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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第三章】臆病な元気女子のラブコメ
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償いレストラン


 お金持ちのお嬢様といったら、やたら長いテーブルに銀の皿、そして料理はコースになっていて傍らには執事が控えている、そんなイメージだ。


 けど庶民が愛するファストフードの店に連れていくと、目をキラキラと輝かせる。そして憧れていた食べてみたかったと言って、安いハンバーガーをパクパクと美味しそうに食べるのだ。


 ついでに語尾が"ですわ"とか"ですの"で、笑うとオホホホ!ならなおいいね。いたら笑うけど。


 俺は学生の味方、格安のイタリア風レストラン、ライゼリアのドリンクコーナーで、3人分の飲み物を作ってる最中にそんなことを妄想していた。


 現実を見るとさ、妄想するぐらいしかできなくてね。


 なんでライゼリアにいるかというと、渚との約束を果たしに来ているからだ。俺は完全に忘れてたんだけどね、『私との約束の時間に杏梨を優先したこと忘れてないわよね?』って渚に催促されまして。


 驚いた顔したら青筋立ててたからな、すぐ思い出したよ。渚との朝練のにらめっこの時間に、杏梨との清楚を目指す朝練を優先したことを。


 なので渚への償いもかねて飲み物を運んでる。


 頬杖をついて待っている渚の姿は、憂いを帯びた少女の絵画のようだ。しかし彼女の思考を俺が代弁すると、さっさとしろよウスノロが、である。


 よくみれば指先でテーブルをコツコツ叩いてるのが見えるはずだ。そこの見惚れてるお兄さん、よくみてください。


「はいどうぞ」

「サンキュー」

「ご苦労様」


 でも労いの仕方はお嬢様っぽいな、イントネーションは召し使い相手みたいだけどな。

 渚にはアイスコーヒー、もう1人にはメロンソーダだ。メロンソーダってだけで誰だかわかるのも凄いよな。


「良介の奢りなんでしょ?とりあえずメロンパフェとメロンパンのマリトッツォな、そっからメイン行くから」

「もう好きに食って下さい」


 金髪メッシュのギャルがそういって、メロンソーダを啜っている。じいちゃんがメロンは昔、高かったんだぞっていって外食するとメロンソーダを飲んでいたのを思い出すな。


 杏梨は見た目も、やってることも昭和だし……タイムスリップでもしてきました?


「お前さっきから失礼なこと考えてるだろ」


 寸前まで機嫌よくメニューを眺めていたのに、目があったときには睨みを利かせていた。


「え!?」


 声に……出してないし、メンタリストですかね。


「人のことジロジロ見ながらボケっとしてる時は、人を馬鹿にしたようなこと考えてるんだよ、良介は」

「マジか……知らなかった」


 ……反省しよう、思わぬ欠点が露呈してしまった。次からはバレないようにしないと。


 1本とったと判断したんだろう、杏梨はニヤッと笑って罰をいいわたす。


「よし、じゃあバニラアイス追加な」


 それは俺も予想できる、メロンソーダに入れてメロンクリームソーダにアレンジするんだろ。わかりきってるから言わないけど、このメロン中毒。


「へいよ」

「いや、そこはマジかーとか言って嫌がるとこでしょ、なんでもYES、YESじゃナメられるかんな」


 杏梨の求めた反応とは違ったらしい。でもすでにナメきってますよねあなた。

 

「無駄よ、良介も稼いでるから」


 だんまりしていた渚がストローで俺を指している。行基が悪い。


 この俗世で生き抜く女。でもこれでわかったはずだ、現実にファストフードで喜ぶお嬢様なんていないんだよ。いるのは陰キャに優しいギャルだけだ。もちろん杏梨のことじゃない。


「ああ、そういうことか、じゃあ遠慮なく」


 もとから遠慮なんてしてない杏梨は頷いてメニュー選びに戻る。あれ?稼いでるって、配信者だってこと言ったのか?もしかして。


「それで納得しちゃうの? 仲良くなりすぎじゃない? どこまで話してんの?」


 優美にコーヒーカップを傾ける渚は、すげなく一言。


「全部」

「ああ全部ね……全部?」

「うっさいわね、声とかじゃなくて反応がうるさいのよね、質問するなら1つにしてもらえないかしら?」


 うんざりだ、とでもいいたそうだけど俺もなんも言われずに秘密にしていたこと話しちゃいましたーって言われたらそれなりの反応するんだよ。

 

 あれだな、"ですわ"とか"ですの"だけじゃなくて"わね"とか"かしら"も珍しいんじゃないかしら?わたくしの知ってる限りじゃ渚さんだけですわね。

 

「またやってるじゃん」


 杏梨は渚にタッチして俺をアゴ指した。チクんなよ! ヤンキー界隈じゃ裏切りは御法度じゃないのかよ。


「ふうん、私の・何を・馬鹿に・してたのかしら?」


 言葉を区切って迫力を増した渚は真顔だ。美人の真顔が一番怖い。


「いやいや、いつも綺麗でおしとやかな渚さんの口調を馬鹿になんて、するわけないじゃないですか」


 渚は怒る準備をしていたのか、大きく息を吸っていた。けど口調と聞いて口をパクパクして驚いていた。珍しく可愛い反応だ。


「──口調を馬鹿にしてたってことね」

「まあ、他にいないと思っただけなんだけどな」


 嘘です、頭の中で話し方マネしてました、すいません。


「別にいいわよ、こうやって育てられたんだから」


 渚は唇を尖らせてふてくされる。唇の上にストロー置いたらキレるかな……コーヒー掛けられたくないし止めとくか。


「ははったしかに渚の口調ってお嬢様って感じだよな」


 杏梨もヤンキー口調だけどな。ツッコんだらヤキ入れられそうだから止めとくか。……こいつらなんも出来ないじゃん、リスク高過ぎなんだよ。


「失礼ね、あなたたちの口調が無作法なんじゃないのかしら、特に杏梨」

「あー、杏梨の口調だけは最後までなんともならなかったな。渚の真似してればフラれなかったかもな」


 今となっては矢神がホントに清楚好きなのか不明だ、渚の口調もどっちかというと強気令嬢な感じだし。


「おまっ、お前よくそんな無神経なこと言えんな! 良介だって桃花と渚に連続でフラれてんじゃねーかよ告白魔!」


 吊目を見開きそして睨む。もはや口調うんぬんの話しからは道がそれた。


「ぐあっ……やめ、ろ。その話しはしないで、下さい」


 よく考えたら短期間で2人にフラれたことになってる。しかもどっちも告白してないし!でも桃花にフラれた時のことを思いだすと死にたくなるんだよ、くそおおおお!!


「ウヒヒ、なによその喋り方ブリキのオモチャかしら」

「はははっ! 人を馬鹿にすっからだよ、貞男あらため告白魔だな」

「……なにこの2人、最悪の組み合わせじゃん」


 俺が肩を落として頭を抱えると同時に笑い出す。


「あーはははっ!」 

「ウヒャヒャヒャ!」


 もう普通にウヒャってるし、しかもこいつら相性よすぎません?人の根の部分が一緒の物質でできてるねきっと。ダークマターとか。


「ホントにいつ仲良くなったんだよお前ら、おかしくね?あんなに険悪だったのにさ!」

「女の秘密よ」

「ははは、まあそういうことだから」


 杏梨が苦笑いしてるのが気になる。俺だってコイツらに翻弄されたし、いい形に収まるように頑張ったんだからな、知る資格はあるだろ。


「いや教えろよ、俺も関わってんだからさ!」


 熱のある俺の言葉とは対照的に、渚は短いため息をついた。その目は俺の顔をしっかり捉えていて、真剣な表情だ。


「良介よく聞きなさいよ? ……もう一度・聞いたら殺す・絶対に」


 ……真剣かと思ったら普通にふざけてきやがった。


「──なんで5・7・5!?」

「ははははっ!お前らおもしろすぎ!」


 杏梨はそのシュールな光景がツボに入ったのか大笑いしている。テーブルをバンバン叩くからその度に食器が跳ねて危ない。


「乙女の秘密をあばこうなんて蛮行、許されるはずないでしょ?スリーサイズや体重を聞いてるようなものよ。危ないからテーブル叩くのやめなさい」


 渚の一言でテーブルを叩くのをやめた杏梨は俺を見た。


「──あたし52キロのDカップだけどな」


 胸を張った杏梨は片腕を頭の後ろに固定して、俺にウィンクする。カーディガンを押し上げる物体に、焦点を合わせる前に視線を切ったのだが、首から上に血液が集中するのが自分でもわかる。


「あんたね……」


 横目で冷ややかに隣を見る渚。


「あーー! 良介赤くなってんじゃん、どうよあたしのスタイルは」


 ニヤニヤしながら聞いて来てるのはわかるけど、顔が赤くなってるのが恥ずかしすぎる。うつ向いて嵐が過ぎ去るのを待つしかない。


「良介は免疫0じゃない、情けないわね。……あと杏梨はもう少し慎みを持ちなさい」


 杏梨と話す渚は年上の女性みたいだ。だからってパツキンメッシュのルーズソックスがはいそうですかと、頷くわけじゃない。


「あれー? なんであたしのこと見ないのかなー?」


 ボスンと隣に腰をおろした杏梨は俺の顔を覗いてきた。

 ち、近い。いい匂いするし髪の毛くすぐったたいし、何か柔らかい。


「……聞いてないわね」


 ポツリと呟いた渚はため息をついて黙る。待ってください、諦めないで助けてください。

 

 杏梨は俺の頬をつついたり頭を撫で回したり、耳に息を吹きかけたりやりたい放題やってくれる。

 最後に喉奥でクツクツと笑うと、攻撃がやんだ。


「なんだよ良介も可愛いとこあんじゃんか」

「……うっせ」


 熱も引いて来たので最大限の睨み付ける攻撃。だが相手はヤンキーギャル、笑いとばされる。


「良介に睨まれても毛ほども怖くない。つかお前そんな態度とっていいのかよ」

「なにがだよ」


 これからマウントとってやるからな、杏梨の顔にはわかりやすくそう書いてある。


「だってさっき口調のせいでフラれたって言ったろ?」

「まあ言ったけど」

「じゃあ成果なしってことじゃん」

「ん? まあな」


 さっきから何をいってんだ? 俺の口から何か引きだそうとしてるような…………あ、やったわ。


「約束したよなあ? あたしも清楚になるための特訓、本気でやるかわりに成果なかったら良介が金髪にして反省するって!」


 声が上擦ってすげー楽しそうだ。もう勝ち確だもんな、そりゃ楽しいわ。


「………」


 黙ってたらなんとかならないかな。


「あと制服カスタムな、長ランと短ランどっちがいい?」


 なるわけないですよね。


「杏梨さん」


 だったら仕方ない、俺も男を見せようじゃないか。


「なんだよ」

「貴女様の下僕になりたいです、なにとぞ!」


 俺はテーブルに頭を叩きつけた、頭の中じゃテーブルが真っ二つになってる勢いだ。ああ、俺は気持ちじゃまけねーんだよ!

 

「よし、今日からあたしのことは陛下って呼べよ」

「は! 陛下」

「うむ、苦しゅうない。おお、なんだめっちゃいい気分」


 俺はファミレスで何をやらされてんだ……。まあノリノリでやってんだけど。


「──ちょっと杏梨」


 スマホをイジっている渚は声だけを杏梨に向けた。


「ん?」

「良介は私の下僕だから、勝手に取らないでくれる?」


 淡々と述べる渚に対して杏梨は鼻で嗤う。


「いや自分からあたしの下僕になるって言ったからな、渚の下じゃ満足できないんじゃね?」

 

 刹那、ライゼリアの温度が数度下がったような錯覚に陥る。スマホを見ていた渚は瞳だけをゆっくりと杏梨に向けた。


 そして底冷えする声音で一文字。


「は?」


 視線を向けられているのは杏梨のはずなのに、肩にズシリとしたプレッシャーを感じた。

 才女、ミスコン1位、アジア1位、の肩書きを持つトップカーストの放つ圧は伊達じゃない。


 しかし杏梨も負けていない。

 クラスのギャルを束ねていた胆力、行動力、気力、どれをとっても一級品だ。渚の威嚇にもまったく怯まない。

 

 そして怒気孕む声音で一文字。


「あ?」


 交差する視線はバチバチと火花を散らす。

 互いに一歩も譲らないプライドの戦い、勝利して俺を獲得するのはどっちだ!?


 ……でもさ、恋愛の奪いあいなら嬉しいけど、これ下僕の権利の奪いあいなんだよ。


 花の女子高生が聞いて呆れるよ。

 

 

 

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