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どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい  作者: 鈴木君
【第二章】強気なギャルのラブコメ
23/69

熱い握手


 大統領かなんかの執務室みたいな部屋、この異空間に来るのも慣れてきた。そして数々の友人達からの視線を受けてきたおかげか、生徒会長用の椅子に座っている、美少女からの好意的な視線にも何とか耐えることができた。

 彼女は優しげな口調で注意を口にした。


「ん?1年生かしら、朝が速いのね。ここは生徒会室で関係者以外立入禁止よ?」

 簡単に言えば出ていけカスだが、それを微塵も感じさせない微笑みを浮かべているのは、もちろん黒原渚(くろはらなぎさ)だ。

 黒原モードの渚は文句無しの黒髪清楚お嬢様、1年生との対応用にお姉さんっぽさが増している。

 俺が誰だかわかってないらしい。


「俺だけど」

 渚からの返答は速く、そして苛烈なものになる。

「わかってるわよカス、何で私に断りもなく髪を切ってるのか聞いてるんじゃないグズ」

「怖っ!断りないと髪もキレないの!?」

 てか今までの全部演技なの?多芸すぎるだろ、全くの別人じゃん。


「冗談よ、で?」

 冗談に聞こえないんだよ、渚の場合。

 女優でも目指せば?割りとマジで。


「杏梨に切られた」

「あっそ。まあそんなとこだと思ったけど……ふーん。上手いわね」

 渚はジロジロと俺を眺めて言った。

 恋敵だとしても褒めるとこはちゃんと褒めるらしい。もっと貶すのかと思った。


「因みに杏梨も黒染めしたぞ」

「はあ?まさか(ごう)がタイプだって言ったから?」

「そうだな、俺が話した」

 にしても渚は話してて気持ちいいな、こっちの言いたいことを先読みして当ててくる。

 たぶんめっちゃ頭いい、全国模試トップクラスなだけある。


「……あれは間接的に私がタイプって言っただけでしょ?ホントのタイプかは、わからないわよ?」

 それでいいのか、後悔はないのかと問いかけるような聞き方だ。確かにあれは矢神が俺を利用して、渚を意識してると言ったようなものだった。

 

「そうかもしれないけど、黒髪の清楚系が好きなのは間違いないんだろ?」

「……まあそうね」

 渚が好きイコール黒髪清楚が好きってのは安直すぎるかもしれないが、矢神はそれに惹かれているのだ、間違いじゃない。


「なんだかんだ渚も杏梨の心配するとか、甘いとこあるよな」

 ホントに矢神が黒髪好きかもわからないのに、杏梨が黒髪にしたことを心配した。根はいいやつなのかもな。

 渚は小さく鼻で笑い、偉そうに口を開いた。


「うっさいわね、私には足元に転がってる石すら気にする余裕があるってことよ」

 仲間外れの一件で完全に敵認定してると思ったけど、仕返しで溜飲が下がったか。だからって手加減するつもりは無さそうだけど。


「スゲー自信だな」

「当たり前でしょ?ところで、何でこんなに早い時間に私は呼び出されたのかしら」

 実はいつもより30分くらい早く渚を呼び出した。もちろんそれには理由がある。


「実はこの後、杏梨とも別の特訓をする予定があって……」

 自分でいいながら最低な気分になってくる。反発してる両者に俺は荷担してしまっている。

 風見鶏なんて風見を馬鹿にしてるクセに。


「はあ……。これ、許してあげるのは良介だからよ?」

「はい」

 そして渚なら許してくれると打算があったから正直に伝えているんだ。1から10まで渚に甘えているだけ、どれだけ彼女に貸しを作っているんだろうか。

 もう一生逆らえないね。


「何の練習なのかくらいは教えてもらえるのよね?」

 暗に教えろと言ってるようなもんじゃないですか。微笑んでても声でもろわかりなんだよ。


「もちろんです!」

「で?」

「杏梨がキレないようにする練習です!」

 渚はその答えにポカンと口をあけて驚いた。

 そして下品に嗤う。


「ウヒヒ、無理に決まってんじゃない。あの単細胞生物にキレさせないとか、視線恐怖症克服より難しいわよ」

 確かに杏梨がしおらしくしてるなんて想像がつかない。でも接してる内に知ったのだ、悪いやつじゃないと。

 だから思ったのだ。

 

「そうかもな。でも協力したいと思ってさ」

「そう……まさか良介がそこまで杏梨と仲良くなるとは思わなかったわね」

 仲良くというより変な奴がいるからって面白半分で構ってきてるんじゃないかと思う。いままでもそうゆう奴らいたし。大体すぐに飽きて関わってこなくなるけど。

 今まではそれで良かったけど、桃花にされたらどうしよう……。


「道化役ってところだろ」

「じゃあいつものことね」

「お前サラッと酷いよな」

 ちょっとは同情してくれてもいいじゃん、ナイーブになってんだからさ。そして渚は俺の怨み言にも軽口で返す。


「それもいつものことでしょ?」

「確かにな……そろそろ時間か」

 杏梨との待ち合わせ時間だ。ホントに渚には悪いと思ってるけど、こいつもクラスの男子全員からの告白をコンプリートするとかいう、わけのわからん動機で行動してるからな。今回は敵に回らせてもらおう。

 

「はーあ、学校1の美少女ほっぽって他の女の所に行くなんて、馬鹿な男ね」

 肩を竦めて手を広げている。外国人みたいに大袈裟なジェスチャーで俺を攻めてるらしい。

 悪いのはこっちだから文句は言えない。


「悪いってマジで」

「ま、いいけどね。明日は?」

 いつまでとは決めてないけど、杏梨はとにかく矢神にいいところを見せたいらしい、球技大会の練習も頑張ってる。今回の怒らない練習にしてもちゃんと取り組むのだろう。


「明日からもやる予定だから、また早く来てもらってもいいか?」

「はいはい、どっちかというと私は尽くすより尽くされるタイプなんだけどね」

 オッケーらしい。渚も本質は杏梨に似てるような気がするな、仲間には甘い。不満なのは言葉からも態度からもヒシヒシと伝わってきているんだけどな。


「今度なんか奢らせてください」

 黒原不動産の社長令嬢に何を奢るんだって話しだけど。まあ気持ちの問題だな、高級な店とか入ったことないし。てか入口でシャットアウトされてるだろうな。


「……しょうがないわね、それでいいわよ」

 何を奢らされるのか……不安だ。渚が何を要求してくるか想像もつかない。


「なんかリクエストとかある?」

「じゃあライゼリアでいいわよ」

「え!?」

「なによ、それぐらいいいでしょ?」

「いや、もっと全然エグいの要求されると思ったんだけど」

 回らない寿司とか、高級な鉄板焼きみたいなの想像してたんだけど。なにが辛いってその空間そのものなんだけどな、俺にとっては。学生がいける雰囲気じゃないでしょ。


「高級な食事も飽きるのよね」

 普段なに食ってんだろこの人。やたら長いテーブルにエッグスタンドとか置いて優雅にモーニングしてそう。

 高齢の執事とかいて、じーやとか呼んでんだろ?そうなんだろ?


「人生に1度ででいいから言ってみたいワード集に記録しとくわそれ」

 "ここから先は俺を倒してから行け"とか最高だよな。そんなシチュエーション絶対ないからこそ、それがいい。


「私のワード集には"味方になるなら世界の半分をやろう"があるわね」

「なんでちょいちょい世界を牛耳ろうとしてるの?」

 いっつも最後は世界規模の話しになるじゃん。マジで言ってそうだから怖いよな。

 渚は片手で頬を押さえて恥ずかしそうに一言。

「女の性よ」

 世界の半分が世界征服しようとしてるとか、どんな世紀末だよ。その夢見る少女ふうの演技も胡散臭いわ。

 

「つかヤバイ、時間遅れる。行くわ!」

「はいはい。じゃ、せいぜい頑張りなさい?……良介も杏梨もね」

 今度はラスボスふうですか?世界半分くれそう。


「おう」

 俺が生徒会室を出ようとすると、後ろから呼び止められる。

「あと」

「なんだよ」

「その髪型、似合ってるじゃない」

 渚は含みのない純粋な笑顔で俺を見送ってくれた。


「お、おう」

 気づいたら渚に見惚れてしまっていた。こりゃモテるわけだよな、本性しってても魅力的に感じてしまうんだから。



 部室棟の1階、そこに料理部の部室がある。なにを隠そうあの天塚桃花(あまつかももか)が所属する料理部の部室だ。いい匂いがするに違いない。2つの意味で。

 俺は意気揚々と階段を下っていき、あっという間に部室の前までやってきた。


 ノックしようと腕を上げてふと思う。あんまり緊張しなくなってきたと。前までならここでノックするのに躊躇して、時間を無駄に浪費していたのが、今や戸惑うことなく手を上げた。

 この短期間でかなり成長してると自分でも感じる。


──コンコン。


「はーい!」

 最近よく聞いている、ギャルらしい明るい声。鈴村凛(すざむらりん)とはまた違った程よいテンションの高さだ。


「お邪魔します」

 部室内はほぼ家庭科室だ。いくつもキッチンがあって調理器具がたくさんある。料理をまったくやらない俺にはよくわからんが。

 とにかく想像通り、料理部の部室は甘い香りが立ち込めていた。


「おせーぞ良介、自分で呼び出しといて」

 椅子に座って足を組んでいる杏梨(あんり)は、暇そうに頬杖をついて此方を睨んでいた。

「悪い、遅れた」


 やはり黒髪も似合ってる。けど所作から滲みでてるんだよな、ガサツさというか粗野な態度が。俺はそのほうが彼女らしくていいと思うんだけどね。怖いけど。


「フンフンフーン♪もうちょっとで焼き上がるよ!」

 オーブンの前で鼻歌を歌ってる桃花は、制服の上から三角頭巾とエプロン、キッチンミトンを装着している。甘い香りはなにかお菓子でも作っているのか。

 なんでギャルって家庭的な衣装が似合うんだろう。

 

「じゃあ練習始めるか」

「……なにすんの?」 

 彼女らには練習方法は話してない。今日の朝早く来て杏梨の短気を治そうと持ちかけただけだ。桃花はすぐに賛成して料理部の部室を快く貸してくれた。杏梨は終始嫌なそうな顔をしていたな、今もだけど。


「とにかく杏梨を煽る」

 視線がダメな俺は渚と、とにかく視線を合わせ続けることで視線に馴れることを志した。友達も増やしてなるべく視線を合わせて話すようにしている。

 つまり苦手なことを敢えてやる。実践あるのみだ。


「殴っても文句いうなよ」

 頬杖の手をそのままグーにかえて向けてくる。俺は相変わらずの彼女らしさに思わず苦笑いする。清楚のかけらもないな。

「殴られて文句言わない奴がいるなら見てみたいんだが」

「良介!杏梨のためにそこまで……」

 桃花が感激した様子で、目をキラキラさせながら俺を見ている。ミトンのまま手を合わせて俺に祈りを捧げてるみたいなポーズだ。

「いや桃花さん、殴られてまで杏梨のキレ症治そうとしてないからね。なんで感動してんの、殴られないからな!」


 これじゃ殴られるのが確定してるみたいじゃん。嫌だからな俺は。


「ほら、煽ってみ?」

 くいくいと人差し指を曲げている杏梨は、不敵な笑みを浮かべている。まるでやれるものならやってみろと言わんばかりだ。

 

「まてまて、そうゆーのじゃないから!これは杏梨の為にしょうがなく煽るってだけで、チキンレース的な要素まったくないから!」

「相変わらずごたごた御託ばっかならべやがって」

「ごたごた御託って……ぷっ」

 言葉選びどうよそれ、壊滅的センスだな。ギャルなんだからもっと華やかな言葉使えばいいのに。


 ──ガタンッ

「へーやればできんじゃん良介」

 ゆっくり立ち上がった杏梨は明らかにガンを飛ばしてきている。ヤバイよ気づいたら小馬鹿にしてた。だってごたごた御託って……ぷっ。あ、思いだし笑いしちゃった。


「いい度胸だなあぁぁ!!」

 ──ドカッ

「あいってーー!!」

 痛い痛い痛い。肩が!女の力じゃねーだろこれ!

 肩に直撃した拳の後には、熱と鈍痛が残った。やりなれてやがる。そういや男子に紛れて肩パン勝負してるの見たことあるぞ。男子が女子を本気で殴れるわけないから杏梨の独壇場になってたのを。

 

「あースッキリ!」

 ドカリと腰を下ろした杏梨はご満悦だ。こっちは苦悶の表情で悶えているってのに。


「いてえ……そうゆうとこが清楚じゃないんだろ」

「あ?」

「まて、落ち着け!それもだぞ、それも!」

 立ち上がりそうな杏梨にビシッと指差しで伝える。こっちも痛い思いしたくないから必死だ。


「はあ、だからあたしには無理だっていってんじゃん」

「でも黒髪にはしただろ、諦めんなよ」

「つかなんでお前があたしより必死なんだよ、意味わかんねーし」

 確かに言われてみれば俺はやけに杏梨に肩入れしてる。最初は見下されていて見向きもされないような存在だった俺が杏梨と普通に話してる。それはきっと体育館での"やらかし"を見ていたからだろう。周り全てを敵に回してしまいそうな行いを。

 自分を見てるようだった、過去の自分を。

 だから見ていられなかった。単純だ、たったそれだけ。彼女に同じ轍を踏んでほしくない、それが答えだ。


「俺も視線恐怖症を克服しようとしてんだよ、だから……」

 いや、待てよ素直に俺の気持ちを吐露して聞いてくれる女か?違うね。そんなたまじゃない。それこそ杏梨の動機を煽れるような理由がないと……。──ん?そうかこいつの場合、煽ることそのものが理由になるんだ。

 ──だったら。


「なんだよ、もしかして渚に負けるのが怖いのか?」

「ああ?」

 部室の時計が止まったかのような不穏な大気が杏梨から吹き出した。つついてはいけない所をわざとつつく。


「渚みたいに黒髪にして態度まで改めて、それで負けたら完敗だもんな、言い訳できないし怖いよな?」

 オーブンの前で鼻歌を歌っていた桃花が正気を疑うような顔で俺を見ている。首をふって止めろ止めろと必死である。ちょっと面白い。


「お前ちょっと仲良くしてやったからって調子のってない?別にあたしが頼んで──」

 なんだ、意外に冷静だな。もう掴みかかってくるかと思った。

「逃げんのか?」

「あ!?」

 本気の敵視した瞳だ。よく知っている目。もう杏梨に向けられることはないと思ってたんだけどな。

「逃げんのかってきいてんだよ」

「……誰に向かって口聞いてんのお前?」

 失敗したかな、これでダメだったらただのアホだな。友達を失くすどころか敵にしてしまうのだ。


「渚に負けるのをビビってる杏梨に」

 ギャルのトップ杏梨のメンチに、真っ向から視線を合わせて勝負した。手が震えているような気がするが気のせいだ。ただ愚直に目だけで意思を伝えた。

 ──そして。


「……ふう。そこまで言うなら良介の言う通りにやってやるよ。ビビリなんて言われて黙ってらんないし。その代わりなんの成果もなかったら良介を金髪にして制服カスタムするから」

 うわ、絶対やだ。人目どころか教師の目にもつくじゃんか。"1年の頃は大人しかったのにどうした。何かあったのか"とか面倒見のいい先生がめっちゃ絡んできそう。


「わかった、成果がなかったら金髪だな、そっちも本気でやれよ」

「女に二言はない」

「よし」

 こうして俺達は熱い握手を交わした。なんだこのノリは、むず痒い。ギャルの生き様に俺も乗せられたか。

 ギャルじゃないな、ヤンキーだなこいつ。


 それにしても良かった。危うく大事な友達を無くしてしまうのかと思ったけど、意味のわからん条件つけられた以外は概ねいい軌道だ。

 


  

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