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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部4章 セフィ編

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1953/1956

第1953話 会話が通じる相手は恐怖に値せず

「それで、具体的には何を僕の弱点として奥様に伝えているっていうのさ」

「そうです! ハルさんには、弱点など、ないのです……!」

「いやそれは言いすぎだねアイリ……」

「いや、お姫様の言う通りだとも。私のハルに弱点はない。下手に絞り出した弱点など伝えては、逆に怪しまれてしまうだけだとも!」

「あなたもまた、変なところでハルさん信者ですよねー。邪魔してるくせにー」

「当然だろうカナリー? むしろ私ほど、ハルの力を買っている神はいないさ!」


 だったら裏切るなという話なのだが、セレステはむしろ『信者だからこそ裏切る』思考の持ち主なので始末が悪い。本当に面倒くさい奴である。


 ただ、セレステのそう評価するハルの万能性は、言い換えれば『盤石ばんじゃく要塞ようさい』だ。

 月乃もそれ故に攻めあぐね、なんとか『弱点』は無いか、躍起やっきになって探していたことだろう。だからこそ、偽の漏洩リーク作戦が刺さる。


「だが、それは能力面での話。精神面では、そうもいかない。だろう、ハル? 今回はっきりとしたよねぇ?」

「……ニヤニヤするなこのバカ。精神的なもろさが出たのは、お前も同じだろ!」

「なんですかー? 何があったんですかー?」

「怪しいわ? ふたりとも? さあ、洗いざらい白状なさいな」

「うむっ、話してやりたいところだがね。残念ながら、二人だけの秘密ってやつさ!」


 ……むしろ、完璧な強いお姉さんだと思っていたセレステが、今回その姿が仮面に過ぎなかった事に衝撃を受けたハルなのだが。

 その事は完全に棚上たなあげして、率先してハルを弄ってくるのだから逞しいものである。


 ただ、彼女の言う事は何も間違っていない。ハルは自分が精神的に成熟した大人だとはまるで思っておらず、いくらでも未熟な部分がある事は自覚している。


「……それに、これは以前僕が自分で言った事でもある。どんなに強大な力を持った存在でも、そいつに心があり、会話が通じれば、打倒する事は必ず可能であると」

「どゆことハル君?」

「どんなバケモノでも会話が通じたら、『説得』コマンドが有効だってことだよ」

「めっっちゃよく分かった!」

「分からないわよ……」


 ゲームの話だ。凶悪なステータスを持つモンスターでも、意外な耐性が低く穴があり、一撃であっけなく決着がついてしまう事がある。

 話術による説得であったり、魅了みりょう、果ては金銭による買収だったりと、その内容は様々だ。


 結局ゲームの話とあなどるなかれ。むしろ現実は逆に、更にその方法は多岐に渡りそして『耐性』なんてものもつけられない。


 友愛、恩義、所属や忠義、矜持きょうじに主義主張。その他あらゆる『戦う理由』が、逆に戦わない理由へと反転する。


 視界に入った物を問答無用で消滅させる自動兵器でない以上、その引き金を引く意思をくじいてしまえば、どんなに強大な力を持っていても全ては無力だ。


「僕が得意な事で、同時に奥様も、より得意な事でもある」

「……そうね。お母さまほど、人の弱みにつけ込むのが上手い人はいないわ?」

「もっと言い方どうにかならないルナ……?」

「そして何を隠そう、私は神の中で唯一、それを実行に移そうとした実に邪悪な存在さ!」

「んなことあったっけ? セレちん、正々堂々正面からぶつかってなかった?」

「未遂なだけだよ。言ったら、キレたハルにボコボコにされた」

「キレたとか言うな。そもそもあれはただの挑発だろ?」

「だとしても、響く内容だったから挑発が成立したのは事実だろうさ。そしてそんなお行儀の悪い事をする神は、私くらいだ」


 セレステを説得しようとするハルに対し、逆に『自分が陰湿にハル本人ではなく仲間を狙ったらどうするのか』と反撃してきたのだったか。

 思えばあの時から、挑発し自分を殺させようとしていたのだろうか?


 ……まあ、今はそれよりも、月乃がどういった行動に出るかだ。そこを考えるべきだろう。


「その精神的な甘さこそが、僕の弱点だと?」

「うむっ。共有しておいた」

「すんなよ……」

「まあ、言われずともお母さまなら理解していたでしょうから」

「ですねー。なにせハルさんを育てた、お母さんですからねー」

「理解されてんのも何だか嫌だが……」

「さすがの、強敵なのです……!」

「ただ知っているだけと思わない方が良いよハル。むしろあの人は長年かけて、ハルにその弱点を植え付けた張本人でもあるはずだから」

「ハル君がお母さん尊敬してるから、ルナちーママとは戦えないって?」

「うむっ。ハルは母君ははぎみに甘いだろう?」


 ……そこについては、渦中かちゅうの存在である三家の面々からも指摘を受けた事がある。御兜翁みかぶとおうや織結の当主の裏人格、『皇帝』からだ。

 月乃がハルを都合よく洗脳しており、自分の手先として操っている、目を覚ませと。


 一定のは認めつつも聞く耳を持たなかったハルだが、今度は仲間であるセレステからも、それを指摘されてしまった。


「……まあとはいえ、そう思い詰める事もないさ。純粋に君を愛していたのも、事実だろうからね」

「あら? あなた自身がそこをフォローするのねセレステ? いいのよ? 私やハルの前だからって、遠慮しないで。お母さまだもの、そういう所あるわ?」

「いや、あったとしてもだ。ルナ。それが残らず全てではないだろう。人間、自らもまたおのれの本心を理解できていない。そんなものだからね」

「あなたの口からそんな言葉が出るとはー、ですねー」

「うむっ。私も成長しているのだとも!」


 セレステ自身の二律背反にりつはいはんのままならぬ心を自覚して、そこに至ったといったところか。


 だが、例えハルへの愛情が真実だとしても、ハルの心の甘さを突いてくるだろう事もまた事実。

 より一層心して、月乃との決戦に備えねばならなそうなのだった。





「んでんでセレちん?」

「うむっ! なんでも聞いてくれたまえよ!」

「理屈は分かったけど、結局、なにやってくん? ルナちーママ。具体的に話したまえ」

「ははっ。これは手厳しいね」

「まあ、そうですねー。さっきの話だけでは結局、今までと状況は何も変化してないとも言えますからねー」


 月乃がハルの心の弱い部分を、別に今初めて知った訳でもないだろう。

 問題は、このゲームでそれにどう絡めるかだ。


「具体的になにすん? 聞いてる?」

「いいや、聞いていない。といっても信用されてない訳ではなく、言えないそうだ」

「言えない……? 傍受ぼうじゅを警戒してかしら? それとも、お母さま自身も、何者かに能力でロックを……?」

「奥様にそんな事が出来る奴が……?」

「居るだろう? セフィだ」


 しれっと、セレステが当然の帰結のようにそれを断言する。確かに、このゲームのもう一人のゲームマスター、セフィならばそれが可能となるか。


「正確には、能力的なロックではない。ただの心理的ロックだ。セフィはこのゲームに参加したプレイヤーに対し、とある約束を結ばせたようでね? その内容が、『クリア報酬を他人に伝えたら、その受領資格を失う』というもの。そこが、ギリギリ伝えられる範囲だったみたいだよ」

「……『言ってはいけない』。神秘の契約なのです」

「うむっ。そうとも取れるね」


 古今東西ここんとうざい、あらゆる神話で頻出する超常存在との契約だ。その秘密を、他人に喋ってはいけない。


 それを気取っているのかどうかは知らないが、セフィならそのシステムを実現できるのは確実だろう。

 なにせ彼はゲームマスターで、報酬を与えるも与えないも彼の気持ちひとつなのだから。


「僕、聞いてないんだけど」

「はっはっは。報酬、欲しいのかい、ハル!」

「そりゃ欲しいっしょ! ついでに『今回の騒動に関するお詫び』も要求せにゃ!」

「わたくし、知ってます! “わびいし”、ですね!」

「ダメよアイリちゃん? そんな品の無い言葉を使っちゃ」

「まあ私たちは、別のルートでの参加プレイヤーですからねー」


 むしろ、ハルたちこそ正当なプレイヤーであり、他の者らが裏口参加なのだが。


「なんにせよ、そんな何がしかの報酬を利用し、ハルへとアクションをかける予定である事。それは間違いないだろうさ」

「当然、それを実現するためのゲーム内の力も鍛え上げている……」

「うむっ。一筋縄ではいかぬと思っていいだろうね」

「セレステはどう思ってるんですかー? ある程度、予測はついてるんでしょー?」

「うむっ、我々ハルくん好き好き同盟の目的と、伝えたハルの弱点から考えれば、おのずと予測がつく」

「何の同盟って言ったコイツ……?」

「大人しく聞きなさいなハル……」

「目的はハルを再び管理者の座につける事。それを達成する為には、“そうせざるを得ない”状況にハルを追い込む事が求められるだろうさ」


 まあ、道理だ。言っても聞くハルではないのも月乃は理解しているので、あとは実力行使しかない。

 むしろ彼女は過去堂々とそれを宣言し、ハルも受けて立った。その方法を今回得たというだけである。


「そして、このゲームの内容を考えれば自ずと『報酬』にも察しがつく。それは現実リアルに、ここでの異常法則を持って出る事だろう」

「それは、スラグさんのように、でしょうかセレステ様!?」

「うむっ。しかも、スラグが廃棄物スラグの名を持っている以上、こちらはより大規模ななにかであろう事が推測される」

「それを使って、ハルに選択を迫るということね……?」

「ハルさんの大切なものを人質に取るつもりですかねー」


 そうなれば、ハルは見捨てられず動かずにいられないと知っているから。

 それを狙って、月乃は大きく動いたということか。


「ちなみに私は今も、特に止める気はない。ハルが王になる事を、邪魔する理由はなにもないからね」

「いけしゃあしゃあとコイツ……」

「でもこうなったら、こちらに協力はしてもらいますからねー?」

「それは当然だとも! 主君の命令に、逆らう騎士がどこにいようか!」

「本当に、分からないわねこの人……」

「複雑な乙女心なんだねぇ」

「ロマンスなの、です……?」

「真面目に考えなくていいよアイリ」


 彼女のたわけた態度はともかく、だんだんと事の全体像が形になってきた。

 あとは、月乃が本当にそれを実現するだけの実力を持っているかどうかだが。


 まあ、『保険屋』の時も駄目で元々、将来のための仕込みの仕込み程度の気持ちであれだけ大規模に事態を動かしたのだし、勝算など彼女にとってそれほど重要ではないのかも知れない。

 だが、最初から失敗する気で挑む女性でもない。そこには何か、ハルを打倒する策が存在するはずなのだ。


「……恐らく、ベルとベラが提案したルールの追加。あれも奥様の利となる改変だったんだろう」

「『複数の世界所持を認める』ルール、ですね!」

「そうだよアイリ。けどあれは正直、僕への利点も相当大きい」

「並列思考なんてハル君の得意中の得意だもんね。ルナちーママも、あたまいいんだろうけど……」

「けどハルのようにはいかないわ? お母さまもそこは、ハルに頼り切りだったもの」


 ならばセフィとの連携で、月乃有利にルール構築をするというのだろうか。それにしては、セフィの動きもそこまで活発なようにはみられない。


「……やっぱりまずは、セレステの推測の確信が欲しいな。報酬がリアルへの持ち出しだと確定すれば、作戦も組み立てやすくなるんだが」

「それよか、さっさとやっつけちゃえばよくない? 倒しちゃえば、達成も報酬もないっしょ」

「ユキの言うのもアリだけれど、やっぱり次善策は欲しいわねぇ……」

「うむっ。それならば簡単な方法があるとも! 君の確保した参加プレイヤーが居るだろう? その者に報酬を放棄させ、聞き出してしまえばいいのだよ!」


 さも簡単そうにセレステが断言するその内容。それは確かに、ハルたちにとってアリな手段なのかも知れないのだった。

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― 新着の感想 ―
ハル様の弱点? それなら明白ですねー。ずばりぼっーー精神的な脆弱性の他にありませんねー。奥様が裏皇帝のように自身を人質にしようものなら泣きついて何もできなくなってしまうに違いありませんー。……パパっと…
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