帰り道
フォートファイトは戦略も大事だ、ただバトルが強いってだけじゃ必ず行き詰まる。
俺達には軍司のばんちゃんがいるから大丈夫だけどな。
だから先を見越して動く事が重要なんだ、相手がこっちに行きそうだから、俺はこっちにいって優位な場所を得る、みたいにな。
けど、それは恐らく現実でこそ役立つ技術だ。
ゲームならばんちゃんの指示に従うだけで、上手くいくけど、現実じゃずっと自分の指示だ。
つまり、俺は今の現状を予想していなかった。
「いやー川上くんと一緒に帰れるなんて、感慨深いですね!」
「そ、そうだな」
渚がいないせいか、少し緊張する。
俺は自転車で福生、渚は電車で青梅、他の皆も電車や自転車で、俺とは別の方面だった。
そしてなぜか俺にやたらと馴れ馴れしい鈴村だけが、同じ方面で自転車なのである。
神は仕事をしてるのだろうか?たぶんリゾートでバカンス中だと思う。
「やっぱり渚がいないと、緊張するの?」
ドキリと心臓が脈打った。
「え?」
「なんか急に渚と仲良くなりましたよね?休みに会ったとか!」
ビックリするな、心読めるんじゃないだろうな。
「趣味が合うんだよ、それで仲良くなった」
「ふうん、じゃあアタシとも仲良くなれるね!バスケが好きどうし!」
ニカッと笑う鈴村。
可愛いし、いいやつだ。でも顔を覗こうと……いや、渚が味方を増やせって言ってたしな。
もしかしたら友達になれるかも。
「あ、ああ、そうだな」
「おお!意気投合ですな!長かった、苦節1年とちょっと、ようやく川上くんと友達になれました!」
あれ?また友達宣言されたけど……
これでいいのか?
「友達……気になってたんだけどさ、なんで鈴村は俺に構うんだ?こんなどっからどうみても変なやつ」
「あ、変なやつって自覚はあるんですね」
鈴村はあはは、と苦笑いしてる。
「ま、まーな」
「あはは!アタシはやっぱり、自信も度胸もなくて、卑怯だからです」
「なんだよそれ、意味わからないぞ、やっぱ脳筋だな」
というより誤魔化された?
ホントは別に理由があったりするのか……あんまり突っ込んで蛇が出てきても嫌だからな。
「あ!脳筋っていったね!よく言われるけど、傷つくんだからね!」
「そ、それはすまん、あんまり人と話さないから、ハッキリ言っちゃうクセがあって……」
「いやいや、そんなにしょんぼりされても……うーん川上くんは、いいやつだな!」
人に嫌な思いをさせてしまうと、異常に自分を攻める、これは陰キャの特長らしい。
まんま俺に当てはまる。
でも気にしすぎなんだろうな、謝ればいい話しだし、むしろへこんで、鈴村に気を使わせてしまった。
「お、おう、ありがとう」
「なっはっは!気にしない気にしない!友達なんですから!」
「そうだな、じゃあ脳筋でいいか」
「ええ!?」
「わ、悪い、冗談」
なんでだろう、渚やばんちゃんと話してるとブラックジョークの1つや2つ、当たり前なのにな。慣れてないやつと話すとさじ加減が難しい。
それでも鈴村は百面相みたいに、表情を変えて笑う。
「あはは!ねえ」
鈴村は自転車をのんびり漕ぎながら、こちらを向いた。
視線が合う。友達宣言されたからだろうか?少しは大丈夫だ。
「なんだ?」
鈴村は少しの間黙って自転車を漕いだ。
車も電車も通っていない線路沿いに響くのは、自転車と風をきる音だけ。夕日が照す鈴村の横顔は、作り物のように綺麗だ。
「──りょうくんって呼んでもいいですか?渚も名前でよんでるし!」
「え?ああ、別にいいけど」
あだ名?少し溜めたと思ったらこんなことか?
鈴村なら了解なんて得ずに呼んできそうだけど。
「おお!じゃありょうくん!」
ニコニコと俺を見つめてくる鈴村は、何かを求めているような顔だ。
ワクワクしてるって感じ。
──なんだ?
「はあ、りょうくんは女心がわかってませんね」
「な、なんだよ急に鈴村」
「アタシはあだ名でりょうくんを呼ぶのに、りょうくんは鈴村のままなんですか?」
いやまて、落ち着けよ俺。
なんでこんなに距離をつめてくるんだ?あだ名で呼ばれるだけでも驚いたのに、今度は名前で呼べってことか?それともあだ名?
どっちにしろ難易度高いぞ。
「……えっと、じゃあ凛」
「おお!皆は気安くリンリンって呼ぶんだけど?」
「渚も凛じゃん」
「渚のこと、よくみてるね?ラブなんですか?」
「お前はなんでそっちに繋げたがるんだよ」
「あー!女の子に"お前"は禁句ですよ?」
「……わかったよ、凛」
凛のやつは、やたらと渚との関係を探ってくるな、そんなに俺達は怪しく見えるのか?
そういや御劔も渚の話しを俺にしてきたしな。
まだJILLが渚ってわかってから3日だぞ?こいつらどんだけ人を見てるんだよ。
それとも惚れた腫れたってのは、この年頃の連中は皆、敏感なのかもしれない。俺がとくべつ鈍感なのだ、それなら納得いくな。
「わかればよろしい!時にりょうくん」
「ん?」
「また、1on1やりたくない?」
「……別に」
実に目立つ行いだった、あれはよくない。
やはりバスケが絡むと、感情が前面にでしゃばる。
「ええー!すげない、つれない、そっけない!」
「あはは、なんだよ、その3段活用」
媚びない引かない省みないのやつみたいだな。
脳筋かまって鈴村バージョンと命名しよう。
「お願い!」
「また、練習の時な、やるんだろ?」
ここまでお願いされると、俺も断りきれない。
一応、友達になったらしいしな。
「もちろん!出来る日は毎日やるよ!」
このクラスの住人達は、イベントに乗り気なやつが多い。凛はもちろんのこと、御劔と島崎もだ。
ヤンキーグループを仕切る御劔と、ギャルグループを仕切る島崎が
やる気だと、ほとんどのやつがやる気になる、やる気ださなきゃハブられそうで怖いもんな。
でも例外もいる、阿久津瑠色と工藤実乃莉だ、阿久津はやりたくない事は、ハッキリやらないと言うタイプだし、工藤はめんどくさがってバックレる。
いいコンビだ。
「やる気あるな」
「もちろん!バスケで負けるわけにはいかないからね!」
「さすがバスケ部」
「うん!りょうくんはもう、バスケはやらないの?」
その質問はいつか来ると思ってた。
今はフォートファイトがある、バスケはだんだんと趣味に変わってきた。
「ああ、俺はもういいんだ、妹が頑張ってるしな」
「そっか、残念。もしかしてことちゃんにバスケ教えてる?」
「教えてるっていうか、よく一緒にやってるな」
「やっぱり!バックファイヤー、ことちゃんにもやられたんですよ!」
「俺がよくやるからな、それで琴葉も覚えたんだよ」
確かに最初の頃はよく教えてたかもな、琴葉もセンスあるやつだから、自分でどんどん上手くなっていった。
「ことちゃんが上手すぎて、すでにキャプテンの座が危ういんです!お兄さん!」
「あはは、でも琴葉が褒めてたぞ?バスケ部に凄いのがいるって、自分じゃまだ勝てないかもって、凛のこと」
凛は褒められると、だらしない笑みを浮かべた。
わかりやすやつだな。
「そ、そうかな~、全国いった琴葉ちゃんに言われるなんて光栄だな~」
「あいつが褒めるなんて、めったにないからな、俺もやってみて上手いと思ったし」
そういうと、だらしない笑みを浮かべていた凛が、ジト目で俺を責めてくる。
「ストレートでアタシに勝ったクセに」
「いや、一本とられたじゃん」
「オフェンス入ってからはストレートでした!」
「まあ俺も全国レベルだからな、これでも」
「え?全国?」
「まあ色々やらかして全国には、出れてないんだけどな」
俺が自嘲気味に呟くと、凛は息を飲んだ。
「……そ、そっか、大変だったんだね」
「ん?ああ、まあな、俺が悪かったんだけどさ、はは」
「……そうですか───あっ!アタシこっち!また明日!」
「ああ、じゃあな」
凛は焦るように離れていった、もしかして話しに夢中になって、こっちの道に来すぎたのかも。
それともまた配慮させてしまったかな?わからない。
ただ、ちゃんと話せたし、しかも友達になれたっぽい。
これは大きな進歩だろう、渚にも報告しよう。
ハタハタなびくポニーテールを眺めながら、クラスで一番苦手な女子と友達になれたことを、喜ぶことにした。
*
モニターに映っているのはフォートファイトのプレイ画面。
アジアを取ったパーティーが、対戦相手を蹂躙していく。
日課のようにやっているフォートファイトは、仕事でもあり、練習でもあり、仲間との会話の場でもある。
「ってことがあってさ、頑張っただろ?」
俺は数時間前の出来事、凛が友達になった経緯を渚に話していた。
「凛は元から良介にかまってたじゃない、その流れは言わずもがなね」
ヘッドフォンから出る渚の冷めた声に、俺は内心ガックリする。
「凛のこと苦手だったのに?」
「そんなのわかってるわよ、でも凛はなんでこんな、きもロン毛に構うのかしら」
真顔のままコテンと頭を傾けて、平気で人の心を抉る言葉を吐いているのが、目に浮かぶ。
「おい、真実でも言っていいことと、悪いことがあるぞ」
「……まさかタイプ?──ありえない」
「聞いてないな、おい」
色恋沙汰に持ち込むのは、鈴村だけじゃないらしい。やはり、俺が少数であっていたのだ。
これからは直ぐにそっち方面に持っていこう。
陽キャと渡り合う術を、1つ得てしまった。
「つか、今日のあれはどういうことだよ、人数倍くらい増えてたじゃねーか」
「しょうがないでしょ、凛がホームルームで募集しちゃうんだもの、凛の動きは予測がつかないのよね」
それであのメンバーが集まるってのが、凛のカーストの高さってことなのだろう。
俺が誘ったら……考えるのはよしておこう。
「野生動物かよ」
「似たようなもんね、犬かしら」
「わかる」
「「わはははは!!」」
別に悪口じゃない、人のいざこざへの嗅覚も鋭いし、性格は温厚で明るい。なんか犬っぽいよな。
「良介と凛の話しができるなんてね、もっと先の話しだと思ってた」
「お、やっと褒める気になったか」
「あーやっぱ今のなし、直ぐに調子にのるじゃない」
「はは、でもマジで今日は頑張ったぞ、俺」
「そうね、凛とやったバスケの試合、あれは良かったわよ?」
なんだ、ホントにあの渚が褒めてくれるのか?
褒めて落とされそうで怖いな。
「お、おうサンキュー」
「あそこまで上手いとは思ってなかったわ」
「おう」
「──ただね」
はい来ました!
こっから怒涛のお説教だ!
「油断は禁物よ。良介は今、クラス内での評価が一番変化しやすい立場になったわ」
「え、なにそれ怖い」
お説教のほうがまだいいじゃん、言ってる意味わからないし。
下手したらイジメコースまっしぐらってこと?
「クラスで発言力が強い連中に、バスケが上手いって自分で知らしめたんじゃない、それも男子よりも上手い凛を完封してね」
「マジか」
確かに月島は鈴村にストレートで負けて、俺はその凛を殆ど完封した。
「いい?いくら根暗でも、突き抜けて凄い所があれば目立つし、人は好意的になる。だから今、春人や杏梨グループは、良介に少しだけ寛容になってるわ」
「……そうなのか」
よくわからないけど、こいつスゲーぞ!ウエーイ!ってことか。
そんな単純でいいのか、いや、リア充ってのは、そんなもんな気がする。
「そうなの、だからその辺りのメンバーが、物珍しさにつられて良介に絡んでくるわよ」
有り体にいえば新しいオモチャだ、せいぜい道化を演じろよと。
今さらプライドもクソもないけど、難しいと思うね。
馴れないやつと話すと、どもっちゃうんですよ。
「うわ、胃が痛い」
「何かあれば私がホローするから、好きにやりなさい」
「マジでJILL様、神様、渚様だな。なんでそんな男前なのに性格悪いの?」
「別に振るだけ振って、放置でもいいのよ?」
無茶振りってことですかね、勘弁してください。
つかやっぱりなんかしら振ってくるつもりでは、あるんだな。今回の練習も渚の発信だし。
「すみません、冗談です」
「わかればいいのよ、ウヒヒ」
渚はひとしきり笑うと、真剣な声音で話しだす。
「だからね、皆の感心があなたに向いてる時に、いい印象を残すのか、それとも悪い印象のままで甘んじるのかで、今後の学校生活が変わるわよ」
俺が口を開く前に、渚が息を吸った。
顔が見えないと話すタイミングがわからないんだよな、ベッドセットは。
ほとんどの人の顔が見れない俺が、なにいってんだって話しだが。
「前に言ってたわよね、陽キャ、リア充、カースト上位じゃなくてもいいって」
「ああ」
「それなら尚更、ここで上手くやらないとね?一芸に秀でて、話がまともにできれば、陽キャやリア充じゃなくても、変だけど面白いとか、変だけど凄いやつって認められるわよ」
「変なのは前提なんだな……」
「嫌なら髪を切って、喋り方をどうにかしないとね?」
「……ですよね」
オマケに目を見れるようにしないと、挙動不審すぎるんだよな。
むしろこれが一番の問題なんだが。
ここで黙っていた男が痺れを切らした。
「あの、俺も喋っていい?そっちの話しついてけなくて、スゲー疎外感あるんだけど……」
「黙ってなさい」
「あ、そうですよね、……高校って入り直せないかな」
「ばんちゃん……」
頼れる兄貴分のばんちゃんには、また相談に乗ってもらいたい。
渚にいつも封殺されていても、なんだかんだ頼れる男なのだ。




