第九話「データと違和感」
第九話「データと違和感」
三日が経った。
シェリルの観測は続いていた。
朝、アレンが宿を出る。
シェリルがついてくる。
手帳を開く。
書き込む。
それだけだった。
「今日も来るのか」
「当然」
「学院はいいのか」
「休講にした」
「そんな簡単に休めるのか」
「成績が良ければ融通が利く」
アレンは諦めた顔で歩き出す。
三日で慣れてしまった自分が少し怖い。
ミリナが小走りで追いついてくる。
「おはようございます、アレンさん」
ドクン。
「おはよう」
シェリルが手帳に書き込む。
「『三日目朝、ミリナへの反応。強度:小』」
「聞こえてます!!」
ミリナが頬を赤くした。
「記録は正確に行う必要がある」
「私の気持ちを数値にしないでください!!」
「数値にしてない。強度の話」
「同じです!!」
アレンは黙って歩いた。
この三日で、
シェリルの手帳はかなり埋まっていた。
らしい。
中身は見せてもらえない。
「なぁ」
「なに」
「何かわかってきたか?」
シェリルは少し間を置いた。
「……少し」
「少し?」
「パターンが見えてきた」
「どんな」
「まだ言わない」
「なんで」
「確証がない」
アレンは横目でシェリルを見た。
三日前と変わらない顔。
冷静で、
鋭くて、
何を考えているかわからない。
なのに。
「……なんか疲れてないか?」
シェリルの手が止まった。
「なぜそう思う」
「なんとなく」
「根拠は」
「目の下」
シェリルは無言で前を向いた。
「余計なことを言わなくていい」
「心配しただけだ」
「必要ない」
「そうか」
アレンはそれ以上言わなかった。
シェリルも黙った。
ドクン。
「っ」
アレンが胸を押さえる。
シェリルは手帳を開こうとして、
止まった。
「……今のは記録しないのか?」
アレンが不思議そうに聞く。
「……する」
少し遅れて、
書き込まれた。
その文字が、
いつもより小さかった。
その日の夜。
シェリルは宿の自室で、
手帳を広げていた。
三日分のデータ。
反応のタイミング。
強度。
対象者。
全部書いてある。
パターンは見えている。
あとは確証だけだ。
なのに。
ペンが動かなかった。
さっきの反応。
ミリナでも、
リリアでもなかった。
対象者の欄が、
空白のままだった。
「……」
シェリルは手帳を閉じた。
窓の外、
夜風が静かに流れていた。




