第8章18話 結婚式の打ち合わせ
『悪事千里を走る』と言うが、翌日の昼にはノア兄さんがフェン兄さんに何か言って来ているらしい。
館の執務室にフェン兄さんを助けに飛んだ。
「ミノル。何故そんなに事を急いだ!」
ノア兄さんがキレている。
「僕もフェン兄さんも急いで無いよ。ロドニー公が昨日、僕とマネさんとテリッチさんの三人で久しぶりにゆっくり朝ご飯食べてたら夫婦で来たんだよ」
ノア兄さんがドキッとした顔をしている。
「兄さん最近テルリアさんを返して無い日なんて無かった?」
「…………」
ビンゴだ! 強気で押すしか無い。
「婚約はしているけど婚約の儀もして無いのにロドニー公と夫人が揃って来たら、何でも認めるしか無いよ。ねーフェン兄さん」
「そうだぞ、俺だって立場無かったモン」
フェン兄さんが攻勢に出た。
ノア兄さんが青い顔をしている。
「家の館で結婚式したら喪に服してると言えなくなるから、ロドニー公の方でやって貰うしか無いじゃない。だから費用はこちらでと言ったの」
「………………」
「王様は出席するし魔王様も来るし今更逃げは無理よ」
「俺もミノルに同意だな。諦めなよ」
「逃げている訳では無くて、何でそんなに急ぐのかと思って……」
急に弱気になって来た、もう一押しだ。
「ノア兄さんが悪いんだよ。そりゃあテルリアさんは美人で清楚で兄さんと趣味が合うから夢中になるのは分かるけど……テルリアさんは家に帰っても、あの調子で何でも話している可能性は高いんだよ。結婚式を急ぐのは当たり前じゃない」
「ミノルの言う通りだよ。テルリアさんは魔族でもエルフでも無く完全な人族だから子供の問題だって考えないと、年齢的なこともあるし」
「ノア兄さんの子供は男なら王様の甥で大公の孫で魔王の甥で辺境伯の子なんだよ。早くに男の子を二人生んで一人は公子にしないといけないんだから自覚してね」
「…………済まん」
「じゃ話しは進めて行くからね!」
「……頼む」
思ったより簡単に落ちた。ノア兄さんがスゴスゴと屋敷に帰って行った。
「ミノル。凄い攻撃力だった! 助かったよ。さっきまで逆切れして大変だったのよ」
「またフェン兄さんが、からかったんじゃないの?」
「して無いよ」
「嘘だね。その目つきが証拠だね」
「…………またやってる?」
フェン兄さんがニヤニヤしている。
「バレバレだよ」
「そうだ。あのポーションは最高だとサキバが絶賛していた。あれ売れるよ」
「もう少しテストしてから……」
「箕輪さんも絶賛していた」
「怖いものが有ると言ってマネさんとテリッチさんはテストを避けているけど……」
「ノアとロドニー公の評価待ちだね」
「でさ、ノア兄さんの結婚式に呼ぶのは寄子さんと、親戚でラルドさんハリーさんパトリックさん、世話になっているからトメラさん、箕輪さん夫婦もかな。後誰呼ぶか考えておいてね」
「わかった。隊長さん達はどうする?」
「そうだよね、呼ぶべきだよね。兄さん、あと考えておいて」
「ステン王子は王家側、我が家側?」
「……本人に選ばせたら? 日本大使館関係者は絶対に拒否してね」
「わかった」
ノア兄さんの騒ぎが収まったので洞窟の池に帰ると、全員揃っていた。
「話しはつきました?」
テリッチさんが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫です。納得させました。結婚式出席の顔ぶれまでフェン兄さんと話して来ました」
先程の顔ぶれの説明もしておく。
「パトリックと父まで呼ぶの!」
ミアさんが驚いている。
「当たり前ですよ。ミアさんの親と兄なら親戚じゃないですか」
「父は心臓が止まるかも知れない……」
「何で? 全員、僕の奥さんと公言しているよ。王様だって『奥様方』と言っているじゃない」
「なんか現実味に欠けるけど、確かにそうだよね」
ミズリさんが変な納得をしている。
「私なんか孤児だから夢みたいな話しで納得だけど、ミアさんの家族の人達は慌てるよね」
ポニーさんがミアさんを心配している。
「先に言っておいてあげた方が良いかも、王様と大公様の親戚になるって」
ミズリさんがミアさんに忠告した。
「私、マイヤー商会に行ってくる」
ミアさんが飛んで行った。
「テリッチさん、あのポーションは魔人の人達には凄く好評です。ノア兄さんとロドニー公には聞き辛いので、まだ分からないですけど」
「確かに今は聞き辛いですね」
「そのポーションって何です?」
ポーションと言うとミズリさんが興味を示す。
「ミノルさんがノア様とロドニー公に頼まれてより強力なのを作ったのですが、シーツに触れただけで凄い状態になりそうでマネさんと私はテストをパスしたのですよ」
「進歩の為ですし、私がテストしますよ!」
「私も」
ミズリさんとポニーさんが何時ものように犠牲的精神で立候補してくれた。
「じゃ15分用を作って……」
テリッチさんが作業部屋で少量のポーションを計って持って来た。
二人はポーションを飲むとすぐに身体全体が紅潮し出した。力が抜けるように仰向けになり、そこからは申し訳無くてツンツンも出来無かった。
こういう時に限って薬効が長く30分以上効いてしまった。
二人とも汗が凄く出てサウナから出て来たようだ。
「これは凄いです! 何も考えなくなって、暗い考えや夢に捕らわれることは絶対無いです」
ポニーさんが気に入ったようだ。確かに時々暗くなる人には良いかもしれない。
自分でも奥さん達の力で考えない、夢を見ないで助かったことが多いので分かる気がする。
「ポーションは本当に最高ですけど……自分で動いだけで凄いのに、テルリアさんを尊敬します」
ミズリさんがテルリアさんを尊敬したようだ。
昨日もテルリアさんは前のポーションとはいえ、効いている状態で服を着て来てたけど、あれって凄いことだなぁと思った。
一応二人に治療と再生魔法をかけて順番に池に入れてあげた。汗がドロッとしていたからか、泡立ちが凄い。 まだボーっとしている二人の背中も流してあげておいた。
ミアさんが帰って来た。
「どうでした?」
「暗くって、また手で顔を覆って泣いてるんですよ。パトリックは費用は全部マイヤー商会が出すとか、舞い上がっているし」
「僕は暫く行き辛いですね。ハリーさんに泣かれると悪い事をしたような気になって」
「皆で気分転換でエールを飲みに行こう」
マネさんの意見に全員で賛成して宿に行った。
飲んでいるうちにまた結婚式の話しに戻ってしまう。
「着るものはどうします?」
ミアさんが口火を切った。
「ドレスでも作ったらどうです? 今から採寸して注文しないと間に合いませんよ」
「儂は何時もの司令服で行くぞ。儂がドレスなど着ると喜劇の旅芸人みたいになりそうだ」
「私も司令服で、あれ正装ですから」
マネさんとポニーさんが消極的だ。
「全員で最高級のドレスを作ると良いのに。着る着ないは本人の自由で」
「無駄使いだよミノルちゃん。ミアなら似合うだろうけど私がドレス着たら詐欺師が貴族ゴッコしているみたいにしか見えないよ」
「そんな事は無いですよ。皆美人なんだから花嫁に勝つつもりで一人1億デルくらいの特注品を作って着れば良いのに」
「280歳近い女のドレス姿なんて、崩れかかった館の吸血鬼みたいで嫌ですね」
結局、全員で何時もの服装に白いシャツをパトリックさんに作って貰って礼装とする事にした。




