第1960話 最後に輝く双子の世界
ハルたちの拠点世界、その外周の平野が、次々と<火>と<風>の属性世界へと変貌していく。
同盟者であるベルとベラからは既に領地操作の権利を委譲してもらっているハル。その面積の割り当ては、ハルの意志ひとつだ。
レーヴァの世界独楽の回転に合わせてハルは極小分割世界を現出させつつ、二属性の世界も同時に割り当てる。
常人なら確実に手が足りぬその煩雑すぎる作業を、ハルは流れるように的確に、そして猛スピードでこなしていった。
「ウィスト。攻撃は?」
「《遠隔砲撃を既に開始している。狙いは、今はつける必要もないな》」
「ならここからは少し狙いをつけてもらうぞ。例の特殊弾頭を装填。使い切る勢いで良い。思いっきり叩き込め」
「《フン。承知した。せっかくの切り札だ。もっと出し惜しみしたいところではあるがな》」
「……いいんだよ。必殺技なんて初手から叩き込んでなんぼだろ。それに、切り札なら他にもいくらでもあるだろお前?」
「《当然だ》」
ハルの指示により、兵器開発部門のリーダーであるウィストが砲撃魔道具にある特殊な弾丸を込めていく。
それは弾丸自体が非常に複雑な魔道具となっており、着弾地点にとある効果を齎す物だった。
今もモンスターの群れに向け雨あられと降り注ぐ弾幕に混じり、その一発だけは神の計算力による完璧な軌道計算の末に射出された。
その魔弾が狙うは敵モンスター、ではなく、ハルが配置した二種の属性世界。
酸素に関する物理法則が二重に乱れる世界の溶け合う境界に、弾丸は空から完璧に着弾。その魔道具効果をすぐさま解放した。
「《フッ。食らうがいい、これが『世界融合砲』だ》」
「はは! 双子の代わりの宣言ありがとうウィスト! さあ、派手に吹き飛べ!」
酸素を原料とした核融合が、二つの属性世界、そして魔道具による三つ目の異常法則を加えられた事により開始する。
それにより放出される莫大なエネルギーは、バトルフィールドであるハルたちの拠点世界外周もろとも、敵モンスターの群れをまとめて吹き飛ばした。
重力を操り飛行する、尾の長い龍達。弾幕の雨を受けてもしぶとく侵攻して来る彼らも、さすがに核融合弾の直撃を受けてはひとたまりもない。
そんな『世界融合』の無差別爆撃が、戦場の各地で次々と閃光と共に壊滅的な被害を振りまいていった。
「ははははは! 人のフィールドに攻め込んでくるという事は、こういう事だ! 今までやられっぱなしだったからな、最高に気分が良い!」
「いや、いきなりここまでやった奴は、我らの中に誰も居なかった気がするんじゃがぁ……」
「言いっこなしナシ♪ ハルさんが楽しそうな所を、邪魔しちゃダメなんだぞ♪」
「まあ、勝ってるからよいがの。しかし逆をいえば、相手側の領地に攻め込む時は主もまたそうなるんじゃぞ。心せよ」
「……まあ、それは仕方ないね。それをビビっていちゃあ、絶対に勝利はありえない」
明らかに不吉な月乃の世界。出来ればノコノコ内部に踏み込んで行きたくなどないのだが、それをせずに勝利などあり得ないだろう。
いつかは白兵戦にせ突入し、最奥に待つだろう月乃を直接叩かねばならない。
しかし今は、まずは派手に敵戦力を減らす事だ。こんな空を埋め尽くすような龍の群れがひしめいていては、おちおち突入もしていられない。
「《ハル! 駆除が追いついていない、また“回す”ぞ!》」
「《マリンブルー。後方から融合弾を回収したい。輸送を“回せ”》」
「よし、やれ、レーヴァ」
「あいあいさーっ! よーし、属性リング、回すよ~~っ♪」
減らしても減らしても補充される龍の群れを分散させるべく、レーヴァが再び大地を回す。
宙に浮いてはいるものの、そのフィールド上に乗っているドラゴンもまた、強引に振り回されるように移動させられ正面エリアがまた空となる。
その回転の勢いで世界境界面に居たドラゴンが巻き込まれすり潰されるが、敵はお構いなく突撃を続ける。
必殺の切り札を初手から切ったハルたちだが、敵もまた、溜めに溜め込んだモンスターで一気にハルたちを押し潰す気のようだ。
「……まあ、奥様の教えだしね。敵は反撃の隙も与えず、出会い頭に一気に叩けと」
「物騒な教育してる家庭じゃのう……」
「さつりくのエリートだぞ♪」
「別に戦闘訓練を受けたって意味じゃないから……」
あくまで政治の話だが、しかし戦闘においてもブレる事なくそれを実践してくるようだ。
普段は裏からの工作ばかりをしているイメージの彼女だが、ひとたび動けばその勢いは非常に苛烈。月乃を怒らせて生き残った者は居ない、などとも言われ怖れられている。
だが、ことゲームにおいてハルが負ける訳にもいかない。ここらで、得意分野の差というものを見せてやるとしよう。
◇
「融合弾、到着だぁ! 積み下ろし、いそげいそげー♪」
「《遅い。そして次の駅へと急げ。戦況は刻々と、変化している》」
「まーってね♪ リングをぐるぐるするのは一瞬だけど、お荷物降ろすのは大変なのだぁ!」
「この私の冷凍テレポートで送った方が良かったかのう……?」
「《そちらもそちらで、駅からの運搬距離がある。こちらの方が早い》」
属性リングの中に物資を放り込み、貨物列車の環状線のように兵器や弾薬を適切な戦場へと送り届けるハルたちの世界。
しかしその高速運搬システムをもってしても、まさに『目まぐるしく』移り変わる戦場に完璧に対処し切るのは至難の業だった。
「《くっ……、キリがない……! このままだと一周するぞ、どれだけ居るんだ……!?》」
「一周、結構なことじゃないか。全ての兵器が、最大効率で稼働できる」
「《その通りだ。無駄なく美しい、理想の戦場の完成という訳だ》」
「《馬鹿どもがぁ! 兵器など、使われないで終わった方が良いに決まっているだろうがっ!》」
「なんか軍服着てる人が、なんかマトモっぽいこと言ってる」
「《ああ。理解に苦しむ》」
「《理解できんのは貴様らの方だっっ!!》」
「大変じゃのうお主も……」
既にハルたちの空気にスミーは慣れきったか、はたまた諦めているだけか、吼えるレーヴァに同情の空気だ。
それはともかく、確かに敵の補充はいつまで経っても尽きない。このままでは本当に、バトルエリアはぐるりと一周してしまうだろう。
「《フン。問題ない。既に最初のモンスター共は、殲滅間近だ。そうして空いたエリアに『二周目』を放り込めば、いくらでも戦える》」
「まあ、理屈としてはそうじゃのう。それにじゃ! それだけ敵がいるという事は、核石アイテムもそれだけがっぽがぽじゃ! 戦闘後に拾い集めれば、もう我々の勝利は確実じゃぞ!」
「《フン。今から楽しみだな……》」
「《いーえっ! 問題あるっすよ! なに勝った気になってんすか!》」
「《……声がデカいぞエメ》」
「《お前の声が小さいんすよオーキッド!》」
既に戦闘報酬に目を向け始めたウィストたちに、デカすぎる警鐘を鳴らすかのようにエメの通信が割り込んでくる。
ウィスト同様、魔道具生産を一手に引き受ける彼女は、弾薬の在庫が有限である事を誰よりもよく理解していた。
「《このペースでバカスカ撃ってたら、すぐに弾切れになっちゃうっすよ! 事実、既に『世界融合弾』はほとんど無いっす! 核融合の威力が無くなれば、通常弾の消費も更に更に加速度的に増えるっす!》」
「《分かっている》」
ベルとベラの世界に核融合反応を発生させる特殊な魔道具。可能な限り大量生産はしたのだが、それでも量産には難があった。
それを今は惜しみなく放ちまくっているのだから、それは無くなろうともいうものだ。
融合弾で吹き飛ばせているからこそ、今は敵を近寄らせずに済んでいる。
しかしそれが無くなれば、抑えきれなくなったモンスターの群れは『本土』に上陸。施設や兵器を破壊する被害が出よう。
「《だが問題ない。今は遠隔砲撃だけを行っているが、その時は近接兵器の出番が来るだけだ。これも死蔵しても仕方がない》」
「《アホーっ! どんだけ兵器使いたくてたまらないっすかぁ!》」
まあ、確かに近接兵器もあるのだが、戦闘開始直後でそこまで追い込まれるのも得策ではない。
ここは、なるべく遠隔射撃のみで抑えておくのが予定の上ではベストであった。
「……ふむ。仕方がない。とりあえずはウィスト。融合弾を全て撃ち切ってしまえ」
「《了解だ》」
「《その後はどうする? もうベルとベラの世界に用はないな。ならば! ここはワタシの<地>の世界に切り替えて、派手に一気に吹き飛ばすかぁ!?》」
「それでもいいけど、僕に考えがある。最後にベルとベラの世界には、もうひと華、咲かせてやろうじゃないか」
「《…………?》」
もう融合弾は無いというのに、むしろ逆に<火>と<風>の世界を拡大していくハルに首をかしげるレーヴァ。
一方、神々はハルのやらんとしている事に皆すぐに察しがついたようだ。
「ミント。二人をログインさせてきて」
「《はぁい。おっまかせぇハル様ぁ! すーぐあたしが、連れてきちゃうんだから!》」
「むっ……? どういう事じゃ? 奴ら二人は、リタイアしたのではなかったのかのう……?」
「いいや、今は、それを『保留』にしておいてもらっているだけだ。こんな時の為にね?」
「《ログインした瞬間、禁則違反の判定が出てお二方の資産は全て消えるっす! もちろん、今展開している土地も、そしてその上にある物も、全てっす……!》」
「そういうことだね」
「足場崩しという事か! ……んん? 待てよ? となると、せっかくドロップした核石も、一緒に?」
「まあ仕方ない」
「待てーっ! 止すのじゃあ! 勿体ないのじゃあ!! 少しで良い、待て、すぐにこの私が集めて来る!」
「もう遅い」
確かに惜しいが、そこに欲をかきすぎても良い事はない。
そしてスミーの制止も虚しく、満を持して、ベルとベラの何日かぶりのログインがここにかなったのであった。




