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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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長男と大地の聖女

ギィンキィン!と金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。


王立学園の広い運動場で刃引きをされた剣を持つ生徒達が組手を行っている。



ゲーム世界が現実になったこの世界にはチグハグな要素が多い。


中世から近代にかけての文化圏なのに意匠こそファンタジー風だが、何故か学園の制服は男子はブレザーだし女子はセーラー服だ。


そして当然の様に運動系の授業はジャージで行われている。



「うぉらっ!」


癖の付いた黒髪、先日アランと食堂で話をしていた長身の2年生が裂帛の気合と共に大上段から剣を振り下ろす。


「負けるかっ!!」


対抗すべくアランが力いっぱい横なぎの一撃を放つ。


2人の剣がぶつかり合うその刹那。


黒髪の2年生が剣を手放し、身体を捻ってガラ空きのアランの脇腹に回し蹴りを放った。


「がふっ!?」


「お前と力比べなんかするかよ! 後、見るのは剣先じゃなくて相手の全体を見ろ!」


手放した剣を空中でキャッチし、2年生は追撃を放たんとアランに近付く。


「今だっ!」


その高い耐久性を盾に回し蹴りを耐え切ったアランが身を翻して反撃に移る。


的確に急所を狙う連続で放たれる突き。


堪らず2年生が飛び退く。


「くそっ。何で効いてねぇんだ! 本気で蹴ったんだぞ!? 」


「安心してください。めっちゃ痛いです。」


「そこは素直に倒れとけっ!」


「根性っ!!」



白熱する2人の剣戟を少し離れた場所で、早々に決着を付けたレオナルド達が見ていた。


「アルの奴、赤眼なしでよくやるよ……。

今の絶対痛いぜ?」


「相も変わらずアラン様の身体能力は驚異ですね。また耐久性が上がってませんか?」


「あれは耐えていると言うより衝撃を上手く逃がしてるんだ。痛いのは痛いが、取り敢えずは動ける。アイツは咄嗟の身体の使い方が上手いからな……。何せヴァーリのお墨付きだ。」


備え付けられたフェンスにもたれ掛かり、地面に座って話すレオナルドとウラギリス。


粗野な態度の割りに品があるのは2人の育ちの良さがなせる技だ。


「なるほど……。的確に急所を狙う動きも、まるで野生動物のようですね。」


「言い得て妙だな。って言うか、アイツらいつまでやるつもりだ? もう授業が終わって結構立ってるんだが……。」



既に時間は放課後。


本来なら授業が終わってまだ勝負が着いていなければ相打ち判定となるのだが、それで納得がいかない生徒達が集まり自主的に戦っていた。


実戦形式の授業ではよく見られる光景だ。



「あの2人目当てにギャラリーまで来ていますよ……。」


レオナルドがウラギリスの視線の先を見ると、授業が終わった生徒達がアラン達を見学しにチラホラと集まっていた。


「鬱陶しくて堪らんな。……ウラギリス。

すまんが、飲み物を買ってきてくれないか?

俺たち3人と、あの先輩の分も。」


そう言いながらポケットから小銭入れを取り出してウラギリスに投げ渡すレオナルド。


「お、おぉ! ついにレオナルド様に我がシタッパーノ家秘伝の使い走り術をお魅せする時が!

お任せ下さいっ! 」


レオナルドから嬉しそうに小銭入れを受け取ると即座に風を巻き上げ走り去るウラギリス。


「なんだ?秘伝の使い走り術って……。

あー、まぁいい。―――それで? 何の用だ?」


とてつもない速度で走り去るウラギリスを見送り、後ろを振り返るレオナルド。



「こうやってお話するのは初めてですね。

レオナルド・ジョンストン・フォン・フィンスター=ヘレオール様」


「お初にお目にかかるな。

ソフィア・グレン・フォン・マルドゥーナ嬢」


フェンス越しに立っていたのは聖女ソフィアだった。


「アルの奴ならもう少しかかると思うぞ。

あの二人はここからが長いんだ。」


つい探るような目付きでソフィアを見てしまうレオナルド。


普段なら愛想は良くないものの、もう少し丁寧な口調で話をするレオナルドだが、ロベルトから教会の話を聞いているため警戒心を顕にし、雑な口調で応対してしまっている。


「ふふ。やっぱり警戒しますよね?

教会(ウチ)がバタバタしてるのも有名ですしね。

いいな、アランは。良い友達がいて……。」



―――なるほど。今のやり取りで少なくとも俺がソフィア嬢、引いては教会を警戒しているのがバレてしまったか……。


……いや、駄目だろ!?

どうして俺はこう隠し事が下手なんだ……。


仕方ない。もうぶっちゃけるか。



「そうだな。何やら剣呑な雰囲気で君とアルを監視している教会関係者を見かけてな。

アイツをどんな面倒事に巻き込むつもりだ?」


腹を括って疑いを隠さずにソフィアを睨みつけるレオナルド。


「流石、黒雷の獅子ですね……。

正直に申し上げるなら、私はアランに教会に帰ってきて欲しいのです。」


「教会に、帰る?」


「元々アランは我々ユグドラシル教会が運営する孤児院の出です。今も孤児院に住んでいる言わば教会関係者。公爵家騎士団ではなく、聖堂騎士団に入るべき存在です。」


なるほどな、とレオナルドは内心納得する。


ソフィアの内心や教会全体の思惑はさておき、

言っている理屈は理解出来る。


確かに横紙破りをしたのは公爵家だろう。


しかし―――。



「言わんとする事は分かるが、アイツ絶対教会の事なんか理解してないぞ? なんかデッカイ木を信仰してるとかそんな理解レベルだ。」


実際、昔教会の話題になった時にアランがレオナルドに言っていた言葉だ。


そんな子どもレベルの浅い理解しかしていないアランを聖堂騎士団に入れるのは無茶ではないだろうか?


レオナルドの率直な感想だ。



「お、概ね合ってます!」


「……お前(聖女)がそれを言い切っていいのか?」


「わ、私だって日曜日のミサは説法よりその後に貰えるお菓子の方が楽しみですし、たまにやる儀式とかダルいなぁとか思います!」


ふんすと鼻息を鳴らして何だかよく分からない事を自慢するソフィア。


「うん。そうなのか……。えっと、大変だな?

あー、まぁウチの国は信仰の自由があるからそこは良いとしても、既にアイツは準貴族としてウチの騎士団に入団している。」


「だからそこを何とか!」


「俺も詳しい訳ではないが、貴族法だと公的な武装機関に属している貴族の転属は基本的に不可だったはずだ。」


「そこはホラ! 聖堂騎士団って公的機関じゃないからOKじゃないです? 良くいえば私設軍、悪く言えば非公式武装勢力ですし!」


「うん。それはほぼテロリストと同意義なんだよな。って言うか、皆がグレーなのを分かってて黙っている事を大きな声で言うな……。」


目頭を抑え、俯くレオナルド。



―――何だ。この女……。


馬鹿ではないのだろうが、純粋と言うか空気が読めないと言うか、常識がないと言うか……。


一言で言うなら箱入り娘か。


俺も箱入りの自覚はあるが、それより酷いな。



「まぁアルの奴とは話が合いそうか……。」


「え、えぇ!? そ、そんな!お似合いだなんては、恥ずかしいです!」


顔を真っ赤にしてクネクネと恥ずかしがるソフィア。


ここ半年、昔に比べてかなり落ち着いた性格になっていたレオナルドだが、ソフィアの反応についイラっとしてしまう。



「……結局の所、お前の目的は何だ?」


思わず怒気を纏った視線でソフィアを睨みつける。


ソフィアはそんなレオナルドの視線を涼しげに受け流し、微笑む。



「私達教会の目的はただ1つ―――。

世界崩壊の、基幹的破滅カーディナル・クライシスの回避。

他種族迎合派(私達)人間族至上主義(俗世に塗れた教皇達)もそこだけは変わらない。」


ゾクリとレオナルドの背中が震える。


ソフィアの雰囲気が先程までとは全く違う。

まるで別人のような無機質な瞳。



「お前は―――」


「レーオーナールード様っ! 見てください!

この完璧なチョイス! ささ! どうぞ渇きを癒して下さい!」


満面の笑みで4人分の飲み物を持ったウラギリスの声が響く。



「ふふ。今日はこの辺でお終いにしましょう。

……また会いに来ます。」


そう言い残し、大地の聖女ソフィアが踵を返す。


雑踏に消えるソフィアの背中をレオナルドはいつまでも睨みつけていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


続きを読んでいただけそうでしたら、

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