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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第二章】強気なギャルのラブコメ
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渚の心変わり


 朝から様子が変だとは思っていたけど、やっぱり何か企んでる。男子の4試合目をみて確信した。

 明らかに良介(りょうすけ)(ごう)から活躍の場を奪っている、それも巧妙に。

 

 気づいていたのは私と智也(ともや)、あとは恐らく(りん)だけね。


 理由に関しては……正直わからない、良介のくせにムカつく。

 

 それにフォートファイト最中のhawk(ホーク)だったらもっと手酷い嫌がらせをしそうだし、本気でやってるわけじゃないのよね。


 最近はJILL(わたし)が代わりにやってくれるからと言ってかなり大人しくなってきているし。というか私の言動と行動にドン引きして身を改めているらしいけど、失礼な奴よね。


「はあ、はあ」


 最終試合、呼吸が乱れ汗が滴り落ちて体が思うように動かない。それでも頭だけは鮮明に、体温が上がれば上がるほど回転は早まっていく。


 最適解は理解しているが体は全くついてこない、バスケ以外のことを考える余裕はあるのにね。

 クラスでの練習の他に走り込みまでしていたのにこの体たらくだ、良介に才能がないと言われるのも悔しいけど納得ね。


「渚!」


 凛からのパス。我ながら遅い足だが相手の隙をついて、ゴール下で受け、絶好のチャンスを逃すまいと良介との練習を思いだしてシュートを打った。


「リバウンド!」


 気合いの入った杏梨の声はシュートを打った瞬間に発された。私をまったく信頼してないらしい。ムカつく女ね、この私が打ったシュートが外れるわけがないのに。


 放物線を描くバスケットボールはネットを潜る音どころか、リングにすら当たることなく、6組女子の手元に落ちた。


 ……ああ危ない。

 

 手元にキーボードがあったらクラッシュさせていた所だった。私は悪くない、ボールの空気圧に異常があるわ、即刻試合を中断してボールを替えるべきよ。


「もーっどれー!」


 私の見事なシュートにも笑顔で対応する凛は誰よりも早く駆け抜けていく。隣の舌打ちしている杏梨とは大違いだ。だからあの娘って好きなのよね。

 天真爛漫とはあれのことだろう、打算は大いにあるみたいだけど。

 

「ごめんねみんな!」


 なんで私が謝らないといけないのか。

 

 まあしょうがないわね、他のクラスの男子も見ているし、いつもの通り黒原渚を演じて見せよう。

 

 今私たちの試合を見ている殆どが私か凛、それと……桃花に視線を送っているし。でかいならでかいだけ価値があるのかしらね、あれにはいくら私でも太刀打ちできない。


「ドンマイ、ドンマイ!」

「チッ」

 露骨ね、別にいいけど慣れてるし。それに杏梨は私に気を取られている暇もないのか、焦った顔をしている。

 

 恐らく良介が言っていた勝ったら告白するとかいう、自分に課したルールに首ったけになっている。

 告白するならすればいいのよ、ルールを作る意味は?バカの考えは私には理解できない、非効率すぎるわよ。


 どちらにしても杏梨にチャンスが全くないわけじゃない。だって剛と付き合う気なんてサラサラないんだから。

 

 だから言ってあげたいわよね、興味ないから貴女に譲ってあげるわよって、そしたらどんな顔をするのかしらね。

 

 絶対に面白い、怒り狂って私を殴りつけて他の男子……というか剛に取り押さえられて私を睨みつける。それに素行の悪い杏梨は停学じゃ済まないかもしれない、いい様じゃない。


 けどもし本当にそうなったとしても私よりはマシ。

 

 15も離れた顔も知らない男と結婚させられようとしている私に比べたらね。

 

 吸った酸素全てが頭に送られてるのではないかというほど回る頭は、バスケやクラスメイトとの確執だけでなく、嫌な記憶を掘り起こしてしまう。


 ───何歳の頃からだったか、中学に入る頃にはなんとなく気づいていた、私は父が道具として使うために産み出されたのだと。

 

 そのために幼いころから英才教育を受けて来た私は様々な習い事をさせられてきた。花道、書道、お茶、社交ダンス、英語、ピアノ、バイオリンまだまだ沢山。

 

 初めはどれも頑張って取り組んでいた、子供心で親に褒められたい一心だったと思う。それに幸い体を動かすもの以外の習得は自他共に認めるほどに天才的だった。


 だが気づいてしまう。

 

 何を成し遂げても「よくやった」の一言で片付けてしまう父親に。だからもっと努力を重ね別の褒め言葉を引き出してやろうと躍起になった、この頃から私は負けず嫌いだったのだろう。

 

 そして程なく私は入賞の賞状ではなく優勝のトロフィーを持ち帰るようになる。娘の晴れ舞台に1度も顔を見せたことのない父親に褒められたいがために。


 ……あの日の事は今でも思いだす、まるで今さっきのように。


 誇らしげにトロフィーを抱えた私は、父に見せようと家内を上機嫌に歩いていた。これならさしもの父すら認め褒めることだろうと足取りは早い。

 

 寡黙な父だがその日はやけに機嫌がよく、私もこれならとトロフィーを見せようとした。しかし父の反応は予想を越えた絶望だった。


「そんなものはどうでもいい、それよりお前の使い道が決まった。前総理大臣の孫がお前をえらく気に入ったらしい。()()()()()これで政界とのパイプが太くなる、お前には金をかけたがそれ以上の収支だ。高校卒業と同時に嫁いでもらう。見た目のいい女に子供を産ませて良かった!はっはっは!」


 その後の事は覚えていない、気づいたら自室のベッドに寝転んでいた。

 

 後から知った話しだが、私を産んだ母親は私を産んで直ぐに離婚している。それはただ子供を儲けるためだけの契約で、そこに愛は一切なかった、私は産まれながら父の道具だったのだ。


 それから父の行動は迅速で、前総理の孫との会食はその話しを聞いた3日後のことだった。ショックも抜け切らず絶望の最中の会食は私にトラウマを植え付けることになる。


 やって来たのは30に差し掛かるほどの男性で、黒髪をオールバックに撫で付け細身で清潔感があり、見るからに自信を漲らせていた。それもそのはずで祖父は元総理、父は幹事長と将来を約束された3世議員、挫折を知らない男だった。


 中学生の私を気に入ったとの話しだが、考えていたより正常な人間なのかもしれない、それが第一印象。

 

 しかし親同士の挨拶がすみ、お見合いのように「後は若い2人で」という父の計らいから私とその男は2人になった。


 男は直ぐに私の隣ににじり寄ってくると、鼻を膨らませ手で髪を梳くように撫でた。


「ああ美しい! まるで人形だ! 一目見たときからずっと触れてみたかったんだ。この艶やかな黒髪、小さな顔に均整の取れたパーツ、どれもこれも一級品だ!」


「ヒッ」


 急変した男の態度は変態そのもので、私は少しでも離れようと身をのけ反らせた。


「そしてこの穢れを知らない白魚のような手まで」

 男は私を遠ざけぬように手を強引に取るとそのまま口もとに運び、手のひらから指先までデロリと舌を這わせた。


「全て僕の物だ」

「いやぁっ!」


 咄嗟に捕まれていない手で男の顔を叩くが、華奢な少女の力では男の手は離せず、少し驚いた男はが目を見張っただけのことだった。


「ふふふ、大丈夫さ怖いのは最初だけだ」


 そうして男は自分がねぶってつけた唾液を意に介さず、私の手に頬擦りしつづける。その後も親が戻ってくる間中ずっと匂いを嗅がれたり足を触られたり好き放題だった。


 それからだろう現実を逃避しフォートファイトにのめり込んだのは。けどそれは好転だった、反吐がでるほどのお人好しだった私が誰にでも暴言を吐けるくらい強い精神を培うことができた。

 

 ……これが好転なのかは別問題かしらね、ストレスの捌け口に暴言吐いてただけだし。

 まあそれでも私はばんちゃんと良介に会えて、だからこそ親の思惑を踏みにじってやろうと考えられるようになった。



「ちょっと渚~!」


 ヘロヘロした桃花の声が私を深い意識から呼び戻す。私としたことが考え込んでいたらしい、もう終盤なのにあれから一切ボールに触れてない気がする。


 ちなみに今のは私が棒立ちで相手クラスの女子に抜かれた事を非難する声なのだが、カバーに入った桃花も棒立ち同然で、当たり前のようにシュートを決められてしまう。


「桃花ボール!」


 早くパスを寄越せと催促している杏梨の表情は焦燥だ。

 

 優勝じゃないと告白しない、杏梨が自分で課したルール。わざと針の穴のように小さい穴を設定して、本当は失敗する事を恐れ、"負けたから"という言い訳を用意しているのだと思っていた。


 けど杏梨のこの顔を見る限りそれは違うのだろう。むしろ逆で、難題を自らに課すことで発破をかけていたのだろう。

 私含めフォートファイトのトリオメンバーもよくやるから身近に感じる。


 杏梨は凛と2人でボールを運び、最後は杏梨がミドルシュートを決めた。

 良介の教えてくれたシュートフォームと重なるようなキレイなシュートで、相当練習したのが私にも分かった。


「りーさんナイス! もっどれー!」

 今ので追い越した。声はいつもの凛だが、笑顔が消えて真剣な瞳はボールを奪ってやろうとギラついている。残り時間は少ない。


 私はあの時以来、つまりあの変態に手を舐められてから男の厭らしい目付きに敏感になった、というか少々男嫌いになった。

 

 だから演技にも気づかないで私の見た目ばかりに捕らわれる男はとことん振ってきた。けどそれはただの当て付けで、私に振られて落ち込む男を見て鬱憤を晴らしていただけのことだ。


 なんで私ばかりこんな目に会うのか、世の中不公平だ。だから他の奴らも少しは私の不幸を味わえばいい、これは私の癇癪だ。


「ヤバッ! のこり15秒!渚ボール!」


 また巻き返されると、凛に急かされて直ぐに私はボールを投げた。もうとっくに体力の限界を超えているが、根性で凛の後を追っていく。

 

 そういえばあの桃花ですらシュートを決めていたのに私は未だ0得点だ。


 もしここでブザービーターを決めたら1点しか決めていなくても今日のヒロインは確定で私。

 

 普段近寄ってこない男も周りにあわせて私を褒めにくるだろう。そしたらまたいつものように男が欲する女を演じるだけ、簡単だ。


「りーさん!」


 凛は危険とみなされているのか、常に2人のマークがついていて上手く機能していない。

 今も追い込まれて苦し紛れに杏梨にパスを出す、それでもいつも以上にそのパスは鋭く正確に杏梨の手元に吸い込まれる。


 ──決まった。

 私もそう思ったのだが、凛のパスはいささか速すぎて、急ごしらえの素人にはキャッチできなかった。


「あっ」


 小さく洩れた声は悲痛の叫び、それは確かに島崎杏梨の泣き声だった。最後のチャンスを不意にした彼女の表情は崩れ、今にも泣きそうな顔をして、届かぬボールに手を伸ばしている。


 しかしボールは誰にも予想がつかない方向へ転がった。凛や杏梨にばかり気をとられてフリーになった私の手元だ。


 ──その瞬間全てがスローになった。


 味方がボールを拾って喜ぶが、私と分かって複雑な表情をする杏梨。集中しすぎて聞こえないが叫んでいる凛。慌てる相手クラス。全てがゆっくり流れ私の頭には選択肢が産まれた。


 ──父に愛されなかった私。

 ──望まぬ結婚相手。

 ──ストレスの捌け口に選ばれた剛。

 ──そして好きな相手が私に恋している杏梨。


 なぜだろうか、恋愛の自由すらない私と、恋に敗れようとしている杏梨が重なった。私にはそもそも権利すらなく、彼女にはいくらでも次があるのにも関わらず、重なった。


 2人の共通点は不憫なこと、たったそれだけ。だけど私は親に不憫を押し付けられて、そして杏梨は私から不憫を押し付けられようとしている。


 ……自分本意に彼女のチャンスを奪っていいものなのだろうか? それは父と同じではないか? 選ぶ自由すら与えずただ自分のためだけに人を利用する、そんな人間に自分はなりたいのか。


 ──それは違う、私はあの父親とは違う! 家族すら使い捨てにするようなクズじゃない! 家族どころか友人にだって敬意をもっている。良介にばんちゃん。彼らを思うだけで私は……。


 認めようじゃない。


 私は間違っていた。人の心を踏みにじっていいわけないのだ。男を振ってもあの汚ならしい父や議員に仕返ししたわけじゃない。むしろ大嫌いな父に近づいてすらいた。


 ──決めた。


 私はゴールを見つめる、不思議と外す気がしない。スポーツ選手が言うゾーンに入るとかいう集中状態なのかもしれない。


 両手の平が外になるように回転をかけて丁寧に、スローモーションの中、私はシュートを打った。


 そしてボールはリングもネットにもカスることなく、きょとんとした相手女子の手元に落ちた。


 良介はこうなるように杏梨の話をしたってことね。まったくやってくれるじゃない、私の過去を知ってるわけでもないのに。彼女に対する負い目がバレてたってとこね。

 

 そしてブザーが試合終了を知らせる。


 

 

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