第8章20話 女王様の治療
「坊や、まだまだ魔壁は治らないことにしてくれないか?」
「それは構わないですよ」
「もう利用されたり、狙われるのに飽きた。魔壁が壊れている事にしておいた方が楽だ」
「じゃ魔壁が粉々で、繋ぎ合わすのが大変な事にしておきますか」
「そうだな、魔壁の老化で硬化したとでも言ってくれ」
「女王様は老化なんてしませんよ」
「坊やは良い子だ」
頭を撫でて貰った。
食堂に着くと、我が家のお姉さん達全員とドレッチェルさんが待っていた。
「叔母様、お久しぶりです!」
女王様とドレッチェルさんが抱き合っている。
「もう会えないと思ってました」
ドレッチェルさんが泣いている。
「もう大丈夫だ。坊やが助けてくれたからな」
ドレッチェルさんが俺に何か言っているが、泣いているので意味不明だった。
「ミノル坊やの奥さん達ですね。今回は大変迷惑を掛けて申し訳無い。800歳も超えると手間が掛かって人様にまで迷惑を掛けてしまう」
全員で自己紹介をしている。
「坊や、嫁は全員美人だな。感心したぞ」
我が家のお姉さん達が赤くなって照れている。
「ミノルさんが叔母様と仲良しなんてビックリです。男の人にこんなに優しい叔母様なんて初めて見ました」
「坊やは特別だ。嫁達も良い子ばかりなようだ。気持ちが良いな」
「はい、皆さん良い人ばかりで大変楽しいです。サキバはミノルさんの兄上の嫁ですよ」
「そうなのか! 奇遇だな。坊やは私の親戚ではないか!」
親戚の昼食会となってしまった。
「エールが久しぶりで美味いな。食事が楽しみだ」
女王様がエールを楽しんでいる。
「今日はピヨちゃんのトマト煮でーす」
「トマトなんて有るの!」
「パトリックさんが栽培してまーす」
「知らなかった……」
「パトリックはミノルを驚かすのに命掛けてますから」
お姉さん達が皆で納得している。
全員初めての鳥のトマト煮に舌鼓を打った。
「美味いです!」
「柔らかい! スプーンで鶏肉が切れる」
「複雑な美味だな! 上品な美味しさだ」
口々に誉めながら食べている。
「まともな料理は半年近く食べてなかった。坊やに感謝だな」
エールが進むに連れて舌が滑らかになり、皆が仲よくなってゆく。
俺の奥さん達という事で女王様も信頼仕切っているようで、気楽に何でも話している。
「楽しんでいる時に余計な事ですが、叔母様も久しぶりですから疲れますよ。これからは毎日でも会えますから、お休みになって下さい」
ドレッチェルさんが女王様を気遣って言ってくれた。放っておくと夕食まででも続きそうだった。
ドレッチェルさんが帰ったので女王様に部屋を見て貰う。
「マネさんとテリッチさんも付き合って下さい。皮膚炎の治療の相談が有るので」
女王様を宿の俺の部屋に案内した。
「これは良い部屋だな。露天風呂まで有るのか!」
「皮膚炎の治療が終わったら、この部屋を使って貰います。安全だと思いますし」
「済まんな。何から何まで」
「女王様、テリッチさんに皮膚炎を見せて貰えます?」
「良いぞ」
女王様はローブをゆっくりと脱いで裸になった。ローブで擦れた所が赤みを増している。
「これは酷いですね」
「これでもゴブリンの治療魔法でだいぶ良くなったんですよ。でもすぐ悪化するんです」
「ポーションとミノルさんの治療魔法でも一週間以上は掛かりますよ。泉の薬功は強いのですか?」
「我々の洞窟の池と変わらないですよ。浄化作用も強いですし」
「これだと寝るのも大変だろう。アデルの時に使ったポーションは駄目か?」
「良いかも知れないですね」
テリッチさんが取りに帰った。
「治っている部分もあるな、マダラになっている」
「本当ですね。何でだろう?」
マネさんと一緒に不思議そうに患部を見る
ハッと気が付いた。女王様が俺を抱えて振り回した時に密着していた部分のような気がする。
テリッチさんが帰って来た。色々なポーションを持って来ている。
「これが例の黄色スライムから作った肌用ポーションなんです。アデルさんに塗られていたのと反対の効果なんですよ。女王様の肌の荒れ方が、あのポーションを塗られたのに似ているのですよね」
「呪いもあるぞ。女王様は自分の制御を失っていた時期にミノルに撃墜されていて、今は正常なら後遺症みたいな物の可能性も有る」
マネさんが錬金術大全を見ながら話している。
「本当だ。両方考える必要性が有りますね」
テリッチさんもマネさんの大全を覗き込むで考えて
いる。
「女王様は時々、混乱のような症状を起こしました?」
「坊やに撃ち落とされるまで混乱状態だったようだ。今は治ったようだ。全く起きない」
ティアさんは何か考えている。
「二~三日ミノルが治療して、余り改善しない時は全員で精霊魔法の浄化だな」
「それにしましょう」
マネさんとテリッチさんがスケジュールを、どんどん決めている
「何か有ったら呼んでくれ」
二人が帰って行った。
「坊や、泉に帰ろうか?」
「はい」
二人で直接泉に飛んだ。
女王様はすぐに泉に浸かった。また炭酸のような泡に包まれている。俺も泉に浸かることにした。軽く泡立っている。
「坊やも疲れたようだな、吸うが良い」
胸を貸してくれた。凄く良い匂いと不思議な美味しい味がして、すぐに意識が無くなってゆく。
マネさんやテリッチさんとは違う強い安心感に包まれていた。
目を覚ますと夜の8時だった。意識が無くなった時のままの格好で更に女王様にしがみついている。
女王様も俺を抱えたまま寝ていた。
女王様の胸から口を外し抱き付きを止め、そっと女王様から離れようとすると女王様も目を覚ました。
「坊や、起きたのか。私も安心感からぐっすり寝ていた。良い眠りだった。感謝するぞ」
「僕こそしがみついてしまって失礼しました。お陰様で快調です」
「定着が大分進んだようだな。お互いに頼るという不思議な関係だな。珍しい」
マネさんから念話が入った。
『連絡が取れなくて心配したぞ』
二人共、寝てしまっていた事を説明して、弁当を注文して貰う事にした。
「30分後に弁当を取りに行きます。女王様はゆっくりしていて下さい。すぐに帰りますから」
「マネさんや嫁達に心配を掛けてしまったようだ。申し訳無いな」
「大丈夫ですよ。食べ物を確保してから治療しましょう」
「そうだな、まだ腹も空いてないしな」
「二人共、帰って来てすぐに寝てしまいましたから」
食堂に行くと全員で食事の最中だった。
「女王様のポーションが適合するか心配で、治療を優先して調合してあるので多少の混乱が起きるかも知れません」
テリッチさんが新しいポーションをくれた。10時間の薬効だそうだ。
「危険な程ですか?」
「いえ、女王様には大きな問題は起きないと予想してます……」
「まあ、頑張れ」
マネさんが心配そうに言ってくれた。
女王様が心配だったので、エールとお弁当を受け取ってすぐに泉に帰った。
女王様が泉の中で浮いている。ローブのポケットからミアさんが渡してくれた毛布とお弁当入りのマジックバックを出し、ポーションを草地の床に並べる。
とでも暖かいので、土手でポーションを飲ませても大丈夫そうだ。
泉に入って女王様の近くに行くと目を覚ました。
「また寝てしまったようだ」
「ポーションを飲んでから寝ましょう」
二人で泉から上がり土手に座った。ここは本当に洞窟の池と作りが似ている。
「さあ、このポーションを飲んで寝ましょう」
女王様がポーションを一本、一気に飲んで横になった。
「坊や、心配だから側に居ておくれ」
「はい、そうします」
女王様が汗をかき始めて、身体が紅潮し始めた。タオルで顔の汗を拭いてあげると、小さな声で礼を言って目を閉じた。
凄く汗が出ているが問題無さそうなので俺も仰向けになって天井を見ると、やはり縦穴になっている。
天井位置に横穴らしいのが見えるので行ってみようと思っていると、いきなり女王様が怖い顔で俺の上にいた。
「女王様! ちょっと……」
意識が戻ったのは12時間後だった。
「坊や、坊や気が付いてくれたか! 済まない事をしてしまった……急に混乱を起こしたようだ。わざとやったのでは無い。信じておくれ。本当に済まない。嫌わないでおくれ」
女王様が泣きながら言っている。
「間違っても大好きな女王様を嫌ったりしませんよ」
「本当か? 坊やに申し訳ない。800歳を過ぎて何という事をしてしまったのか……奥方達にも謝らないと……」
「ポーションの影響だと思います。テリッチさんも治療を優先するので多少混乱するかもと言ってました。決して女王様の責任では無いので。僕は、かえって儲かってしまいました」
「こんな婆に……済まんな。坊やは優しいな」
家の奥様達は結果を予想していたようだ。女王様が可哀相になってくる。起き上がって背中を撫でてあげた。
女王様は1時間以上俺に回復と治療の魔法を掛けていたようだ。
「ポーションの効果は10時間と言ってましたから、時間通りです。副作用ですよ」
「そうか……済まんな」
ションボリしている女王様に回復と治療魔法を掛けてあげた。
「肌の具合は相当良くなりましたね」
「そうだな、本当に良くなった」
女王様が何かを飲んでいる。
「女王様、その飲み物はポーションじゃないですか?」
「喉が渇いて飲んでしまった! 坊や、どうしよう」
身体が紅潮し始め汗が流れている。
「必ず混乱する訳では無いですよ。それに僕が……」
最後まで話すことは出来なかった。
13時間後に泣きながら俺を抱えている女王様と目が合った。何故だが知らないが、抱きついてスリスリしてしまった。




