お父様と小旅行
ヴァリエント王国の街道は道幅が広くとられた
石やレンガ、そしてセメントで固められた舗装道路だ。
馬車用と歩行者用を分けた道路設計になっており、馬車用は片道3車線の大型道路。
そんな整備された舗装道路が各主要都市を繋いでいる。
中世世界にあるまじき近代的な都市設備だが、
当然犯人は私である。
大戦で荒らされまくった国土の復興ついでに巨額の予算を投じて整備した主要幹線道路だ。
徒歩であれ馬であれ、整備された道とそうでない道では速度が変わる。
それは当然、各都市の流通、ひいては国の経済に影響が出る重要な要素だ。
前世の日本では癒着やらの温床として何やかんやと槍玉に上げられるが、やはり道路は国の動脈なのは間違いない。
そんな整備された街道をガタゴトと車体を揺らしながら、不格好な車が進んでいく。
公爵領から王都へ。
約200kmの道程だ。
車のデザインモチーフはフォードのモデルT 。
箱馬車を車にした様なシルエットのセンター
ドアセダンだ。
1900年代初頭のクラシックカーだな。
「お、お父様!? こ、この馬車めちゃくちゃ早くないですか?」
運転する私の横で青い顔をしたエドワードがシートの端を掴んで訴えかけてくる。
「エドワード。これは馬車ではなく魔導車だ。
速度は60km程だからそうでもないぞ?」
フロントパネルに設置されたアナログメーターの速度を伝える。
ぶっちゃけ『赤眼』で走る方が圧倒的に早い。
しかし、馬車で1週間かける王都までの道程を僅か5時間に短縮出来るチートアイテムだ。
ちなみに構造はガソリン車と言うよりEV車。
つまりはでっかいミニ四駆だ。
電気の代わりに魔力を使い、速度調整にスライダック制御、つまりは水道の蛇口みたいなものを付けて弁の開け閉めで魔力の量と速度を調整している。
「そ、それでもこの速度、馬車とは比べ物になりませんね……! これはとんでもない発明なのでは……?」
シートに捕まりながらも驚くエドワード。
うむ。やはり勘所は悪くない。
まだ中学生位でこの発言、やはりウチの子は天才なのではないだろうか?
「そうだな。戦争や商売、どんな事でも速度とは重要な要素だ。これでまた我が国は飛躍的に発展するだろう。」
我が子の発言に気を良くしながら、魔導車の速度を上げる。
窓から見える牧歌的な風景が流れる様に過ぎ去って行く。
まだ王都まで距離はあるからか、街道の往来は皆無。気兼ねなく速度を上げれる。
しかし、魔導車が往来するようになれば車専用道路の建設は必要だろうな……。
馬車の速度はせいぜい時速5kmや10km程度。
今のままだと歩道に車が走るようなものだ。
「ふーん。なかなか静音性もあって良いんじゃない? 私としては内燃機構の方が車って感じがして好きなんだけど……。」
つまらなさそうな顔をして後部座席でシャル君が口を尖らせる。
「まぁロマンは理解するがね。エンジンを再現するにはまだまだ我が国は技術不足だ。冶金技術に各種燃料の開発。まぁ色々これからさ。」
さっきから彼女はずっとこの態度だ。
シャル君が拗ねているのは、運転をしたがっていた彼女に私が許可を出さなかったからだ。
何故ならどう考えても彼女はスピード狂だ。
私としては販売して間もない魔導車の耐久テストをする気はない。
「……商売でも速度が重要なのは何となく分かりますが、やはり流通の面でしょうか?」
拗ねるシャル君をスルーしてエドワードが尋ねてくる。
段々とシャル君の扱いに慣れてきた様だ。
「そうだな。それもあるし商談の速度も上がるだろう。まさに今の我々が良い例だ。」
そう。何故我々が王都に向かっているか? という話である。
我々の目的はユグドラシル教会の教皇と話をしに行くことだ。
何だか色々面倒くさそうな組織である教会の頬を札束、いや、この場合は金貨の詰まった袋でぶん殴る為である。
拝金主義の破戒僧である現教皇は涙を流しながらもう片方の頬を差し出してくるだろう。
そんな教皇なのだが、実はユグドラシル教会の総本山は王国南部にある。
つまり、めちゃくちゃ遠いのだ……。
普通に馬車で行けば1ヶ月近くかかる道程。
私自身忙しい身の上だ。
とてもではないが、そこまで時間は取れない。
さらに、護衛であるウチの騎士団も現役当主揃いのややこしい組織。
残念ながら今すぐ動ける部隊がいなかった。
しかも今回はエドワードとシャル君という足でまとい付き。
以前、ウィンドブルムに行った時のようにおんぶに抱っこ方式はちょっと厳しい。
そこで今回使ったのが、この魔導車という訳である。
取り敢えず今日は車で王都まで向かい、そこから王都に滞在している騎士団の連中と合流するという寸法だ。
現在王都にはレオナルドとアラン君を鍛えるべくE隊とF隊が在留している。
奴等と南部を目指す予定である。
……奴等を呼び付ければいいとベスからは言われたが、私だって息子と2人旅(コブ付き)をしたかったのだ。
そこは私のワガママで押し切った形だ。
「実際、ビジネスにおいて速度は大事よねぇ。取り敢えず、ご挨拶からとか眠たい事言う営業マンの多い事多い事! 商談で見積もり出て来るのに2週間とかザラでさ。ご挨拶する暇あるならさっさと見積もりよこせってーの!」
「……なかなか実感の籠った意見だな。」
前世の記憶というのもあるだろうが、案外今世の経験かもしれないな。
この世界の商流は貧弱だからな……。
シャル君とてウチのアパレル部門の部門長だ。
この半年で色々と商談をこなしている。
「何と言うか、お局様みたいだな……。」
「オツボネサマ? なんですか?」
私の呟きを拾ったエドワードが不思議そうな顔をする。
「あー、何と言うか……、長く仕事をしている女性の事でな。周りに厳しい態度を―――。」
「誰が口うるさい行き遅れのお局ババアよ!? 買うわよ!その喧嘩! 雇い主とか身分とか関係ないからねっ!」
「誰もそこまで言っとらん。 それにまだ君は10歳だろうに……。」
「最近、家にいるとお母さんがたまに婚約とか言ってくるのよ……。お母さん自身、別に貴族に未練はないらしいんだけど、なんて言うか感覚が貴族なのよね……。貴女の年齢で婚約者がいるのは普通だって。 ニコニコ笑顔でプレッシャーかけてくるのよ……。」
何やら疲れた顔をしたシャル君。
あー、うん。
シャル君のお母さんか……。
何回か会ったことがあるが、何と言うか良くも悪くも箱入り娘がそのまま大きくなったような印象だな。さもありなん。
お父さんの方は今はウチの領地で商工会の顔役をしているのでよく会うのだが、地に足つけたやり手の商売人であり職人だ。
シャル君は見た目はお母さん似だが、中身はお父さんに似ている印象だ。
しかし、私も言動や考え方が父親に似ていると言われてきたが、前世持ちの私達の性格が親に似ているのは何故なんだろう?
明後日の方向に思考が飛んだ私をよそに、シャル君とエドワードが騒ぐ。
「私としても興味がない訳じゃないのよ?
でもさでもさ、いきなりそんな事言われても困るっていうかさ。今の仕事も楽しいし、これから色々拡大していく大事な時じゃん?
そんな事にかまけてられないって言うかさ!
エドも分かってくれるでしょ?」
「分かった! 分かったから顔を近付けるな!
お前は何でそんなに近付いてくるんだ!?」
後部座席から乗り出し、口調とは裏腹に楽しそうな顔をしたシャル君がエドワードに絡む。
……エドワードは完全にからかわれているな。




