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五十五話 明月高校事件1

「本当に、どこに行ってしまったのかしら……?」

息子の一人が急に姿を消して、ニケ月近くになる。

学校から家に帰宅し自分の部屋に移動してから、「うわあぁぁぁぁ!」という大声が聞こえ、

そこから姿を消してしまった。

部屋は勉強道具と理数系が主の書籍類、趣味で集めていたリサイクルショップを小まめに足を運んで安く買ったというフィギュア人形が整然と並べられ、あの子の気配が未だに強く漂っている。

学校に行くのに使っていたカバンも読みかけの机に置いた本もいなくなったその時のまま。

そんな部屋から消えたのは体育用の外履きと災害時に持ち出す緊急用の物を詰め込んだ袋だけだ。

そう、あの高校生らしくない用心深く用意周到な性格で、かつやけに存在感のない地味な性格と言うか生態をしていたあの子は兄弟たちの地味なサポート役をやっていた。

物忘れの多い弟のために余分に物を用意したり、寝坊の多い兄のために早起きして起こしていたり、気が付いたら洗濯物を取り込んでいたり。

そして、そんなサポートを存在が地味すぎてしばしば気づかれない。

そんなあの子だから緊急時の事も考えて物を用意していたのだろう。

 という事は急に何かに巻き込まれてしまった事になる。

窓に鍵が防犯用後付けも含めて二重にかかって、しかも耐衝撃シートまで張っている窓はヒビひとつない。

「はあ……、お掃除しよ」

掃除機のスイッチを入れようとした時だった。

「なんだこりゃ? 紙の扉かよ?」

押し入れから、誰か出てきた。


「って、すまねぇ。ここの住民かよ」

出てきたのは、黒人だった。

「せめぇな。すぐに出ていくからよ。勘弁してくれ」

かなり背が高く、野球のユニフォームを着ていて、手にはバット。

私が声を上げる間もなく、するとすぐに彼は何かを見つけた。

「ん? この人形……アリムじゃねぇか? ヒトシが良く変身する」

均?

「ドウカナサイマシタカ? ゴシュジンサマ」

その人形と同じ姿で、等身大の女の子が天井裏から降りてきた。

あの子が見ていたアニメのキャラが、そのままでてきたかのような。

「アア……ナントイウコトデショウカ。ゴシュジンサマ――――――――――――――――――――――お母さん?」

その女の子が息子の均に変わった。

「均?」

「お母さん? ああしまった! 説明が死ぬほどめんどくさい!」

「ヒトシ、ここお前の家で、この人母ちゃんかよ?!」

一体何が……。

「ぐむ!!」

すると何か、柔らかい物を踏んずけた。

足元を見ると、カーペットが人の形に盛り上がってちょうど顔の所を踵で踏んでいた。

「ついとらん……。ここはどこだ?!! ヒトシ! ニック! 君らは無事か!」

「なんでお前はそんなところにいやがんだよ!」

「そこカーペットの裏です! しかも僕のお母さんに踏まれているところです!」

「む? どういう状況なのだよ!」

ええ? とりあえずどけるけど。

「ルノ! 火は使うなよ!」

「ここ、僕の実家です! ええと右に90度回転してもらって……」

あ、頭をタンスにぶつけた。痛そう。

「痛いのはいつもの事だがね! くそう……。もう必要以上に目が覚めたというのに」

「そのままそっち行けば出れるはずだけどよ」

カーペットの裏を何とか這いずり、出ようとしている誰か。

均のお友達?

「ダチだけどよ」

「友柄だがね……くそう。ホコリだらけだ」

するとカーペットの端から黒い手袋が見え、青い服が何とか出てきて、怒った顔立ちの整った若い女の人が出てきた。

髪も瞳もまた青い。

コスプレ?

「む? コスプレ?」

何とか這い出てきた女の人。

「前にも聞いた事のある言葉だが何かな、それは」

「あ、ルノさん。僕の世界ではルノさんみたいに元から髪が青い人はいなくてですね。前行った世界みたいなアニメとかゲームじゃないとありえないんです。それでアニメとかゲームの人を真似することが有るんですが、それをコスプレって言うんですよ」

「儀式や演劇で神々や過去の人物を演じるのに近いのかな?」

「それを遊びでやっていると考えれば大体あっています」

「確かに、様々な世界を渡り歩いたが私みたいな髪が青い者はあまりいなかったな」

え? それなら地なの?

「地だが……というか頭で考えている事が口に出るのか、君は。ヒトシと同じく」

「親子じゃねぇか」

「そうなんだよなぁ……僕の方が酷い気がするけど」

え、出ていた?

均は存在感がないからあまり変なところがあっても気づかれてないけれど。


「にしても、これで俺ら三人共それぞれ強く縁があるところに来ちまったじゃねぇか。こんな事ありやがるのか?」

「わからんな。まあそれはさておき」

女の人は窓に目を向けた。

「……まずいな。建物が相当ある。人が多そうだ」

「早めにどっか行かねぇと、やべぇぞ」

「この辺りで人の少ない所か、できるだけ広い所ですね……。その前に……ええと、お母さん!」

うん。まずは元気そうね。

「ごめん。色々な説明をしたいんだけど、それをする暇が多分あんまりない。ルノさんとニックさんのお陰もあって僕は元気にやっているから、それは信じて」

「ああ、ここはちゃんと自己紹介した方がいいかな」

すると女の人が言う。

「私はルノール・クラウディア。魔術師でグラン魔王国の魔王……と言ってもヒトシの世界の住民だと理解し難いかな? ここはヒトシのただの友柄と言っておこう。もうしばらくご子息を私に預けてほしい。必ず無事にこの家に帰そう。ヒトシが大変助けに助けになっているのだ、もしばらくお願いをしたい」

 アニメとかゲームじゃないと聞くことがなさそうなセリフ。

でも本気なのだろうと感じた。

それに続いて大柄な男の人も。

「ニック・ワイズだ。見た通りベースボーラーなんだけどよ。できる限りはやっているが、専門じゃねぇことをやる羽目になっている。ヒトシがいなかったらどうなっていたかわからねぇ事も多々あったんだ。俺の方からももう少しヒトシとチームを組ませてほしい。悪い事には絶対にしねぇ。お願いしてぇんだ」

 二人とも悪い人物ではなさそうだった。


「この先何があるかわからん。異形が来る前に、早めにここから出ていきたいが……」

「ヒトシ、よさそうな場所はあるかよ?」

「まあまあ人がいる地域ですけれど、すぐに行ける広い場所となると……高校のグラウンドだ。僕の通っている学校は山の方だし、グラウンドが広いんで下手な場所よりマシなはずです。窓から見えるあの場所」

窓から見える、山に半ば食い込む形で立っている均が通う学校、明星高校。

進学校でありながらスポーツにも力を入れているため、グラウンドは広い。

均は科学部所属だけれど。

それで……あの女の子はなんなの?

聞いちゃいけないかな?

「ヒトシ、親御さんに説明したまえ。アレは流石に訳が分からなすぎるだろう。それに私と状況が違う。いなくなった理由もだ」

「いやよ、無理じゃね? 時間がねぇし、ヒトシの能力は俺らも未だ訳わからねぇぞ。散々見ているけどよ。いなくなったのも滅茶苦茶な理由になっちまう」

「説明かぁ~~~……。

変な女神に拉致られて、妙な能力を与えられて、触った人形の姿になれるようになって、ルノさんとニックさんと一緒にあちこち行くことになった……じゃダメ?」

ええと。

「……そうなるとしか言えん。しまったか」

「全部本当なんだけどよ、信じる奴いねぇな」

わかったわ。

「均」

「あ、はい」

「もう少し家を空けないとダメなのね?」

「ごめん。そうなんだ」

「勉強はできる状況でもないみたいね」

「早くしたいんだけど。みんなより相当遅れちゃったし」

「一体何をしていたの?」

「……戦闘。さっきみたいに変身して戦うハメになった。ルノさんとニックさんも僕と違う能力で一緒に戦ってる。訳の分からない変な相手と。

もしかしたら、もう来るかもしれない」

そんな事……。

あの二人を見る。

「この人たちは信用できる?」

「間違いなく」

大人だろう青い女の人と、大柄な男の人に正対して言おう。

「均はしっかりとしていますがまだ子供です。親としてはこのまま手元に置いておきたいですが……」

そこに声が挟まった。

「キャプテン・レッドが確認した! ダークシャドウだ!」

すると、均が小学生の時よく見ていた特撮番組のヒーローがそこにいた。

窓の向こうに、渦巻く黒い異様なものが存在していた。

「クソが! ルノ、あそこまで行けるか?」

「くそう! 君! 申し訳ないが、ご子息をもうしばらく借りるぞ! 無事に帰す! 絶対にだ!」

見ると窓を開け、もう一つ用意していた緊急用袋を手にする息子がいた。

「ごめん。お母さん。必ず帰るから」

「『遥か飛べ』」

部屋に一瞬、暴風が吹き荒れた。

あの三人は、瞬く間に小さくなって、学校へと向かっていった。


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