第1948話 枷を解かれた変神は今?
「どうだ? 何か分かったかアメジスト」
「ええ、もちろんですわ? やはり発言にロックが施されているというレーヴァさんの主張は偽りにあらず、脳機能に何らかの制限が確認されました」
「……なるほど。かつては、対象の記憶を消す能力者も確認されていた。やはり侮れないな、超能力」
「ですわね。そして超能力の仕様上、例えわたくしであろうとも即座に解除、といかないのが忌々しいところではありますか……」
「仕組みまでは分からないのか?」
「……口惜しいですが。……お役に立てず己の無力を恥じるばかりですわ」
「いや、仕方ないだろこれは」
超能力といえば、アメジスト。彼女に頼めばなんとかなるかと、ハルはレーヴァに掛けられた制限の解除を依頼したが、さすがにそう甘いものではなかったようだ。
かつての三家のデータを収集し、それを応用し『スキルシステム』を生み出したアメジストではあるが、そんな彼女でもあらゆる超能力を一瞬で逆算できる訳ではない。
まだまだ超能力関連の闇は濃く、奥が深い技術であるようだった。
「ちなみに、どうやって発言を封じてるんだ? カナリーたちのやり方と似たようなものだろうか?」
「いえ。彼女らを評価する訳ではございませんが、さすがにそこは神。連中のやり方の方が徹底してヤバいですわ?」
「ヤバいですか」
「ええ。ヤバいですの。なにせかつて生き残った異世界連中、その全ての言論を統制し全く新しい歴史をでっち上げたくらいですものね?」
「……一人二人の口を塞ぐのとは、レベルが違うか」
カナリーたち七色の神は、異世界に『エーテルの夢』を築き上げる際に、この星の歴史を一度リセットした。
それは、再び地球にも被害が及ぶ大災害を起こさせない為だったりときちんと理由はあるが、やっている事が恐るべき技術である事は間違いない。
その方法は、異世界の住人全てに紐づけられたデータベースに彼らの精神を直結し、禁止事項を口にしようとした際に強制的に行動にロックを掛けるというもの。
現代風にいえば、エーテルネットに接続された人間をネットワークを通じて遠隔制御するようなものである。
その効果範囲は国全体。レベルが、規模感がまるで違うものだった。
「対してこちらは、あくまで個人の脳機能を狂わせるだけの技術。まあ、ネットワークから外れても持続するという点では、こちらに利点もございますね」
「単体技か全体技かの違いって感じか」
「相変わらずお好きですね、ゲーム。追加して言うのなら、単体技の方は永続効果ですわ?」
まあいうなれば『コスパが良い』能力だ。その点のみで『完全下位互換』には分類できないだろう。
世界の支配者にはなれないが、裏で暗躍するには社会全体にフィールドを張り続けるなどオーバースペック。
一度掛ければ終わりの簡素な能力くらいでちょうどいいのだろう。
……いや、これを『簡素』と言ってしまうのは、少々感覚がおかしくなっている気もするハルだが。
「ついでに言えばカナリーたちも、特定の記憶を狙って消去するなど不可能でしょう。やはり、エリクシルネットと直結した超能力。時に神知を超えていますわね」
複雑な計算は全てエリクシルネットの意識に任せ、本人は発動を念じるだけで良いとすれば、『全手動』の魔法より数段楽。
解除するにしても、その複雑な計算を完全に解析しなければならないため無駄に労力がかかる。
しかし、逆に理解してしまえば、術者であろうと不可能なレベルで完全に力を制御できてしまうという利点はあった。
「すぐに手懐けてみせますの。どうぞご期待のうえ、お任せあそばせハル様?」
「ああ。任せたよアメジスト。済まないね、次から次に面倒を押し付けちゃって」
「あーん、いつになくハル様が素直。いつもはもっと、乱暴にわたくしを扱われるのにぃ」
「……黙れ。誤解を招くような事を言うな! 無理させてんだから、労うだろ普通」
「あ~ん♪ これこれぇ~♪」
「だから嬉しそうに猫撫で声を出すな!」
ハルがおしおきすると嬉しそうに甘えた声を上げるアメジスト。エメといい、有能な神には変神ばかりになる法則でもあるのだろうか?
……いやそうなると、全員有能なので残らず変人という事になってしまう。
やめよう、もうこの事を考えるのは。ハルはそっと思考のひとつに蓋をしたのであった。
ただ本当に有能なのだ。つい頼ってしまう。
そんな彼女に任せておけば、遠からずレーヴァの制限も解けるだろう。
そうなれば、あの施設と彼らの目的、新都市との関係性、そして裏に潜む人物の正体までも、あるいは明らかになるかも知れないのだった。
*
「……ふう。堪能いたしました。補充完了です」
「いったい何で動いてるんだお前は……、いやいい……」
しれっと明確に口にされても困る。質問をギリギリで撤回する理性が、まだハルには残っていた。
「しかしハル様も、珍しく思い切った事をなさいましたね? そこまで放置できなかったのですか?」
「いや、正直彼らの扱いには、さほど緊急性を感じた訳じゃない。ぶっちゃけ扱いはマシな方だしね」
「では何故?」
「言っている通り、裏に控えてる連中を焦らせて炙り出すのが目的なのは本当だ。ただそう思ったのも、この仕組みをこれ以上看過できないと感じたのが大きいかな」
「彼ら個人ではなく、仕組みが?」
「ああ。『何としても僕の目を逃れて何かしたい』、そうした態度が気に入らない。……まあ、別に僕だけを気にしている訳じゃないんだろうけど」
「ハル様に対する、挑戦と受け取られたのですね! 良いと思います! そんなナマイキな連中は、ぶっとばしてやりましょう!」
「……ちなみにお前も同じ事やったんだからね?」
「あ~ん」
むしろアメジストこそ、明確にハルにバレないよう策をめぐらし挑戦してきたといえる。まさに『お前が言うな』でしかなかった。
「しかしハル様。わたくしの時とは事情が異なるでしょう。相手は今回、社会的に大きな権力を持っていますわ? 表立って動かれたら大変でしょう」
「まあ、面倒そうだね」
「……またそんな他人事のように。どうなさいますの? ある事ない事でっち上げられて、誘拐犯だと大々的に報じてでも来たら!」
「まあ全部真実だし?」
とはいえその時は、相手もクローン製造などが明るみに出てハル以上の被害を受けるので、そんな愚かな事をするはずがないのだが。
「それに、公の事になればなるほど、絶対に僕には勝てないよ。現代では、司法を含めあらゆる処理がエーテルネットの支配の下で行われている。その頂点である僕を相手に、正面切って勝てる道理などないだろう?」
「まあ事実なのですけど……、その傲慢さが、より相手を深く地中に潜らせている気もしますわね……」
「うーん……、反省しなきゃね……」
ハルとしては、穏やかにやっていきたいと、むしろいずれは彼らに全て任せたいと思っているのだが。
その思いに反し信頼を得られず、裏へ裏へと回られてしまうのは、彼らの性質以外にもこうして漏れ出るハルの高圧的な部分が原因であるのかも知れなかった。
とはいえ、どうしようもない部分があるのも事実。大人しく下手に出ていたら、その時は暴走を許すだけなのも間違いない。
そんなままならぬ現状を、ハルはしばしアメジストと二人嘆くのだった。
◇
「ところでハル様、事は別件となるのですが」
「おや、どうしたの?」
そうして雑談を交えつつ彼女とくつろいでいると、不意にアメジストが真剣に表情を改める。
どうやら、何か言いだすタイミングを計っていた話題があったようだ。
察するに、それは今回の件とは無関係の、以前から進行していた例の話題だろう。ハルもまた居ずまいを正し、聞く態度を改めた。
「セレステの件ですが、秘密裏に何者かと連絡を取っていたと、その疑惑が浮上しています。いえ、明確な証拠が挙がっていないだけで、わたくしの中では疑惑ではなく確信なのですが……」
「……ほう」
「モノちゃんとも協力してデータを取り、わたくしが解析しました。やはりあの女、わたくしに封を施したのはこのためだったのですわ! 腹立たしい!」
「いや……、お前は枷をはめられて当然の事をしたんだが……?」
とはいえ、それに乗じてセレステが何かを企んでいたとしても否定できない。彼女はハルの仲間になった時からずっと、油断の出来ない人物として評価は一貫しているのだから。
「……まあいい。今は。それで、連絡って誰に?」
「セフィか、月乃さんのどちらか。あるいは両方でしょう」
「まあその辺か。しかしセフィは分かるが、奥様?」
「ええ。今回の月乃さんの参戦、セフィの計らいというには一人だけ異質です」
「確かに。奥様だけ刑務所組でも、幽霊組でもないね」
「そこでセレステが介入した結果と考えれば、納得がいくのではないでしょうか?」
「乱暴すぎる理屈に思えるが、それを裏付ける根拠が何かあるんだな?」
「はい。例のダークマターの星への照射。その調査の際セレステは、そこに介入する何らかの手段を見つけた形跡があります。揺らぎに混じって、巧妙にその形跡を隠していましたの」
アメジストが主張するところによれば、アレキが担当していたような地球への参加を呼びかける秘密の通信。あれと似たデータ送信がダークマターを使って可能と分かったようだ。
セレステはその調査と同時に、自らもこっそりそれを利用していたという。
その通信はやはりエリクシルネットを介して行われ、あの空間に詳しいアメジストはそれに気付いた、という話だ。
「しかし、セレステは僕を害せないよ? そこはどう解決するのさ」
「さあ? 害にならないと心から信じている、とかじゃないでしょうか?」
「んなまた適当な……」
アメジストとしては、とにかくセレステを犯人に出来ればなんでもいいといった気持ちも混じっているだろう。それならば、唐突な行動が怪しすぎるミントの方がまだ容疑者として可能性が感じられる。
ただ、彼女が密かに何かに手を出していたのも事実なのだろう。少々、詳しく話を聞いた方が良くなってきたようだった。




