勇者と聖女と時々お父様
夏が過ぎ、日が段々と短くなる秋口。
アランが着替え終わり、校舎を出た時には既に日が落ちていた。
「思ったより長引いちゃったな……。」
結局、あの2年生との試合は放課後を過ぎても中々決着はつかなかった。
魔法ありなら『赤眼』が使えるアランが圧倒的に有利だが、剣術のみとなると流石に簡単には差がつかない。
レオナルドとウラギリスが待っていてくれたのだが、試合の決着がつく頃にはレオナルドは帰らなければならない時間になっていた。
―――確か今日はエドワード様とシャル嬢を連れて御館様が来るって言ってたっけ。
何か変な組み合わせだな……。
そう言えばレオもこの前授業をサボって本家に日帰りをしていたみたいだけど、何かあったんだろうか?
まぁ御館様やレオの事だし問題ないだろうと、持ち前の大雑把さを発揮して納得するアラン。
文化祭が近いからだろう。
夜の校舎にはまだ煌々と魔導具の灯りがつき、何人もの生徒達が作業をしていた。
文化祭はクラス展示を除けば自由参加だ。
クラブや有志で集まって様々な催し物や企画の準備をしている。
「あら、アラン。今帰りなの?」
声のする方を見ると、そこには、催し物で使うのだろう、大量の木材を担いだソフィアが立っていた。
「うん。そっちは文化祭の準備?」
そう言いながら、持つよとソフィアの持つ木材を引き受けるアラン。
「ありがと。うん、公共スペースの飾り付けは文化祭の実行員会が担当なんだけど、まだ全然進んでなくてさ。」
少し困った顔をして笑うソフィア。
運んでいる木材の量からしても今日1日で終わるような作業ではなさそうだとアランは感じる。
「それは大変だな。手伝おうか?」
「んー、ありがたいけど良いの?」
「今日はもう帰るだけだし、祭りなんかむしろ準備から参加する方が楽しいだろ?
オレも公爵家の仕事がなかったら実行委員とかやりたかったんだ。」
二人で連れ立って歩く夜の校舎。
すれ違う生徒達は忙しそうにしているが、一様にその顔は楽しそうに見えた。
「……公爵家の仕事は楽しい?」
「あぁ楽しいぜ! 大変だけど、ホント大変なんだけど、なんて言うか日々成長してるのが分かるって言うかさ。皆良くしてくれるし!」
「そっか……。楽しいのは、良い事だね。」
その時、アランにはソフィアの顔が何だか影のある寂しそうな顔に見えた。
だから、普段は気付かずに流してしまう様なことをつい聞いてしまう。
「ソフィアは聖女の仕事は楽しくないの?」
「―――ないね。楽しいなんて思った事、1度もない。」
ソフィアの雰囲気が変わる。
先程までの柔らかな雰囲気は消え去り、感情の抜け落ちた目で嗤う。
「私にあるのは使命。世界樹を、基幹システム護ること。それだけ。楽しいなんて感じた事
1度だってないよ。」
「ソフィア……?」
「何にも知らず、不用意に世界なんてモノに身を捧げた愚者。それが私。」
皮肉げに嗤うソフィア。
そのいっそ凄惨的とすら言える笑みにゾクリとアランの背中が震える。
「……ごめん。空気悪くした。
荷物、運んでくれてありがとう。」
手早く荷物をアランから引き取り、走り去るソフィア。
そんなソフィアの背中を驚いた顔をしたアランは見送った。
―――――――――
――――――
―――
「―――もしかしてだが、聖女は重度の厨二病という可能性はないだろうか?」
意図せずつい思った事を口に出してしまう。
ポカンとした顔のレオナルドとエドワード。
そしてアンタ真面目な顔して何言ってんの?と言わんばかりの顔をするシャル君。
ユーリア君は……うん。我関せずとお茶を入れているな。
ウチの王都屋敷にある談話室。
個人的にはあまり好まない無駄に気合いの入ったソファに身を沈め、足を組みかえる。
王都屋敷について早々、聖女と接触したとレオナルドから報告を聞いた私の率直な感想だ。
何と言うか、思わせぶりな態度で専門用語を告げる感じが凄く厨二臭い。
パルスのファルシのルシがパージでコクーンみたいなもんだ。
暗黒微笑とかやりそう。
そう思うと聖女の箱入り娘なキャラも何だか作られた感じがするのが不思議だ。
……いや、これは邪推だな。
原作ゲームでも彼女の性格はオーソドックスな聖女っぽい感じの箱入り娘だったはずだ。
「……言いたいことは何となく分かりますけどね? 貴方にボケられるとツッコミ難いんでやめて貰えます?」
余所行きの口調でシャル君が窘めてくる。
「すまんすまん。ボケたつもりはないんだが、まぁ私の率直な感想だよ。
しかし、また基幹的破滅か……。
ユグドラシル教の教義に関係する単語かもしれないな。」
貌なしの情報では指揮者も熱心な教会の信者だったらしい。
「基幹的破滅にチュウニ病……。
やはり先般の細菌兵器の様に何か魔族達が狙っていると言う事でしょうか……?」
真面目な顔をして分析するレオナルド。
いや……、その……。
「そうなると聖女は既にその病に侵されていると言う事に……! お父様、やはり教会に行くのは危険なのでは?」
驚愕した顔でエドワードが私を心配してくれるのだが、シャル君の冷たい目が気になって仕方がない。
……うん、ほんとごめん。
もう少し自分の発言に気を付けるべきだった。
「あー、いや、厨二病とは別に病でも何でもなくてだな。思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄した俗語、かな?
こう、極端に背伸びした発言をしてみたり、悪ぶってみたりとか……。」
「お言葉ですが、聖女は別に悪ぶった発言をしていた訳ではないと思うのですが……?」
キョトンと不思議そうな顔をするレオナルド。
まぁそうなんだが……。
邪気眼系とか説明に困るな……。
「色々分類があるのよ、レオ様。
自分が特別だと思い込んで、自分が創作したキャラクターになりきったりとか?」
ふむ、と呟き形の良い顎に手を当ててシャル君の補足説明を自分の中で整理するレオナルド。
「ああ、そうか。俺が感じた聖女の二面性を
お父様は聖女の思い込みで作った仮想の人格、つまりチュウニ病だと見抜いた訳か!」
「……何と言うか、だいぶ痛い人ですね。」
沈痛な顔をするレオナルドとエドワード。
やばい、このままいくと聖女が痛い厨二病患者認定されてしまう!
いや、別にそんな感じがするよねと私が思っただけで別に聖女が厨二病だと決まった訳じゃないんだよ?
「いや、あくまでも仮説……、と言うか単なる私の感想だ。あまり深く受け止めるな。」
「そうそう! 厨二病って言っても色々あるし!えっと、ほら、服装とか! 黒一色コーデとか
目にカラコン入れて赤とかにしたり、ごついシルバーアクセサリーつけたり、黒とか白の小物を持ったり―――あ、ごめんなさい……。」
話してて何かに気付き、本気で申し訳なさそうに謝るシャル君。
やめろ。私を見て謝るな。
……その優しさは私に効く。
私だっていい歳して『黒の弾丸』とか『白の刃』とか言うのはちょっと恥ずかしいんだぞ。
頑なに私が無詠唱魔法に拘っている隠された理由である。
「―――コホン。話を戻そう。
シャル君は基幹的破滅に覚えはないんだよな?」
シャル君は知らない事を知っていてもスチュアート家の血縁だからで許されるから楽で良い。
「うーん。確かに何かあった気がするんだけど、あんまり覚えてないのよねぇ。
確かセカイ系っぽい事をやろうとしてるなぁとかそんな事を思ったのは覚えてるわ!」
あー、あの頃ってそういうのが流行ってたもんな。
セカイ系。
2000年前後くらいに流行っていたアニメや漫画、小説何かでよくあるテンプレ。
主人公の成長とか、ヒロインとの恋模様が世界の命運を握っているとかそんなヤツだ。
単なる主人公の成長とか恋愛ストーリーを派手に魅せることが出来る創作手法だな。
彼女が最終兵器だったり、ヒロインが人知れず宇宙人と戦っていたり、母親の魂が詰め込まれた人造人間に乗って戦ったりする例のアレだ。
「えっと、確か世界樹が駄目になって世界が崩壊するとかそんな感じ? それでヒロインとヒーローが結ばれて良い感じに世界の崩壊が止まるとかそんな流れだったはずよ!」
「……うん。そうか。まぁ解決策はあるっぽいし、それを知れたのは僥倖かな?」
私もそこまでストーリーを読み込む方ではないが、シャル君にそれを期待しても無駄だな。
さっさと教皇辺りと話をする方がまだ有意義だろう。
「……まぁシャルの言うことはよく分かりませんが、やはり教会に何か秘密があるのは確実という事ですか。」
ざっくり纏めるエドワード。
段々シャル君の扱いに慣れて来た様で何よりだ。




