第1957話 決戦に向け調整の日々
「こっ、こんにちはっ! ボク、イクセルっていいます」
「はい! よろしくお願いいたします! 私は御、ではなく、天羽と申します!」
「おい、だから何でオレまで……、そして何だよこのメンツ……」
「ほら、“三人とも”新人同士仲良く。特に君たちはゲーム自体これからなんだから、イクセル君に教えてもらってね」
「はい! よろしくご指導ください!」
「……チッ。サコンだ。まぁテキトーによろしくなぁ」
「う、うんっ。よ、よろしくねぇ~、テンハくん、サコンくん」
ベルとベラの離脱からしばらく経った後、夢世界では彼ら双子の言っていた新たな協力者との合流が果たされていた。
そして更に、ハルたちはここでもう二人ほど現実からの追加人員を補充する事に決める。
月乃に対抗するための戦力増強。並びに、三家側からの協力者としての立ち位置だ。
裏に三家に関わる闇が潜んでいるのは確実。ならば、そことは関わりがない事が確認の取れている協力者が居た方が心強い。
特に天羽は、御兜家の未来の当主である。彼を通して中枢への干渉が期待できた。
二人とも、異世界での交流を経て信頼できる人間だとハルは判断した。サコンも口と態度は悪いが、まあ、悪いのはそこだけだ。たぶん。
「……んで、結局なんだってんだよコレ」
「説明はしたでしょ? 夢の世界で行うゲーム。まあ、ほぼ普通のフルダイブと変わらないよ」
「そぉじゃなくてよぉ。何でオレを呼んだんだっての。こっちの坊っちゃん一人でよくねぇ?」
「いえ! 私もこの場では新人! ハルさんのお役に立てるよう、一から努力させていただく所存です!」
「やりづれぇ……」
もう一人のサコンは、御兜家とは別の三家、匣船家からの参戦だ。とはいえ彼はいってしまえば分家のエージェントのような扱い。本家本元の天羽を前にしてやり難そうだった。
彼らは異世界開拓ゲームの参加プレイヤー。その縁と才能を買われて、今回も参加を依頼したハルなのだった。
「ティティーの奴が居るだろーが、そっちにはよぉ」
「あの子は奥様の息がかかってそうだから駄目。これから、奥様と一戦交えるからね」
「げっ!! んなヤベー舞台に引きずりだすんじゃねぇ!」
「おお! いよいよ月乃様と家督を賭けて雌雄を決するのですね! 私も全力で力になります!」
「オメーも話盛り上げんなって! てか、ゲームでんな大事なコト決めんじゃねーよ!」
「うーん。実にごもっとも……」
まあ、別に家督争いをゲームで決めている訳ではないのだが、ある意味それ以上の大事となる可能性もある。まったくの正論に対し何の反論も出来ないハルだ。
「あのぉ。それで、ボクたちは何を?」
「ああ、すまないね」
ゆるい雰囲気の、『ほんわかした』タイプの少年、イクセル。いわゆる小動物系で、柔らかそうなくせっ毛が印象的だ。
彼は既にこの夢世界で巨大な領土を持つプレイヤーであり、新規プレイヤーの二人とは役目が異なる。
しかしこうして引き合わせたのは当然、新人同士の顔合わせ以外にも理由があった。
「君は確か、『真・ユニークスキルビルダー』の構築を成功させているんだよね?」
「う、うんっ。よく分からなかったけど、一応できちゃったよ」
「んだぁ、そのクソマヌケそうな名前はぁ」
「しゃらっぷ! 君らはそれを使わせる為に呼んだんだ。心して取り組むように!」
「はぁ!? んでオレ様がんなよく分からんコトを……」
「だって君の取り柄といえば『無効化』のユニークじゃないか。期待してるよ、今回も」
「勝手に期待すンな! そもそも前回もひっかき回した上に無断で使いやがっただけじゃねぇか!」
「まあまあ、ハルさんの為に、お互い頑張りましょうよ。ねぇ……?」
「オメーも何なんだよ圧がコエーよ……」
サコンは固有の能力として、『魔法無効化』という非常に強力な物を持っている。天羽もまた、機械兵士の量産という役立つスキルだ。
それらスキルを今回も再現できれば、途中参加でも即戦力として期待できる。そういった目論見あっての今回の依頼なのだった。
まあとはいえ、それはあくまで『ついで』。本命は現実での協力体制だ。
もし思った通りにいかずとも、このゲームには核石によるスキル強化システムがある。余った核石を大量につぎ込ませ、核石漬けにしてドーピングしてしまえば戦力にできる。
「つまり、ボクは二人にコツみたいなのを教えればいい、って事だね」
「その通り。さっそくで悪いが、お願いしたい」
「わ、わかった!」
そうして、謎にやる気に満ち溢れている天羽と、極彩色の渦巻くスキル開花モニターに顔を引きつらせているサコンは、早速この地での即戦力化作業に取り組んでいくのであった。
*
「ね、ねぇ、ハル、さん? って、うわっ! あいたぁ!」
「おっと。すまないイクセル君。どうしたの? 気を付けて」
「ご、ごめん。ボク、いっつもドジしちゃって。ベルくんベラくんにも、毎回迷惑を」
「そうだったんだ」
ハルがその場を去ろうとすると、慌てて追いかけて来たイクセルが背後で転ぶ音ですぐに振り返ることになった。なるほど、少々そそっかしい少年のようだ。
別に置いて行くつもりなどなく、少し作業を済ませようと思っていただけなのだが。合流直後だ、もう少し気を遣うべきだったかも知れない。
「すまないね。置いて行くつもりだった訳じゃないよ」
「あっ、いやその、そういう訳じゃなくて、ね。えと、ハルさんに聞きたい事があったんだ」
「おや、何だろう。何か説明を忘れていたかな」
確かに少し、投げやりだったかも知れない。しかもいきなり初対面の人間への教導、不安になるのも仕方ない。
しかし、ハルのそうした懸念とは異なり、彼の不安はまったく別の所にあるようだった。
「その、ベルくんとベラくんは、今は、どうしてるんだろう。少し前から、こっちにログインもしていないみたいなんだけど……」
「ああ、そうか……」
確かにイクセルは双子からの紹介であり、既に話も通してあったが、彼らをハルが『誘拐』してしまったせいで、最終的なすり合わせが出来ないままの合流になってしまったのだ。
施設でも連絡が取れない、こちらでも、一応マップの光点を入念にチェックし続けていれば居ない事に気付くかも知れない。
双子と仲が良かったというのであれば、確かに心配にもなるだろう。
「……確かにこの状況、僕が彼ら二人をこっそりと始末してしまったとも、そう考えられもするか」
「あっ、いやっ! 別に、ボクはそこまで言っている訳じゃあ……、ただ、ちょっと心配だなぁって……」
「すまないね。僕の配慮が足りなかった。彼らは無事だよ、それは僕が保証する。今は、こっちの方で保護しているから」
「そ、そうなんだね。よかったぁ……」
と言いつつも、信じ切れていない様子が表情からにじみ出ている。まあ仕方がない事だ。
これはハルのミスだろう。あの施設の者ならば、みな双子やレーヴァのように覚悟の決まった連中だろうと勝手に思い込んでいた。もっと繊細に状況を見るべきだったのだ。
ここでもしイクセルから、『ハルは施設の人間を秘密裏に始末する恐ろしい存在だ』などと噂でも流されなどしたら。今後の行動が非常にやりづらくなってしまうだろう。
とはいえ、場所が場所だ。片や異世界へと隔離し保護した存在、片や収容施設の奥の秘密部屋に軟禁されている存在。無事を知らせようにも、自分で難易度を激増させてしまっているハルだった。
「さて、どうしたものか。二人に秘密の合言葉でも教えてもらうか……? しかしそれでも、拷問して聞き出したと疑われる可能性も……」
「い、いやいやっ! そんなに疑ってる訳じゃないからっ。ねっ? そ、そうだ! まずはボクの方から、信頼してもらえるように動かないとだね! これあげる!」
「……おや、これは?」
「<命>の核石。ボクが持ってる中で、一番おっきいのだよ。これを使って、戦力を整えて?」
「ああ、助かるよ。ありがとう、イクセル君」
人懐っこい笑顔を浮かべて、両手で差し出すように核石アイテムを手渡してくるイクセル。こうした仕草も、あの施設の存在らしからぬ態度である。
悲壮さを感じさせない、はにかんだ笑み。ただこれも、生き抜くための彼なりの処世術と思うと少々胸の痛む思いのハルだ。
とはいえ、核石を貰えるのは素直にありがたい。現金な話だが。
特に、<生命>の属性は巨大なそれが今まで手に入らなかった。彼の世界が生命属性だと知って、ハルが期待しなかったとは口が裂けても言えないだろう。
「あっ、もちろんね、これだけじゃ足りないよね! ボクもっと頑張るから、その代わりね、えへへ……」
「うん。すぐに二人と合流できるようにするさ」
今はそれしか、約束が出来ない。幸い、イクセルはそれで納得してくれた。
……ただし、こんな顔をしているが、その目をよく覗き込んでみるとその奥が暗く淀んでいそうな雰囲気を感じる事には留意しておかねばならない。
こう言っておきながら、彼は恐らく一定の割合で二人が無事ではない結末を想定している。
そうなった場合、どのような行動に出るのか、想定すると恐ろしかった。
そんな未来が訪れぬよう、ハルも一層気を引き締めて行動しなければならないようだ。
*
「んー。なんだろ? それってあれかな? ヤンデレ美少年ってやつ? あはは!」
「笑い事ではないが。あとデレ要素は特にないよヨイヤミちゃん」
「じゃあ『ヤンヤン』だ! あははははは!」
「それだともう救いがないじゃないか……」
まあ、病みもするだろう。環境が環境だ。まあそこのケアまで、ハルが請け負ってやるつもりはない。
残酷なようだが、あとは彼ら自身でどうにかしていくしかないのだ。これは、レーヴァたちもまた同様にそう考えているハルであった。
「とはいえまあ、あの施設は最低限なんとかするつもりだけど」
「ふーん。それで、天羽さんとか呼び込んだ訳だ」
「うん。やっぱり、リアルで影響力を持った人材がいてくれると楽だからね」
あとは、月乃がどう出るか、月乃との決着がどう転ぶかの結果次第といったところだろう。
イクセルとの合流も終え、その月乃の元へと向けてハルたちは全速で世界船を航行させている。
レーヴァの世界特性も加わり、より加速を付けてハルたちの拠点世界はこの世界の泡の群れをかき分けて進行できている。
もはやその彼我のスケール差は拡大しすぎて、本当に巨大な船が波しぶきの泡を切り裂いて進んでいるような見た目となっている。
……切り開かれ押しのけられる側の小世界群としては、実にいい迷惑であろう。
「到着したら、いよいよ決戦だねぇ。血がたぎるねぇハルお兄さん!」
「あんまり興奮しすぎないようにね。また寝付けなくなるよ」
「ふっふーん! この中なら、もう寝てるから大丈夫だもーん!」
「やれやれ……」
テンション高くはしゃぐヨイヤミだが、まあ無駄に緊張するよりは良いだろう。
むしろハルの方が、普段の余裕を欠いているのかも知れない。やはり月乃が直接敵になるという部分には、まだ動揺を隠せないか。
「……まあ、とはいえまだ時間はかかる。僕らも、最後の準備を済ませなきゃ。ちょうど、イクセル君からも核石を貰ったしね」
「おー。<命>の核石だ! ということはー、えっと、<神聖魔法>の強化だね!」
「正解」
ハルのスキル強化も、この機に一気に進めていくべきだろう。汎用性を高く、それでいて特化した強力な性能に。
まあある程度は、月乃の世界の性能を見てから後出しで決める事になりそうだ。
「あっ! そうだったそうだった! それでいうと、私もハルお兄さんにプレゼントがあるんだ! じゃーんっ!」
「おお。これは、<闇>の核石じゃないか。これは、ヨイヤミちゃんが?」
「うん! えへへー。すごいでしょー!」
「ああ、すごいすごい。どうやったの?」
「えー? どうしようかなぁ? 教えて欲しい? 教えてほしい!?」
「頼むよ」
そうしてハルは、仲間たちといつも通りに楽しく過ごしつつも、決戦に向け着々と戦力を強化して航海を進めて行くのであった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




