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第八話「観測開始」

第八話「観測開始」


 結局、

 シェリルはついてきた。


「なんで来てるんだ」


「観測」


「観測って言えば何でも許されると思うな」


「今のところ許されてる」


 実際、

 誰も止めていなかった。


 ミリナは諦め顔。


 セリナは面白そうな顔。


 リリアは……よくわからない顔。


 アレンだけが、

 微妙な顔をしていた。


「せめて目的を教えろ」


「あなたに起きている現象の解明」


「もう少し具体的に」


「それが言えたら苦労しない」


 シェリルは手帳を取り出し、

 何かを書き込む。


 アレンはそれを横目で見た。


「何書いてるんだ」


「記録」


「何の」


「あなたの」


「気持ち悪い」


「失礼ね」


 セリナが笑いを噛み殺している。


 ミリナは半目だった。


「シェリルさん」


「なに」


「アレンさんから離れてもらえますか」


「観測に適切な距離がある」


「近すぎます」


「これが適切」


「どこの基準ですか」


「私の基準」


 ミリナの眉が吊り上がる。


 アレンは静かに一歩離れた。


 シェリルは無言で一歩詰める。


「……おい」


「記録中」


「距離感おかしいって言ってるだろ」


「学術的に必要な距離よ」


「その学術とやらを疑え」


 リリアが小さく笑った。


 ドクン。


「っ!」


 アレンが胸を押さえる。


 シェリルの手帳に、

 素早く何かが書き込まれた。


「今のも記録したのか」


「当然」


「何て書いた」


「『リリア笑顔、反応あり』」


 沈黙。


「……やめてくれ」


「なぜ」


「なんか恥ずかしい」


「感情的な理由は却下」


 アレンは天を仰いだ。


 セリナが肩を叩く。


「あきらめろ」


「あきらめたくない」


「無理だ」


 その時。


 ミリナが思い切ったように口を開いた。


「あの、シェリルさん」


「なに」


「アレンさんに近づくの、

 本当にやめてもらえますか」


 シェリルは手帳から目を上げた。


「理由は?」


「……私が、嫌だからです」


 少し間があった。


 シェリルはミリナをじっと見る。


 それから手帳に視線を落とし、

 また何かを書き込んだ。


「何書いた」


 アレンが恐る恐る聞く。


「『ミリナ、独占欲あり。反応との相関を要検討』」


「書くなよ!!」


 ミリナが真っ赤になった。


「じ、自分でもわかってます!!」


「わかってて言ったの?」


「うるさいです!!」


 周囲から笑いが起きる。


 シェリルだけが、

 無表情のまま手帳を閉じた。


 その手が、

 ほんの少しだけ止まっていたことに、

 誰も気づかなかった。


 夕暮れが、

 石畳を赤く染めていた。

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