第1949話 あの調査船はいま
なかなか上手く話が組み立てられず、短めになってしまった事をお許しください。話を複雑にしたツケが回って来てる感じがしますが、きっちり纏められるよう頑張ります!
「やあ、ハル。よく来た、ね」
「こんにちはモノちゃん。調子はどう?」
「うん。なかなか悪くない、かな」
異世界の人々が住む惑星、その周回軌道を飛ぶ宇宙船、『天之星』。
ハルたちの持つ最強戦力としての戦闘艦であり、今は宇宙に潜むスラグ製造プラントを追って調査をしているセフィ追跡の要でもある。
ハルの代理としてその艦長を務めるモノと、そして調査隊のリーダーであるセレステは、最近はこの航宙艦に滞在し例の推定ダークマターの調査を続けてくれている。
この船は『戦闘専用艦』として開発したのだが、こうなると『深宇宙探査艦』あたりに呼称を改めた方が良いのかも知れなかった。
「それで、ハル。今日はいったい、どうしたの、かな?」
「ああ、セレステに用があってね。セレステはどうしてる?」
「セレステなら、ついさっき『急用が出来た』とか言って、どっかに行っちゃった、よ」
「あいつめ……、察して逃げたな……?」
もはや『聞かれるとやましい事がある』と自白しているようなものではないか。
彼女ら神は嘘をつけないし、セレステは今ハルに支配されている関係上、黙秘も難しい。ならば秘密を守るために出来る最後の対処法は、ハルに会わずに逃げ回る事しかないのである。
「どうする? ハル。強制的に、呼び出しをかける?」
「いや、別に、そこまでどうしてもって訳でもないしね」
「そう、なの?」
「ああ、この分だと会っても素直に喋るとも思えないし……」
「それは、そう、かも」
「だからその前に、モノちゃんからも話を聞きたいな。構わない?」
「もちろん、いい、よ」
ここ最近、セレステと直に接していた時間が最も長いのはこのモノだ。
そんな彼女に聞けば、アメジストの疑惑よりももっと直接的なイメージが掴めるかも知れない。
アメジストを疑う訳でもないのだが、彼女は彼女で、少々意見にバイアスが掛かりすぎているきらいもあった。
「まず、アメジストにも言った、けど、セレステがぼくにも黙って、何かを行っていたのは、事実。だよ?」
「そうなんだ。あいつ、何か言ってた?」
「いい、や? ぼくには、セレステに情報開示を求める、権限はない、からね。そこは、ハルが直接聞いてくれないと、だめそうだよ」
「ああ。引き受けた。変なのが迷惑かけてすまないねモノちゃん」
「大丈夫、だよ」
やはり、実際に怪しい動きを起こしている事は事実らしい。アメジストの逆恨みというだけではなさそうだ。
その行動が具体的にどんな事なのか、ハルはモノの話に耳を傾けていく。
「まずぼくたちは、あの星に向けて照射される、ダークマターの束、ウェーブのような物のデータを集め発信源を特定しようとしていた、んだ」
「ああ。例の宇宙アンテナ施設だね」
「うん。今は翡翠たちも、アクセスがロックされてしまってる、からね」
だとすれば、今あの宇宙アンテナを占拠しているのはセフィ。かなりの確率でそう考えられる。
セフィに協力していた神々はほぼハルに下り、あとは自分で動かすしかなくなったともいえるが。
「……そのアンテナ施設と、セレステがコンタクトを取っていると?」
「それは、正直、分からない、んだ」
「そうとも限らないと」
「うん。もしそうなら、セレステは、セフィと通信している事になる。けど、交信しているのが、発信源とは、限らない」
「そうだね。それに、それだと流れに逆らう事になる」
「うん。ただでさえ謎の力への干渉に加え、送信方向を逆流したとは、考えにくい、よ」
あくまでダークマターは、アンテナ側から惑星側へと川のように大きな流れを形成している。
それを遡って発信元と秘密の交信をしようとすれば、傍で見ていたモノにもはや疑惑ではなく完全に察知されてしまうだろう。
「結局、分からないん、だけどね? ぼくらはあの力について、まだまだ知らない事、ばっかりだ」
「……ただ、それはセレステも同じだろう? 別に、僕もあいつから報告を受けてない訳じゃない。直近でも報告内容は、『手がかりは掴めど未だ詳細は判明せず』。よく冗談は言う奴だが、さすがに報告を偽る事はしない」
「うん。だから、セレステも確信が持てていない状態で、“勘で”干渉しているん、だ」
「マジかよ……」
「あの子はそういうこと、する」
「武神の直感恐るべし……」
本人も正確に理解していない状態ならば、報告も嘘をついている事にはならない。
まるで達人が戦闘で『身体が自動で動いた』などと言うようなノリで、未知のエネルギーに直感で干渉したとでもいうのだろうか?
なんとも、天才としかいいようがない、呆れたセンスの持ち主だった。
「じゃあ、施設相手の交信じゃないとして、奥様が相手ってのはどういう理屈?」
「ダークマターは、エリクシルネットへと干渉できる力。この認識は、ハルも持ってる?」
「ああ。エリクシルネットと繋がるスラグのエネルギーだ。無関係とは思えないよね」
「うん。だからセレステが交信しているのは、そちら側じゃないかと、ぼくは思うんだ」
「それで、いま夢世界に参加している奥様か」
「彼女は、セレステときっと、思考が近い。秘密裏に手を組む理由は、十分、だよ」
「近いかなあ……」
「二人とも、ハルを、担ぎ上げたい」
「それは最悪の協定だよね……」
ハルを自らの仕える主と定め、その主君の栄光の道程を(勝手に)整備しようとするセレステ。
かたやハルをエーテルネットの正当な支配者と位置づけ、ハルを頂点とした新たな国家秩序を(勝手に)構築しようとしている月乃。
確かに二人の理想は、ハルを通して交わっているともいえた。
「いや冗談じゃないんだが? 日本も異世界も、両方僕が面倒見ろと? 片方でも御免なんだけど……」
「意気投合、しちゃった、かな?」
「どうせなら潰し合ってくれないかなあ……、いや、それはそれで迷惑か……」
「ハルに相応しいのはこの世界だー、って、戦うんだね」
「どっちもお断りするよ」
支配者など忙しすぎて冗談ではない。レーヴァではないが、元々そのために作られたようなハルだ。今からまた管理者という名の部品に戻りたいとは思えなかった。
「まあ、分かったよ。とりあえずあいつがまた、何か怪しい事をやっているのは確定なんだね」
「ただ、ね?」
「うん?」
「また擁護するように、なるけど、ぼくにはあの子が、真面目に仕事をしていたようにも、見えたんだ。セレステはハルのために、ここで謎を解こうと頑張っていた、よ」
「ああ。それは僕も分かっているよ」
何も、ハルだって彼女が自分の企みのために調査を遅延させてまで暗躍し、セフィ攻略の邪魔をしているとは思っていない。
ハルの騎士を自称するその宣言に偽りはなく、セレステはいつだって与えられた仕事は真面目にこなしてきた。
「ただあの子その上でちょーっと、隙を見つけると未来に向けての仕込みを行わないと気が済まない性質なんだよね……」
「困った子、だよ、ね……」
まるで戦局を意のままに操る事こそ本懐とでもいいたいのだろうか。戦術だけでなく、戦略にも長けている武神様だった。これは最初に会った時から変わらない。
むしろ、当時に仕込んだ種が今やっと花開いたのが現状、という事も考えられた。
「……まあ、セレステが僕の味方である事も、なんだかんだ僕の為に動いてるだろう事も疑ってはないけど、やっぱり黙ってコソコソする奴にはお灸をすえておかないとね」
「がんばって。探しに行くの、かな?」
「ああ。何処に逃げ回ろうとも、きっちり追い詰める」
「ふぁいとだよ、ハル」
ぶかぶかの袖から覗く小さな手を振る姿に見送られ、ハルは問題児の足取りを追うことにした。
結局、何を考えているのか聞いてみないことには対応は決められない。
ハルは勝利の決まった、しかし非常に疲れそうな事もまた確定した追いかけっこに、身を投じるのであった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




