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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第三章】臆病な元気女子のラブコメ
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凛との出会い


 この屋上にくるのは2回目だ。

 もしかしたら告白かもしれない、そんな淡い期待は一切ない。

 告白は告白でも情け容赦ない()()のほうかもな。俺の噂を広めたのが凛だとしたら。


 放課後、5月は気温がちょうどいい。

 熱くもなく寒くもない。ワイシャツにブレザーで、風の強い屋上も心地いい。


 俺が例の窓から屋上に出ていくと、凛は既に屋上にいた。


 横顔にかかる髪を押さえながら、校庭を眺めていた。


「来たけど」


「──りょうくん」

 振り返った凛は、昼休みの時と同じ決意の表情だ。でも俺にはどうしてもそれが泣きそうに見えた。


「告白か? 返事ならOKだけど」

 普段の凛なら取り乱しそうなセリフだが、彼女は苦笑いを浮かべるだけだ。


「……ずっと、ずっと謝りたくて」

 震える声は何かに怯えていた、なにかはわからないけど。


「実は凛が噂を広めたとか?」


 凛は首を横にふった。


「違うの、そもそもりょうくんがそんな噂を流されるのも、バスケをやめてしまったのも、視線が怖くなっちゃったのも、全部、全部、全部、アタシのせい」


「話が見えない、だってそれは俺が勝手に……」


「違うの! ちゃんと全部話すから……」

 そして凛は息を大きく吸った。


「中2の夏休みだったね」

 

 そういって凛はあの時の事を語った。俺が視線恐怖症になってしまったあの夏の出来事を。


 今でも鮮明に思いだす。

 バスケに打ち込んでいたあの頃を。




 今日は朝からやけに暑い、夏だけど異常なくらいだし、ニュースでも20年ぶりの猛暑だとか騒いでる。

 何も全国かけた決勝の日に、こんな熱くなくてもいいのに。


「お兄ちゃん頑張ってね! 明日になればみんなに自慢しまくれるよ!       

 わたしのお兄ちゃんは2年生なのにスタメンで、全国大会に出るんだって!」


「あーはいはい、俺は琴葉のアクセサリーになるため頑張りますよ」

 まったくこの妹とは明け透けというか、いい根性をしている。

 まあ可愛いから許すけど。


「応援しに行くから、活躍してよね!」

「へいへい」


 そういって家を出たのは良かったんだけど、途中でバッシュを忘れていることに気づいた。

 琴葉に持って来てもらうにも、家を既に出てるだろうし。


「ヤッベ戻らなきゃ、時間は……ギリ間に合うな」


 これが俺の分岐点。

 バッシュを忘れたか、それとも忘れてなかったか、それだけだ。


「あぶね、これなら十分間に合うな」

 携帯の時間を確認しながら俺は走った。だんだんと人が増えてきて、見覚えのある制服の学生が増えてくる。


 地元の学生だ。関東大会なんてめったに見れないからって、応援に来ているんだろう。

 だんだんと気持ちのいい緊張感が、胃の中をムズムズとさせてくる。


 そのまま走ってると、裏道だけど近道になりそうな通りを見つけた。


「絶対かつぞ」

 小さく呟いて、速度を上げてその道を走っていくと。

 か細いSOSが俺の耳をうつ。


「や、やめて!」

 見覚えのある制服に身を包んだ少女が、数人の男子生徒に囲まれていた。

 近くの中学の制服だよな、あれ。


「別にそんな嫌がることねーじゃん、ちょっと話そうって言ってるだけだし」

「あ、アタシ行くところがあるんです……」


 同い年くらいの少女はおかっぱっぽい頭で、小柄な少女。

 丸っこい目が可愛くて、胸が大きかった。だからナンパしてるんだろうけど、強引すぎる。


「ちょっとだけだしさ!」

 4人の男子生徒は知らない制服で体格的に、恐らく1つ上だ。


 マジかよ、どうすんだよ。あんなのに関わってたら間に合うもんも、間に合わねーぞ。

 つか普通に怖いし。

 

 えーと金髪? ヤンキーだなあ。


 金髪が許されるってどんな中学だよ……。


「い、いたい!」

 少女の腕を金髪の男が取って、悲鳴が上がる。

 周りに人が……いない。


 俺が行くしかないらしい。


「お、琴葉いたいた。すいませんうちの妹が世話になったみたいで、よし早くいくぞ琴葉」

 咄嗟に出てきたのは妹の名前。

 これで丸く収まるのがテンプレのはずだけど。


「お前の妹? 制服違うじゃねーかよ」

 奴は少女の手を離してはくれなかった。勘もいいし、めんどくさい奴だ。


「い、いやあ両親がいろいろあって複雑で、さあ琴葉いくよ」

「お前ナメてんのかよ」

 ダメだ、まったく引くきはないらしい。


「ひっ……」

 少女は完全に怯えきっているし、どうすんだよ。


「落ち着いて、手が痛いみたいだし、離してもらえませんか?」

「お前らコイツやっちまおうぜ」

「よっしゃ」

「いけいけ!」


 げ!? マジかよ、イカれてんのかよコイツら。


 ただ金髪の男が俺を殴ろうとして、少女の手を離していた。


 大振りのパンチを避けて、おもいっきり体重をのせたタックルで金髪を突き飛ばす。


「いてえっ!」

 タックルで吹き飛んだ男の声で、他の奴らは全員止まって、金髪の男を見ていた。


 そしてその隙に俺は少女の手を取って駆け出した。


 逃げながら後ろを振り返ると、金髪の奴が後頭部を触って手を見る。

 その手は血で染まっていて、全員が駆け寄った。


「お前! ぜってーゆるさねーからなああ!!」

 それでも金髪は怯まずに大声で啖呵を切る。その顔は狂気を孕んでいて、マジで怖かった。


 やべえ、血でてたけど大丈夫だよな。

 ざまあ見ろって気持ちより、俺は内心で臆病風が吹いていた。

 あの男に何か異常でもあったら大変だ。


「はあ、はあ」

 夢中で走っていると、少女は息を切らしていて俺は焦って止まった。   

 小柄な少女にはきつい距離を走っていたらしい。


「あ、ゴメン! ここまでくれば大丈夫だと思う」

「あ、あの」

「悪いんだけど俺は大事な用があるから行くけど、気をつけてね!」


 俺は少女の言葉を遮った。申し訳ないけど、こっちも絶対にはずせない予定があるからな。


 あいつらも追ってこれないだろ。

 つか、マジで間に合わねーよこれ、反対に走っちゃったし。


 俺はその後、完全に遅刻して先生に一喝される。試合はまだ序盤だったけど、かなり点差をつけられて負けていた。


「いけるな、川上」

「いけます!」

 そして途中から交代して入った俺は、先輩達と連携して点差をどんどん縮めた。


 そしてアラートがなる直前。

  

 俺の3ポイントシュートで逆転、紛れもないブザービートだ。


「よっしゃああああ!!」


 部員が集まって、抱き合う。観客は立ち上がって拍手する。

 もみくちゃでわけがわからない状態だけど、その光景を見た瞬間、足がすくんだ。


 不穏な少年が1人、相手の教師陣の中に入っていったのだ。

 金髪で頭に包帯を巻いている少年が。


 その後、帰り支度をしている最中に先生に呼ばれて、控え室のような場所に連れていかれる。

 そこにはやっぱりあの少年がいて、他にも偉そうな男性が厳然と佇んでいた。


「校長先生お待たせしました。川上、お前この少年を殴ったのか?」

「……い、いえ、殴っては」


「父さん! 俺そいつに突き飛ばされたんだよ!」

 金髪の男子生徒は対戦校の学生だったらしい。しかも父さんというのは校長先生だったみたいだ。


「ふむ、突き飛ばしたのは事実ということかね?」

 俺に直接聞いてきたのは金髪の親、つまり校長だ。


「そうですけど、そいつが女の──」


「さあ! どうしてくれるんでしょうか、我が校の大事な生徒は頭を割る大怪我です! そのような暴力的生徒が試合に出ていたとなると、試合が公正に行われたとは言えませんね。むしろそこの生徒に我が校の生徒が脅されていた、なんてこともあるかもしれませんね?」


 俺の言い分は遮られ、相手のいいように話しが進んでいく。


「す、すいません、コイツにはしっかりいいつけるので」

 先生が頭を下げた。

 でも相手はそんなものじゃ納得しない。


「まあ、いいところ全国大会の辞退ですね、我が校の生徒が脅されていたとなれば、それ相応の機関に申し出るしかないですし、私も大人ですから、子供の失敗を大々的に責めたくはないですしね」


 いいから全国大会を辞退しろ、そうすれば事は荒立てないそうゆう話しだと思う。


「わかりました、我が校は全国大会を辞退したいと思います、我が校の生徒が大変迷惑をおかけしました。おい、川上!お前も頭を下げろ!」

 俺はわけがわからないまま、先生に頭を押さえつけられた。


「ざまあみろ」

 金髪の一言が耳から離れない、何で俺がそんなこと言われるんだよ。

 悪いのはお前のほうだろ。


 そして学校へ帰り、部室に入った後、先生とその話を部員全員の前でさせられた。


「てめえ川上!」

 3年のキャプテンは、俺の言い分を話しても、ただの言い訳だといって、さらに逆上した。

 

 そして彼から振るわれた拳を俺は避けようとも思わなかったし、その気力すら失われていた。

 誰かを助けることより、彼らには全国大会の切符が大事だし、俺が裏切ったような感覚だったんだと思う。


 倒れて見上げた、そこにあるものは"目"たくさんの怒りに燃えた目だ。共に汗を流した者に向ける目じゃなかった。

 気持ち悪い吐き気がひどい、人の視線がこんなにも怖いものだなんて考えもしなかった。


 その後はもう謝罪の連続で、わけがわからなかった。

 職員室には謝りに、校長先生には直接、そしてあろうことかあの金髪の生徒の家にまで謝りにいかされた。


 そして俺は人と目を合わせることができなくなっていた。見られるのも辛い、目を合わせると体が震えて、吐き気が込み上げてくるようになった。


 教室にいけば好奇の視線。部活の生徒に会えば凄い形相で睨まれて、罵られる。話したこともない生徒に罵られることだってよくあった。

 最後の大会だった先輩達からは、罵詈雑言のリンチにあい、部活ももちろん辞めさせられた。

 視線を怖がる俺に仲の良かった友達は全員離れていった。


 そして誰も信用できなくなった。


 それから自分をさらけ出せるのはゲームの中だけになり、プロにまでなった。


 これが俺の過去だ。



「じゃあ凛は……」

「う、うん、あ、あの時りょうくんに助けてもらったのがアタシ……」


 凛の声は震えて、むしろ身体も震えていた。

 あの時の少女のような怯えかただ。


「いや嘘つけ、あんときの女の子はこんなちっこかったんだぞ」

 俺は膝下に手のひらを向けた。ホントなら2頭身くらいだな。


「ええ!? そんなに小さくないと思うけど」

「ああそう? でもあれが凛とは思えないんだよな」

 身長は140センチくらいだったし、おかっぱっぽい髪型だったしな。にてるのは胸だけ?


「……じゃなくて! 怒らないの?」

「はあ? どこに怒る要素があるんだよ」

 それにもう終わったことだし。


「だって私があの時にりょうくんに助けられたって、名乗り出てたらりょうくんはひどい目に遭わされなかったんだよ?」


「そんなことかよ、あれは中2だった俺の黒歴史だな、美少女を助けて彼女にしたいって下心しかなかったし、でも助けたけどリターン0で参ったわ」

 俺はなんてことなかったように笑い飛ばす。


「ヒドイ……憧れてたのに」

 怯えと悲しみで凛は震えている。

 けど彼女を自責の念から解放するには、俺が平気な顔をしてないといけないんだ。


「憧れ?そういやあの日はうちの応援に来てたのか?」


 近所の中学の制服だったし、俺のことを知ってたのか。


「そうですよ!ていうかりょうくんの応援にいってたんだからね、アタシ!」

 語気が荒く、凛は俺を指差した。

 さっきまで震えていたのに、なんか怒ってないかこれ。


「マジで?」


「だってあの頃のりょうくん2年なのにスタメンだし、一番活躍しててカッコ良かったんだから! おんなじ2年なのに凄いなあって思ってて、あの日りょうくんに助けられて凄く嬉しかったんだから!」


 凛はずかずかと歩み寄って俺の胸を指差す。

 ほぼ怒鳴られてるような感覚だ。


「お、おおサンキューな」

 調子が戻ってきたのはいいけど、勢いが凄い。

 それに相変わらず近い。


「そ、そ、それなのに……ヒッ…ヒッ…」


 凛の目からは大粒の涙がこぼれ、頬を濡らしはじめた。

 ──ヤバイ。な、なんで急に泣きだすんだよ。

 また女の子を泣かせちゃったんだけど、どうすればいいんだこれ。


「ゴメンね、ゴメン、あの時、こ、怖くて名乗り、出れなぐで……」

 凛は泣きながら俺の胸にもたれかかってくる。


 そうか、確かにあのころは助けた女の子がかばってくれたりしないかな、とか考えたこともあったな。

 でもそれは違うんだよ、助けようとして助けられたんじゃ、カッコ悪いんだから。


「ああもう大丈夫だから、もう別に視線恐怖症なんて治ったし、あんときはホントに俺の判断で助けただけだから! だから泣くなって」

 

 ──クソ、もう知らないからな俺は。

 もたれかかってきてる凛の背に手を回し、優しく叩いてやる。


 俺は凛を抱きしめた。


 無心だ。これは悲しんでる友達のため、情欲をここで感じるのは不誠実だ。

 

「……入学したとき名前ですぐりょうくんってわかって、でも別人みたいでビックリして、色んな人に聞いて回って色々わかって、ずっと謝りたかった……ヒック」


 身体から直接伝わってくる鼻をすする音や、しゃっくりで動く上半身。凛は凛で苦しんでいた、それが言葉だけでなく彼女の身動ぎでも伝わってくる。

 

「そっか」


「でもあんなになっちゃったりょうくんが、許してくれるわけないって、だから先に仲良くなろうと思って、毎日りょうくんに話しかけてて、アタシ凄く卑怯で」


 凛の本心は決して美しいとは言えなかった。

 いつもの笑顔とノリで隠された黒い部分、打算で許して貰おうとした努力。

 でもそれは凛が人間らしい行動をとっただけ、むしろ俺のためにここまで身をさいてくれたことに感動していた。


「だから前に自分で卑怯だっていってたのか」


「……うん、軽蔑したでしょ」


「ちょっとな。けど卑怯なことを続けられるような人間じゃなかったんだろ?だから今話してるし、凛はいつも俺の話しになると普通じゃなかったし」


 凛はただ頷いて顔を埋める。


 俺は助けたはずの女の子を泣かせてしまったらしい。せっかくカッコつけたのに、逆に1年以上もカッコ悪いとこを見せつづけて、しかも彼女の心を蝕んでいた。

 軽蔑されるのは俺のほうだ。


 凛の震えが少しづつ治まってくる感触が伝わってきた。

 ずっと伝えたいと思ってできなかったことを、達成して少し落ち着いたのだろう。


「……でも話したかったのはホントなんだよ?ずっと憧れてた人がおんなじクラスで嬉しかったんだから」

 

「わかってるよ。罪悪感だけで毎日話しかけられるほど、俺のこじれっぷりは半端じゃなかったしな! 今考えると凛には悪かったと思ってる、むしろよく軽蔑しなかったな?」

 

 今の俺は普段の凛くらいハキハキ喋ってるかもしれない。

 これくらいの方が安心してもらえるかもしれない。

 ……もしかして凛も同じ気持ちで俺に。


「自信の方向性が間違ってるような……」

「まあ全部凛のせいだしな」

「え!?」


 自戒するようなこと言っていたのに! と凛の心の声が聞こえるような反応だ。


「嘘だよ、てかもう泣いてないよな?」

「……うん」

 ちょっと睨まれてる気配を感じる。


「じゃあ離してくれない?」

「え!?ダメだよ、顔がすごいもん」

 

 凛は胸に置いてあった手を俺の後ろにまわして、更に密着した。

 俺の視界には凛の髪と屋上しか見えていない。でも感触や匂いで凛の全てを感じ取っていた。

 

 押し付けられた胸が変形しているし、首にかかる吐息がくすぐったい。回された腕に力が入ってるし、髪から鼻に抜ける匂いはクラクラする。

 

「凛はさ俺に嫌われるのが怖かったんだよな」

「うん」

「じゃあ言っとくけど、それはないから」

「そうなの?」


 たずねる声は嘘かもという懸念を含んでいて、小さかった。


「前はクラスでいちばん苦手だったけどな」

「うそ……」

 ()()という言葉に強く反応した凛。きっと理由を考えてるに違いない。たしか前にもグイグイ来すぎだって話しをしたな。


「視線恐怖症だった俺の顔を無理矢理みようとするし」

 息を飲む凛。凛の驚いている顔が手に伝わってくるようだ。よかれと思ってやってたことが逆効果だったんだからな。


「……それはたまに本物かどうか確かめたくなっちゃって、目を見られるのが嫌だって知らなかったし」

「わかってるよ、でも今は友達だろ?」

「うん。でもなんで?」

「色々あったんだよ」

 

 俺は全てを凛に話すことにした。あの後ゲームばかりやってプロになったこと、渚が同じ高校に通っていたこと。

 そして今の俺はそのおかげであるんだってこと、凛と友達になれたのはそのおかげだ。


 もういいんだ昔は、今俺は本気で生きている。


「──だから昔のことは許すよ」

「ありがとう……許してくれて」

 

 すっかり落ち着いた凛は、もう大丈夫そうだ。

 ちょっとからかってやるか。


「仲良くしとけば許してもらえるって作戦、うまくいったな?」

「う……りょうくん根に持ってるよね?」

「今"うん"って言おうとしたよね?」

「「……………」」


 俺達は同時に吹き出した。






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