#78とりあえず帰ろう。
「そういえばさっきお前が治療した小さな狼はどうなったの?」
「無事に治療は成功したよ」
「そうか、それは良かった。それでその狼は?」
「ここに寝かせてあるよ」
僕は木の後ろの草むらに寝かせている狼を見せる。
「ホントだ…気持ちよさそうに寝てるな」
「うん」
リックンが狼を触ろうと右手を伸ばす。僕は慌ててリックンの手を押さえる。
「ココ、なにするんだよ。触ったっていいだろ?」
「ちょっと待って、狼の周りに結界を張ってるから解いてからじゃないと触れないよ」
「そうか。ちなみにその結界の効力は?」
「攻撃を反射するのと触れたものを麻痺状態にする」
「危な!」
だってそれぐらいしないと、狼を守れないじゃん。
僕は狼の周りに張った結界を解いて、寝ている狼を抱き抱える。
リックンは僕が抱っこしている狼の頭を優しく撫でる。
しかし今、この狼には凄い問題がある。それをリックンには相談せねばならない。
「リックン」
「なに?」
「この小さな狼。まだ子供だと思うんだけど、お母さんが見つからなかったんだよ…」
「もしかしてさっきのネズミ使いに狩られたのかな…」
リックンが周囲を見渡しながら言う。
あそこまでやって、やり過ぎたって思ってたけど、やっぱあそこまでやって良かった。
「とりあえずどうしたらいいかな?」
僕は薄い布団をポシェットから取り出し、寝ている狼を優しく包んであげる。
「と…り…あ…え…ず…」
「とりあえず?」
「と〜り〜あ〜え〜ず〜」
「とりあえず?」
「と、り、あ、え、ず、帰りましょう」
「お、おおそれでどうする?」
「とりまあ」
「とりま?」
「ココがその狼の飼い主になったらいいんじゃない!」
「え?」
狼の飼い主になるって狼を僕のペットにするってこと?いやいや、犬とレベルが違良すぎるよ。
「無理じゃない?」
「そうか?いや、狼ってイヌ科だからペットにしても問題ないと思うが…」
「確かにイヌ科だけど絶対に食べられるって」
「そんなことないだろ。育ててくれた親を食べる親不孝な息子がどこにいる?」
「いや、それは人間の話であって、自然界だと生まれた生き物が親を食べる生物がいるよ。それと同じというか、一緒に暮らしてて夜とか寝てる間に食べられる気がする」
「大丈夫だろ。命の恩人に恩を仇で返すことなんて多分しないさ」
「多分って…食われてからじゃ遅いよ」
けどこの狼は魔獣ではないから多分こっちが悪いことさえしなければ敵対はされたいと思う。
「じゃあミケさんに相談してみたらどうだ?」
「ミケさんに?」
「ああ、あの人よく街にいる猫とかに餌あげてるし、子供たちの面倒見も良いから、相談相手には持って来いだと思う」
「なるほど。けどミケさん、よく忙しそうにしてるから邪魔になっちゃうと思うよ」
だってミケさん、いつも誰かに指示していて大変そう。ミケさんの休んでいるところ見たことないなぁ…急に体調を崩さないといいけど。
「大丈夫だ、安心しなさい」
リックンは一体どこから目線で物を言っている。
「今日、晩御飯を一緒に食べようと小学校の先生から誘われている」
「え、小学校の先生?僕たちの学校の先生でゲーム好きな先生に誘われたの?」
「ココ、僕たちの学校じゃない。猫の世界の方な。猫の世界の学校で今夜バーベキューをやるんだって。その時にミケさんも来るらしい。だからその時に相談すればいいと思う」
「おお、さすがリックン」
「僕を誰と心得る、街の女性プレイヤーからよく護衛を頼まれる腕利き暗殺者だぞ」
「リックンにそんな出来事が起こるんだ…というかリックン、暗殺者って殺人を請け負うことで金銭的利益を得る人のことだよ。護衛任務って暗殺者の仕事じゃなくない?」
「気にするな。今時の暗殺者は護衛任務から殺人、そして話相手から夜の営みまで対応できるのが通らしい」
「それはどこの情報?」
「君のお姉さんの雪さんの書いた小説の主人公を暗殺しようとした女性暗殺者が言った台詞」
「年齢制限は?」
「君のお姉さんの小説で15禁以下の小説がありましたか?」
ない。雪姉さんの書いた小説は全て最低でも15禁の部類に入ってしまう小説。
僕は過去に雪姉さんに…
「15歳以下向けの小説は書かないの?」
と聞いたことがある。すると僕に雪姉さんは笑顔で答えた。
「わざとじゃないの。私の書いた小説のエッチなシーンが少し生々しいと判断されただけなの。もしかしてココは9歳なのにもう15歳以上のことに興味があるの?雪お姉ちゃんが実際にしてあげようか?」
なんて対応された。実際にされたらドン引きしてしまう。
というか今でもドン引きとまでは行かずとも多少引いている。だって雪姉さんの侵食心は恐怖と言っても過言ではない。僕が学校から帰ってお風呂に入っていると、必ず入ってこようとする。家に誰もいないと確信した上で入っても必ず…
「たっだいまぁ!ココ、今お風呂はいってるんだ。お姉ちゃんも入るね!」
と言って浴場に入って来ようとする。
恐怖でしかない。だから僕がお風呂に入る時は絶対に内側から南京錠をかけて外側からでは誰も入れないようにしている…ってそんなことは今はどうでもいい。
もしかしてリックンは買ってしまったのか?そんな領域を知りたいという私利私欲のために買ってしまったのか!
「買ったらダメだよ!」
「大丈夫買ってない」
「じゃあなんで読んだことがあるの?」
「雪お姉さんに借りた。だからセーフ!」
「借りて読んでもダメでしょ。15禁や18禁は対象外の年齢の閲覧や鑑賞を禁止しているんだよ」
「え、そうなんだ。買わなくても見ちゃダメなのか…」
「うん」
「わかった」
うん、納得してくれて良かった。
「けどそんなことに詳しいってことはココもそんなエッチな小説などにご興味が?」
「そ、そんなことないし!というかコレ一般常識。リックンが勉強しなさ過ぎなだけ!」
「そうか?ココが焦ってるってことは図星?」
「違うし!」
僕はそんなことに…そんなことに…
「まったくもって興味ないし!」
次回予告
僕たちが猫の世界に帰る頃には、もう夕方になってしまった。
国は気づかないうちにかなり施設が増えていた。
病院や鍛冶屋も出来てたし、銀行も外見だけ出来ていた。あとは通貨の製作が完了して申請を出せばこの国オリジナルのお金が作れる。




