#62称号
「ココ…なんで火炎魔術を使ったんだよ」
僕たちの前に生えていた緑色の木が一瞬で灰と化した。
「リ、リザードマンの防具が硬かったから…」
「いやいや、水魔術とか風魔術とか使えるじゃん」
「水とか風じゃ火力不足だと思って…」
「森林破壊大反対」
リックンが冷たそうな目で僕を見る。
そ、そんな目で見られても困る。
「しょうがなかったんだよ…」
「けどこれはないだろ。絶対に悪評だろ…称号に何か悪者系のが追加されてたり…」
「そんなことないと思う…」
「どうだろね…」
なんかそう言われると心配になるじゃん。
僕は一応、うん。絶対にないだろうけど、一応確認してみた。
すると…僕の称号欄に2つの称号が追加されている。
「あった?」
「あった…称号名、森の破壊者」
「まぁ、そりゃあこれだけ木燃やしたら…なぁ」
「あと灰塵の魔術師」
「かいじんの魔術師?かいじんってあの怪しい人と書いて怪人のあれか?」
「いや、灰と塵で灰塵。意味は跡形もなく細かく砕けること、また、取るに足りないものの、たとえだったと思う」
「流石の博学!けどなんで灰塵の魔術師なんだ?跡形もなく細かく砕けることが灰塵の意味なんだろ。あれは形残ってるけど?」
リックンは灰色の木を指差して言う。
「多分、そばにあった木が跡形もなく燃えちゃったからじゃない?」
「…………ココ、いつからそんな破壊衝動に目覚めたか?怖!小さくて可愛いココに恐怖を覚えるよ」
「目覚めてないよ。普通に上位火炎魔術を使ったらこうなった」
「それが原因だろ」
「それって?」
「森の中なんだから火力抑えろよ。そんなリザードマンを倒すのに上級魔術なんて使わなくていいだろ。中級…いや、初級で十分だろ」
「いや、リザードマンの鉄防具の防御力を考慮した上で上級火炎魔術が良いと判断したんだけど…」
「いやいやいや、ココ。初級から中級、中級から上級に上がるにつれて高威力になったり範囲が広くなったりするだろ」
「けどリーザードマン強かった…」
「……まぁ、今度から火力抑えろよ」
「うん」
今度から気をつけないと…
「それでその2つの称号はどんな影響を与えるんだ?」
リックンが僕に質問してくる。
称号には、それぞれ身体能力やスキルの効果に変化を与えることがある。
僕の持っている称号にクマの魔術師という称号がある。
この称号の取得条件は自分がクマの獣人であること。戦闘において魔術を主に使っていると取得できる。
クマの獣人は自分の魔力量と防御力を少し上昇させてくれるらしい。けど実際、あまり実感がわかないからわからないのが現実である。
「なんだろう…」
「あきらかに森の破壊者は木魔術にバットステータスを与えてくるだろ。けどもう1つの灰塵の魔術師はなんか強そうだな」
「うん」
僕は森の破壊者の解説欄を開く。
「森の破壊者、森でむやみに木を傷つけたものに与えられる称号。木系統のスキルの効力を元の二分の一に。伐採系スキルの効力が少し上昇だって」
「うーん…森を傷つけておいてスキルの効力が上昇するとは…」
「けど木系統の魔術の効力が二分の一っていうのが辛いと思う」
「微妙だな」
「だね」
うん、微妙過ぎて感想に困る。
だが、もう1つの称号、灰塵の魔術師は感想に困ることはないはず。絶対何らかの破壊的効果があるはず!
「じゃあ灰塵の魔術師を…見るよ」
「あ、ああ…」
「灰塵の魔術師、火系統の魔術で広範囲を火で燃やし、建物や木などを灰にしたものに与えられる」
「与えられる条件が怖…」
「火系統の魔術の効果が全体的に5倍」
「ご、5倍!」
「火炎耐性を付与」
「強!」
「火系統のスキルと相性が良くなる」
「…………なるほど、ココの火系統の魔術が化け物になっていくのか…」
化け物になっていくのか…って言われても困る。だって欲しくてやったんじゃないのに…
「化け物になるつもりはないんだけど…」
「それでこれからどうする?森は焼けちゃったからリザードマン探し直しだよ。それにこうも灰の世界にしちゃったら僕のシャドーウォークの練習ができないよ…」
僕たちの目の前では地面には灰がつもり空気中では塵が宙を舞っている。
確かにリックンの言っている通り、木がなくなって日陰になるものがない。いや…色彩を無くしてしまった平原自体が陰の世界のように黒と白とネズミ色をしている。
「ごめん、悪気はなかった」
「まぁ、もうそろ12時だから昼にするか?」
気づけばゲーム内時間が11時55分になっていた。そういえばお腹空いた。必死になって森の中を駆け巡っていたからおなかすいたことにきづかなかったな…
「うん。それでどこでお昼を食べる?」
「それについては僕に良い案があるからついて来て」
「うん」
僕たちは灰色の世界に背を向け、帰路につくことにした。
灰塵の魔術師か…なんか凄い称号が追加されちゃったな。これが犯罪系の称号じゃなくて良かったけど、なんかいかにもチートな称号だ。
こんなチートな称号、下手したらゲームバランスの崩壊を招きかねない。これはお父さんに知らせておく必要がある気がする。いくらなんでも5倍って…
いや、ありなのかも。もしかして灰塵の魔術師的な感じで水系統や木系統でもこういう称号があって、その称号同士で対抗するのかな。
「リックンはどう思う?」
「なにが?」
「灰塵の魔術師が火系統の魔術の称号だとしたら、他にもチートな称号がある気がするんだけど…」
「ああ、それは僕も考えてた」
やっぱり…
「僕は称号の説明文の火系統のっていう部分に引っかかった。火系統以外にも何かありそうだな」
「うん」
「水系統の魔術はどんなのだと思う?」
「うーん…思いつかない」
「嵐の魔術師的なのはどうだ?」
嵐…灰塵とは、また違う感じだ。けど嵐の魔術師っていうと海にいるイメージがある。だからなんかピンとこない。
「違う気がする」
「そうか…」
「うん」
「まぁ、いずれ攻略サイトに公開されるだろ」
「だね」
そういえば僕、全く攻略サイト見てないな…
ペルさんとかミケさんは攻略サイトとか見てるのかな?
「ココ、顔が赤いぞ」
「え?」
「今、ペルさんのこと想像しただろ」
「し、してないよ」
「怪しい…しを噛んだ時点で怪しいなぁ…」
「そ、そんなことないよ」
「ほら、また噛んだよ。ペルさんのあの大きな胸とか想像してたんだろ」
ペルさんの胸…や、柔らかかった…な、僕はなんて邪なことを想像してるんだよ!
ココ、しっかりしろ!
そ、そんな胸の感触なんて思い出すな!
「ココ、顔が一層赤くなったぞ、今」
「…………」
「想像中ですか…良いですねぇ、リア充は」
「り、リア充なんかじゃないし!」
僕は大声で否定する。
ガサ…向こうの草むらから何かが動く音がした。誰かが隠密系スキルを使って、僕たちの会話を盗聴してる。
MMORPGにおいて、情報というのはアイテムと同じように大切。情報があれば、効率的に素材を集めたり、上位の攻略集団と戦闘を行わず和解をしたり、様々なことをすることができる、と雪姉さんから聞いたことがある。
つまり、誰かが僕たちのそばで僕たちの話を聞いている。
灰塵の魔術師の情報は正直、どうでもいいと言ってはダメだけど、あまり興味はない。
けどリックンが言った「ペルさんを想像していた」という情報だけは誰にも知られてはならない。
これは僕の中のトップシークレットレベルの重大機密情報に入ってしまうほどに…
僕は一瞬のうちに誰かがいると思われる草むらの後ろの木に的を絞って、体の向きはそのまま人差し指だけ後ろの木を指して…
「火炎魔術、ファイヤーアロー!」
初級の火炎魔術で、一番最初に使えるようになるファイヤーアローを放つ。ファイヤーアローは技名通り炎の矢を一直線に打つ。威力はあまり高くないが、魔力を込めれば威力は格段に上がる。しかし、ここも森だ。さっきと同じことが起きる可能性があるから、魔力を炎の矢の威力をかなり落とし、速度が上がるように魔力を込める。これでも僕の加減だよ…
僕は一応、詠唱破棄のスキルを持っている。だから詠唱せず無造作に放てる。だから敵に魔術の起動のタイミングを気付かれない。相手がたとえPCでもNPCでも、はたまた魔獣であろう…とにかく誰であろうとこれには反応できないはず!
バキ…木の折れる音がした。
ん?なんで木の折れる音がしたんだ。凄い早い炎の矢だと、一瞬で木にスパン!って当たるはずなのに…
僕が後ろを振り返ると自分の想像をはるかに上回っていた。
後ろに生えていた木には矢が貫通したような跡がつき、その貫通した矢がそのまた後ろにある木まで鋭く、貫いていた。最初の風穴を覗き込むとずっと向こうまでトンネルみたいに見える感じ…
「こ、ココ先輩。僕、調子乗ってました!」
急にファイヤーアローを放った僕に驚いたのか、リックンがその場に土下座する。それはもう見事な土下座だった。
「違う。リックン、戦闘準備」
「へ?」
未だ状況を掴めていないリックンは土下座をしている。
「だから誰かがそばで隠密スキルを使って盗み聞きしてるかもしれない」
「………ココ、可愛い姿ながらなんと鋭い感」
「そんなこと言ってる場合じゃないから」
僕はさっき動いた草むらに近づき…
「誰だ!いるのはわかってるんだ」
と大きな声で言う。
「……………」
反応は返ってこない。
もしかして僕の勘違い…いや、そんなことないはず!
僕は覚悟を決めて草むらの背後に回る。
するとそこには…
「子供の狼…」
小さな狼が右足から大量の血を流しながら横になって倒れていた。
次回予告
怪我をしている小狼を助けることに。
リックンは周囲を警戒。僕は治療の準備をすることに。




