第8章05話 天然ボケテルリアさん
本多支局長が王都から来たので斉藤さんと、箕輪さんが館で俺に相談したいと言うのでマネさんと来た。
本多支局長は陸奥銀行のこっちの世界では一番偉い人らしい。前任者が金貨流出の片棒担いだ人で2年前に日本に逃げて、副本部長だった本多さんが本部長になったらしい。
箕輪さんに聞くと、とても良い人だそうだ。
「本多支局長です。はじめまして」
「ミノルです。箕輪さん、斉藤さんには何時もお世話になってます」
本多さんは50歳くらいで、半分白髪の如何にも支店長さんらしい人だった。父とは仲が良かったらしい。
「山形支店長さんは無事なんですか?」
「無事らしいのですけど、シュテンブルグ支店を閉める話が出た途端に銀行内に拘束状態なんですよ」
「銀行内に住んでいるのですか?」
「はい。安全を考えてシュテンブルグ支店の2階に引っ越してます」
「ご家族は」
「単身赴任です」
斉藤さんが詳しい。
「オンラインでシュテンブルグから大金を引き出そうとしたので、口座を凍結してオンラインを切ったので山形さんが心配なんですよ」
セントニア絡みのお金だったらしい。本多さんはなかなか臨機応変な人のようだ。
「ミノルさん山形さんを助けて貰えません?」
箕輪さんが聞いてきた。
「昨日、斉藤さんを簡単に取られたのでワープで入る事が出来なくなっていると思うのです」
マネさんがコロン騎士団情報隊長を呼んだ。
「あそこに街全体に抗魔法バリアーを張れる魔術師が居るのか?」
マネさんが懐疑的だ。
コロン騎士団情報隊長が来た。
「今の所、街全体にバリアーは張られてません。館と陸奥銀行だけです」
「今、陸奥銀行の警備は?」
「50人くらいです」
「バリアーカッターか魔法陣で消せないかな」
マネさんがテリッチさんに連絡するとすぐに来た。
「建物全体くらいなら、魔法陣5枚くらい張ればすぐ消えますよ」
「銀行内には別にテレポート防止してありますでしょう」
「どの支店も犯罪防止にしてますね。賓客除外リストからミノルさんは確実に外されてますね」
本多さんが応えた。
「直接飛び込めないなら騎士団と一緒に行って、ぶち破るしか無いですかね」
「人数で一気に制圧が安全だろう」
「魔術師だけでは厳しいですよね」
ドロン騎士団隊長に来て貰って意見を聞く。
「山形さんの安全確保が難しいですぞ」
「ですよね……」
「入口を如何に素早く突破するかがカギですな」
「銀行の見取り図は無いのか?」
マネさんの要求に斉藤さんが支店に取りに行った。
安全確保が最優先なので銀行強盗みたいなマネも出来ない。
「山形さんが追放されて王都に居ます!」
本多支局長が報告した。
「良かったですね!」
ホッとした。救出作戦は失敗の確率が高く困っていた所だった。
本多支局長が山形さんを迎えにワープして行った。皆で安心して話していると本多さんが山形さんを連れて来た。
「王国とホフマン家に報復されたく無いようで、先程追放されました」
山形さんが疲れた顔で座っている。
「銀行の回りの兵は何なのだ?」
「シュナイダー辺境伯がアイラス教団に金庫を奪わせないように固めているのです」
マネさんの質問に山形さんが答えた。
「要するに金の取り合いなのか?」
「そうみたいです」
コロン隊長にも色々聞かれてから、二人は王都に帰って行った。
「大騒ぎして馬鹿らしかったですけど、大事にならなくて良かったですよ」
「そうですな、救出作戦は余り好きでは有りませんのでな」
ドロン騎士団隊長が笑って帰って行った。
我々も洞窟に帰ると、全員戦闘準備を終えて待っていた。顛末を話すと、装備を片付けて通常のお姉さん達に戻り雰囲気が一気に柔らかくなった。
「ミノルちゃん、御飯に行こうよ~」
退屈だったらしく、ミズリさんが言い出した。
「そうですね。何やる気も起きないし」
宿の食堂に全員でワープした。
「今日は珍しいのが入ってますよ」
昼番のお姉さんがエールを配りながら言った。何が出て来るのだろう?
「しかし馬鹿らしい午前中の騒ぎだったな」
マネさんが疲れたように言った。
「無事だったから良かったと思って忘れましょう」
そうとしか言いようが無かった。
「貝柱のバター焼きでーす」
お姉さんがステーキ大の貝柱を配膳し出した。一口食べてみる。
「ホタテだ!」
味は確かにホタテの貝柱なのだが、大きさは10倍くらいある。
「これはホタテと言うのか? しかし美味いな」
「日本ではホタテと言う貝の貝柱です。日本のは10分の1くらいの大きさで、とても高価な物ですけど」
一応説明しておく。
「エールに合いますね」
ポニーさんが気に入ったようだ。
魔国から持って来たとお姉さんが言った。パトリックさんはどんどん輸入を増やしている。
王様から連絡が入って会いたいと言って来た。今、宿に来ると珍しい食事が出来ると伝えると、すぐに現れた。
皆で席をずれて王様の席を作る。王様の外出着がドンドンおしゃれになっている。
「王様カッコイイー」
ミアさんがすかさず誉める。
「そうか? 本当に良いか?」
我が家のお姉さん達がドンドン乗せている。王様がとても嬉しそうだ。
王様にもホタテが配膳された。
「これは美味い! 何ですかな、これは?」
また同じ説明をする。王様が貝柱をほうばり、エールをガブガブ飲んでいる。
「最近、王宮の食事が不味く感じてならんのです」
お姉さん達に囲まれて、超ゴキゲンだ。
「ホフマン家と魔国で決済銀行を作ろうかという話が出ているのですよ」
「是非とも王家も入れて貰えませんかな」
すぐに乗って来た。頭の良い人だ。
「じゃ今度、皆で集まって話しましょう」
扱い高が増えてリスクが減った。
「忘れる所じゃった。今日はお願いが有りましてな」
「何でしょう?」
「私の兄にロドニー公というのが居ましてな、王など成りたくないと言って私に王位継承権を譲ってロドニー公に成って人前には余り出て来ませんのです。
兄には娘がおりまして、テルリアと申して何故か気さくで優しく明るいとても良い娘なのです。美人というか可愛いというか見た目も文句無しなのです」
「それは珍しい。大概性格の悪い金食い虫と相場が決まってますのに」
「全くその心配は無い娘でしてな、ただもう27歳になってしまうのです」
ミズリさんがドキッとしている。
「もう一つ問題が有りましてな。天然ボケなのです、世間知らずなもので」
「天然ボケも良いものですよ」
「それがですな、ボケ過ぎなんです。兄は密かに趣味を持ってましてな、それに関する蔵書も多いのです。
兄が王に成らなかったのも、その趣味が原因と言われているくらいなのです。
テルリアが子供の頃から兄のいない時に立ち入り禁止の書斎に入り込んで読んでいたらしいのです。挿し絵が多いので。」
なんとなく何の本か分かってきた。
「世の中そういうもので、大きくなって嫁に行けば自分もこうなると信じて大人になったらしいのです。
それが分かったのが最初の縁談の時で、相手に『私も妻になったらラインレル様の本にあるような妻になりたいのです』と言ったらしいのです」
ラインレルとは、この世界では有名な特殊趣味ムフフ本の作者だ。
「それは引きますね」
マネさんが我慢しきれず吹き出してしまった。
「マネ殿、笑い事では無いのです。本人は真面目にそう思い込んでいるのですわ」
「いや。陛下、大変失礼しました」
「ノア兄さんにその部分を内緒で紹介しますよ」
「そうしてくれますか! 恩にきますぞ!」
「兄もそちらは内緒で、そちらは嫌いでは無いので」
遂にお姉さん達の大爆笑となった。
「何なら食べ終えてからですが、皆で品定めに行きませんかな? ホレ、ノア殿の趣味に合うかミノル殿なら分かりますでしょう」
「それも良いですね」
我が家のお姉さん達はワクワクだ。ステン王子も誘ったらすぐに来た。
「これ、美味いですね! 良い時に呼んで貰いました」
ステン王子は必死にホタテを食べている。
「テルリア姉さんですか? 信じられないくらい良い人ですよ。美人だし。ただ、その……まあ天然ボケが凄くて……世の中を間違って捉えているというか……」
どうやらビンゴくさい。
3時のお茶の時間に全員招待となったので、全員でノア兄さんをどのように引き込むかワイワイやって楽しんだ。




