#60閉店時間後
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
「また帰って来てくださいね〜」
キュウちゃんとシロさんが笑顔でご主人様をお見送りする。ご主人様は大満足のようだ。手を振りながらお出かけなさられた。
最後のご主人様が行かれてメイド喫茶アニマルズに人がいなくなると寂しく感じる。
現在時刻は夜の7時。
閉店の時間。外の看板を中に入れて室内の掃き掃除。
外に出て看板をしまっていると大通りの方から明るい光と車が走る音が聞こえる。
その他にも電車の走る音やゲームセンターの音が聞こえる。
都会の夜というのはやはり静かではない。だがそれがまた良いところだと私は思う。
田舎は真っ暗で静かすぎて不安になる。都会の人にはあまりわからないことだろう。
周りの黒い空間にそっと心が奪われてしまうようだから。
私たちは掃き掃除で軽く砂をはく。そしてメイド服から私服に着替えて店長の片付けを待つのであった。
私は机に伏せていた。そう、私は心身ともにバタンキューしてた。
目が疲れた。ほんと目が疲れた。
カフェアートってかなり集中して目が疲れるんだよね。さらには手先がプルプル震えて狙ったところに落としづらいんだよね。
「ペルさん、大丈夫ですか?」
「わたし…瀕死。もうカフェアート書きたくない」
私は伏せた状態でキュウちゃんに返事をする。
「大人気だったからね〜」
シロさんとキュウちゃんが笑顔で言う。
「2人ともは疲れてないの…私がカフェアートしてる時、ほとんど接客してたじゃん」
私たちの接客メンバーの人数は3人。私がカフェアートしている間、接客する人が2人になる。
3人でみんなほぼ休みなしで働いていたから、2人も相当疲れているはずなのだが…
「少し疲れました」
とキュウちゃん。
まぁ、わかるよ。
「全く疲れてないのだよ!」
とシロさん。
うーん…これはわからないのぉ…
「けど接客担当少し人数が足りない気がします」
キュウちゃんが意見する。
うん、ナイス意見!
「けど増やすにしてもそんな簡単に増えないと思いますよ」
「そうなんですか?」
「うん、接客のアルバイトであれば簡単に増えると思うけど…ここは接客のスキルレベルがかなり高くないとダメだと思う」
「私は問題ありませんか?」
「うん、リナちゃんは完璧だよ。私、リナちゃんの後ろで接客してた時、すごい日本語聞き取りやすかったよ」
「そ、そうですか…あ、ありがとうございます」
あ、もう接客じゃないから普通にリナさんって呼んでいいか。
リナさんは照れながら言う。
「うん…その間にペルちゃんはひたすらカフェアートを描いて、席を回ってたね」
「……疲れた」
「ペルちゃんの書いたカフェアートが人気を呼び、かなりの人にお願いされてたからね」
「……私だけカフェアート要員だと体力が無くなりそう。今度、キュウちゃんに教えるから一緒にやってもらえる」
「はい!任せてください」
リナさんが元気に返事をする。
あ、これで私も少し気が楽になる。
「けど確かにこのままだと全員が大変だね…」
店長の声が聞こえる。て、店長もなんか声死んでね。
この声を例えるならアレだ。マンドラゴンを間違えて引っこ抜いて、そのまま死んだ人が死の間際に出した脱力していくような声だ。
「あ、店長。いちごパフェ食べたい!」
「OK!任せてください、先生!」
店長…それでも先生のためならいちごパフェ作るのね。
「お父さん、全員が大変ってどういうこと?」
「いや、接客の方も手が回ってないのは見ててわかったけど、調理場の方も意外と手が追いつかないんだよ」
「お父さんも大変だったの?」
「そうなんだよリナ。お父さん大変だったんだよ。だってパフェを注文されて作っている間にパフェを作る量が2個増えたんだよ…」
これはもう明らかに人が不足している。
特に聴いている限りだと調理場に…
「あと2人ほど誰かを雇いたいんだけど良い人知らない?2人とも」
雪さんの前にイチゴパフェを置いた店長が言う。
雪さんはイチゴパフェを食べながらスマホを操作し始める。
「私、引っ越してきたばかりなので」
と私。
「そんな人いません!」
と雪さん。
雪さんってもしかしてかなりのコミ症だったり…
「………俺がいつか灰になってしまう」
灰になるって店長、砂にでもなるのかな。
「お父さん」
「どうしたリナ?」
「私は信じてますから。お父さんが死に物狂いで働いても灰にならない事を」
「yes! My road」
あれ…店長よりもリナさんの方が地位高い?
イェスマイロードって「はい、私のご主人様」的な意味じゃなかったっけ?
「…女の子以外なら…………」
雪さんがボソっと呟く。
「「「え?」」」
私たちの疑問符が重なる。
今、女の子以外ならって言ったよね。その後ろの言葉は分からなかったけど…
「今なんて?おっしゃりましたか、先生」
店長が雪さんに言及する。
言及されると雪さんはスマホを机に置いて、その台詞を待っていた!と言わんばかりに…
「女子以外なら1人いい人材いますよ」
と笑顔で言った。
ちょっと待て!ここメイドカフェなのに女子以外ってどうなの?色々ヤバいお店になっちゃうよ。
「それはどんな方ですか、先生!」
おい、店長ツッコメ!
男の人が入ってきたらメイドカフェじゃなくなっちゃうじゃん。
「その子はねぇ…小さくて可愛くて可愛んだよ!」
「そ、そんな素晴らしいお方とお知り合いなんてさすが先生!」
雪さんは椅子から立ち上がりそのはち切れんばかりの胸を張って…
「店長!何を隠そう。そんな小さくて可愛くて素晴らしい子は私の妹なのですよ!」
な、なんだと…
「な、なんだと…雪さんの妹さんにご協力してもらえるのですか?」
「はい、任せてください店長!」
あれぇ…雪さんに妹いないはず…なんだけど。
私の頭に電撃が走ったかのような閃きが浮かぶ。
なるほど!そういう事か。流石、雪さん天才でしょ。
「雪さん、天才ですね!」
「でしょ。この閃き、天才過ぎて我自身自分の思考に恐怖を覚えるよ」
「さしもの私もその思考を読めちゃったことに恐怖を覚えるよ…」
うん、私も勘付いちゃった。確かに彼…いや、彼女にはメイド服がとてもお似合いだ。
「交渉は全て私とペルちゃんが責任を持って行います」
「この身に変えても必ず説得させて頂きます!」
この時、まだ雪さんの妹さんはこの悲劇を知らずにリックンと楽しくダンジョンで素材を集めていたのであった。
そう、この悲劇を知らずに…
次回予告
「リックン、僕が剣士のリザードマンを足止めするので、その間に弓兵のリザードマン5体をお願いします!」
「心得た。シャドークロス!」
僕は短剣を片手に剣士のリザードマンに突進して行く。突進して行く最中…
「付与魔術フレイム!」
僕はリザードマンからの上段からの振り下ろし攻撃を紙一重で回避。そして回避した次の瞬間、リザードマンさんの右腕に斬りかかる。
僕は知らなかった。戦闘中の自分の身に違う意味で危険が迫っていた事を…




