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第五話 観測実験

第五話 観測実験


「……やっぱり」


 シェリルは小さく呟いた。


「やっぱりって何が?」


 アレンが胸を押さえたまま聞き返す。


「まだ確証はないわ」


 シェリルは即答した。


 だが視線は鋭い。


 まるで珍しい魔導具でも観察するみたいに、

 アレンをじっと見つめている。


「お前さっきから怖いんだけど」


「安心して。解剖はしないから」


「安心できる要素どこ!?」


 ミリナが慌ててアレンの腕を引っ張った。


「アレンさん! この人ちょっと危ないです!」


「誰が危ないのよ」


「目が研究者なんです!」


「実際研究してるもの」


 否定しなかった。


 セリナが呆れたように頭を掻く。


「学院生ってみんなこんななのか?」


「一緒にしないで」


 シェリルはため息を吐き、

 再びアレンへ向き直る。


「少し確認したいことがある」


「嫌な予感しかしない」


「すぐ終わる」


 そう言って、

 シェリルは一歩近づいた。


 瞬間。


 ドクン。


「っ!?」


 アレンの身体が跳ねる。


 胸の奥が熱い。


 まただ。


 しかも今までよりずっと強い。


「……やっぱり反応する」


 シェリルの目が細くなる。


「おい、何した?」


「何もしてない」


「絶対なんかしただろ!」


「してないわよ」


 本当に何もしていない。


 ただ近づいただけ。


 それだけで反応した。


 シェリルは内心で混乱していた。


 距離か。


 視線か。


 意識か。


 条件がまだ絞れない。


「もう少し」


「待て」


 さらに一歩近づく。


 今度はかなり近い。


 アレンの肩がびくりと震えた。


「お、お前距離感おかしくない?」


「観測中だから」


「その言葉で許されると思うなよ」


 シェリルは気にせず、

 さらに顔を寄せる。


 さらりと赤髪が揺れた。


 甘い香りが鼻先を掠める。


「……っ」


 アレンの喉が小さく鳴る。


 近い。


 近すぎる。


 互いの吐息が触れそうな距離。


 まるで――

 そのままキスでもするみたいだった。


 シェリルは真剣な顔のまま、

 じっとアレンの瞳を覗き込む。


「反応がまた強く……」


「そりゃ強くなるだろ!?」


「どうして?」


「どうしてって……!」


 アレンは言葉に詰まる。


 そんな距離で、

 そんな綺麗な顔に見つめられて、

 平然としていられるわけがない。


 だがシェリルは本気で理解していない顔だった。


 ほんの少し首を傾げる。


 その拍子に、

 柔らかな髪がアレンの肩へ触れた。


「っ……!」


 ドクン。


 また脈動する。


 シェリルの瞳が鋭く細まった。


「やっぱり接近で――」


 アレンが慌てて後ろへ下がろうとする。


 だが。


 ぐい。


「まだ」


 シェリルが無意識に、

 アレンの服を掴んだ。


「…………」


「…………」


 二人とも固まる。


 距離はさらに縮まり、

 額が触れそうだった。


 完全に恋人の空気である。


「きゃあああ!?!?」


 ミリナが顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!! 近い近い近いです!!」


 セリナまで目を剥く。


「お、お前ら昼間から何してんだ!!」


 周囲の通行人たちも、

 完全に微笑ましいものを見る目になっていた。


「あの学院のお嬢様、積極的ねぇ」


「若いわねぇ」


「違うから」


 シェリルは即座に否定した。


 だが。


 否定しながらも、

 自分の指がアレンの服を掴んでいることに気づく。


「…………」


 ゆっくり手を離す。


 その白い頬が、

 わずかに赤かった。


 そして次の瞬間。


 ドクンッ!!


「うおっ!?」


 今までで一番強い脈動。


 風が爆発したように巻き起こり、

 周囲の木箱がガタガタと揺れる。


 リリアの金髪がふわりと舞い、

 ミリナが悲鳴を上げた。


「きゃっ!?」


 セリナも目を見開く。


「おいおいマジかよ……!」


 だが。


 シェリルだけは、

 はっきり理解していた。


 今の反応は。


 自分が“意識した瞬間”に起きた。


「……ありえない」

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