説明と弁解
「で、とうゆうこと?」
1日のターンを使い果たしたので、俺にとってのターン回復の泉、一騎当千、爽快アクションゲームをつけたところだった。プロゲーマーだからっていつも同じゲームをやってるわけじゃない。
息抜きだ、息抜き。
現実ってのは、ストレスが蔓延りまくりだ。
ウキウキ気分で据え置きゲーム機の電源をつけた俺は、妹のカットインにげんなりする。
「……今?」
「今は今しかない!ああっ!今が今過ぎて、今さっきに!」
「……うわぁ、テンションたっか」
可愛いが割りと過干渉な琴葉は、相手するのが大変だ。
似た者同士、凛と直ぐに仲良くなれるわけだ。
バスケ部はこんなのが2人もいて、大丈夫なのかよ。練習が崩壊するだろ。
「あの可愛いのに美人な人って、お兄ちゃんが言ってたミスコン優勝した人なんでしょ!?なんでお兄ちゃんなんかが、2人乗りしてるの!?」
琴葉はベッドに座っている、俺の横に腰を降ろした。
今日も風呂上がりみたいだ。
「暑苦しいんだけど……人の話し聞いてる?あと、なんかがってヒドくない?」
「鏡みてもの言ってる?」
眉を潜めて、可哀想な者を見る目をしている。
「ついに直接的な悪口きたよ」
「絶対おかしいよ!なんなのあの女!お兄ちゃん騙されてるよ!?だってあんな可愛い人がお兄ちゃんと2人乗りなんて、絶対しないもん!お金!?」
また変な邪推でもしてそうだな。
例えば罰ゲームで俺に告白してみた!とかな、自分で言っときながらエグい。
…………中学の時にやられたな。
「……ある意味、俺の信頼が厚いね、ちょっとまってろよ」
俺は手で琴葉を制して、携帯を取った。
琴葉に隠すようなことじゃないので、その場で渚に電話する。
ここまで言われると悔しいし。
『なに?』
『あ、渚か?俺達の関係を妹に話したいんだけど、いいか?』
『いいんじゃない?学校に味方は多いほうがいいしね』
『了解、それだけだから』
『ええ。──それより今日のこと、明日ちゃんと話してもらうわよ?』
『……はい』
ちょっと声音がお怒りだったな……。
明日、休みたいなあ。矢神にも取材しなきゃいけないし……。
「で?お兄ちゃん」
「ああ、うん。この前ゲーム友達と遊んだっていったろ────」
琴葉に渚との関係を略説したが、琴葉に細かく追及されて、結局1時間は話した。
俺のゴールデンタイムが……。
「──じゃあ渚さんに、わたしからお礼言わないと!お兄ちゃんがいつもお世話になってるんだし!」
あの女から渚さんである。話したこともないのに名前なの?距離近すぎない?
前から思ってたけどコミュ力お化けだなこいつ。
「あーそうだな、俺も凛にいつも妹がお世話になってますって、いっとくよ」
「ああっ!そうだよ、なんでリンリン先輩とも仲良くなってんの!?"お兄さんと友達になりました!"って言われたんだけど!」
「凛が渚と仲いいからな、流れ?」
「お兄ちゃんの口から流れが出てくるとは……でもリンリン先輩なら安心だね、いい人だし」
凛は後輩にもあんな感じなのか?やたら後輩から慕われるタイプだな、きっと。
「性格はよさそうだな」
安心できる人間かは別として。
「うん。……で?」
「でって、なんだよ」
「どっちが本命なの!?妹を差し置いて!」
浮気する夫を問い詰めるようなテンションだ。ノリノリである。
こっちはげんなりしてるってのに。
「1つあり得ない選択肢が混じってたけど、別にそんなつもりじゃない」
「ええ!?五ノ神2トップとお近づきになれたんだよ!?どっちか狙おうよ!」
どうせ遠くへ来たんだから、御当地グルメ食べようよ、みたいなノリはなんなんだよ。
あいつらB級グルメどころか最高級A5ランクみたいな、ヤバい奴らだぞ。
気軽に手だせるか。
「──俺が?」
「…………」
「……黙んなよ」
普段テンション高い奴が静だと、色々と邪推しちゃうよな。
この場合は無理を悟って、俺を哀れんでるだけだけどな。
「うーん……でも渚さんは、お兄ちゃんの良いところ知ってるみたいだし、あるかも!」
俺を慰めるために、なんとか絞り出したって所か。
そして女子が、恋愛話しに持ってくのは妹も共通だったな。
「はいはい、俺は1日1日を生きてくのに必死なんだよ、恋愛うんぬん言ってる余裕がない」
「……もったいない」
「ほっとけ」
人の恋愛どうこう言ってる暇があるなら、琴葉こそどうなんだと聞きたくなる。
……でも好きな人ができたとか言われたらショックだし、やっぱり聞くのはやめておこう。
それから他愛ない話を沢山した。ばんちゃんの話しとか、球技大会の話しとか。
こうして、途切れない兄弟の声と共に、川上家の夜は更けていく。
*
緊張する相手がいる時は、いつも腹に力を入れている。
だからだろう、俺の腹はシックスパックで、なかなかいい体に仕上がっていると自負してる。
これも自信になるか……。
いや、別名ビビリ筋にそんな効果あるわけない。
なぜこんな話しをしてるのか。
そりゃ腹筋に力を入れてるからに決まってる。
「んで?申し開きはあるんでしょうね?」
最初から俺が全面的に悪いって空気感だ。
「まあ、杏梨の味方したのは謝るけどさ、渚もやり過ぎじゃね?」
「先にやってきたのは向こうだけど?これ見よがしに私を省いてくれちゃって」
ああ、あのスポーツウェアか、ちゃんとムカついてはいたんだな。
「にしてもヒドいだろ、矢神と見せつけるように仲良くして、好きな人の前で恥かかせて」
「恥をかいたのは自業自得でしょ?物に当たるとか子供のやることじゃない」
「……よくゆうよ、キーボードぶっ壊すくせに」
渚はフォートファイトで負けが込んで、キーボードを破壊したことがある。
爆笑ものだったが、かなりイカれてる。
その怒りの体験があったからこそ、杏梨の思考を誘導できたんだろうな、ぶちギレるように。
「…………」
図星をつかれた渚の顔は険しく歪む。
ただし、不満そうに俺を睨んでいる。
「……怒んなよ」
「……はあ、まあいいけど。大体、好きな男がいるならアタックすればいいのよ、ギャルのクセにチキッてるから、ダメなのよ」
俺と渚は、こんなことで喧嘩には発展しない。
正直、あんなの裏切りの内に入らない。意見の相違だな。
「あれでも女の子なんだろ」
「杏梨が?あたしと付き合えぐらい、いいそうじゃない」
やっぱそんな感じに思うよな。つかそんな感じだし。
ただ恋愛だと話は別みたいだった。
「いや、実は乙女っぽい所があるんだよ」
「……なに?惚れた?」
渚は、え?趣味悪って顔で引いている。
「いや惚れてないけどさ!……最近こんな話しばっかしてんな!」
「そんなの私は知らないわよ、いいことなんじゃない?女性関連の話が増えて、陰キャ卒業も直ぐそこね?」
なんか投げやりだな。渚に見捨てられたら、俺は前の状態に戻る自信がある。
「いや、荷が重いんだよ!フォローしてくれ!」
「だから私は女子に嫌われてるの、杏梨でわかったでしょ?」
他にもよく思ってない奴がいるんだろうな。
女子は男と女で対応を変える女子を嫌うらしい。琴葉が言ってたから、ホントかどうか定かじゃないけど。
渚はピッタリ当てはまる。
「……確かに、桃花は騙せてるみたいだけどな」
猫かぶりを。
でも杏梨は気づいてるっぽい。
直情的な杏梨と、性悪な渚じゃ相性最悪だろうな。
「……さっきから気になってるんだけど、あの2人と随分仲良くなったのね?」
平素を装ってはいるが、機嫌が悪いのはわかる。
机に指をトントン叩きつけて、落ち着きないし。
「え?」
「名前で呼んでるじゃない杏梨と桃花」
「なんか友達になったから、そう呼べって」
何で友達になれたのかは俺にもわからない。フォローしたいって熱意が……熱意ほどのものじゃないけど、それが伝わったのか。
杏梨の信用を得ることができたらしい。
「ふうん、私がやりすぎだからって、庇うのはまだわかるけど、友達にまでなっちゃうのね?」
声のトーンが落ちて、明らかに怒ってる。
理不尽だな。
「しょうがないだろ?なんか友達になってたんだから、それに渚だって友達を増やせって言ったろ」
友達の視線が大丈夫なら、友達を増やせって。
だから俺はなるべくちゃんと話せるように、頑張っているんだ。
「だからって私の敵と仲良くしてるのを見せられて、私がいい気持ちになれると思うわけ?杏梨と私が喧嘩したら、良介はどっちの味方になるのよ?」
この質問、昨日までなら絶対に渚の味方をするって答えていた。
でも、今は杏梨も友達なんだ。
「それは……俺が正しいと思ったほうだな」
「……私じゃないのね」
どこか物悲しい表情で、渚は呟く。
そんな顔されるとこっちも、心苦しくなってくる。
でも理解してもらいたい、渚のことはホントに大事な友達だと思っている。だからこそ、間違ってれば注意できるような、そんな間柄でいたいだけだ。
「前までならそうだったかもしれないけど、今は杏梨も友達だし、もし渚が間違ってるなら注意するぞ、俺は」
「別にそんなのわかってるわよ」
「じゃあ──」
渚が掌を俺に向けて制止する。
「それでも、味方するっていって欲しかっただけよ、悪い?」
いつも自信満々の渚が、腕を組んで視線を反らす。
こいつは、たまにだがホントに可愛い時がある。
恥ずかしげに頬を染めている今がその時だ。これが演技なら俺は人を信じられなくなるね。
「……いや、そりゃ、その」
「あーあ、陰キャのきもロン毛でも、こんなに親身になって協力してるのに、私には味方なんていないのね」
心底落ち込んでる素振りを見せてくる。これは演技っぽいけど、さっきの顔を見てしまった俺には見過ごすことができなかった。
「おい、まてまて、別に味方じゃないなんて言ってないだろ!仮にクラスの全員が渚の敵になっても、俺だけは渚の味方だ!渚が間違ってたとしても、俺だけはお前を見捨てない!」
俺らしくもなく、熱弁してしまった。
最近のリア充達との関わりで、影響を受けてしまったのかもしれない。人との関係が希薄だった俺にとって、みんなは暑苦しいぐらいに意思の疎通をとってるからな。
「ウヒ」
ウヒ?渚がうつむいて肩を震わせている。
そして、片手をゆっくりと俺の視線まで上げると、その手にはスマホが握られていた。
『仮にクラスの全員が渚の敵になっても、俺だけは渚の味方だ!渚が間違ってたとしても、俺だけはお前を見捨てない!』
『仮にクラスの全員が渚の敵になっても、俺だけは渚の味方だ!渚が間違ってたとしても、俺だけはお前を見捨てない!』
リピート再生される俺の熱弁。
それは少年マンガや、少女マンガの主人公が口にするような、歯の浮くようなセリフだ。
現実で使うような言葉じゃない。
それを聞かされた、俺の内側から爆発するように台頭する情緒は、羞恥心だ。
「うわあああっ!!やめてくれ!!まて!そのスマホよこせボケ!」
お高い家具も、整頓された部屋も、なにもかもを埒外に俺達は激しい追いかけっこを始めた。
だがそれも一瞬。
運動神経が悪い渚を捕らえるのは容易だ。
「ウヒャヒャヒャッ!渡すわけないでしょ!?カ、カッコいい!!惚れちゃいそうだわ!私をまもってーー!」
せっかく渚の腕を掴んでいたのに、あまりの恥ずかしさに俺は膝をついてしまう。
「ぐわあああっ!騙された!一瞬でも可愛いと思った俺を殺したい!まて、落ち着け!再生するな!なんでもする!なんでもするから!」
「嫌よ!これはうちの家宝にするわ!まずは朝の目覚ましに使いましょう!」
「くそおおおお!誰か殺してくれえええ!!」
「ウヒャヒャヒャ!」
くそ!だ、騙された!もうだれも信じられん!
忘れてた、渚はクラスの男子をコンプリートするとか言ってる、鬼畜やろうだったんだ!人の純情を弄びやがって!
この後も何度もリピートされた俺のボイスは、ガリガリと俺の正常値を削って発狂させたが、渚が満足して、なんとか目の前で消してもらえることになった。
「──ほら、これでいいでしょ?」
「ああ……はあ。朝から今日1日分の体力使い果たしたわ」
「あら?そんなこと言って大丈夫なの?大変なのはこれからじゃない」
「は?何が大変なんだよ」
意味わからないぞ。これ以上大変なことってなんだ?矢神への取材だってこれほどじゃないだろ。
かなりキツいけどさ。
「フッ、ホントにわかってないのね。じゃあ教えてあげる。良介は杏梨を庇ったわよね?」
それがなんだ、関係あんのか?
あと人をバカにしたような笑みが、今は心底ムカつく。鼻で笑いやがって。
「まあな」
「みんなに杏梨を怒らせたって、言ったでしょ」
「そうだけど、それがどうしたんだよ」
「まだわからないの?バカね。怒ると面倒な杏梨を陰キャが怒らせた。そんな話し直ぐにクラスに広がるんだから、クラスに入った時が楽しみね?」
え?マジで?あの嘘がそんなマイナス効果をもたらすなんて……。
つかどうなるだ?想像できん。
めんどくせえことしやがって貞男が!って感じ?それは辛いな。
「ええ……」
「あ、そろそろ時間ね、頑張りなさい」
「……はい」
俺はやたら綺麗な生徒会室を出るため、ゾンビのような足取りで靴を履き替える。
ドアを開けた時、後ろから呟き声がした。
「──味方して欲しいのはホントなんだけどな……」
「え?なんか言った」
「なんも言ってないわよ、さっさと行きなさい薄ノロ」
「へいへい」
朝から罵声を浴びた俺は、教室を目指して重い扉を開いた。




