お父様と覚醒者
四死天。
それは大戦の時に活躍した魔族側の英雄であり、原作であるブレイブブレイドにおいて、分かりやすい敵役である。
見た目も分かりやすい。
マッチョとショタとクール系と紅一点。
実にオーソドックスな敵側幹部である。
マッチョは春先に倒した結界使い。ショタは夏に倒した死霊術使い。
残るクール系はリーダーポジなので出張ってくるのは当然――――。
「ふぅん。アンタが黒輝の死神かい。戦場では結局あんた達『黒鍵』とは顔を合わせることがなかったからね。勝敗に拘らなくていいなんてつまらない任務だと思っていたが、中々楽しめそうな奴がいるじゃないか!」
額から立派な二本の角を生やした女傑が通路の真ん中で仁王立ちをしていた。
教会に攻め入った魔族を迎撃すべくヴァーリ達E隊と連携し、まるで城の様な豪華な作りの教会の通路を進む。
探査魔法で発見された敵は三手に別れて教会に侵入してきてる。
こちらも三手に別れて迎撃に向かったのだが、どうやら私が外れ――――ヴァーリ風に言うなら当たりだった様だ。
しかし、まぁ彼女がいるのは予想通りなのだが……これはいいのだろうか……?
何かもう薄らと答えを言ってるんだが?
彼女は魔族の中でも鬼人族と言われる氏族だ。
身長二メートルを超える高身長にまるで丸太の様な太い腕。
戦う事が心底大好きと言わんばかりの好戦的な笑顔を浮かべている。
「先に教えといてやる! アタイは鬼人族のアシュラ! 『鬼神』アシュラだ! アタイは鬼人族の『覚醒者』 でね、普通の鬼人族とは段違いの頑強さをもっている! アンタお得意の射出魔法は効かないよ!」
実に正々堂々と自分の力を教えてくれる彼女だが、そんなことは当然分かっている。
原作ゲームにも出てきたしな。
鬼人族の覚醒者の特徴はその赤銅色の肌。
私が開発した赤い魔力、臨界魔力が身体に馴染んでいる状態と言えばイメージが近いだろうか?
要は私の『赤眼武神』状態を常時展開している様なものだ。
素の身体能力も私より高そうだし、しかも大魔法や超位魔法が使い難い室内戦。
まぁどう考えても強敵だろうな。
しかし、それよりもだ……。
「――ふむ。その様子だと、やはり君達はテロ行為以外の目的があると言うことか。いや、正確に言うならば戦う事自体が目的であり、勝敗は別に重要視していない、と言うことだな?」
「ハハッ! そうさ! リーダーの奴がそんな事を言っていたが、アタイは強い奴と戦えればどうでもいい話さ! 」
「ほぉ……。やはりこの国で戦いを起こし、血と魔力を振り撒く事が君達の目的だったと言う訳か……何か大きな儀式魔法をするつもり、と言う事かな?」
「まぁ大体そんな感じじゃね? アタイには関係ない話だがね」
私の言葉に同意するアシュラ女史。
……うん。覚醒者なんてこんなもんだ。
ウチのガルダがいい例だ。
この世界では覚醒者は神と謳われる程強い。
しかし、基本的に馬鹿……もとい、難しい事は気にしなくなる。
鬼人族もその典型で、その身体能力や凶暴性、戦闘能力が著しく上がる代わりに小難しい理論は一切気にしないらしい。
神とは我々下々の些事など気にもとめないものだ。
「なるほど……。ちなみに今回の作戦立案者は君達四死天のリーダーだよな。彼から口止めはされてなかったのか?」
「お、よく知ってんな! そうだぜ! アイツはめっちゃ頭良いんだ! 口止めは……どうだったかな? あれ? これ言っちゃダメなやつ? 」
覚醒者って何だか凄そうな存在っぽいけど、中身はホントこんなもんだよ……。
こいつらに機密情報を教えると何にも考えずに口を滑らすんだ。
「あ、あれ? な、なぁこれやっぱり駄目なヤツか!?」
思わず呆れた顔をしてしまった私の顔を見て、何やらマズイことを言ったのだと気付いたのだろう。
アシュラ女史が慌てだす。
「安心したまえ、どうせ私達も薄々は掴んでいた情報だ」
「だよな! それに今からアンタらを蹴散らせば関係ないしな!」
そう言うやいなや 、アシュラ女史の身体が二周りはバンプアップし、瞬きの間に私の目の前に移動する。
早いっ!
真っ赤な魔力を纏った拳が繰り出される。
これ当たったら障壁越しでも死ぬな……。
そう判断した私は即座に後ろに飛ぶ。
当然、『赤眼武神』。出力は全開だ。
まるで台風の様な風が廊下に吹き荒れる。
単なる拳の衝撃でこれか!
ヴォンっとアシュラ女史を取り囲む様に六枚の魔方陣が空中に浮かび上がる。
「――私の『黒の弾丸』をどこまで耐えられるか試してみよう」
ヴォオォオオォオオオオン っとまるで獣の咆哮の様な音を上げ、 魔力で生成された20mm口径のガトリング弾 が彼女を襲う。
「ぐぅっ!?」
咄嗟に顔を守り、全身の魔力を張り巡らせてガードするアシュラ女史。
おぉ! 恐ろしい耐久性だ……!
全方位から打ち込まれる弾丸を全て弾き返している。
ただの身体強化じゃあないな……。
私の弾丸は、あえて物質でありエネルギー体でもある中途半端な状態にして射手している。
物理と魔力、どちらに対しても強い耐久性がないと防げない代物だ。
「覚醒者とは何人か戦った事があるが、私の弾丸を真正面から受け止められたのはちょっと記憶にないな……。」
毎分六〇〇〇発。
それを計六門だ。大抵の生物なら掠っただけで細切れになる威力である。
それを真正面から受けて形を保ち、あまつさえ闘志漲る目でこちらを睨んで来るとか正直有り得ない。
生物としての自覚をもっと持って欲しい……。
しかし、流石の覚醒者たるアシュラ女史も防御で手一杯なのだろう。一歩も動けないまま亀のように固まっている。
「はん! アタイの身体強化を舐めんじゃないよ! こんな貧弱な攻撃、どれだけやっても効きやしないさ!」
「ふむ? まぁ私としてはそれでもいいがね。試しに数日ほどこのままにしてみるか?」
「――――!?」
私の発言に驚くアシュラ女史。
ふふん。耐えれるにしても、やはりそれなりに無理をしている様だな。
「何を驚いている? これは対軍魔法だぞ。
軍隊を相手にする為には、威力や攻撃範囲威、そして何より持久力が大事だろう」
……ちょっと見栄を張った。
流石に二、三日は無理だ。多分、一日かそこらなら何とかいける……かな?
「ちっ! この根暗野郎が! やってみろ! 一週間でも二週間でも耐えてやんよ!」
私の挑発に乗ったアシュラ女史が腰を深く落とし、グッと全身に力を込めてより強固な防御態勢をとる。
うん。やはり『覚醒者』は素直でやりやすい。
「……まぁそこまで時間をかける気はないがね」
バチッと魔力が地面を駆け抜け、アシュラ女史の足元に転がる大量の弾丸に魔力の経路を通し、弾丸の形状を変化させる。
私の自慢は転生直後から鍛えに鍛えたこの魔力制御能力だ。
一瞬のうちにアシュラ女史を金属の箱が覆いつくす。
「…………! …………⁉ …………‼」
うん。何を言っているのかさっぱりわからん。
厚さは百ミリくらいか?
当然こんな箱程度、彼女なら簡単に引きちぎるだろうが銃撃は継続中だ。
動きたくても動けない。
『覚醒者』はその膨大な魔力故に肉体の組成すら変化させた上位種である。
しかし、だ。一応は生物である事には変わりがない。
なので他の生物と同じく、目で見て、耳で聞き、口で息だってする。
――――放置する事、数分。
金属の箱を解除すると、中で反響しまくった銃撃音と酸欠でグロッキーになったアシュラ女史が倒れていた。




