練習2
まさか俺の索敵を潜り抜けてくるとはな、アジア1位だぞこれでも。
体勢を整えた俺は、改めて隣の男に圧倒される。
男の俺から見てもカッコいいと思う整った容姿、それにいつも浮かべている笑顔。間違いなく、クラス内のリーダー、No.1カーストの御劔智也だ。
カッコよすぎて無条件でムカつくね。
島崎も渚が可愛いすぎて、ムカついてるのかもしれない可能性が浮上してきた。
「あ、どうゆうこと?」
「ん?渚が何を考えてるのかってことだろ?」
ん?ああ、そっちか。
確かに男をたらしまくって、フッてるんだからな、意味わからんな。
本人曰くコンプリート目指すらしいけど、冗談だろ。
「あ、そうだな、誰とも付き合わないのも変だよな」
とりあえずクラスボスだ、話を合わせておこう。
長いものには巻かれましょう、はっはっは。
イケメンは考え込むように、手を顎に当てる。
悩ましげな表情は、その辺の女子がキャーキャーいいそうだ。
こいつが校内歩いてると分かるんだよな、女子の黄色い声で。
「相応しい男がいないのかもな……」
その悩みは自分も分かるってか?
"相応しい女がいない"とか思ってんのかこいつ、傲慢なことで。
渚と気が合いそうだな……
「えっと……つ、つまり?」
なんだろう、ただの質問なのに格上に要求するってのは緊張する。
「黒原不動産の社長令嬢で見目麗しき少女、勉強は全国トップクラスで、生徒会でリーダーシップもとれる。いないだろ?見合う相手が」
そう言われれば確かに半端ないやつだな、ゲームはアジア1位で世界トップクラスだしな。
いい意味でも悪い意味でも、規格外クラスと謳われるこいつらですら、役者が足りてないかもしれない。
「そ、そうだな」
「せめて全国トップクラスの実力が必要だ」
「ん?あ、ああ」
御劔は自分で自分の答えを反芻するように、頷いている。
なんだこいつ、大丈夫か?
「渚、もうへいきっしょ」
おっと目を離してる隙に進展があったらしい。
ついに島崎が渚に凸っている。
うおー!こえー!楽しんでないからな、俺は怖がってるんだ。
「え?あ、うん……」
「おい、無理すんなよ?」
「チッ、ほら、へいきっしょ」
島崎は渚の腕を持って、矢神から引き剥がすようにして、自分で立たせた。
実力行使だな。
だがそれを見ていた矢神が、たまらず声をあげた。
「なにお前イラついてんだよ」
「は?べつにイラついてないけど?」
「ハッ、いや、イラついてね?」
うわ、見てるだけでゲロ吐きそう……
クラスのヤンキーとギャルの口喧嘩、でも俺からしたら怪獣大戦争だ、ゴジ◯VSキングコン◯だね。
渚は一瞬、あちゃーとでも言いたげな顔をしたが、直ぐに納めた。
ある方向を見て。
「おっとと、お2人さん、元気ですなぁ!さあ、アタシと1on1だ!」
なっはっは!と笑う鈴村がドリブルで現れる。
……ええ、こいつ空気とか読めないの?怪獣だよ?怪獣語しゃべれんの?
「なに?凛、邪魔すんなよ」
ジロッと鈴村を睨む島崎、頭に血がのぼってらっしゃるようだ。
鈴村はたじろぐも、笑顔は崩さない。
むしろ空気よんで取り持ちに来たのか、いいやつだな……
「はぁ、鈴村か……おいライト、鈴村が1on1やりたいってよ」
意外にも大人な対応だな、矢神は島崎から離れて行くと、月島を召喚することにしたらしい。
ヒステリー起こしてるやつはめんどいもんな。
てっきり罵詈雑言の罵りあいが巻き起こるかと思った。
「なんだよリンリン!オレと1on1したいって!?オレはいつだってバイブス満タン、バチバチだせ!」
腕を組んで横向きにポーズをとる月島が現れると、鈴村もこれ幸いと誘いに乗っかった。
「なっはっは!ツッキーよ!アタシにバスケで勝負を挑むとは笑止千万!スパグパッと抜いてズババイとシュートだ!」
なんだこいつら、これでコミュニケーションとれてんの?
怪獣語?
「……わからん」
俺はボソッと呟いて、辺りを警戒する。
……ふむ、今回は妙に顔の整った男は出てこないらしい。
良かったよ、呟いた後にデジャブ感じたもんね。
「何がわからないの?」
とか考えていたら、渚が現れた。
俺のクリアリングってもしかしてザル?練習しよ。
「いや、陽キャと陰キャにはそもそも言葉の壁があるんじゃないかと思ってな」
「はあ?なにいっ──川上くんって面白いわね、なんか他の人とは違うって感じがする」
なにその意味わかんないこと言ってるやつにはコレ!みたいな常套句。しかも私、あなたに興味ありますみたいなニュアンスつきだし、こいつホント上手いな。
「誰も近くにいないぞ……お前2重人格じゃねーだろーな」
「……見てるかもしれないでしょ、ちょっと杏梨が面倒だからそっちで練習しましょ」
「へいへい」
面倒にしたのはお前だけどな。
こっちのゴールには、天塚さんと風見カップルがいるだけだ。
……手始めに実験をしてみるか。
俺は渚にパスを出した、もちろん優しく1バウンドパスでだ。
結果、普通にキャッチミスをした。
「……なによ?」
1つの実験で2つの事実が判明した。
1、やっぱ避けないカマトト女。
2、絶望的運動センス。
「いや、こりゃ大変だと思ってな」
「うっさいわね、自信はあるわよ?」
「まあ、天塚さんもシュートは打てるようになったし、なんとかなるかな?」
「……ホントね、なんとかしなさい」
今はパス練習せずにシュートをしてる天塚さんをみて、渚は頷いた。
「あ、はい頑張ります」
なんで俺が頑張るの?頑張るのは渚だよね。
ということで渚にもう一度シュートを見せて、マネさせてみる。
「……入らないわよ?」
「睨んでくんな、なんで俺のせいみたいになってるの?」
「私に問題があるわけないわ、ということは貴方の教え方に、問題があるってことでしょ?」
「お前のその自信が羨ましいよ」
「誉めても何もでないわよ」
「誉めてない」
動きが全体的にカクカクしていて、ロボットみたいだ、滑らかさが
欠如している。
ゲームしてるのを見てる限りじゃ、そんな動きしてないんだけどな。
「うーん、センスないな」
「……なんとかしなさい」
渚はムスっとして答える。
どんな奴にも得手不得手はある、それをわかっていただきたいね。
「俺も勉強はそこまで得意じゃない」
「なに、勉強みてほしいの?いいわよ」
「いや、そうじゃなくて、俺は勉強にセンスがない、だからそんなに努力しようと思ったことがないんだ。得意なものを伸ばしたほうが効率いいと思うし、楽しいからな」
「私の辞書に諦めるって言葉が載ってないだけよ、ムカつくじゃない、センスの一言で片付けられるのは」
「それはすまん」
気にしてたのか、俺は色々と諦めなれてるからな、配慮が足りてなかったかもしれん。
「でも、わかるだろ?最後はセンスも必要だって」
「別にバスケでてっぺん目指すわけじゃないわよ、ただ運動も一通り上手くなりたいの」
「渚が練習するならいくらでも付き合うけどさ、そんなに完璧でありたいものなのか?」
「私に甘えは許されない、それがワガママの代償だから」
どこか遠くを眺める目付きだった。
そしてそれに対する質問は受け付けていない、そんな強い意志も同時に与える、強い視線。
よくわからないが、俺はただ頷くしかなかった。
数少ない友人の相談に乗れないことを、もどかしく思いながら。
「わかった、じゃあまずはシュートフォームからだな」
「……頼んだわよ?」
「まかせろ、球技大会までに人並みにはもってく」
「ええ」
せめて自信を持って教えよう。
俺の心境に気づいたのか、渚が不敵に笑った。
バスケは究極、シュートさえ上手ければ他はどうだっていい。
シュートが入らなければ負けるけど、入れば勝てるからな。
力もセンスもない渚はシュート練習さえさせておけばいい。なんならずっとゴールの近くにいて、パスをもらってシュートを打つだけでいいのだ。
ドリブルもパスも、センスのあるやつにまかせればいい。
「ちょっとまだ動きが固いな」
「どこが?」
「打つ瞬間だな……こうっ!」
俺はもう一度シュートフォームを見せる。
「シュートしたら手のひらを反対に向けるように」
「わかったわ……えい!」
「お、ナイシュー!今の感じ良かったぞ!」
「そう!?」
「ああ、忘れないうちにもっと打っとけよ」
俺と渚が練習に夢中になっていると、背中に視線を感じた。
……鈴村だ、そして近い。
「やはり仲がいいですね、怪しい……」
やっぱり勘がいいというか、人をよく見てるやつだ。
だから矢神と島崎のバトルにも、直ぐに駆けつけたんだろうな。
「……いや、怪しくないだろ、普通に教えてるだけだし」
「そうかな……渚の様子がいつもと違うような気がするし、川上くんもなんか自然体だと思うけど」
マジか、思ってるより見てるな、気をつけないと。
「そ、そうでもないぞ?」
「んーやっぱり!渚と話す時は顔を見て話すけど、アタシの時は胸を見てる!──きゃっ」
腕で胸を隠すように抱いて横をむく。
可愛いけどえらいムカつく、そして人聞きが悪い。
「真剣に話してると思ったら、すぐおどけるな……」
「苦手でして、真剣な話し!」
「まあいいけど、でも胸を見てるわけじゃないからな、首もととか顎先を見てるだけだから」
「……え?な、なんというか変な性癖ですね?」
鈴村は顎と首を隠す、月島がやってたポーズみたいになってるな。
目を見ないように、しただけなのに。
「隠すな、性癖じゃない」
「ホント?アタシ可愛いから、どこでも興奮されてしまうのかと……」
「……お前も渚と一緒で、自信家タイプだな」
「渚と一緒にして貰えるなんて嬉しいな、アタシは自信も度胸もないし、それに卑怯だから」
急になんだ?真剣な話しは苦手とかいいながら、意味ありげな内容だけど。
「……」
「……あはは!ごめんごめん、川上くんがこんなに会話してくれると思わなくて、余計な話ししちゃいましたよ!罪な男だね!」
「矢神と島崎のバトルを仲介できるやつは、そういないと思うぞ、少なくとも度胸はあるな」
俺の言葉に、目を大きく開いた鈴村はありがとうと言って苦笑いした。
俺も結構人を見てるんだ、仲立ちしたのはわかっている。
脳筋には脳筋の悩みがあるのかもしれない。
「月島には勝ったのか?」
「そりゃもう!ズババイと連続5本とって勝ちましたよ!」
反対サイドを見ると、御劔、矢神、月島、島崎が一緒になって練習していた。
島崎の目付きが心なしか、穏やかだ。好きな?相手と喧嘩はしたくないだろうしな。
とにかく鈴村は上手くやって、こっちに来たのだ。渚が矢神から離れたのが一番効果的だったんだろうけど。
「そうか」
「うん!じゃあアタシと勝負だ!」
「いや、俺は渚に教えないと」
「自分でやってるようですよ」
鈴村が指さしたさきでは、渚がフォームを確認していた。
最初よりはいい感じだな、うん。
球技大会は来週だし、なんとかなるだろ。
「はあ、じゃあ1戦だけだぞ?」
俺に挑んだことを後悔させてやろう。
「なっはっは!やっとその気になったか、川上くん!」
「ルールは?」
「5ポイント先取、ゴール決めたら攻撃継続!」
「了解」
渚もカップルも丁度ゴールを使ってないし、ちょっとなら大丈夫だろ。
「そっちからでいいぞ」
「ほほう、川上くん、余裕ですな。そのアタシをナメた顔、苦悶に歪めてしんぜよう!」
「……なんのキャラだよ」
こいつ話し方へんだよな、面白いからいいけどさ。
俺が鈴村にボールをパスしたら開始の合図だ。
琴葉以外とやるのは久しぶりだな、鈍ってないといいけど。
軽くパスする。
鈴村はボールを持った瞬間に、ダッシュで俺の脇を抜けていく。
さっきやってたズパなんちゃらだ。
反応が遅れた、やっぱ視線を合わせられないのはキツいな。
俺が抜かれたと思った時には、視野の脇で鈴村のポニーテールが揺れていた。
完璧にやられたな。
「そんなもんかね川上くん!なっはっは!」
胸を張って仰け反る鈴村は、これでもかというほどドヤ顔だ。
煽り性能が甚だしく高い。
目にもの見せてやるわ!
「はは、ちょっと油断してた」
俺は鈴村から受け取ったボールを鈴村に返す。
2回戦開始だ。
鈴村はさっきと同じように、俺の脇を抜けていく。
やっぱり早い、抜かすつもりはなかったんだけどな……
たださっきと違うのは、対策が頭に入っているということだ。
俺は抜かれた瞬間に後ろに回り込んで、ドリブルしてる鈴村からボールを掠めとる。
バスケは、ディフェンスがオフェンス選手に後ろから触れると、即刻ファールになる。
だからこの技は諸刃の剣だ。
バックファイヤーという。鈴村もやられるとは思わなかったのか、かなり驚いている。
しかも弾くだけじゃなくて、ちゃんと奪ってるからな。
「や、やりますね川上くん」
「まーな」
今度は鈴村からのパスで開始の合図だ、俺のオフェンスタイム。
もう鈴村にオフェンスを譲るつもりはないけどな、体力キツいし。
バスケは圧倒的にオフェンスが有利なスポーツだ、だから1試合で100点とか入る。
つまり、今のオフェンスで5本取れなかったのが鈴村の敗因だな。
鈴村を抜いてレイアップ。
「まずは1本」
「まだまだこれから!」
ここからは一方的だった、俺のほうが10cmくらい身長も高いし、身体能力も強い。
負ける要素がない。
「ぐわーーー!!!まけたーー!!」
四つん這いになってコートに伏せる鈴村。
はっはっは、なんと気持ちのいいことか、学校のカースト上位者を下すというのは!
「G.G」
俺の言葉に、鈴村はガバッと頭を上げる。
「なんですか、G.Gとは」
「Good Game、いい試合いだった」
フォートファイト用語だったな、ゲームやらないやつにいっても通用しないか。
「ぐわーー!煽られてるっ!マンモス悔しいっ!!もう一度!」
「1戦だっていったろ」
マンモスが肩を揺さぶってくる、しかも顔を覗いてくるし。
俺が一生懸命、視線を逃れていると、回りが囲まれていることに気がついた。
「見た!?だからいったでしょ杏梨!」
「はいはい、上手かった上手かった」
「おー鈴村がストレートでか、スゲーな」
天塚カップルと島崎だ。
「オレがストレートで負けたリンリンがストレート負け!?スゲーバイブスだな!」
「はは、凄いね、僕も練習しないと」
「貞男のやつやるじゃねーか、やっぱ春人のいう通り、あいつに全試合決定だな」
御劔グループだ、この3人はよく一緒にいる。
そして渚と目が合うと、親指を立てて勝利を祝福してくれた。
ただ俺はこの人数、しかもカースト上位者だらけの視線にさらされて、足元がおぼつかない。
「もう1戦だけ!」
「おっとと」
俺はバランスを崩して尻餅をついた。
逆に良かった、へんな感じにならずに座れて、こりゃしばらく立てないな。
「久しぶりで体力の限界だ、また今度な」
「そんな~」
鈴村も座り込むと、唇を尖らせて拗ねている。
やっぱり人とやるバスケは楽しいな。




