「ダーク・イヴェール」の台頭と拒絶されし者
深淵の萌芽、そして狩りの始まり
俺の偽りの悲鳴が響き渡るのと同時に――外にいた忌々しきオスカリナの連中が、一斉にクソ派手に混乱し始めやがった。
そこら中からドタバタと荒々しい足音が響いてくる。
突入を控えた兵士どもが、弦を限界まで張り詰めたようにガチガチになりながら武器を構えていた。
計画は……これで半分終わったも同然だ。
結界の暗がりの奥。
俺は激しく息を荒くする怪物の前に立っていた。
少しばかりの「尋問」で、こいつの名前がジピス・ハイザワだと判明する。
暗黒のカイバー(Kaiver)エネルギーとやらを植え付けられた実験体だ。
俺の【スクラップ】に酷似した不穏なエネルギー。
(……まあ、知るかよ。まずはこいつを懐柔するのが先決だ)
「外の連中は俺が攪乱してやった。安心しろ、問題はねえ。お前、なかなか面白いな……どうだ、俺と手を組むか、あるいは組織でも立ち上げてみないか?」
「グルルル……何者だ、ガキが。自分が誰に向かって口を利いているのか分かっているのか……!」
ジピスが低く唸る。
「おいおい、落ち着けって。今のテメェじゃ、俺に逆立ちしたって敵いやしねえよ。こんな小さな体をしてるが……これを見やがれ!」
血管の中に眠る鉄錆のエネルギーを、一気に奔流させる。
「???……な、何だこれは!? 俺は一体どこにいる……ここは、どこだ!?」
「ハハハハ! 俺の目を見たな? ……ハァ、少しばかりの【スクラップ】を使って、お前を悪夢に引きずり込んでやったのさ。歓迎するぜ、我が【イリュージョン・ナイトメア(Illusion Nightmare)】へ」
「何だと……!? なぜこんな芸当ができる……たかが5歳のガキが……!?」
精神世界の中、ジピスの周囲を俺の幻影が何重にも埋め尽くしていく。
狂った残響のように、その耳元で短く、歪んだ言葉を囁いた。
『もう、目覚めるな』
『ここに、留まっていろ……』
『沈め、もっと深く』
(チッ……!)
俺は心の中で、激しく舌打ちした。
【スクラップ】の消耗が予想以上に早すぎる。
この5歳の肉体、マジで使えねえ。
どれだけ鍛錬しても、ほんの数分しか維持できねえとはな。本来なら20分は保つはずだったってのに。
クソが、忌々しいぜ。
限界を迎え、精神世界がガラスのように粉々に砕け散る。
エネルギー切れによって、二人の意識は強制的に現実へと引き戻された。
「……ハァ、ハァ……戻ったのか……。お前、一体何者だ……どんな化物だよ……!」
ジピスが恐怖を孕んだ目で、俺を凝視する。
「お前が知る必要はねえ。ただ俺について来い。この薄汚い檻の中にいるよりは、確実にマシな未来を見せてやる」
俺は僅かに残った【スクラップ】を身体に巡らせ、強引に肉体を治癒した。
疲弊した姿など、微塵も外には見せない。
ジピスの化物じみた分厚い皮膚から、ダラダラと冷や汗が流れ落ちる。
こいつは本能で理解したのだ。
この小さな肉体から放たれる、深淵の闇そのものとも言える圧倒的な殺気の濃度を。
(このガキに逆らうだと? ……有り得ねえ。勝ち目なんか万に一つもない。服従か、それとも死か)
「……分かった、従おう。だが、まずはその名を教えてくれ」
「ふむ……。俺は『ダークロード(Dark Lord)』だ Flu。その名を魂に刻んでおけ」
「ハッ……。仰せのままに、我が主。……して、次はどう動きますか? って、おいちょっと待て!? 俺を解放してくれ!! なぜまだ縛られたままなんだ!?」
「ああ、悪い悪い、今解いてやるよ(笑)」
俺は心の中で愉快に、ニヤリと笑った。
記念すべき最初の配下だ。俺の闇の力、【スクラップス・ダークネス(Scraps Darkness)】を授けてやる。
この力……やはり、俺の想像以上に奥が深い。
(ハハハハ、ついに、ついに成し遂げたぞ……!)
◇
外の騒ぎが絶頂に達し、衛兵たちがドカドカと内部へ突入してくる。
その瞬間、一人の影が静かに歩み出た。
それは人間の姿へと変貌し、背中に紫と赤の「単眼」が描かれた漆黒の外套を纏った――ジピスだった。
奴は敵の軍勢の中へと掻き消え、影からの神速の一閃を放つ。
一瞬にして、20人のオスカリナ近衛兵が血飛沫を上げて崩れ落ちた。
結界の最上部に堂々と降り立ったジピスは、傲然と言い放つ。
「我が名は【ダーク・イヴェール(Dark Hiver)】の系譜。貴様らの全てを、じきに白日の下に晒してやろう」
カイバーの測定フィールドを文字通り一刀両断に引き裂き、ジピスは跡形もなく姿を消した。
(ククク……全ては俺の計画通りだ)
その後、血相を変えて駆けつけてきたカゲサキ夫妻に対し、俺は5歳の子供に相応しい、この上なく無垢な表情でこう答えてみせた。
「中に入ったら、何も見えなくなっちゃって……。気づいたら急に誰もいない別の場所に飛ばされてたから、ボク、何が起きたか全然分かんないや」
(ハハハハハ!)
弟のユータ(晴太)だけは、相変わらず酷く疑わしげな視線を俺に向けている。
まあ、勝手に疑ってろ。
あいつが疑念を深めれば深めるほど、俺が闇の中で強くなるための完璧な「デコイ」になってくれるんだからな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【Hint】
オスカリナ結界領域の、血と屍の山の上で。
ついに組織【ダーク・イヴェール(Dark Hiver)】は産声を上げた。
ある夜、悠人は偶然にもその名を耳にする。
――【ピリシエ(Pilisyer)】。
身寄りのない路上生活者を誘拐し、非道なカイバー実験を繰り返す狂犬どもの名を。
そして、その夜。
『ダークロード(Dark Lord)』は、再びジピスと相まみえる。
――さあ、狩りの時間だ。




