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百度目は相打ちで  作者: 豆狸


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第五話 百度目で暴かれた暗殺計画

「ヴェレーノ男爵家は暗殺で生計を立てていたらしい。毒によって暗殺をおこなう組織の噂は何十年も前から流れていたが、だれも正体は知らなかった」


 気絶から目覚めて王宮へ戻ったベニアミーノは、数日後に父である国王に呼び出され、事の顛末を聞くことになった。

 園遊会は中止となったが、彼の望み通りエスポージト公爵令嬢アンドレアとの婚約はなくなった。


「あの毒蜘蛛はドラゴンスパイダー。ドラゴンの血に匹敵する毒を持つと言われている魔獣の一種だ。雄は小さいが雌は巨大で、雄の毒で死んだ生き物を食らう。ブローチに使われていた赤い石は雌蜘蛛の心臓が凝固して出来た魔石で、雄蜘蛛は雌の魔力を感じて魔石を追いかけていたようだ」

「ラーニョが私の名を騙り、アンドレアにブローチを贈って暗殺しようとしたのですね」

「そういうことだ」


 あのときアンドレアが推理していた通り、便箋はベニアミーノの自室からラーニョが持ち出したものだった。


「あの娘は王太子妃の座を望んでアンドレア嬢を抹殺しようとしたわけではないという。……ベニアミーノ。尋問されたあの娘は、お前のことを心から愛しているから、お前の心がアンドレア嬢に戻るのが怖くて暗殺を計画したのだと告白した」

「……園遊会でアンドレアを断罪して婚約を破棄するという計画を押し付けられて、私はラーニョに恐怖心を抱くようになっていました。彼女や側近達に吹き込まれたアンドレアの醜聞も信じられなくなって……」

「それを見抜かれていたのだな」


 ファッブリ王国には三人の王子がいる。

 第一王子のベニアミーノは太子を弟に譲り、対外的には病人として軟禁生活を送ることになっていた。公の場に出ることは二度とないだろう。

 暗殺未遂がなかったとしても、彼は王国の重鎮であるエスポージト公爵家に喧嘩を売り過ぎた。


 実家の派閥から王太子の婚約者を出すためにラーニョを利用してアンドレアを貶めていた側近達も、もちろんラーニョも彼女の実家のヴェレーノ男爵家も処罰される。


「暗殺で生計を立てている家の娘にしては杜撰な計画でしたね」

「あの娘は家業には関わらせずに育てられたそうだ。だから、ドラゴンスパイダーの本当の怖さを知らなかった」

「本当の怖さ?」

「自分が引き寄せられた魔石が死んだ雌蜘蛛の心臓が凝固したものだと気づいた雄蜘蛛は、触れるものすべてを殺して魔石に捧げ、雌蜘蛛を生き返らせようとするのだ。アンドレア嬢が雄蜘蛛を退治してくれていなければ、この王国が滅んでいたかもしれないぞ?」

「そんな、たかが一匹の蜘蛛ではないですか」

「蜘蛛でも魔獣だ。それにな、ヴェレーノ男爵家ではあの蜘蛛による暗殺は禁止されていた。家業に関わらずに育ってきたあの娘は知らなかったが、かつてあの蜘蛛を使った暗殺でひとつの国が滅びたらしい。今も蜘蛛を飼い魔石を保管していたのは、いざというときに蜘蛛の体液から解毒剤を作り、雌蜘蛛が死んでいると気づく前に魔石で誘き寄せて倒すためだそうだ」


 ラーニョはただ、とてつもない毒を持つ蜘蛛で、魔石をブローチにすることで利用出来ると思ってドラゴンスパイダーを暗殺道具に選んだだけだった。


「あの娘は喜んでいたよ。お前が太子を廃され、だれとも会わない軟禁生活を送ると聞いて。自分ひとりのものになると言って。前から王太子として活躍するお前が、自分以外の人間の目に映ることを嫌がっていたようだ。あの娘は本当にお前を愛しているようだが、ベニアミーノ、お前が求めた愛とはそんなものだったのか?」

「……」


 ベニアミーノは父の問いには答えられなかった。

 結局のところ彼は恋人の本性も見抜けず、周囲に押し付けられた政略結婚とは違う真実の愛という幻想に酔っていただけなのだ。

 今はもう、ラーニョのどこが好きだったのかも思い出せなかった。

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