仲直り
自分の問題点を矯正をする、それが今までのやり方だった。
俺の視線恐怖症しかり、杏梨の見た目や短気しかり。あと渚の男グセの悪さもその1つかな。
凛の場合もそう、無自覚の誘惑は臆病なところから来ている。
だからそれを治す訓練をすればいいと思っていた。今までの流れを考えるとそれがベストだったし。
でも凛は男友達も女友達もどっちも手放したくないといいきった。
男子と仲良くすると女子に嫌われ、女子と仲良くすると男子に近づけなくなる現状で。
それも男子と仲良くしてただけで無視したり、無下に扱われた相手ともだ、一種の病気なんじゃないのかこれ。
"嫌われたくない"その一言が彼女を象っている
俺にはそう見えた。
「皆と仲良くできる方法があるの?」
杏梨とバトルしていた凛の声は衰弱している。
まあこの方向性で案を出そうとすると、杏梨は納得しないのかもしんないけどな。
俺達を見て眉をひそめてるし。
「そうね、いくつか思い浮かぶけど今日はここまでにしましょう。下校時刻だし、凛も疲れたでしょ」
渚は言い聞かせるように言った。
憔悴してる凛をみかねてのことだろう。
それから杏梨を見て渚は肩を竦めた。
「まだ何か言いたいことはある?」
杏理は大きく息をはいて頭をかいた。
「あーもー!…………なんかやんなら協力するよ」
なんつーかこっちが恥ずかしくなるような、ベタなデレかただな。
でも杏理は依頼を聞いてすぐに動いてたくらいだし、元から協力的だったんだよな。
素直じゃないやつだよホントに。
「お前、なんかいいたそうだな」
「いや、なにもないですよ」
ジロッと睨んでくる杏梨に俺は背筋を伸ばした。
よく見てやがる。
「いいの? りーさん」
「……納得はしてないけどな」
「りーさん!」
凛は机を飛び越して、杏梨へ前のめりに抱きついた。
「うあっ! 危ねぇ!」
言葉とは逆に口は笑みの杏梨。
まあこの2人は大丈夫そうだな。
杏梨って友達を作るのは下手くそそうだけど、親友を作るのは得意なのかもしれない。
何でだろうあんまり裏表がないんだよな、だからこっちも自然に言いたいことを話してるというか。
自分に正直なんだろう、だから仲良くなれる奴とはとことん仲良くなれる。
見習いたいね。
「りーさんありがとう!」
「てか痛いんだよアホッ!」
杏梨は平手を頭に叩き落とした。
「りーさんの匂い! りーさんの胸!」
きいてないなこりゃ。
以前、渚もやられて顔を赤らめていたっけ。
うわっすげー、完全に揉みしだいていてるよ凛のやつ。凛の手に収まるか収まらないか、触っていることで胸の形が完璧に浮かび出ている。
……色まで見えてるじゃないですか、もっとやれ。
杏梨はソファーの背に押し付けられていて、身動きがとれないのかろくに抵抗が出来ないでいる。
そして俺と目が合った。
「死ね!」
杏梨が振りかぶったのは、いつだったかビンのような固い物が入っていたスクールバックだ。
──ヤバイ、死ぬ。
顔面に向かってきたバックはもう避けられない。
今の体制じゃ受け止めるしかない。俺はボクサーのように両腕を上げて身を守る。
「……あれ、意外と痛くない」
「くそ凛いい加減離れろって、投げづらいんだよ!」
上半身が押さえられてるから投げづらいのか、助かった。
「よ、よし凛そのままだ! 俺の生死に関わるぞ!」
「まかせてりょうくん!」
「お前、ここはあたしの味方をするタイミングだろ! つか匂いを嗅ぐな!」
ここまで無駄に大きい呼吸音が聞こえてくる。
杏梨は石鹸のいい匂いがするからな、気持ちはわかる。
「ちょっと、備品を壊さないでよ? 一応、私が揃えたんだから」
「マジか、センスいいな」
「でしょ?」
というかビックリだ、ホントにセンスがいい。
不動産会社の令嬢だし、インテリアとか詳しいのかな。
「ホントに運動以外は完璧だよな」
「一言余計なのよ」
そういうと渚は絡まってる2人を見て、腰に手を当てた。
「ほらホントに帰らないと校門閉まるわよ」
「あっ! アタシ教室にバック置いてあるんだ!」
凛は渚に言われて焦ったのか「取ってくる」と言って生徒会室を飛び出していった。
ソファーにいき絶え絶えの杏梨を残して。
「あ、あいつ、その辺の男より力あるぞ……」
杏梨は着崩れた制服を直しながら、息を切らしている。
いけないものを見てる気分になるな、まあ見るんですけどね。
「じゃあ帰る準備しないとな、つってもなんもないか」
「あら、そうかしら?」
「──ん? なんかあったっけ?」
不穏な気配だ。
渚の背後に1メートル先も見えないような吹雪が起こっている。そんな幻覚が見えた。
「ねえ? 杏梨」
「……そうだな」
身なりを直した杏梨もこっちを睨んでいる。
──俺またなんかやっちゃいました?
このセリフいってみたいんだけど……やめたほうがよさそうだ。
「私聞いてなかったんだけど? 良介が視線恐怖症になった理由。ここまで親身になって協力した私じゃなく、ぽっとでの女には話すのね」
「いや、ぽっとでの女って言い方……」
「文句ある?」
「いやないです」
すまん凛、もといぽっとでの女。
渚の圧力には敵わないんですよね、ついでに杏梨にも。
「よくもまあ人の体をジロジロと見てくれやがって。それにお前、人の初恋にテンプレがどうのこうのってケチつけてたクセに、自分もそのテンプレをやってんじゃねーかよ、あ?」
テンプレって……矢神がライゼリアで杏梨を助けた話か。
根に持ってたのね。
「てか初恋だったんだな」
「……テメーのおかげでその初恋も呆気なく散ったけどな」
ドスの効いた声だ、まだ怒鳴られるほうが怖くないかも。
「いや、でも杏梨みたいな美人さんなら他にいくらでも……」
「……そ、そうか、美人ね。わかってんじゃん良介」
髪をくるくる指で巻いてる杏梨は、少し赤くなった。さっきまで怒ってたのに恥ずかしがってる。
あれ? なんか助かりそう。誉め殺しに弱い?
そういやヤンキーって誉めとけば機嫌がいいような気がしたな。
──だったら。
「そうそう、なんかファッション雑誌とかに載ってそうなぐらい綺麗だし、それに家が美容室なだけあっていっつも髪型キマってるしな。いやー矢神ももったいないことしたよな!」
「……それって良介がそう思ってるってこと?」
な、なんだよ急にしおらしくなって…… 顔も赤いし。
「え? そうだけど」
「……そっか」
え、なんか気まずいんだけど。
誉めすぎた? でもトップカーストの杏梨なら誉められるのなんて慣れてるはずだし。
チラチラどころか真っ直ぐ俺を見つめる杏梨の顔は赤い。
やけに可愛く見えるし、目が離せない。
「なに言いくるめられてんのよ」
渚が杏梨の頭をチョップした。
「いて」
おいおい杏梨に物理攻撃とか大丈夫か? 100倍になって帰ってくるぞ。
「良介もなに赤くなってんのよ」
「は、はあ!? 赤くなんてなってないけど」
「……焦り過ぎ」
マジか顔が熱い。
杏梨に見惚れてた? おいおい相手は好きな男がいる女の子だぞ、なにやってんだよ俺は。
まあ彼氏がいる桃花にいつもデレてんだけどさ。
「鈴村凛! ただいま戻りましたー! ……あれ? なにこの空気」
*
「んじゃ帰るけど2人は残んの?」
「ええ、杏梨と少し話すから」
「ん? そうか、じゃあお疲れ」
不思議そうな顔をした良介が背を向けた。
そして寄り添うようにして凛もついていく。
「お疲れ様、凛もね」
「うん、じゃあまた明日!」
元気に手を振って帰っていった凛は、だいぶ元の状態に戻ってきたみたいだ。
ここ数日はかなり落ち込んでいたから、安心した。
かといって油断はできない。良介との仲が改善したといっても、一番の問題である女子生徒との関係は、未だ改善の目処がたっていないのだから。
それにしても凛は良介のこと、どう思ってるのかしらね。
昔は憧れ、そして今までは同情と罪悪感。
今は……
ま、今は明らかになってるほうね。
「杏梨いつまでぼけっとしてるつもり?」
「……ん? ああ」
この娘、剛の時といいわかりやす過ぎんのよね。
「まったく、好きな男に告白するために協力してもらっていた相手。その相手に落とされるなんて、それこそテンプレじゃないのよ。というかちょっと綺麗だって誉められたくらいでフリーズしないでよ、かなりフォローしたんだからね感謝しなさいよ?」
「え!? な、なんで!?」
……やっと反応したわね。
私はため息をついた。なんか最近ため息が増えた気がする、それもこれも良介の世話が焼けるせいだ。
「なんでもなにも分かりやすいのよ杏梨は、剛の時だってバレバレだったからね? ちょっと隠す努力しなさいよ、また皆にバレるわよ」
「バレバレ!? いやでも桃花にだって──」
「それはあの娘が気を使って、気づかないフリをしていたからに決まってるでしょ」
感情が表に出やすいというか隠せない、それが杏梨。
わかりやすくて私は好きだけどね、最近じゃ一番仲のいい女子になってしまったわけだし。
想像しなかったわよ、杏梨と仲良くなるなんて。
「…………」
絶望してるわね、やっぱりわかりやすい顔をしてる。
「さ、私達も帰りましょ。ライゼリアでも寄っていかない? 良介の話し聞きたいでしょ」
「──おい渚、早くしろよ。いつまで待たせるつもりだよ」
……いつの間に玄関にいったのよ。
私は大きくため息をついた。
でもウヒヒ、面白くなってきたわね。
やっぱり生徒会を作ったのは正解だった、このメンバーで面白くならないはずがないんだから。




