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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と思春期長男の一日 放課後編

「お父様! 少しお時間を頂きたい!」



会議がようやく落ち着いたその日の夕方。


それは執務室で色々と緊急の報告を聞いていた時の事だった。


バン!と私の部屋の執務室を開けてレオナルドが乗り込んで来た。



……え、レオナルド?

君、学校どうしたの?


ここフィンスター=ヘレオール領の本家なんですけど?


王都から何百km離れてると思ってんの?




「レオナルド。ここは御館様の執務室。

息子とはいえ流石に無礼。猛省するべき。」


息子がグレた!?と戦慄する私を他所に、その長い足を組み換え、私の目の前に座る妙齢の女性がレオナルドに苦言を呈する。



「やはりルーシーはお前だったか……。

『貌なし』……!」


ブスっとした顔で貌なしを睨みつける

レオナルド。


―――あぁ、なるほど。

何となく状況が見えてきた。


「流石。……と言いたい所だけど、顔はほとんど変えてないんだからもうちょっと早く気付いても良かった。少し残念。」


クスクスと紫水晶の様な瞳を細くし、長い青髪の毛先を弄る貌なし。


その姿はまさに年齢不詳の妖艶な美女だ。



「『逆巻け、時間水流(タイムフロウ)』」



コポポっと音を立てて現れた水が彼女を覆うと、中から背の低い少女が現れた。


「私の実年齢からルーシーの年齢まで若くなるのは実は結構大変。顔を変える余力がない。

私もまだ未熟。」


ルーシー―――、メリザンド子爵令嬢は彼女の持ついくつもの(カバー先)の1つだ。



いくつもの貌を使い分ける潜入のプロ集団。

潜入工作部隊(ディープカバーネスト)D隊(デルタ)


そして彼女こそがその隊長。


『貌なし』、『無貌の使徒』。いくつもの貌を使い分ける年齢・経歴全てが不詳の女。


公式名称ルシンダ・メリクリウス・フォン・

アランソン侯爵である。



この名前も地位も数ある彼女の貌のひとつに過ぎない。


だから仲間内では貌なしと呼ばれている。


どこにでも居て、どこにも居ない。


まるでチャシャ猫のような魔女である。



「珍しいな。君が潜入捜査中に正体をばらすなんて……。」


「仕方ない。色々あって若様と情報共有をするべきと判断した。


後、シタッパーノの倅にバレかけた。

隠しても隠しきれない私の溢れ出る高貴な

オーラが仇になるとは……。」


シタッパーノ? ああ、あの変な伯爵家か……。


下っ端道とか訳の分からん戯言を言いつつも、

微妙に有能だから扱いに困っている家だ。


そう言えばレオナルドの取り巻きをやっていたとか何とか前に聞いたな。



「あぁ、今朝の登校中の時か……。

そのうちシタッパーノの家系は余計な事に

気付いて消されそうだな。」


合点がいったのか、レオナルドが納得する。


「無用な心配だな。その程度で消される奴は

シタッパーノを名乗れん。


アイツらは大戦の時、部隊に潜り込んだ魔族を尽く見破って現在まで生き延びている。」



それだけなら有能な奴という評価をくだすが、

如何せん、貌なしの様な我が家の諜報員も

持ち前の空気の読めなさで見破ってくるから

本当にやり難い。


しかも毎回本気で怒る手前で止めるので怒るに怒れない。


もういっそわざとやってるんじゃないだろうかと思うのだが、残念ながら奴らは天然だ。


……この国には変な奴しかいないのか?




「―――まぁあの厄介者共の事はいい。

それで? 今日はどうした? レオナルド。」


「はい。 本日、アルの奴が聖女から接触を受けました。教会関係者も動いている様子でしたので急ぎご報告に来たのですが……。

少し遅かったようですね……。」


チラリと貌なしを見るレオナルド。


「当然。目の付け所は合ってるし、報告の速度も中々。でも、流石にまだ負けてあげない。」


無表情にVサインをするルーシー。

こら。息子を煽るな。



「うむ、ご苦労だったな。レオナルド。

折角来たんだ、話を聞いて行きなさい。」


「は、はい。」


執務室に備え付けのソファに座るように促す。

少し緊張した面持ちで腰掛けるレオナルド。



「さて。ユグドラシル教の件だな……。」



教会に所属している聖女を何故か警戒している様子の教会関係者。


確かに妙な話だ。



ユグドラシル教―――。


正式名称、神聖ユグドラシル教会。



名前の通り、ファンタジー作品で高確率で出てくる何だかでっかい木、ユグドラシル。


世界樹とか宇宙樹とか言われる巨木を崇め奉る宗教である。



ちなみに、残念ながらこの世界にはそんなデカい木は存在しない。


元ネタの北欧神話よろしく、世界樹の葉っぱに乗っているのがこの世界であり、全ての世界の根源たる世界樹を崇めるとかそんな教義だったはずだ。



そう考えると、前世の世界も今世の世界も世界樹なるファンタジー樹木の上に乗ってる平行世界と考えれば、私やシャル君の前世の記憶も説明出来るのか?


ううむ。分からん……。



ともあれ、原作では教会関係者はたまーに出て来て、意味ありげな事を言うだけの舞台装置だった。


シャル君曰くは乙女ゲーの方だと教会ルートがあったそうだが……。


あの女、ホントに設定とかストーリーを流し読みしかしてないから詳細は不明だ。


何か教会が派閥やらでゴタゴタしてたとかその程度の情報しかない。



「国として、公爵家としては基本的には見だ。

敵対する理由がない限りはこちらから攻撃することは出来ん。」


「……御館様平和ボケ?」


「お前が殺伐とし過ぎてるんだ……。

この国の4割近くはユグドラシル教の信者だ。

理由もなく直接的な事をすれば、間違いなく

内乱になるぞ?


それに国として信仰の自由を謳っている以上、私の気分で排除なんて出来んし、道義的にも

してはならん。」



原作ゲームでは空気だった組織だが、原作ブレイクをしてしまったこの世界ではまた違った動きをする可能性はある。


しかし、ちょっと怪しい気がするなんて理由で気軽に殲滅なんかできる訳がない。



「―――ま、やるなら諜報活動までだな。」



その言葉を待っていたと言わんばかりに、

ニヤリと笑う貌なし。



「任せて。教会にも何人か潜ませている。

情報を集めさせる。」


「え、えっと、オレはどうすれば……?」



何かしら役には立ちたいが、何をすればいいのか分からず不安そうな顔をするレオナルド。


うーむ。レオナルドは性格的にこの手の暗躍が苦手なんだよなぁ。


箱入りというのもあるだろうが、基本的に正面からの正々堂々としたやり方を好む。


しかし、何もさせないのも可哀想か……。


あぁ、そうだ。

ちょっと気になっている事があった。



「レオナルド。お前は学園で聖女の動向を調べてくれないか?」


「聖女の……!」


「ああ。教会の思惑は今から調査する。

しかし、聖女がアラン君に接触したというのはどんな理由があるにしろ不自然だ。」



「………………ん?」


「………………お父様?」


不思議な顔をして私を見てくる二人。



「いやいや、明らかにおかしいだろう?

どんな理由があるかは知らんが、聖女が警戒される何かしらの理由があるとしてだ。


そんな彼女が人目をはばからず何故かアラン君に接触したんだ。そこに何か今回の疑念を紐解く切っ掛けが―――。」


「納得。若様が朴念仁なのは親譲り。」


「えっと、お父様。どうやら聖女はアルの事が好きらしいのです……。」



「…………は?」



私が結婚したのが戦時中、20歳の時だ。


ベス以外と付き合った事はないし、何ならベスともすぐに結婚したので恋人同士だった期間はそんなに長くない。


前世を含めても私自身、色恋沙汰とはあまり縁のない方だった。


その発想はなかった……。


いや、よく考えれば原作ゲームで聖女ソフィアは確かにヒロインの1人だったのだ。


やはり私が朴念仁だっただけか……。



「……そうなると今回の話は、聖女の色恋沙汰を教会が気にしてピリピリしているだけじゃあないのか?


聖女は教会の象徴。そして聖女と言うのだから処女性は重要な要素だろう?」


「同意。しかし、それだけでは説明のつかない警戒度だった。」


「ええ。ルーシーの言う通りです。」


そうかなぁ?

要は厄介オタみたいなモンだろう?

そんなもんじゃないか?



「―――小娘の恋愛にいい大人が振り回されている感じはするが……まぁ、身内のアラン君が巻き込まれている以上、実情調査はしておいて損はないだろう。


ジュリアとシャル君の件もあるから、公爵家として教会を警戒するのは当然だしな。」



疑問を覚えるのは確かだが、二人の感覚を否定する気もない私は取り敢えずの沙汰を出す。



「承知しました。お父様。」


「了解。しかし、恋愛感情でいい大人を振り回していた御館様がそんな事を言うのは滑稽。」


「…………おい。」


「どういう事だ? ルーシー。」



貌なしの放言に興味を示すレオナルド。



「大戦時、呪いに掛けられた奥様を助ける為、御館様は魔族の拠点に突っ込んだ。

必死に止めた私達を無視してほぼ単独で。」


「エルランザ砦防衛戦! 旧ヘレオール家にかけられた呪いを解いた時か!」


ばか! 子どもの前で何を言いやがる!?


「あの時御館様は、『俺はこれ以上ベスを泣かせるつもりはない。』とか青臭い事を言って

軍規を無視して駆け出した。あの時、リロイがいなければ普通に死んでいた。」


「ちょっ……! やめろ!」


キラキラした目で話を聞くレオナルドに

私の声真似までし出す貌なし。


この年齢不詳のババアは私が子どもの頃から

こんな感じなのだ。



「……誰がババアだ糞ガキ。


若様、その後の軍法会議でも御館様は大人達に中々青臭いセリフを言っていた。

『惚れた女を見殺しにする事が大人のやる事なら俺は子どものままでいい―――』」


「やめろ! 私が悪かったから!」



情け容赦なく語られる私の若き日の恥ずかしいメモリー。


あの頃は私も子どもだったのだ……。


くそ……! そんなに私の考えは分かりやすいのだろうか?

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