第1950話 敵あってこその
連日短くて本当にすみません。セレステの複雑な(面倒な)気持ちがどうしても書ききれませんでした。不甲斐ない作者ですがなんとか書ききってみせますので、どうか応援してくださいね。
「やあハル! さっきは起きていたと思ったら、また夢世界にとんぼ返りかな? まったく勤勉だね、君も!」
「『やあハル』ではない。まったくあちこち逃げ回ったと思ったら、最終的にこっちに逃げ込んで……」
「うむっ! ここならば、現世では万能を誇る君の力も、ある程度は押さえ込まれているからね!」
「……お前だけを露骨に不利にするルール追加したろかコイツ」
この世界でも一応、ルールを自由に追加出来るゲームマスターである事を忘れていないだろうか。
まあ、そんなセフィにつけ込まれるような衝動的なマネ、ハルには出来るはずがないのだが。
さて、そんな万能の力を、特に支配した神々に対しては無慈悲とまでも思えるほどの力を行使できるハルであるので、セレステを探し出す事に大した労力は要らなかった。
居場所を二転三転する彼女だったが、ハルがその気になれば即座に<転移>先を特定できる。支配された神々に、自分の位置情報の開示に対する拒否権はない。
セレステがハルに追いつかれるのは時間の問題。しかしそこから、彼女は更なる逃避の旅に出る。
ハルがセレステに追いついた時、彼女は休眠状態へと移行しており、その精神は夢世界へとログインしていた。そうなっては、肉体に追いついても意味はない。
ハルは死んだ目でため息をつきながら、とりあえずセレステの身体を拘束。うきうきで縛り上げるアメジストに後を任せ、自分も夢世界にログイン。現実のようにはいかぬ不自由な体を引きずりなんとか、複数の世界をまたぎ追跡を続行した。
そうしてようやく追いついたのが、今である。
プレイヤー位置をマップで参照可能にしておいて、本当に良かったと今ほど感じた事はない。
「それで……、何をしているんだお前は……」
「うむっ。見ての通り、今日も仲間のためにせっせと核石集めをば、と、いったところだね。なにせいくらあっても足りない物だ。暇を見つけて、狩りにいそしんでおかないとね!」
「そうだね。特に君のような戦闘職には、積極的にそうしてもらいたい。……って、今はそんな事はどうでもいいんだ! ああっ、嘘でもないのが腹立たしい!」
「流石はハルだ。こんな時であろうと、ノリツッコミの精神を忘れない」
「そんな部分を褒めんでよろしい……」
全て神様たちにボケた発言が多すぎるのが悪い。ついでにツッコミ不在なのも。身に染みついてしまっているハルだった。
やはりツッコミ役の補充は、急務であるといえよう。
「……そんな事はどうでもいいんだ。逃げたって事は、後ろめたい事があると思っていいんだなセレステ?」
「うーむ。ハルならばあるいは、追って来ないかとも思ったのだがね。事態をなあなあにしておくの、好きだろう君?」
「否定は出来ないね……、現に、今もミントを放置しているし……」
「まあ、あれはあからさまに釣り餌が見えすいているからね。それよりも身内の事さ。我々だったり、それこそお母君の事だったりね」
「どこから手を付ければいいか分からないってのもあるだろう……」
耳が痛い話だ。神々の事、月乃の事、それにエリクシルの事だって、ハルが放置し半ば野放しにしている事情は多い。
確かに今回も場合によっては、見て見ぬふりで流す選択肢だって十分可能性として考えられただろう。
「……ただ、さすがに状況が状況だ。これは確認しておかなくっちゃ。その奥様と、君がこっそり連絡を取っていたという疑惑は間違いないのかい?」
「うむっ。相違ない。君の母君を夢世界に引き込んだのは、何を隠そう私だよ。はっはっは。驚いたかい?」
「そりゃあね……、確実にセフィの仕業だと思ってたから……」
「決めつけが過ぎるよハル。別に彼が、『ハルの邪魔をするプレイヤーを送り込みました』なんて宣言した訳ではないだろう?」
「そうなんだけどね」
だとしても、まさか身内がそそのかしたとも思わないだろう。その心理的な盲点を突かれたといえる。
「いや結局のところ、誰が参加させていようがやる事は同じだから、考える意味もなかったんだけどね」
「そこだよ、ハル」
「ん? そこって?」
「その、誰がどんな思惑を持っていようが、淡々と対処するのみという達観。いやある種の傲慢さ。それが今回、私の勝手を許すことに繋がった」
「いやどう見ても君がヤンチャすぎるだけだと思うけど……」
「大人しく聞きたまえ」
「はい……」
何故ハルが怒られているのだろうか? セレステにお説教をするはずが、逆にハルがお説教をされている空気である。
まあ確かに、ハルは『神様は騒ぎを起こすもの』と半ば騒動を織り込んで、それを肯定している部分があると言われても否定は出来ないのだが。
「今回、何が私にこんな裏切りめいた行動を可能にしたと思う? 君に支配されている私に、どんな理屈が」
「僕が、本質的には仲間の裏切りを許容しているからかい? 仲間が真剣に悩んでそうしたなら、仕方がないと」
「それも問題だが、違うよハル」
「じゃあ奥様は僕の仲間だから、仲間同士の交流に制限はかからなかったとか」
「そこまで君の支配は甘くはないさ。仲間相手だろうがなんだろうが、君に危害を加えるような行動は自動的にロックされる」
「なら、今回の企みは危害の及ばない範囲に留まっているってことかな?」
「やはり少し違うんだ。実際にはねハル、この支配の力は抜け穴があって、“君の望んだ、君の為になる事ならば、君に被害の出る行動であっても許容される”んだ」
「……この状況を、僕が望んだと?」
……まあ、確かに否定できない話でもない。もしここで月乃と明確な決着を付ける事が出来れば、今後の心配事がひとつ減る事になる。
セレステ同様に、何度だろうとめげる事なくせっせと陰謀を張り巡らす月乃。延々とその対処を繰り返すのは、実に厄介な事といえよう。
もし今回で懲りて月乃が大人しくなるというのならば、確かにそれは『ハルの為になる』行為として承認されるかも知れないと、ハルにも思えた。
「……まあ確かに、リスクを取ってでも将来的な騒動を減らす事に繋がるのなら、僕は承認するのかも?」
「いいや。やはり分かっていないよハル。それならば、私がそうしたい事を君に相談すればいいじゃあないか」
「だから相談しろよ……」
「してしまっては、意味がないんだよ。だって君は、本質的には事態の解決ではなく、『敵』そのものを求めているんだから」
「僕が、敵を望んでいるって?」
「うむっ。まるでゲームに必要な障害のようにね。つまらないだろう? 平坦なだけの平和なゲームは?」
「確かにそうだけど、だからってリアルの事件をゲーム扱いしたりはしないよ」
「いいや、君にとってはゲームと変わらないはずだよハル。あくまで傲慢に、淡々と障害に対処する退屈しのぎ。そんな心の隙が、君の支配にバグを生んでいるのだよ!」




