依頼
最近のアニメや漫画は、異世界転生ってジャンルがトレンドだ。
俺もフォートファイトの合間によく見ていて、好きなジャンルの1つだったりする。
そこでだ、異世界転生する方法を知りたくないかね?
因みに俺は知ってるし、毎日してる。
やり方は簡単。学校でクラスの扉を開くだけ。
それだけで、意味のわからないカースト制度を味わったり、永遠に勉強させられたり、青春とかこつけて、無茶苦茶なノリに強制参加させられたりする。
日常では味わえない、まさに異世界での出来事のようだ。
……転生はしてないね。
とゆうわけで、俺は異世界の扉を開こうとしていた。
扉の向こうは、大勢の若い男女の声が飛び交っていて、今日も我がクラスはご健勝のようだ。
──いざ、転生。
生徒会室と違って普通のスライドドアを開けて俺は侵入した。
渚に脅かされていたので、いつもよりゆっくりと音を立てずに。
だが、やたらとドアを閉める音が響いた。
おかしいな、みんなが騒がしいはずなのに……。
あれ?静かになってません?
見回してみると、辺りは一斉に静まり返っていて、俺を見たり、別の場所を見たりしている。
チラ見ならガン見より全然いいね、ダメージ少ない。
──にしてもなんなんだ?
皆様の視線を追っていくと、1人の派手な女に行き着いた。
ルーズソックスと、ウェーブのかかったプラチナブロンドのメッシュがトレードマークの、島崎杏梨だ。
ああ、そうゆうこと?
俺が怒らせたから、俺が教室にきて杏梨がどんな反応するか、皆でうかがってるってことか。
…………とりあえず座るか。
まあまあ皆さん、心配せずとも貞男は大丈夫ですよ?
なんと、このギャルとお友達になったんですからね!
ま、俺の心配じゃなくて自分の心配だよな。杏梨の怒りが自分に向くんじゃないかって、戦々恐々としてるんだろう。
現に目の前にいる杏梨と、俺の行く末を固唾を飲んで見守ってくれている。
……いつのまに。
「なにボーっと人の顔みてんの?良介」
「意外と化粧薄いなって」
「は?殺されたいの?」
いつもの眼光に睨まれるが、友達になったという事実が俺を守ってくれているのか、怖くない。
それにどもらずに喋れてるな、俺。
「すみません」
「昼休み、屋上な」
「え……」
え?あれ?友達になったんじゃ……。
屋上?OKUJOU!?Watts!!?
周りは葬儀のように静かだが、ボソボソとあいつ終わったな、とか島崎コエーとか聞こえてくる。
明日の朝日は拝めないのか……。
杏梨が要件だけ告げて立ち去ろうとした、その瞬間。
斜め前の住人が気だるそうに杏梨を引き留めた。
「アンタさ、クラス雰囲気悪くなるから、そうゆうのやめたら?」
ハスキーボイスの美人、阿久津瑠色だ。今日も赤色のインナーカラーが、耳のシルバーを映えさせている。
「あ?そうゆうのってなんだよ、ちゃんと言わないとわかんないんだけど?」
スイッチ入るの速、もう喧嘩腰だよ。阿久津も最初から喧嘩腰だったけど。
「これでわからないとか……空気読めないんだね、ゴメン、ゴメン」
クールな奴が嫌味を言うと怖いな。
冗談で言ってない感がよくわかる。
「なに?喧嘩うってんなら最初からそういえよ」
この2人はことあるごとに衝突してる。見慣れてきてはいるけど、これこそ雰囲気悪くなっている。
でも、いいたくなる気持ちはわかるし、間違ってない。
それに杏梨にここまで言える奴が殆どいないから、阿久津は貴重な戦闘員だ。
「ほら、直ぐ暴力?いつの時代に産まれたんだよ、原始時代?」
ここで杏梨が座ってる阿久津に、よっていく。
そして鼻と鼻がくっつきそうな距離で、口を開いた。
「お前、あんま調子のんなよ?」
ドスの聞いた声だ。
クラス中がヒヤヒヤしているが、これはプロレスみたいなもんだ。
本気のキャットファイトが始まることはない。……たぶんだけど。
それに、ここまで暖まったら向かえがくるはずだ。
「ちょ、杏梨!なにやってんの!」
慌ててやってきたのは、杏梨の良心こと天塚桃花。
桃花は杏梨の後ろから抱きついて、阿久津から離す。
その間、2人は睨みあったままだ。
そしてもう1人。
「見合って見合ってーハッケヨイ、ノコッタ!相撲ですか!?でしたらこの、鈴村凛も混ぜてくだせえ!」
2人の間柄に割って入ると、行事の真似事のようなことをやりだした。
このタイミングでそれは、空気読めてないだろ。なんなら煽ってるまである。
……こいつの場合、止めに入ってるんだろうけど。
「凛、じゃま」
「う、まあまあ、るいちん落ち着いて」
阿久津のひと睨みで一蹴されてしまう凛。何気にビビリなんだよな。
「いいからどけよ凛」
「りーさんも、そんなに怒らないで……」
あははとびくつきながら笑う凛は見ていて痛々しい。
こいつ無駄にいいやつ過ぎるんだよな、怖いなら出てこなければいいのに。
俺みたいにな。
「はいはい~瑠色ちゃん、どう、どう」
そしてついに工藤も動き出した。
とゆうか止めかたが斬新だ、阿久津の襟を掴んで引っ張っている。
……息とまるぞあれ。
「ゲホ!ちょ!ゲッ、実乃莉~っ!!」
ハスキーボイスがよりすかすかになって、ヒドイことになってる。
「桃花ちゃん、リンリン、今のうち、だよー」
「実乃莉アンタね!」
阿久津が工藤に気をとられてるうちに、桃花と凛で杏梨を引き離す。
「ありがと、実乃莉!」
「すみません、みのりん!」
「ちょ、離せ!離せよ!」
杏梨は引きずられていった。
にしてもだいぶヒートアップしたな……。
いつもはもうちょいマイルドなんだけど。
──ん?……あれか。
渚が「こわーい」とかいいながら矢神の腕に抱きついていた。
あれで杏梨が余計にイラついたんだろう。
あんだけ言っても、スタンスを変えるつもりはないか、まあ渚らしいけどな。
それに渚のスタンスを変えたら杏梨に殺されそうだし。
あれ?もしかしてこの騒動って俺のせいにならないか?
杏梨を怒らせた俺、空気が悪くなる教室、阿久津がキレる、もっと空気悪くなる教室。
……深く考えるのはよしておこう。
──キーンコーンカーン。
いいタイミングだ。
*
『忘れてねーだろーな良介』
絵文字もスタンプも一切ない淡白なメッセージが送られてきたのは、1時間目の授業が終わる直前だった。
ギャルならもっとさ、デコデコした感じのメッセージ送れるよね?
自分自身はデコデコしてるクセにさ。
俺が手本を見せてやろう。
PINEにメッセージを書き込む。
『もちろん☆わすれてないよ!(*^^*)/』
そして2秒で返信がくる。
『きも!メッセのテンションと普段のテンションちがいすぎでしょ』
『きも!』
追いの"きも"はいらなかったよね?
大事なことだから2回ですよね、わかりました。
2人のバトルを見ていて高ぶっていたらしい。それが文章に現れてしまった、我ながらアホなメッセージだな。
とゆうことで休み時間だ。
短い休憩時間、無駄にするわけにはいかないな。
まずは矢神を監視しよう。
用があるのに話しかけたら申し訳ないからな。
聞きに行く決心がつかないとか、そんなんじゃないぞ。
「なあ智也、これカッコよくね?」
矢神が御劔の机の上に広げているのは、ストリート系のファッション雑誌だ。
授業中に目星をつけておいたのだろう。ファッション雑誌とか目立つもんよく見てられるよ。矢神ほどのヤンキーになると、教師も諦めてるのかもな。
「これか?いいね、剛が着てれば似合いそうだ。僕には合わなそうだけど、ははは」
確かに、御劔はもっと大人っぽい服が似合いそうだ。
その辺歩いてたら大学生に見えるんじゃないか。
「お前はなに着ても似合うだろ!これ欲しいんだけどよ、たけーんだよ!」
「どれどれ?ああ、これは無理だね。でも、安くて似たような服があるんじゃないかな」
「そうか?」
「んー、今度の休み服でも見に行くかい?」
「行くか!さすが智也だな!」
御劔の前だと矢神も普通の学生みたいだな。バシバシ背中を叩いて喜んでる。
むしろ保護者と子供って感じか。
……なんでこいつら仲がいいんだ?理由がよくわからん。御劔と矢神なんて全然別のタイプだろ。
なんでもできる優等生、それにバチバチのヤンキー、気が合うと思えないんだよな。
でも御劔を中心に矢神と月島が集まるんだ、五ノ神七不思議の1つだな。
──キーンコーンカーン。
あ、やべ。
何も調査せずに休み時間を終えてしまった。
……ま、まだ休み時間はあるからな。大丈夫だな。
『おい、ちゃんとやれよ、見てるからな!』
PINEからのメッセージを、アプリを開かずに確認する。
既読をつけないでおけば、最悪、気づかなかったことにできるからな。
これがホントの策士だよ、はっはっは!
『スルーすんじゃねえ!スマホ見たの知ってるかんな!』
ダメらしい。
遠い席なのによく見てるよ、先生に怒られるぞ。
『次の休み時間に聞くから大丈夫』
そして2時間目が終わり休み時間。
「──してやったんだよ」
「「ワッハッハッハ!」」
「──てことがあってな?」
「ドープだな!ごっちん!」
「ははは、ドープってなんだよライト」
……………あのヤンキーとラッパーとイケメンのトリオに話しかける?ムリムリ。
なんか喧嘩したとか、絡まれたとか話してるし。
無理でーす!
『……お前、協力するきあんの?』
杏梨からのメッセージは、3時間目の授業でのことだ。
昼休みまで、あと休み時間は1回しかない。ラストチャンスだ。
でなければ屋上が校舎裏になる可能性も……どっちも一緒か。
『もちろん!ちょっと腹痛で!』
『大丈夫か?』
……なんで素直に信じるんだよ。バレると思ってついた嘘なのに、胸が痛むわ。
次々こそはちゃんと行こう、信じてくれる相手を裏切るのはつらいからな。
『もう収まったから、大丈夫』
3時間目が終わった。
誰かと話し出してから行こうとするからダメなんだ。
行くなら休み時間が始まってすぐ。
──と思ったのだが。
「渚、今の授業、わかんねーとこあんだけど、教えてくんねーか?」
「あら、剛が勉強?明日は槍でも降りそうね?」
「ほっとけ」
「ふふふ、いいわよ」
クソ、矢神本人から動きやがった。
しかもこの2人、付き合ってんじゃねーかってくらい、仲が進展してるんだけど。
2人に近づくにつれて、心拍数がドンドン上がって、手から穴でも空いてるんじゃないかってくらい、汗が出てきた。
大丈夫、ただ好きなタイプを聞くだけだ。
「よ、よお」
「あ?貞男?」
「良介?」
矢神は訝しげな、渚は目を見開いて俺を迎えた。
意外だよな、俺もちゃんとアタックできて意外だよ。
そしてあまりにも緊張しすぎた俺は、大きな過ちを犯す。
「や、矢神の好きなタイプって渚みたいな奴か?」
本人の前で直接聞くという蛮行に出てしまったのだ。
違う、違うんだよ、ホントは好きなタイプ聞くだけのはずだったのに。
……殺される。
「あ?なんだお前急に……そうだな、長い黒髪と清楚な女は好きなタイプだけどな」
一瞬キレそうになる矢神だったが、それは渚の前で失策だと思ったのだろう。間接的に渚がタイプだと告げるようにしたらしい。
危なかったー殴られると思ったわ。
「ウヒ……ふふふ、良介は私みたいな女の子はどう?」
いま普通に笑いそうになってたな、バカにしやがって。
そして矢神の間接パンチを華麗にスルーしやがった、これも駆け引き的なやつか?俺には全くわからん。
「……俺は裏表のない素直な子がタイプかな」
「あら、それ私のことじゃない?」
どの口が言うんだよ、逆にそこまで行くと尊敬の念すら抱くわ。
そして俺が渚を好きだなんて、黙って見てられない奴が動く。
「おいおい貞男、さすがにお前が渚を狙うのはキツいんじゃねーか?」
ニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべて、矢神は言った。
むしろ満面の笑みだな、こいつには絶対に負けないという自信も垣間見える。
「はは、だよな」
「落ち込むなよ、俺がいい女紹介してやるからよ!」
肩を叩かれて、慰められる。勝手に渚を巡る競争に負けたことにされてるらしい。
なんちゅう力業だよ、カーストとパワーで完全に押しきられた。
……なんで俺はこんな情けない思いしてんだよ。
「あら、私は良介のことちょっとタイプよ?」
「あ?ホントかよ渚、趣味悪いなお前」
「そう?剛が見る目ないだけだと思うけど」
渚が援助してくれる。
でもそれが余計に情けなさに拍車を掛ける。やっぱりカースト上位陣と渡り合うには、経験値が少なすぎる。
実力不足を痛感させられた。
「そんなことよりよ、勉強教えてくれよ、もういいだろ貞男」
「あ、ああ、悪い」
そして簡単にお払い箱にされてしまう。
今の俺は、路傍の石のように一蹴できる存在で、矢神の視界にも入らないのだろう。
最近は奇跡的に友達が増えていたが、これが俺の普通の立場だ。
俺みたいなのが、人と付き合っていくということは、こんな扱いを受けるということなのだ。
忘れちゃならない。
今は杏梨からの依頼をこなせたとして、よしとしておこう。
じゃないと、やっていられないからな。




