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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第三章】臆病な元気女子のラブコメ
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後手


 大丈夫、大丈夫、大丈夫だ。

 ──俺は大丈夫。


 皆に大丈夫だってホザいてきた、そうすればカッコ悪い所を見せないように気張れる、そう思った。


 でも実の所は自己暗示みたいなもんで、意地を張ったんじゃなく自分を励ましていたのかもしれない。

 

 いつもの朝、いつもの教室、扉の向こう側はクラスメイトがごった返している。

 あれだけイキってたのに、俺は開けるのを躊躇した。


 こんな気持ちになったのは中学以来かもしれないな。

 1年の頃は諦観して"無"だったから逆に平気だったし、捨てたくないモノがある今のほうがよっぽど緊張する。


「おはようりょうくん!」

「うわっ!」


 び、ビビったー。

 でも久しぶりに凛が話しかけてきた、家でお菓子パーティーをやった以来かもしれない。


 スクールバックを肩にかけてニコニコしてる凛は、首を傾げた。


「入口に立ってたらじゃまだよ?」

「入る入る。あと背後をとんなよ、もう前から来ても無視したりしないんだからさ」

「いやいや、今のはりょうくんがボーっと突っ立ってましたよ? でも今度無視されたら反応するまで、机の前でダンスするね」

「……斬新な脅し文句だな」


 効果覿面だけどな。

 ちょっと見てみたい気持ちはあるけど、俺の机の前でダンスバトルとか発生しかねん。


 やたらノリのいいクラスメイトが多いからな。


 ──あれ? 凛と話していたら知らないうちに教室に入ってたんだけど。


 もしかしたら凛といると自然体になれるのかも。


「おっはよーー!」


 この所みることのなかった元気な挨拶、昨日の件があって少しは元気が出たらしい。


 でも挨拶が返ってくるのはまばらだ。

 男子からは完璧に返ってきてるんだけど、それがまた女子の妬みを誘っている。


 まるで"そこ"に凛がいないみたいに振る舞ってる女子までいるし、好きな人を取られそうだからってそこまでする? 俺にはちょっとわからん。


 ──あ、凛がちょっと落ち込んだ。


 昨日の今日でこれだけの挨拶ができるって凄いけどな、教室入って皆に聞こえるようにとか、俺じゃ一生できそうにない。


 やっぱり凛は凄い。

 臆病な性格で、しかも無視されるってわかってるのに挨拶する根性。たしかにダメージは受けてる筈なのに無理にでも笑っている。


 ちょっと見てらんないけどな、こっちまで辛くなるし。


「やあ、つっきー! 今日もヒップホップだね!」


 もう復活してんじゃん、不屈の精神だな。

 

 凛に絡まれた月島は、両手の指先を伸ばして構えた。格闘家のポーズみたいだ。


「出たなリンリン!」


 目を伏せている凛はゆっくりと歩みよる。


「……雌雄を決する時が来た」


 近づく凛から一歩退いた月島は自分の足を見て驚愕している。たぶんそうゆう演出だね。

 そしてそのまま飛び退いて、近くの机から筆箱を取ると口元に持っていく。


 持ち主の女子は「あ」と手を伸ばしていたが、直ぐに諦めたらしい。   

 賢い選択だな、俺は称賛します。

 

「きょ、今日は元気じゃねーか! 昨日までの態度はでっち上げか? 調子よくても所詮は三日天下! だけど互いに取り柄は元気だけ、暗いツラした凛は見てらんねえ、世の中常に乱戦の乱世、安全はねえ自分の手で切り開け! 勝者は俺で敗者は凛に決定!」


 筆箱マイクでよくやるよ……

 凛も自分のバックから筆箱出してるし。なに? 筆箱に拡声器でもついてんの君たち。


「アタシに負けは似合わない、曲げないスタイル意志が固い! 取り柄が1つだと思ったら勘違いだよ、バスケもあるから忘れんな! どうこの圧倒的なパンチライン、奥さまのランチ会じゃねーんだよ、常識の範囲内に収まったラップじゃアタシは負けない!」


 取り柄にラップも加えたら? 素人目には上出来ですけど。


 と、ここで携帯からヒップホップな音楽を流した矢神がやってきて、2人をはやし立てる。

 全員ノリノリだなおい。


 ……コイツらが俺の机の前でダンスし始めたら地獄だな。

 無視はダメ絶対。


 うーん……女子から嫌われてるんだから、男子と絡んでる間は心配なさそうだな。


 ……ということで俺も自分から挨拶する練習でもするか。

 あいつらのノリに割っていく気にもなれないし。

 ホントは気というか勇気がないですね。


「Y、YO、工藤」

 ヤバい変なの見てたせいで引っ張られた。


「……ラップなら、あっち、だよ」

 両腕をダランと机の外に垂らしてる工藤は、指先だけを凛達に向けている。

 相変わらずだらけてるな。


「俺があれに入れると思うか?」

「……んー。行けそう」

「無責任過ぎるだろ、そこは残念そうな目で無理だねって言うところじゃないの?」


 工藤はジッと俺の顔を見ている。

 ……見ている。

 え? いつまで見てんの、俺なんかした?

 

「……無理だね」


「おせーよ!」

 しかも無表情すぎて残念そうな目かどうかもわかんねーし!

 

「昨日、遅くまでフォートファイトの、配信……みてたから、眠くって」

「フォートファイトか、じゃあ仕方ないな」

「……うん」


 いつも良いわけじゃないけど今日は特に反応が悪いもんな。工藤はフォートファイトかなり上手かったし、配信みて勉強もしてるんだろ。


 ゲームだって上手い奴のプレイを見て勉強するんだ、ゲームといって侮るなかれ。


 フォートファイトの為に頑張る同士に俺は敬意を払おう。


 工藤は手を垂らしたまま顔を伏せて眠ってしまった。

 机によだれ垂れそうな寝かただな、ほっぺたが半分潰れてる。茶色のカーディガンと合わさって、どう見てもナマケモノだな。

 

 ほっぺたを突っつきたい衝動を堪えていると人の気配が。

 

「あれじゃダメね」


 渚が話しかけてきた、その視線は凛と月島のほうを向いている。

 昨日は対策も決まらなかったしな、だから凛はいつも通り男子と遊んじゃってるし、これじゃ敵を作る一方だ。


 ただ凛の皆と仲良くしたいって意志を尊重できる作戦を考えたいもんだ、俺も多少は考えたけどな。


「なんか対策思い付いたか?」

「なんもねーな」


 後からやってきた杏梨があっけらかんと答えた。


「杏梨には聞いてないよ」

「ああ?」

 

 いつもどおりの鋭い視線だ、ゾクッとするんだよな。

 最近杏梨を怒らせるのが楽しく思う自分がいる、俺はマゾなのかもしれない。

 またの名を煽りカス。

 

「私はいくつか考えたわよ」

「さすが渚、人の質問を横から答えるどこぞの自己中とはわけが違うな、はっはっは!」


 こうやって比較対象を持ち出すとムカつくだろ?

 更に俺のドヤ顔つきだからな、さあ怒った顔を見せてみなさい。


 杏梨はノーモーションで俺の胸ぐらを両手で掴んだ。

 そしてクロスして上に引き上げる。

 

「……てめえ良介、まだキレない練習してるつもりじゃないだろうな」


 ──く、苦しい。


「……あの、くび、首が、し、しま、」


「ちょっと、教室でイチャつかないでよ」


 最近よくみる渚のため息だ。

 これがイチャついてるように見えんの? よくわかってんじゃん。


「はあ? 視力イカれてんのかよ」

「私の視力より良介が連れて()()れそうだけど?」

「──あ」


 ドサリと教室の床に倒れ落ちる。

 わかったことは床って冷たくて気持ちいいということと、息ができるって素晴らしいってことだ。


「──げほっ、げほっ」


 杏梨がヤンキー座りで俺の背中を叩いてくれる。


「……わ、悪い、やりすぎた」


「向こうで桃花がおいでおいでしてたんだ」


 綺麗な花に囲まれて……ほら、今も見えている。

 優しい笑顔をこっちに向けて。


「てか杏梨が呼ばれてるだけじゃない」


 渚は呆れた、杏梨は苦笑いで俺を見下ろしている。

 危なく天国へいく所だった。


「……ホントだ、ちょっといってくる」


 杏梨を見送って渚は俺を爪先で小突いた。


「いいかげん起きなさいよ、目立ってるわよ?」

「あ、起きました」

「……速いわね」


 昔は目立つのも嫌いじゃなかったんだけどな、最近は視線恐怖症の影響か目立つのは好きじゃない。


 渚は俺の席に座って足を組んだ、まだ居座るつもりらしい。

 なんとも扇情的な足である。


「そういや対策ってどんな?」

「そうね、ここでする話しじゃないから、また生徒会で話すわよ。それより貴方の方は大丈夫なの?」

「俺?」

「なんで不思議そうな顔してんのよ……例の噂よ噂。」

「ああ、それか。昨日も帰った後、琴葉が噂を聞いたって騒いでて大変だったんだよな」

「それはそうでしょうね、やっと更正したと思った兄がまた人生のドン底に落ちるような噂を耳にしたら、琴葉ちゃんも騒ぐわよ」

「そうだな、でも意外に俺は大丈夫っぽい」


 渚は小さく口角を上げた。


「それは上々、その後の経過は悪くないわね。ま、もしダメそうなら言いなさい? 少しぐらいなら私の足を眺めても許してあげるわよ?」


 渚は足を組み換えて更に口角を上げていた。

 あ、バレてましたか。


「わざとじゃないんです、この目が勝手に」

「じゃあはい」


 目を指さしながら言い訳してると、渚が手のひらを出した。


「ん?」

「んじゃないわよ、その悪さしたって目をよこせば許してあげるわよ?」 

「……サイコパスじゃん」

「変態に言われたくないわよ」


 足を眺めるくらいなら健全な男子高校生として当たり前だ、でも目玉を欲しがる女子高生は異常じゃなかろうか。

 旅団かよ。


「ちょっとこっちこないでよ!」


 ──なんだ? 


 敵意むき出しの裏返った声が教室中に轟いた。


 異変を感じとったクラスメイト達が水を打ったように静まり、そしておどおどしてる凛と、凛を睨み付けている女子生徒に一斉に目を向ける。

 

「え、えっと、どうしたの?」


 相手は確か……明石(あかし) 円香(まどか)さんだ。

 吹奏楽部でクラスカースト上位とも下位ともいえない普通の女の子だ。

 そこそこ友達がいて部活に励む、俺からしたら普通に陽キャな人だ。


「私に触らないでッ!」


 凛は明石さんに伸ばした手を振り払われる。

 明石さんは涙目で、凛は大きな目を見開いてたじろいでいる。


 ……これは。


「ご、ごめんねまどちゃん、何か気に触ることしちゃったかな?」

「いいから私に話しかけないでッ! あっちいってよッ!」

「……ごめんね」

 

 凛は明石さんの剣幕にすごすごと背を向けた。


 クラスはまだ静まった状態だが、月島がみかねて明石さんに歩みよっていく。


「明石ちゃんどうしたんだよ? さすがにそれじゃ凛も可哀想だべよ、今なんもしてなかったしよ」


 相手を落ち着かせようと、いつもよりワントーン低い声で月島は語りかけた。

 だがそれは今一番やっちゃいけない最悪の選択肢だってことに、誰も気づいていなかった。


「ッ──ライトくんは……ライトくんは凛の味方なんだね……グスッ」


 この世の終わりを見たような顔をした彼女は、ついにその目から水滴を溢れさせた。

 そして手のひらで顔を覆い隠し、しゃがみこんでしまう。


「え、お、おい明石ちゃん」

 さすがの月島も女の子の涙に驚いて、手が虚空を彷徨っている。


「ちょっとライトくんどいてて!」

円香(まどか)大丈夫?」

 月島を押し退けてやってきたのは明石さんと仲良しの2人組だ。

 2人で明石さんの状態を確認すると、友達を泣かせた敵を睨み付けた。


 それはもちろん月島ではなく──凛だ。

 

「……そんな」


 凛は腰を抜かすように近くの椅子に座り込んだ。


 くっそ、遅かったか。

 昨日無理にでも作戦を練るべきだった。


「意志の尊重はできないかもしれないわね」


 一部始終を見終わった渚は眉根を寄せてそう漏らした。

 正直いって同意見だ。

 でも凛はそれを認めるだろうか? いや、きっと彼女はそれでも折れない。


 現実的な作戦は渚にまかせて、俺は全員と仲良くなれる方法を模索しよう。

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