喧嘩
普段はイジメっ子の暴君でも、いざと言う時になると仲間思いのいい奴になる。
とある有名なアニメキャラが映画の時だけ前述のようになるのだ。
そして、そんな現象を"映画版◯◯"という。
普段ふざけ倒してる渚が仲間のために本気になった。
つまり映画版渚だな。
ちょっと違うか、まあそれくらいキャラが違うってことで。
「議題は鈴村凛の救出方法の提案および決定よ」
発起人だけあって、凛の救出に関しては本気だ、お気に入りの友達が意地悪されてお冠らしい。
「お、それっぽいじゃん!」
渚は雰囲気づくりがうまかった。杏梨は遊園地でもうすぐ順番がくる小学生みたいに、目をキラキラさせている。
「アタシは何から救出されるのでしょうか?」
凛は大きな目を見開いている。
そういや依頼のこと話してなかったか。
……まあいいか。
「ハブられてるでしょ」
「……………」
渚は端的に言った。
その通りだと思うけど、凛は押し黙る。人にハブられてるなんて話しずらいよな。
「その立ち位置から救出するわ、絶対にね」
「渚……うん」
反論を許さない力強い宣言だ。
凛も見栄をはらないですむ上手いやり方だな、さすが渚。
「じゃあ何か案があれば聞きたいのだけど、そろそろ下校時刻だし形を決めるくらいかしらね」
渚は腕を組んでアゴに手を当てている、彼女が思考する時のクセだ。
俺も考えてみるかな。
「はい」
ドヤ顔で足を組んで、片手を軽く上げた杏梨はギャルっぽかった。
これぞって感じだ。
渚は手を向けるだけで促した。
しかめた顔から明らかに期待してない。かくいう俺も聞き流す準備ができています。
「ナメてきた奴を片っぱしからいわす!」
「却下」
「却下ね」
俺と渚の声が重なった。
理由は語るまでもないよね。
「はあ!?なんでだよ」
「凛にそんなことできるわけないじゃない」
全くその通り、呆れた渚はため息をついた。
杏梨は納得してないらしく、鼻息を荒くして凛に詰めよった。
「あたしは大体お前が気にいらないんだよ!」
「そんな……」
凛は絶望した顔で落ち込んだ。その上、杏梨に詰めよられて怖がっている。
なんで怒ってるんだこの人。
「お前被害者ぶって落ち込んでるけどさ、それは自分で蒔いた種なんじゃねーの? あたしの所に来て楽しそうにしてたかと思ったら、その後直ぐに阿久津のとこでヘラヘラしててさ、いい気分じゃねーからな!」
仲の悪い奴と仲良くしてんじゃねーって話ね。
……これなんも言えないやつだ。渚と杏梨が敵対してた頃にどっちともと仲良くしてたからな。
なんか俺が怒られてる気分だな。
「それは……どっちも友達だし……」
怯えた凛はボソボソと反論するが、杏梨は机に片手を叩き置いて凛を睨んだ。
あれ怖いんすよね、隣にいるだけで怖いし。
「ああ? だからさ、あたしと話してた後、直ぐに阿久津と話さなくてもいいだろっていってんの! 全員と仲良くしようとすっからそうなるんだよ八方美人」
結構たまってんな、前から言いたかったのか。
「ごめんなさい……」
「あとそれ! 意見言ったんなら最後まで通せよ、すぐ引きすぎなんだよ凛は」
「……はい」
凛はどんどん縮こまっていく。
そろそろ止めないと可愛そうだ。
「はい、ストップよ」
渚が間に割って入った。
杏梨と目を合わせると、杏梨は鼻を鳴らしてソファーに身を投げるように座った。
「凛はなんで女子からハブられ出したかわかるかしら」
渚は杏梨と違って、音もなくスカートがシワにならないように押さえながら座った。
杏梨の隣、凛と対面する形だ。
「えっと……色んな人と仲良くしてるから?」
凛が怯えているからか、渚は生徒会室じゃみない優しい顔をしてる。
いつもそうしてて欲しいもんだよ。
「間違ってはいないけど、正確じゃないわね。杏梨みたいな怒りかたをしてる人もいると思うけど、今回は別よ」
杏梨は腕を組んでそっぽを向いている。ちょっとほっとけば直ぐ戻るかな、そうゆう奴だし。
そんな杏梨を見て凛は呟く。
「……違うんだ」
嫌われる理由がわかってないのか。
凛は全てを持ってる人間だからかな、劣等感ってものが理解できないのかもしれない。
「ええ。なんで嫌われるのか理解するのも大事だし、案を出すにも全員が同じ認識をもったほうがいいわね。簡単に説明すると凛は男子と仲がいいから嫌われてるのよ」
「そ、そんなことで?」
俺なんて見たこともない奴から嫌われてたからな、噂だって誰が流してるのかわかったもんじゃない。
「そんなことって言うけど、私は男子にちょっかいをかけなくなっただけで、当たりが弱くなったわよ」
渚も持ってる側の人間のはずだけどな、人の心理にやたら敏いところがある。ただそれを無視するのも渚だ。
「それはお前の自業自得だけどな」
だからこんな小言もいいたくなる。
「うっさいわね、話の腰を折らないでくれる。……つまり前例がある以上は、凛が男子にどう接するのか考える必要があるわね」
俺を睨んだ渚は話を続けた。さすが経験者だけあって含蓄のある言葉ですね。
「じゃあ男子に近づかなければいいってこと?」
「極論はそうなるわね、簡単に解決したいなら」
凛は「なるほど」と呟きながら頷いている。先生の話しを聞く真面目な学生みたいな反応だ。
「チッ」
杏梨は何か言いたいらしい、普通に言えばいいのに。
そしてその様子を見た渚が短い溜息をつく。
「今度はなによ?」
ちゃんと話を聞いてもらえるとわかった杏梨は、身を乗り出した。
律儀に聞かれるのを待ってたのね、アピールしながら。
「これでわかったろ? 凛は友達に近づくなって言われても、自分がそれで得するなら近づかない奴だってな。そいつは顔が広いってだけで、ホントの友達なんかいやしねーんだよ。もしあたしが桃花に近づくなって言われたらキレるけどね?」
最近は練習のおかげでガチギレしなくなってきた杏梨だけど、今回は本気でキレてるみたいだ。
友達想いな杏梨には広く浅く友人関係を持っている凛が、人道に欠けていると思ったのだろう。
「いや、でも……」
「でもなんだよ、やろうと思えば男子との付き合いをやめられるんだろ」
「それは……」
「ほらな、やっぱできるんじゃねーかよ、阿久津にあたしと話すの止めろっていわれたら、凛はあたしと話すのをやめるんだろ」
そういうことか。
杏梨は凛のことを心の底では友達だと思っているのだ。けど、凛は簡単に友達を切り捨てられる人間だって、だから自分も捨てられるって心配してるんだ。
「っそんなことしないよ!」
ここまでしり込みしていた凛が、杏梨の一言で態度を変えた。
「男子と話すのを止めろって言われて、やろうとしてたクセに」
「まだやるなんていってないじゃん!」
「まだってことは、そのうちやるってことなんじゃねーの!」
なんだよ喧嘩か?いつもなら凛が止めに入る側なんだけどな。
杏梨の友達に捨てられるって怒りと、凛のそんなことするわけないって、自分を信じてくれない友達にたいしての怒り。
なんだよ仲良しかよ。
今回は凛も対抗してるし、渚は止めるつもりがないらしい。
いつの間にか冷蔵庫から持ってきたパチモンスターを飲んでいる。
いいなあ、俺もパチモン飲みたい。
「ただの揚げ足じゃん!」
「どうせ本音がでたんだろ!」
「確かにアタシだって誰とでも仲良くしたいと思ってるわけじゃないよ、でもりーさんは別だから! なんでわかってくれないの?」
「逆になんで分かると思うんだよ! 誰とでも仲良くしてんじゃねーかよ、そんなやつが友達を選んで捨てようとしてるのを目の前で見せられたら思うだろ! あたしも簡単に切り捨てられるんだなって!」
これは杏梨の気持ちがわかるかも。
凛は渡り鳥、ちょっとやってきてまた直ぐにどっかいってしまう。
そして他所でも楽しくしてる、ちょっとヤキモチを焼くのもしょうがない。
しかも恋愛テクニックにも使えそうだよな。
刹那に過ぎる楽しい時、そしてまたその時間が来ないかと待つうちに、淡い恋心が。
凛は知らず知らずのうちに男を陥落させてそうだ。
「だって嫌われたくないし! 嫌われるのは怖いじゃん! だから誰とでも仲良くするんだよ! アタシはりーさんと違って強くない、陰口されたら胸が痛いし、直接言われたらショックで悩んじゃうし、無視されたら泣きそうになる。誰とでも仲良くすることの何が悪いの!? それにりーさんを切り捨てようなんて思ったこと1度もない!」
そうか。
凛は驚くほど臆病なんだ。
好きでもない奴と絡むのは嫌われたくないから。だから色んなところでいい顔をする。
視線って凶器に負けた俺と同じ臆病者なんだ。
「なっ! だったら最初っからそういえよ! わかんねーんだよ! 」
怒ってるんだけどな、少し嬉しそうだな杏梨の奴。
「あなたは切り捨てませんなんて言ったら、それこそ嫌われちゃうじゃん! どんだけ偉いんだって!」
凛もこんな顔で喧嘩することあんだな。
いつも笑顔だから怒ると迫力あるな。
「いいんだよ、言いたいこと言えよ! お前がどんだけ頑張ったって、嫌いになる奴は嫌いになるんだからさ! 現にめっちゃ嫌われてんじゃん、もうこのさい気にすんなよ!」
「やだ! なんでわざわざ友達を減らすようなこと、しなくちゃいけないの? ちょっと言葉選べばいいだけだよ!」
我が道を往く杏梨と、迎合してでも誰かと往く道を選ぶ凛。
これだけ本音をさらけ出せるなら、間違いなく友達なんだけどな。
本音で語っても意見が合うわけじゃない、だからぶつけあって擦り合わせるのか。
「じゃあどうすんだよ、男子は切り捨てない、女子とも仲良くしたい。言葉選ぶだけじゃどうにもなんないから、女子に敵対されてんだろ」
「それは、考え中……」
凛が口をつむぐことで、口喧嘩が終息した。
最初に戻ってきただけなんだよな、結局はどうやって助けるか。
「さて、具体的な形は決まらなかったけど、道筋は見えたわね」
パチモンをテーブルに置いた渚は、まるで強敵に向かっていく戦闘狂のように、微笑んだ。
凛がここまで自分をさらけ出してくれたしな、渚もそれを無下にする提案はしないだろう。
「俺も見えたかな」
なかなか攻略しがいがありそうだけどな。
「そう、同じかしらね?」
「たぶんな」
「「──全員を味方に」」
渚と声がハモる。
そうなるよな、俺の味方を増やそうの上位版どころか超位版だけど。
凛なら何とかなりそうな気がするんだよな。




