単な方法は凛が男子との付き合いを制限すること」


 うつ向いて虚弱状態の凛だったが、素早く顔を上げた。


「そ、それはやだ!」


 その反応を見た渚は、うんと頷いて微笑んだ。


「……まあそう言うと思っていくつか考えたわ」

「でも1人ずつシメるのが一番早いぜ? あたし凛のこと睨んでた奴、全員ノートに書いといたから何時でもいけんよ?」


 杏梨も笑みを浮かべたが、渚と違ったのはその笑みが獰猛な野生動物のように見えることだ。

 ノートを持ってポンポン叩いている。

 

「……さすが杏梨ね、いい作戦だと思うわ」

「だろ!?」


 俺と凛はギョっとした顔で渚を見た。

 こいつ正気か?


「ただね、今回は相手と仲良くなりたいのであって舎弟にしたいわけじゃないの。でも杏梨の作戦も素晴らしいわよ、ただそれはまた今度、別の事件があった場合に活用しましょう」


 そ、そういうことか。

 渚にここまで気を使わせるとか、やっぱお前は大物だよ杏梨。


「そうか? うーん……まあ渚がそこまで言うならそうすっか!」


 渚の手のひらで踊らされているとも気づかずに、杏梨は破顔した。

 でも名前を書き留めておくとか、やってくれてるのは杏梨なりの気遣いだし、ありがたい。


 これで誰が凛をきらっているかも分かるってことだしな。


 けど敵に回すと恐ろしいよな、ノートに書いて覚えようとするぐらい粘着質なんだから。

 まあ本来はサッパリしてるタイプで、味方でいる分には仲間想いって前提もあるからな。


 ──とりあえず今は。


「で、渚の作戦は?」

「そうね、まずはさっきいった男子に近づかない。これは昨日も話しあったしボツね」


 話し合いって感じじゃなかったけどな。

 あんなに荒ぶった凛見たことないよ。


「それともう1つ、凛が同性愛者だって宣言することね」

「え!? お前そうだったの!?」


 驚倒するほど驚いた杏梨はソファーの背もたれに座って、自身の身体を守るように抱いた。

 ……昨日弄ばれてたからな。


「ええっ! ち、ちがうよ!」

「ま、まて近寄んな! あたしは普通だって!」

「アタシも普通だよ!」

 

 たち上がった凛から逃れるように、杏梨はついにソファーから降りて俺を盾にした。

 ……なにやってんだコイツら。


「渚が言ったのは作戦であってホントのことじゃないと思うぞ」

「……ホントかよ」


 訝しげな視線を凛に送っている。


「嘘じゃないって! アタシは男の子が好きだよ!?」


 必死に弁明している凛だが、渚は大きくため息をついた。

 これじゃ話しが一生すすまないからな。


「凛が男好きなのはわかったから」

「男好きじゃないし!」

「そうねどっちもOKなのよね?」


 なんだよこの人も話し進めるつもりないじゃんか。杏梨は俺の後ろで「やっぱり……」と呟いて人の首を腕で締め上げてきてる。

 せめてもうちょいソファーの背もたれが低ければ……くそ!

 

「違うって!」

「でもこの作戦なら男子とも女子とも仲良くなれるわよ?」

「や、やだ! りーさんに逃げられたじゃん!」

「……ワガママね」

「ええ!?」


 おちょくられた挙げ句、自己中呼ばわりされて戦慄している凛。

 渚の恐ろしさがよくわかっただろう、でも凛は今までも渚の被害に遭ってたみたいだし、慣れてるか。


 それに凛が元気になってきたし、結果オーライだな。

 ……もしかしてそれを狙ってやってんのか?

 だとしたらさすがだけど、凛をおちょくってる渚はウヒャってるし……杏梨はガチで俺を盾にしてる。


 ……ないか。


「はあ、仕方ないわね」

「え? 他になんか案があるの? 渚!」

 

 目を輝かせる凛に渚は目を泳がせ、そして俺に焦点を合わせた。

 

「……良介、なんか考えてきたんでしょ?」

 

 コイツ擦り付けやがったぞ、他に考えてなかったな。


「……まあ一応あるけど」

「なになに!?」


 近いって。

 後ろから杏梨の手が伸びて凛の顔を押し退ける。

 千手観音かよ俺は。


 なんか凛の期待が凄く重い……かなり安直な作戦だから言っていいものか考えてしまうな。

 まあ話さないと進まないか。


「凛は大学に彼氏がいる、もしくは誰でもいいから好きな人がいるってリークする」


 渚の場合は誰とも付き合うつもりがないってリークと、男子に媚びを売るのを止めるって自ら行った。

 それで女子からの反発がなくなったんだよな。


 そこで考えてみた。


 そういえばうちのクラスにはもう1人、渚や凛に並ぶ圧倒的な天使がいるんだって。


 確かに顔やスタイルは2人に敵わないかもしれない、でも性格は恐らく一番いいし、胸にいたっては戦闘力ありすぎてスカウターがぶっ壊れるくらいだ。


 もちろん男子からのウケは相当にいい。

 特に俺みたいな陰キャ男子からは女神のような扱いを受けてる女性だ。


 その名を天塚桃花(あまつかももか)という。

 天塚の()なんて使()に替えたらまんま()使()だから、名前が物語ってんだよな。


 そんな桃花だけど彼女は男子とも、女子とも仲良くやれてる筆頭なんじゃないか? いや、間違いなくそうだ。


 なぜなら彼女は風見(かざみ)という野球部スタメンの、御劔(みつるぎ)に次ぐイケメンの彼氏がいるからだ。


 そう、彼氏がいるから他の男子には手が出せない。

 すると桃花が他の男子と仲良くしていても、女子からの嫉妬はないのだ。


 つまり彼氏がいる女子は、彼氏以外の男子と仲良くしていても、ライバル足り得ないと認定されるのだ。


 凛もそうなればいい。


「す、好きな人!?」


 凛はバカでかい声で仰け反った。


「まあ渚の作戦と効果は似てると思うけどな、レズだって触れ回る欠点は補えてると思う」


 同性愛者です! だと今度は女子に警戒されるかもしれないしな、別の意味で。

 それでも効果は俺の作戦と同じで、女子が好きなら男子と仲良くしてても問題ないと思わせることができる。


 ……その代わり彼氏は作れないかもな。


「そうね、良介にしてはいい案なんじゃないかしら」


 人に押し付けといてよく言えるよ、その図々しさは見習いたいね。


「好きな人いないよ!? ……気になる人はいるんだけど」


 伏し目がちな凛は顔を赤くしながら秘密を教えてくれる。

 恥ずかしがってる凛は可愛いけど、なんか悪いな……色々と情報を引き出しちゃって。


「ん?ああ、それは問題じゃないから、好きな人が居るって嘘をつけばいいんだよ」

「う、嘘ですか」


 正直者の凛には少し難しいかもしれないけど、これなら彼女の全員と仲良くしたいという方針にも抵触しない。


「まあそれぐらいの嘘ならバレないだろ、ただ御劔とか人気のある男子を好きだっていうのは止めたほうがいいな、他の御劔が好きな女子と競合することになるから、それに嫌われる。まあ年上の大学生に好きな人が居るってのが一番いいかな」


 うん、我ながら話していてしっくりきた。

 これなら成功しそうだろ。


「そうすれば皆と仲良くできるってことだよね?」

「絶対とはいいきれないけどな、可能性は高い」


「ちょっといいかしら?」


 何か意見があるのか渚は手を上げている。

 ただその顔がニヤついているのが気になってしょうがない。


「……なんだよ」

「なんだったら彼氏を作っちゃえばいいじゃない」


 ほらまた始まったぞ渚のお遊びが、平和に終わらそうって考えはコイツにないのかね。


「おお! いいじゃんそれ!」


 杏梨は渚を指さして賛同している。

 もう凛の意見を聞くことなく話は進んでいく、これ以上は渚があてがった彼氏ができかねないぞ。


 

「でしょ? ……そうね、良介が凛の彼氏になればいいのよ」


 少し悩んだ素振りした渚はゆっくりと辺りを見回し、俺に視線を止めて指差した。


 ……俺かよ。

 ニタニタしてる渚は全員の反応を愉しそうに眺めている。

 いい趣味してんわホント。


「りょうくんが彼氏……」


 凛は是非を決めるでもなく、ただ腕を組んで悩んでいる。


「絶対ダメ! 彼氏はやっぱよくないだろ! てか凛も嫌だろこんな陰キャが彼氏なんて!」


 おい、人を痛烈にディスってくれてんな、普通に悲しいんだけど。

 そこまで杏梨が反対しなくてもいいじゃん、さっきまで賛成してたのになんだよ。


 つかいい加減俺の首を絞めるのやめてくれませんかね。


「ウヒャ……でもそのほうが確実じゃないかしら、彼氏がいるってなったら皆の反応が変わるわよ?」


 確かに彼氏がいるとなれば女子の反応はいいだろな。

 でもわざわざ俺である必要はない、そこは渚の趣味みたいなもんだ。

 

「待て待て、だから特定の人物じゃなくても、架空で十分なんだって!」

「あらそう? 架空の彼氏じゃ凛に嘘を突き通せるなんて思えないけどね、どんな人が彼氏なのか聞かれたりしたらテンパっちゃうわよ。だから仮に良介を彼氏にすればフォローもしやすいじゃない、同じクラスなんだし」

 

 なんかもっともらしい理由をつけて説明してるけど、渚の前提にそうすれば面白そうだから、がついている。


「それを言ったら良介だって凛と付き合うなんて無理だろ! 絶対にボロがでんぞ!」


 ……おお、杏梨さんや、あなたは俺をディスってたわけじゃなかったんですね。

 俺の良くない面をプレゼンして庇ってくれたんですね。


 ……逆に考えると本気でそう思ってるってことか。


「──わかった!」


 ガッツポーズのような感じで、凛が空中を握った。

 なにか答えが出たらしい。


「りょうくん! 彼氏になって下さい!」


 凛が付き出した手のひら、俺はそれを見てから即答した。


「え、やだ」


「「「「…………………」」」」


 生徒会室を妙な沈黙が流れる。


 だってなあ、本気で付き合うならまだしも仮にって、俺にデメリットしかないんだよ。

 凛と付き合うってことは男子からは疎まれるのは当たり前だし、本物の彼女が絶対にできないってことじゃんか。まあ俺みたいなのに彼女なんかできねーよって言われたら元もこうもないけどな。


 凛を手助けしたい、借りを返したいって気持ちはもちろんあるけど、これは渚に乗せられ過ぎだな。

 

「まあ冷静に考えれば俺には荷が重いかな」


 この空気をどうにかしたい。

 その一心で発言したんだけど、その一言が発端となり皆が動きだした。


 凛は両手両膝をついてうなだれた。


「フラれた……人生で初めてフラれた……」


「あっはっはっ! フ、フラれてやがんの! だせぇ! 良介にフラれてる!」


 杏梨は抱腹絶倒、凛を指差して俺を叩いている。

 痛い。


「ウヒャ……り、凛? 人生いろいろあると思うけど、が、頑張りましょう? 大丈夫よ貴女はモテるんだから……ウヒ、ウヒヒ」


 渚は笑いを堪えようと必死なのは分かるけど、ここまでくるとただの煽りだな。


 本気なら迷いなくOKなんだけどな。


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