第9章19話 散歩と寿司
ノア兄さんの結婚式を終えて、その影響は大きな物だった。ライリエ伯爵はロドニー公やボナブル公爵と宿の食堂のファンとなり、ラルドさんとまで仲良くなっている。
どうやら合同騎士団の仲間入りも希望らしく、ロドニー公の推薦があれば考えてても良いと思っている。
交易決済銀行の話しも止まったままだし、する事は多いのだが、もっと重要な事が有る。
女王様が魔国からミミーちゃんと同じ種類の馬を2頭連れて来たのだ!
厩舎のおじさんが3頭を連れて来た。白と黒のブチがオルテル。女王様のお気に入りだ。茶色がシミリアン。マネさんが可愛がって乗っている。
ミミーちゃんが相変わらずデカい舌で俺の顔を舐めている。大興奮だ。
「ミミーちゃん元気だった?」
頭をスリスリして応えている。
「坊やは馬にも人気が良いな」
「ミノルが、たまにしか来ないからだ」
女王様とマネさんが笑っている。
今日は3人で街に散歩に行く。ミミーちゃんが街に行くのが大好きなのだが最近は危険なので騎士団の馬場で遊んでいた。
「早く行こう。ミノルが唾だらけになる」
マネさんが浄化を掛けてくれた。
3人で並んで館から出て行くと貴族街で馬車とすれ違う。馬車を止めて中から婦人と娘さんが手を振っている。お母さんの昔の仲間だ。無事だったようでホッとする。
「祝福を」
俺は笑って祝福すると大喜びしている。
「「幸福を」」
女王様とマネさんが続けて幸福を掛けると窓を開けて娘さんが手を大振りしていた。
「坊やはこれをやっていたのか。人気が良い筈だ」
「だってヒマだったんですよ」
笑われてしまった。
大通りは人で溢れ始めている。お店には直接かかるように投げ込み、全員に降り注ぐように祝福をバラ撒いて行く。
女王様とマネさんも同じように幸福を投げ込みバラ撒いていた。
凄い数の人が大通りに並んでいる。
「これほど精霊魔法が上がるものは無いですよ」
「良い事をすると上がり易いからな」
女王様が感心していた。
マイヤー商会の二階の窓からハリーさんが顔を出し、ミアさんが窓に座って手を振っている。3人で思い切り光の粉を叩き込んで周りが見えないくらいにすると通りの人達から笑い声が響いた。
トメラさんが店の前にいたので祝福を玉状にしてぶつけてやると女王様とマネさんも面白がってやり出した。
トメラさんの逃げる姿が面白く、3人でついやり過ぎてしまったが周りの人達には大受けだった。
片端から祝福と幸福をバラ撒いて疲れた頃に、何時もの笑顔でリリさんが立つていた。当然お茶の時間だ。
「坊ちゃん待ってましたよ」
何時ものお茶を入れてくれた。
「女王様とマネ様もどうぞ」
「様は止めろと言っているだろう」
マネさんが苦笑いして、女王様が大笑いしている。
女の娘達と、お客さんには治療魔法と祝福魔法を掛ける。
「坊ちゃん様、ありがとな」
お客さんも慣れたものだ。女王様も気楽にリリさんや女の娘達と話していた。
「ドロン騎士団隊長と結婚してあげれば良いのに」
「あのリリさんか?」
「女王様、知らなかった? 女郎屋の女将じゃ迷惑掛けると言って、頑なに断っているの。僕が11歳くらいからかな?」
「もっと前からだ」
マネさんも詳しい。
「何とかせねばならんな」
女王様も世話好きだ。
お茶の後ドワーフさんの鍛冶屋に寄ってみる。女王様の剣をフルセットで頼んである。
「女王様の剣はまだかかるな。相応しいミスリルが掘れない。精霊魔法が乗りやすいミスリルが必要だ」
との返事だった。
大通りの最後まで祝福と幸福をバラ撒いてから正門を出て、3頭で少し走った。
「ミミーちゃんが喜んでます」
「また来よう」
「儂も参加するぞ」
大騒ぎになるので、帰りは厩舎のおじさんを呼んで馬を任せた。
「ハリーさんが呼んでいるぞ」
「ギルドに行こうと思っていたのだけど、マイヤー商会に行きましょうか」
3人で事務所に行くとミアさんがハリーさんと居た。
「お忙しいところを寄っていただいて有り難う御座います。今日はロドニー公の領地で山崩しの日程を相談しておきたいと考えてるのですが」
「もうトメル公爵とソシル子爵の所のモンスターは片付いたので、そちらに合わせますよ」
「ボナブル公爵も参加して来たが平野が有るのか?」
「無いのでやはり造りませんと」
「どの位するの?」
「3~4個所の山崩しの予定です」
「場所が決まったら教えて下さい。現地で下見したいですから」
「パトリックに伝えておきます。今ライリエ伯爵の所に行ってますので」
「ライリエ伯爵ですか?」
「ボナブル公爵と会いたいとの事で、そろそろ戻って来ると思いますが」
ロドニー公とボナブル公爵のお陰で顔が広くなって来ているようだ。
パトリックさんが帰って来た。
「ミノルさん丁度良かった。ライリエ伯爵も開発を希望してます。農場を造りたいらしく、獸人や亜人は気にしないようです。あそこは米作りに良い場所に思えるので早急調査をしようと思ってます」
「米に適した土地は有り難いですね」
「専門家を送って調べますよ。寿司食べて行きません?」
「食べます!」
「握りが大分上手くなったので、味見して下さい」
ついに握り寿司が食べられるようになる!
「魔国でミナミマグロに近い種類が捕れるのです。これが美味いのですよ」
「ミナミマグロですか!」
「そうです。是非試して下さい。これから握りますよ。ミノルさんは酢が強いのが好きですか?」
「はい! 酢の強めの酢飯が好きです」
パトリックさんがお寿司屋台セットみたいのを持って来て調理を始めた。
寿司が食べれると思うとワクワクする。
「坊や、随分ワクワクしてないか?」
「寿司は日本人の心の故郷なのです!」
「私も日本を思い出しては食べたくなって材料集めに走り回って、かき集めたのです!」
パトリックさんがマグロの柵を出して切り始めた。
「大トロだ!」
「はい! 沢山有りますよ」
俺に、ニ貫先に握ってくれた。
「ワサビは?」
「タップリで。大トロですから」
「ですよね」
醤油をタップリと付け、大トロの握りを口に入れた。
「ミノルさん、どうです?」
「今日、全てが報われたような気がする……何て久し振りなんだ。生きていて良かった……美味いよパトリックさん!」
「でしょう。私なんかミナミマグロを見付けた時涙が出て来ました」
女王様とマネさんの唾を飲み込んだ音がした。
「日本人と日本留学組しか分からないかもしれないけど、食べてみます? 生魚ですよ」
「私は食べるぞ!」
「儂もだ!」
結局、異世界組も寿司には弱かった。ミアさんが嫁さんを全員招集して寿司の試食会は始まった。
最初は恐る恐る、後は全員で無言で食べ続け、満足するまでパトリックさんは寿司を握り続けたのでありました。




