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『ザ・ダークネス・スクラップス・オブ・スティルライト』  作者: miyamotoyuuto
狂気から生まれたカイバー
4/6

新たなる都市、新たなる駒――そして不要なる厄介事

また、新しい一日が始まった。


昨夜の出来事は、すべて俺が頭の中で描いていた筋書き通りに進んだ。


魔力を鍛えるため、人気のない暗い森へ単身で足を踏み入れた結果――そこで思いがけない収穫を得たのだ。


俺は偶然にも、“聖地オスカリナ”と呼ばれる場所についての情報を盗み聞くことに成功した。


王都の連中は、いつも自分たちを高貴な貴族様だと思い込んでいる。


豪華な礼服を纏い、気取った態度で、まるで聖なる存在であるかのように振る舞っているのだ。


だが――笑わせる。


結局のところ、あいつらは血と罪に塗れたただのゴミクズに過ぎない。


正直、俺はまだこの世界の歴史を完全には把握していない。


ここへ来てから、まだそれほど時間が経っていないからな。


だが、Dark Lord である俺にとって、その程度の情報ですら偉大な脚本を組み立てるには十分すぎる材料だ。


権力というものには、必ず歪みが生まれる。


そしてオスカリナ王国の裏では、無数の弱小裏組織どもが互いに醜く争い合っていた。


……新しい駒を集める必要がある。


少なくとも今の俺には、最初の先兵がいた。


「Zipis――お前が最初の男だ。せいぜい慎重に働けよ」


まあ、考え事はこれくらいでいい。


次の目的は、あの男と接触し、“Pilisyer”の調査がどこまで進んでいるか確認することだ。


そんなことを考えていると、不意にユウタの顔が脳裏に浮かび、途端に鬱陶しくなった。


あいつがハルタの転生体であることは間違いない。


……だが、知ったことか。


今頃、俺の“天才の弟様”は、あの薄汚いオスカリナ学園で偽物の栄光に酔いしれながら、泥臭い修行でもしているのだろう。


クソみたいな学園だ。


遅かれ早かれ、俺がこの手で消し飛ばしてやる。


……とはいえ。


あの平和ボケした学園の中にも、我が組織に必要な素質を持つ人材が何人か存在している。


たまには学校をサボって部下に会いに行くくらい、別に問題ないだろう。


――フッ。


静まり返った夜の帳の下。


Dark Hiver の黒衣を纏った影が、一瞬で宙へと躍り出た。


禍々しい Kaiver Scraps の魔力が空気を切り裂き、俺の身体をカラシンの街へと跳ね飛ばす。


比較するなら、カラシンは学園より遥かにマシな場所だった。


発展した都市経済と巨大市場によって、この街は中立地帯として機能しており、数多くの冒険者や勇者志望者たちを引き寄せている。


そして街の中心には、まるで天を貫く剣のように“カラシン時計塔”がそびえ立っていた。


古代英雄カラシンの伝説を象徴する塔だ。


俺はその頂上へ静かに降り立つ。


眼下では人々が蟻のように行き交っていた。


背中に黒、紫、赤の紋様が刻まれたトレンチコートが、夜風を受けて大きく揺れる。


……ちなみに俺は、この風向きを計算するためだけに十五分も塔の上で待機していた。


「Bruh……今日は風が強すぎるだろ。少しでもズレたら、コートの裾が綺麗に広がらねぇじゃねえか。そんなの Dark Lord の美学に反するだろ……」


すべての演出条件が整った瞬間。


俺は塔の頂から飛び降りた。


無音。


無駄のない動き。


闇そのものが大通りへ落下し、ある人物の背後へ完璧に着地する。


「……で? 成果はどうなんだ。こんな場所で何を油売ってやがる」


低く冷え切った声が響き、周囲の空気を凍りつかせる。


Zipis は身体を震わせ、即座に片膝をついて頭を垂れた。


「申し訳ありません、我が Dark Lord。少々興味深い情報を掴みました。Pilisyer の連中が、オスカリナの裏計画を進めるため、この街に潜伏している指名手配犯を追っております」


「どうやら奴らは裏で繋がっており、さらに複数の小規模組織も関与しているようです。私はその男を密かに監視していましたが……奴は相当に危険です」


「そして何より――あなた様と酷似した“何か”を持っています」


俺は目を細めた。


オタクとしての本能が、興味深いキャラクター設定に歓喜していた。


「ほう……面白いじゃねえか」


「だが、こんな人混みで大声を出していいのか? 機密を漏らすつもりか?」


「ご安心ください、我が主。この位置なら問題ありません」


「……ところで、そいつの名前は?」


「オノカワ・ドリキーです」


「なるほど。名前だけで十分だ」


俺は深淵のような闇を瞳に宿しながら頷いた。


「それと――新しいメンバーの勧誘も急げ。我が組織はもっと強くなる必要がある」


「俺一人で全部キャリーできるのは当然だが、それでも情報網は必要だからな」


「御意……では、ユウタの件はいかがなさいますか?」


「あいつは俺の弟だ。焦る必要はない」


「今の俺ではまだ足りない。だが、いずれ必ずもっと強くなる。そして望むすべてを手に入れる」


「承知しました。それでは失礼します」


次の瞬間。


Zipis の姿は闇へ溶け込み、完全に消失した。


俺が時間をかけて叩き込んだ、完璧な隠密技術だ。


さて。


俺もこのままスタイリッシュに路地裏へ消える演出に入ろうとした――その時。


背後から、澄んだ少女の声が響いた。


「……? もしかして、カゲサキ・ユウト君?」


振り返る。


そこにいたのは、ミオ・ジソカマだった。


彼女は探るような目でこちらを見つめている。


「お祭りに来てたんだ? 一緒に回らない?」


Dark Lord の殺気は即座に消え去り、代わりに俺は“無害なモブ”の顔を貼り付けた。


「……君なんて知らない。どうして俺の名前を知ってる?」


「俺、別に目立つタイプじゃないと思うんだけど」


ミオはクスクスと笑う。


「だって君、クラスでいつも変な冗談言ってるじゃん? 面白いから、つい見ちゃうんだよね」


「それに……何か隠してるでしょ? 私生活とか、すごくミステリアスだし」


Bruh……なんなんだこの女。


俺の中のオタク人格が盛大に拒絶反応を起こす。


俺が築き上げた“無害なお笑いモブ”というキャラは、群衆に紛れるためのものだ。


こんな面倒な女を引き寄せるためじゃねぇ。


俺は冷たく目を細めた。


「……鬱陶しい。消えろ」


「えっ……?」


ミオは完全に固まった。


俺は躊躇なく背を向ける。


翻る黒衣が彼女の視界を遮断した。


(危ねぇ……クソ女のせいで俺の大計画が台無しになるところだった)


◆◇◆◇◆


薄暗い路地裏。


ユウトは静かに自らの掌を見つめていた。


意識を集中させる。


胸の奥に眠る Kaiver が脈動した。


瞬間。


赤紫色の禍々しい炎が指先に灯る。


それはまるで生き物のように揺らめき、空間へ歪んだ圧力を撒き散らしていた。


ユウトは無言で拳を握り締める。


炎は霧散し、錆びた塵だけが闇へ溶けていった。


「この世界……最高に面白ぇじゃねえか」


Dark Lord の口元が歪む。


「オノカワ・ドリキー……お前は必ず、俺のものになる」


ユウトは低く呟いた。


「Zipis……どこだ。行くぞ。あの男を狩りに」


――フッ。


黒影が空から舞い降りる。


片膝をつき、深く頭を垂れた。


「御意――我が主よ」


◆◇◆◇◆


その頃。


都市の喧騒から隔離された場所。


カラシン郊外。


断崖と森林に囲まれた高地に、巨大な秘密基地が存在していた。


こここそが、Pilisyer の拠点。


石造りのバルコニーに立つ男がいた。


ゼンカイ・ハルシャン。


この地を統括する Pilisyer の支配者である。


「Dark Lord、か……ただのガキだというのか?」


ワイングラスを揺らしながら、彼は静かに笑った。


「……だが、興味深い」


脳裏に浮かぶのは、部下から送られてきた報告書。


奇妙なことに。


あの Dark Lord の少年は、甥のユウトにどこか似ていた。


だが、その疑念はすぐに霧散する。


「まあいい。すべては“あのお方”の任務のためだ」


「準備を始めろ……オノカワ・ドリキーを必ず見つけ出せ」


命令が下る。


Pilisyer の暗殺部隊が動き出した。


だが――


ハルシャンはまだ知らない。


自分が“無害な甥”だと思っていたユウトこそ、Dark Hiver を統べる黒幕であることを。


そして。


ユウタを裏から支援する“良き叔父”を演じる自分自身こそ、聖地に仕える狡猾な老狐の一人であることを。


悪徳の叔父。


闇を統べる甥。


二人の運命の盤面は――


このカラシンの街で、静かに幕を開けた。

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