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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第二章】強気なギャルのラブコメ
24/69

お披露目


 激論の末に熱い握手、差し出された手を思わず握ってしまう。こんな暑苦しい展開にも、自分のペースを乱さずに動いている人物が1人だけいた。


「あのークッキー焼けたよ?」

 桃花はあははと苦笑いで出来立てのクッキーを机に置いた。バターと砂糖に火が通ったいい香りだ。自然と緊張感がほぐれていく。


「わかってんじゃん桃花。あ、これメロン味!?」

「そう、メロンシロップ練り込んだやつ、杏梨の好物でしょ」

 メロン味ならなんでも好物なんだろ。クッキーすらメロンかよ。なんだあれ緑色だぞ、旨いのか?普通のもあるみたいだけど。


春人(はると)にはもったいない女だな、あたしの嫁になれ」

「亭主関白っぽそうだからやだ」

 眉を険しく寄せた桃花だが、杏梨は聞く素振りも見せずに焼きたてクッキーを口に運んでいる。緑色のやつばっかりを。


「うま!」

「聞いてない……あっ良介もたべてね、普通のがオススメだよ!」

「ああ、ありがと」

 料理部が作っただけあって形もキレイだし、美味しそうな匂いだ。俺は言われた通りにプレーンのクッキーを1つ摘み、咀嚼する。


「どう?」

「世界で一番旨いクッキーを俺は口にした」

 口1杯に広がるバターの香り、それにほんのりと桃が花開いている、甘い味。口の中でホロホロと砕け溶けていく、至福の時間。

 桃花が作った時点で特別なのに、旨いのだ。これは世界を取った。


「……良介お前やっぱ残念だよな。さっきの啖呵は悪くなかったのに」

「あはは、それは私も同意かな」

 手と手を握り合わせて虚空に向かって祈りを捧げていたら、2人に哀れみの視線を向けられてしまった。ギャル神様ありがとうございます。


「腹ごしらえもしたし、やるか杏梨」

 そこらの仙豆とか仙桃より効果のある仙クッキーをいただいてるからな、体力だけは有り余ってるんだ。

「今から?時間なくなくない?」

「なくなくなくないからやるぞ」

「マジ?はあ。安い挑発にのったかなー我ながら」

 今更後悔しても遅い。とりあえずやる!それが俺の主義だ。まずやらねば始まらない。


「うわ、このメロンクッキー死ぬほど不味いな」

「殺す」

 両手を顎下に構えた杏梨がボクサーのような速さで俺の懐に入ってきた。生粋のインファイターだね。

 ホントに死ぬ!


「ストップ!」

「あ?」

「1アウトな」

「……チッ」

「はい、2アウト」

「………………」

 これはガン睨みである。元々の顔つきとか関係なく、ガン睨み。火種抱えながらガソリンの海を航ってる気分だな。


「……不味かったかな、ごめんね」

「うわわ!違う、世界一旨いクッキーだから!杏梨を煽るために言っただけで!」

 桃花の気持ちを考慮してなかった、ヤバイどうしよう。顔を伏せて立ち尽くす桃花に愕然とする。


「──なんてね!」

 ウィンクと舌をぺろっと出して、自分で頭をコツンと叩くポーズ。つまりテヘペロだ。俺の焦燥感を返してくれ。


「騙されてやんの!うわわだってさ、だっさ。あはは!」

「えっへっへー!」

 鬱憤を晴らすように俺を煽ってくる杏梨。先は長そうだ。これじゃJILLモードの渚といい勝負だよ。

 にしても桃花は可愛い、許す。

 嘘でも彼女に心痛を与えるような内容はさけよう。俺の心臓にも悪い。


「髪を黒くしただけで清楚になった気でいる女がいると聞きまして。」

「………」

「ルーズソックスにピアスまでしてどこが清楚なんでしょうねー」

 杏梨の肩がぷるぷる震えている、必死で耐えているようだ。歯も唇が白くなるくらい食い縛っている。

 桃花は心配そうに俺達を見守ってくれている。


「……」

 ふむ、なかなか手強いじゃないか。ここはオンラインゲームで鍛えた煽り性能をとくとご覧にいれなければなるまい。


「口は悪いし直ぐに手がでるし、高圧的。こりゃ矢神どころかどんな男にもモテませんわ!あっはっは!」

「よし、殺す!」

 よし1本取ったぜ。俺が向かってくる杏梨にハンドサインでそう伝えたのだが、止まる気配はない。


「おっけストップ!まてまてストップストップ!ちょっと本音が漏れただけだから!ごめんって!」

「余計に殺す!」

「ひえっ!桃花助けて!」

「無理!あはは!」

 追いかけっこを始めた俺達を、杏梨はケラケラ笑いながら眺めていた。心底楽しそうだ、桃花を笑わせられたのなら本望だな。

 料理部の部室は普通の教室より広いので逃げ回るにはもってこいだ。ただ、部活に入ってない杏梨とゲームばかりしている俺の体力は直ぐに底をつく。


「ぜえ、ぜえ、ちょタイム」

 膝に手をついて肩で息を吸う。本気で走らせやがって、冗談でも悪口が命懸けだな。横目で杏梨を確認すると彼女も死に体だ。

「はあ、はあ、お前が止まれば、いい話だろ」

 

「2人とも馬鹿だなあ」

 観戦に徹していた桃花がしみじみと口にした。そして舐めた口を許さない女が反応する。

「あ?」

「はいアウト」

 杏梨に指差しで確認すると、彼女は椅子に座り込み、天井を仰ぐ。


「あーあたしには無理っ!」

「絶対できるって」

「私もできると思うけどな」

 俺達の説得に杏梨は素の表情になる。

「根拠は?」

「こんな俺ですら視線に強くなってきてるんだぞ?キレないくらい簡単だろ」

「……確かにな」

 これまで同じクラスで一年間過ごした仲だ、貞男(おれ)を振り返って考えてくれたのだろう。杏梨は真剣にうなずいた。

「納得されるのも複雑だな」

「あはは、それはしょうがないよ」

 それだけ酷い生活をしていたってことだな。桃花の苦笑いに全てが詰まっているような気がした。


「ま、今日はここまでだな」

「は?まだできるし」

「時間だよ時間、もう授業はじまるから」

 やる気を出してくれて嬉しいけどね。杏梨のプライドが上手くできないことを許さないってとこまで来てくれたのなら、後は話が早い。積み重ねるだけだ。


「あっそ」

 肩透かしをくらったような顔の杏梨に俺は問う。

「明日もやるだろ?」

 それを聞いた杏梨は待っていたとばかりに、好戦的な笑みを浮かべ頷く。

「もち」


 そして自作のクッキーをポリポリ食べていた桃花は、上機嫌で独り言を呟く。

「よーし!じゃあ明日は何作ろうかな~。フィナンシェとか可愛いかな。マドレーヌも捨てがたいな……うーん」


 練習に付き合うのは彼女の中で確定事項らしい。ホントいい友達もってるよな、杏梨のやつ。そしていい彼女をお持ちですね風見鶏くん。

 つかさっきからかなりクッキー食べてるけどよく太らないな。栄養が一部分に吸収されてる説……。 

 おっと俺は桃花をそんな目でみてるわけじゃない、崇拝だ、崇めるべき女神なのだ。本来なら黒原渚と派を分けた2神だったが、黒原は偽神だった、むしろ邪神だ。桃花の信徒たる杏梨の道を立ち塞ぐ悪の化身。俺の信仰心が天塚桃花のみに捧げられるようになったのも当然だ。

 美味しそうにクッキーを食べてる姿も素敵だな。好きな食べ物なんだろう。

 


 使用した調理器具やら取り皿などの後片付けを3人でしたあと(杏梨は殆どなんにもしてない)教室に向かった。

 近頃イベントがありすぎて俺も油断していたのか、特段なにも気にせず教室に入った。後ろの扉からひっそりと自分の席に向かっていっていたのだが、やたらと視線を感じる。

 無意識に頭を揺らしてロン髪バリアーを張ろうとしたのだが、髪を切ってしまっていたと気付き焦る。

 視線に気づかないフリをしつつ着席した。

 すると教室の入り口のほうから、ギャルグループの須崎と川村の大きな声がして、視線が俺から移り行く。


「え!?マジで杏梨!?」

「うっそ、やっば!」

 そこには黒髪にしたがどうしてもギャル感が抜けない杏梨が、ムスッとした顔で仁王立ちしていた。


「似合うっしょ?」

「うん、めっちゃ可愛いじゃん!黒髪も悪くないよねーウチもやろっかな」

「いや、あんたじゃ似合わないっしょ!杏梨だから似合うんじゃね?」

「は、ひっどー!」

「あはは!ごめんごめん」

 この2人って体育館で杏梨がいなくなった途端に悪口いってたんだよな。あれは杏梨も悪かったと思うけど、ちょっと酷かった。よく仲良く話せるよ、女怖い。


 そこに桃花も参戦し、どんどんその輪が広がって杏梨が黒髪にしたことが広がっていく。仲のいい奴は話しかけに、そうじゃない奴は遠巻きに。まるで動物園のパンダみたいに皆が杏梨を見ようとしている。俺なら耐えられないね。


 ──そして本命が現れる。


「島崎が黒髪にしたらしいじゃん」

 その一言で杏梨を取り巻く人垣が散っていく。リーダーシップで人を先導する御劔(みつるぎ)とはまた違った気質。力で引きずり込んで服従させる正統派ヤンキー、矢神剛(やがみごう)だ。


「あ、剛……に、似合うでしょ?」

 うーん、あからさま。こりゃバレるわけだよ、むしろ矢神は気づいてないのかこれ。


「いいんじゃねーか。でもお前あれだな、黒髪にしてもギャルはギャルだな」

 なんつー口の聞き方してんですか矢神さん!また怪獣大戦争やるつもりか!絶対気づいてないぞこいつ、鈍すぎる。


「……っ……今度は普通の靴下でも履いてくっかな」

 す、すごい、キレなかったぞ!まさかもう成果がでたのか!?一瞬危なかったけどなんとか立て直して軽口で返した。完璧じゃないか?キレないという課題には。


「島崎が?想像つかねー。……だったら黒ストッキングとかどうだよ?」

「ストッキング?人生で1回も履いたことないんだけど」

 なんでストッキング?杏梨も珍しく戸惑ってるぞ。


「マジかよ!黒ストッキング履いたことないとかどんな人生歩んできてんだよ!」

 なんだ?矢神のやつ必死だぞ。履いたことなくても普通の人生送れそうだけど……。


「え?は?あたし変なの?」

「あたりまえだろ!黒ストッキングだぞ!?あの黒に肌色が透ける独特な色合いと、グッと上がる大人っぽさ!履いてない女はおかしいだろ!」

 おいおい、まてまてまて。盛大にぶちかましてませんか矢神くん。君、自分自身で性癖を詳らかにしてません?これはさすがに杏梨も……。


「そっか、じゃあ履いてくるわ」

 履くんかい!普通にドン引きするとこだろそれ!1000年の恋も冷めるってやつだろ!

 周り見てみろよ、結構な割合で引いた視線送ってるから!主に女子。

 心の内に留めとけよ、気持ちは分かるけどさ。


 ヤンキーとギャルの会話に夢中になってツッコミを入れる俺。友達がいなかった頃の趣味みたいなもんだ。休み時間とか暇だからな。

 このところ暇がなかったから久しぶりにやってる気がする。寂しい趣味だな我ながら。


 真剣に2人を見ているとおずおずと話しかけてくる者がやってきた。


「あのー、おはようございます」

「……おはようございます?」

 なんだ?(りん)が普通に話しかけてきたぞ、ハイテンションでもなく背後からでもなく。普通にくるとか普通におかしいし普通じゃない、いくらなんでも普通すぎる。もう普通に普通が多すぎて普通に頭おかしくなりそうだ。

 だれだこいつ本物か?。


「その、どこのクラスの人ですかな、なんか見たことないけど……」

「あ」

 俺が普通になってたのか。


「やっぱ間違えてたんだ!でもアタシが見たこと無いってことは、さては1年生だな、ドジだね君!なっはっは!」

 なんだよ素性がしれた瞬間に元気になったな。全部自分の予想で間違ってるけど。つかなに、1年生以外は全員知ってるってこと?顔広すぎませんか。


「うーん……リンリンそれたぶんだけど……良介くん」

 隣の席からのツッコミ。

 ぽけっとした声だが、ちゃんと確信をついている。相変わらず工藤は不思議なやつだ。


「まっさかー!いくらアタシでも騙されないよーみのりん!まさかドッキリ!?カメラは!」 

 わざとらしくキョロキョロと周囲を見渡す凛の動きは早い。朝から元気過ぎる。これこそ鈴村凛だ。

「本物か、どうか……わかったら、教えてね」

 あーあー凛のダル絡みのせいで工藤が諦めちゃったよ。


「俺ですけど」

「その声は!」

 わかってくれたか。


「上手い声まねですね!ずいぶん練習したな!?」

「…………」

 まあそんな気はしてたよ。負けた気分になるから頭の中でさえツッコまないぞ。ようやくわかったよ、凛のやつわざとやってるんだ。気づかないフリをしてる。しかも最初から、さすがリア充踊らされてたわ。

 

 俺が無反応でいると、凛は直ぐに諦める。


「その髪型似合ってますね!ワックスつけてるの?イメチェン?」

「沈黙に弱すぎだろ、つか質問多いよ」

 ワックスについては部室を出る前に杏梨につけられた。"せっかく切ったのに勿体ないだろ陰キャ"と言われながら。しかも新品の男性用ワックスをくれた。試供品(サンプル)だから問題ないらしいけど、わざわざ俺の為にもってきてくれたのだ。本人はそんなこと絶対いわなそうだけど。感謝だ。


「バレましたか!いやーそんなに短くすると若い頃を思い出すね!」

「最初から気づいてたのか?まだ若いし、ここまで短くしたの人生初だけどな」

「確かに前はもうちょっと……」

 人の髪をジロジロと確かめながら考えこむ凛。この人ちょくちょく匂わせブリな態度とってくるよね、元から奇行が目立つタイプだからこんなもんかなって思っちゃうけど。

「前?」

「いえいえなんでもないです!あっ!りーさんも髪色変えてる!」

 凛はピュピューンと擬音でもつきそうな勢いで走っていった。砂煙でも残していったら完璧だ。


「……良介くん?」

 工藤はわかってはいるが本物なのか訝しい。そんな顔で目を凝らしながら話しかけてきた。

「ああ、そうだよ」

「やっぱり、ねー。でも最初は誰だか、わかんなかったよ」

「はは、皆に似たような反応されてるよ」

 切った本人もビックリしてたしな。それに今んところ視線も大丈夫だ。杏梨が衆目を稼いでくれている。

「……だろうねー、それならゲームも、やりやすいね」

「そうだな、エイムよくなるかも。……あ、悪いエイムとか言われてもわかんないよな」

 急にゲーム用語使っても、ゲームやらない人には聞いたことない業界用語みたいなもんだからな。エイムとは武器の照準を敵に合わせることを言うんだよって説明しないと。


「知ってるよー私も、ゲーム好きだから、バンドより」

 意外だ。もしかしてフォートファイトもやったことあるのかもしれない。ガンゲームはどれもエイムが重要だからフォートファイトかはわからないけど。どれかしらには触れているのだろう。一気に親近感が涌いてくるな。

 

 ゲームの話を広げようと口を開きかけた瞬間、バンドの優先順位にもの申す女が、俺達の机の間に立った。


「じゃあバンドのほうが好きになるまで練習しよっか?」

 クールな笑みを浮かべているのは阿久津瑠色(あくつるい)。口角がひきつっていて目は笑っていない。俺の危機察知アラートがなりっぱなしだ。


「……ん。遠慮しとくね、あ……そういえばバンドのゲームが、最近でたから、瑠色(るい)ちゃん一緒にやろ?」

 さすが工藤、阿久津から出現してる怒りオーラをものともしないマイペースっぷりだ。この2人は存外相性がいいのだろう。

 阿久津も呆れて毒気を抜かれてしまっている。

「現実でできることをなんでゲームでやるのよ……」

「ゲームのほうが楽しいから?」

「なんで疑問系なのよ……はあ。なんで才能あるのにやる気がないんだろ。この子」

 阿久津のため息は妙に艶がある。一挙手一投足がカッコよくて綺麗だ。だがその阿久津は恨めしい視線を工藤に送っている。

 そういや聞いたことがある。工藤の歌声はそれは素晴らしいものだと。その影響なのかすっとぼけた奴だけど隠れモテているらしい。

 

「才能あるやつに限ってやる気無いよな」

 ゲーマーにもそういう傾向のやつが多い気がする。要領がいいから直ぐに極めてすぐ飽きてしまうのだろうか。


「……いや、アンタだれ?」

 さっきの会話は全く聞いてなかったらしい。目を細めて俺を注視しているみたいだ。変質者にでも間違えられてそうな顔だな。

「あ、川上です」

「────今からでもバリカンしとく?」

 妙な間だなと思ったらこの前の会話を引っ張ってきたらしい。記憶力いいな。

 頷いたら本気でやられそうな気がする、挑発的な笑みだ。


「こ、これ以上は勘弁してくれ、ただでさえ防御力低くて大変なんだ」

「防御力?アンタも実乃莉(みのり)と一緒でゲームのやりすぎなんじゃないの」

「はは、仕事みたいなもんだからな」

「はあ?」

 なに言ってんだこの陰キャって感じの目だ。キツいな。

 顔が感情によって素直に変化するタイプだな、自分に正直なんだろう。杏梨と相性が悪いわけだよな、同族嫌悪ってやつだろう。


「わかるよ~。仕事のような使命感が、あるんだよね、オンラインゲームって」

 俺の仕事発言に反応した阿久津は工藤の説明で余計に顔をしかめて、目元を指先で揉みはじめた。


「アンタらと話してると頭痛くなる、今日の部活もちゃんと来なよ実乃莉」

 阿久津は自分の席に戻っていく。

 ゲーマーとはいつの時代も理解されないものだ。この反応はしかたない。まったくゲームとかやったことなさそうだもんなこの人。


「えー、わかったよ。……………強制のくせに」

 阿久津に聞こえないような声で工藤は言ったが、席は目の前である。阿久津は振り返ってニッコリ微笑んで座った。

 一言余計なんだよな。

 


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