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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と戦況

教皇の執務室。


部屋の主である教皇を追い出し、私は執務室に備え付けられた豪華な椅子に腰かける。


目の前には貌なしの術式である複数の水鏡が浮かびあがり、その画面の中ではガルダ達に運ばれたF隊とE隊が各地で暴れている様子が映っている。


気分はどこぞのサングラスをかけた髭の司令官気分だが、内心はてんやわんやだ。



え、何あいつら。めちゃくちゃやってるんだけど……?


手前味噌な話だが、うちの騎士団は強い。


フィンスター=ヘレオール家の家紋である交差する黒鍵の紋章になぞらえて、戦線をこじ開け、打開する黒鍵騎士団なんて言われる程だ。



「でもこれはやりすぎじゃね……?」


思わず素の口調で独り言が口からこぼれる。


画面の中ではテロリストの集団が瞬く間に切り裂かれたり、炎に焼き尽くされたりしている。空からはガルダの子ども達が駄目押しに爆裂魔法の雨を降らせている。


久々に魔法をぶっ放せるからか、トニーも大暴れだ。


もう画面の映像はスプラッタだ。

リアル指向の戦争映画でももう少し配慮していると思う。

あ、これマジモンの戦争だったわ。

エドワード達を別室に退避させていて良かった……。



「……これ、民間人の被害とか考えてるのか?」


正直あまり答えは聞きたくない。

しかし、立場上それから目を逸らす訳にはいかず、何故か副官ポジに立っている貌なしに尋ねる。


「勿論。既にD隊が先行して民間人の誘導を行っている。先行して場を整えるのが私達の仕事だからね」


「そうか……安心したよ。流石に目覚めが悪いどころの騒ぎじゃあないからな。建物や施設の補填は国庫から何とかしよう」


何なら私も協力してもいいし、あのジジイも貯め込んでいるだろうし、この程度の被害なら何とでも――――。



状況を映し出している水鏡の一つに領主屋敷を吹っ飛ばした所が映し出される。

中々の高解像度の映像で綺麗に装飾された壁や柱が粉々になっていく様が見えた。


「あれはザンダネル侯爵家の屋敷。侯爵は美術愛好家としても有名。特に自分の屋敷はかなり心血を注いで建てたのは有名な話」


「……うん。まぁ掘っ立て小屋でも仕事は出来るよな。」



一部の被害は棚上げするとして、状況の推移は悪くない。

いや、攻め込まれた状況から考えればかなりいい状況ですらある。


しかし、ここで私の胸中に疑問がよぎる。



「……なぁ、敵が弱すぎないか?」


確かに私達は強い。

なんせ構成員全員が二つ名持ちの英雄なのだ。


しかも今回投入しているのが、戦闘特化のE隊とF隊、その上ウチの隠し玉であるB隊の上澄み、ガルダとその息子達である。


どんな戦況でも確実に戦果を出せるだろう。


しかし、現状での戦果が大き過ぎる気がする。



「貌なし。被害状況は分かるか?」


「数は不明。でも、民間人に多数の死傷者が出ている。流石にあの状況からだとどうしても被害は――――」


「違う。我々の被害だ」


この状況で民間人の被害が出ないわけがない。

それは致し方がない。


「……現状は確認出来ない? なんで?」



各地に飛ばした分身体から情報を共有しているのだろう。

眉をひそめて貌なしが呟く。


妙な話だ。


確かに私の仲間達は歴戦の猛者だ。弱兵などただの一人もいない。


しかし、それとは裏腹に絶対に被害は出る。

出ない方がおかしい。


なんせ相手も必死なのだ。

ことわざ通り、追い詰められた鼠はは必ず牙をむく。


これは何かある……。


そう思い至り、改めて戦地の映像を見るとすぐに違和感に気付いた。



「敵の練度が低いな。これでは街のチンピラだ」


魔族である時点で人間より強いのは当たり前なのだが、その動きはまるで素人。

連携が取れていないのは大戦の頃からの魔族軍の特徴だが、それを加味しても酷い有様だ。



「オディマの懐事情的に仕方がない、と考えていたけど……」


貌なしが訝し気に応える。



確かに頷ける理由だ。

所詮あいつらは非合法の武装組織。


どれだけ思想や理念がご立派でも人はパンがないと生きてはいけない。


人の確保が難しかったり訓練させる予算が確保できない等有り得る話だろう。


しかし、だ。



「兵が弱いなら弱いなりに戦い方があるはずだろう?」


「……確かに。だから奇襲作戦ばかりなのでは?」


「そんな事はやって当然の戦術だ。それに対応される事もな。……盤をひっくり返す何か。それが戦略というものだろう?」



じゃあそれが何だと聞かれても答えがないのがたまにキズな私の発言を聞いて押し黙る貌なし。


ドアがノックされたのは、そんな時だった。


入室の許可を出すと、ドアの向こうには何やら複雑な顔をしたエドワードが立っていた。



――――――――

――――

――



エドワードの話を聞き終え、私は頭痛を噛みしめる様にこめかみを揉む。


いや、様にではないな。

実際に頭が痛い。


あの教皇の意見と言うのが気に入らないが、実に正しい意見だと思う。


……と言うより私が気付いて然るべきだった。


戦力の逐次投入が悪手なのだと、戦地で身を持って知ったじゃないか……。


相手がそれに気付かない程の愚か者か?


いや、違う。


戦後15年、ひたすら爪を研ぎ続けた狂人にそれを期待する方が愚かなのだ。



「お、お父様……?」


突然しかめっ面で黙り込んだ父親を心配してくれているのだろう。

心配そうな顔をしたエドワードが声を掛けてくる。


「すまん。少し考え事をな……。よく教えてくれたな。助かる」


「い、いえ。僕は何も……。や、やっぱり魔族達の動きに裏はありそうなのですか?」


「ありえるな。例えばこの国全土を一つの魔方陣に見立てた儀式魔法……。今までの戦い全てがその儀式の為の生贄、とかな」



前世で見た漫画や小説のファンタジー作品でなら有り触れた戦略だ。


何か大きな儀式の生贄の為に戦争を起こす。

実は大量の死体やら憎悪やら流血やらを振りまくのが目的だったと言うやつだ。


何せこの国の北部は先の大戦で血塗れ。

中央も南部もこの半年で血が流れた。


確かに我が国の国土は血に溺れているだろう。


そう考えれば、王都の騒ぎも何となく見えてくる物がある。


黒い世界樹――――。



アラン君が焼き尽くした辺りまでしか見ていないが、あれこそが儀式の中心だったんじゃないか?


……分からん。

正直、この手の儀式魔法は私が得意な射出系魔法と勝手が違う。


「そ、そういえば、戦時中にお母様のヘレオール公爵家も魔族の呪いに掛けられたとか……」


「そうだ。魔族達は当時の防衛の要だったヘレオール公爵家に生贄を使った呪詛魔法を発動させた。魔力を使えば使うほど、寿命が縮むという呪いでな。解呪が間に合った頃にはもうどうしようもない状態だった……」



あの呪いの悪辣な所は、呪いではなくバフ扱いな所だ。


強制的に生命力を魔力に変換、威力を増大させるという効果だった。

だから魔法的防御をすり抜けて強制的に対象者に刻み込まれた。


生き残る為には魔法を使わないという選択肢しかなかったのだが、当時はヘレオール公爵家が抜けるという事は敗戦する事と同義だった。


だから、ベスの父親はベスを強制的に戦線から離脱させ、私に全てを託したのだ。


あの時のベスの激昂ぶりは本当にヤバかったな……。

暴れるベスをあの親父さんが殴って気絶させて昏睡魔法をかけて後送迭させたんだ。


ともあれ、あの時の様な邪法を使う可能性はかなり高い――――。




突如、ドガァンと爆発音が響き渡る。



「――――貌なし! 状況報告!」


反射的に指示を出す。


「報告。状況から設置式の爆発魔法と断定。 同時に教会内の監視魔法がジャミングされた。恐らく上位魔族、英雄クラスが入り込んでいると予測される!」


なるほど、一応やる事はやっているらしいな。


恐らく四死天、オディマの幹部クラスか……。



「私が出る。貌なしはここの守備と全体の指揮を、ヴァーリは私の補助だ」


コキリと首を鳴らして立ち上がる。



――――さて。幹部なら何かしら情報を引き出せるだろう。答え合わせと行こうか。

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