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第8章04話 箕輪支店長辞職


 3月になってしまった。本来なら日本に戻ってなければならない時期なのに、全くそんな気が無い。

 マネさんとテリッチさんが心配していたような雰囲気だったので、帰らない事を言っておいた。

 とても喜んでくれたので、俺の方が嬉しかったくらいだ。


 日本の企業らしく3月で箕輪支店長が移動と聞いたので陸奥銀行に行った。


「箕輪さん移動なんですって?」


「ヘルンブルグ支店を閉める事になって、斎藤さんがこっちに来て俺が日本に帰るんだって」


「何時でも移動は突然ですね」


「困っているんですよ。僕が帰れたとしても家の奥さんが日本に入れないし」


「それは困りましたね。魔人の凄い美人なんでしょう」


「建て前上、今は外交官しか行き来出来ないので僕だって怪しいの」


「そう言えば王様と日本大使がケンカしてましたね」


「日本政府が悪いのよ。あの政府になってから協定破りばかりするから」


「斉藤さんは?」


「それがあっちの銀行勘定を全部ホフマブルグ支店に移して、斉藤さんの家財もこっちに移したのがバレたらしくて昨晩から支店間通信を切断しているので分からない状態」


「斉藤さん独身でしたよね」


「うん、離婚しているから」


「斉藤さんだけなら僕が連れて来ましょうか?」


「やってくれる? 助かりますよ」


 斉藤さん救出は、呆気ない程簡単だった。透明化しヘルンブルグ支店に飛ぶと、斉藤さんがぼーっと座っていた。そのまま捕まえてホフマブルグ支店に戻るとキョロキョロしている。


「ミノルさんが助けてくれたのですか。助かりました」


「監禁状態だったのですか?」


「アイラス教団の連中が金庫を破って行ったばかりですよ」


 まだアイラス教団が頑張っているんだ。


「斉藤さんの家財は社宅に入れてありますから」


「箕輪君有り難う。助かるよ」


「じゃこれで引き継ぎと言う事で」


「箕輪さんは何処に行くんです?」


「僕は昨日で退職で、今日はミノル君に挨拶しに行っている筈なんですよ」


 箕輪さんが笑って話している。宿の食堂に誘って話を聞いた。

 要するに箕輪さんは何かの事情で会社に奥さんが居る事を隠していて、会社もリストラして斎藤さんを成績不振を理由に退職をさせようとしたので会社と揉めたらしい。


「箕輪さん、ここに住むとして仕事が有るんですか?」


「何か探さないとならないのですが、日本人の銀行員の需要が無いですから困っているのです」


「ホフマン辺境伯家の家宰やりません?」


「家宰なんて、またとんでもなく高い地位を」


 すぐに箕輪さんを執務室に連れて行った。兄達はとても喜んでくれた。


「箕輪さんが引き受けてくれるなら完璧だよね」


 フェン兄さんが自分が楽になるので、本当に嬉しそうにしている。


「助かるよ。一般歳入と歳出が難しいし困っていたからね」


「とりあえず、今日からでも館に客人で入って貰って、家宰屋敷をミノルとパトリックさんに探して貰おうよ」


 兄さん達は古い家宰屋敷を使う気が無いようだ。前任者が酷かったので縁起が悪いのも確かだ。

 話がどんどん進んでいる。ノア兄さんが1億デルの支度金を提示して箕輪さんが慌てている。奥さんも館に呼んだので初めて会った。


「ドレッチェルと申します」


 何処かで会ったような気がする。


「ひょっとしてラルドさんの親戚ですか?」


 顔がそんな感じだ。


「はい、一応そうなんです。末端ですよ」


 奥さんは本当に素敵な人だった。箕輪さんが大事にする筈だ。


「サキバさんが喜ぶね」


「うん。後で連れて来るよ」


 フェン兄さんも嬉しそうだ。

 我が家のお姉さん達はダンジョンでお仕事中の筈なので、ジャン警備隊隊長を呼んで箕輪さんの住民登録と就労許可を発行して貰い、斎藤さんには陸奥銀行の警備も増やして貰った。


 これで箕輪さん夫婦は外国人労働者では無く、正式なホフマブルグの市民となった。

 館が、やっと息を吹き返して来た。後はノア兄さんのお嫁さん探しだ。


「箕輪さんプレート貸して。僕が支度金を移して来るから」


 ポニーさんをダンジョンから呼んで、館に居て貰う事にした。


「奥さんで十分だろうけど、一応安全見て館も警備させるよ」


 我が家のお姉さん達全員が来てしまった。ダンジョン掃除に飽きていたようだ。事情を説明して帰って来るまで警備を頼んだ。

 アイラス教団が斎藤さんを監禁していたくらいだから、家宰就任を発表するまでは安全を見ないと。


「ミノル、儂も銀行に行くぞ」


 マネさんが一緒に来るというので二人で陸奥銀行に移動した。フリンさんが斎藤さんと話している。


「ミノル司令、お久しぶりです」


「元気にしてました?」


「お陰様で御飯も食べられるようになりました」


 相変わらず楽しいお姉さんだ。


「フリンさんが警備?」


「いえ。先程、銀行内に直接ワープして来た連中が居て弾き出されて警備隊に逮捕されたのですよ」


 特定の人間以外は銀行内に直接ワープ出来ないようになっている。


「それで事情聴取?」


「はい、アイラス教団の連中だったので情報隊の管轄になりました」


「斉藤さんを取り戻しに来たの?」


「どうも、そんな感じですね。隊長が調べている最中です」


 フリンさんと話していると事件だったような気がしなくなる。


「斉藤さん、警備を付けますけど暫くは気を付けて下さいね」


「ミノルさんには、お世話になりっぱなしで。申し訳有りません」


 事情を話して箕輪さんに1億デル移動して貰った。


「じゃ、フリンさん後お願いします」


「はーい」


 最後まで気楽なものだった。マネさんが大笑いしている。

 我々が館に戻ると箕輪夫人とお姉さん達が盛り上がっている。


「はい、箕輪さん。確認して下さい」


「良いのですか、こんな高額の支度金」


「日本円にすれば大した金額じゃ無いですけど」


「我々は換金を禁止されてましたので、現地手当てだけで結構苦しかったですよ」


 ミアさんと奥さんが仲が良さそうだ。知り合いだったらしい。


「お昼。一緒に如何です?」


 俺が誘うと、奥さんが行きたがっている。女性同士の会話が久し振りだったようだ。

 全員で宿の食堂に移動した。


「今日は鹿のステーキでーす。柔らかいですよ」


 お姉さんが全員にエールを配り注文を取っている。


「箕輪さんの家宰就任に乾杯!」


 ノア兄さんが珍しく主体的だった。全員で乾杯すると箕輪さんより奥さんの方が嬉しそうだった。日本の銀行員の妻では不安だったのだろう。

 念話でラルドさんにドレッチェルさんを知っているか確認すると、すぐに飛んで来た。


「叔父様! お久しぶりです」


「ドレッチェル。美しくなったな」


 二人で抱き合って喜んでいる。呼んで良かった。ラルドさんも席についてエールを飲み始めた。


「箕輪さん。姪のドレッチェルが大変世話になっております。感謝しますぞ」


 箕輪さんが魔王さんに感謝されて慌てている。


「4年程前、この娘が政治に巻き込まれそうになりましてホフマブルグに逃がしたのですよ。この2年程行方不明で慌てていたのですが、良かった良かった」


「真治さんと一緒になって、隠れていました。スミマセン叔父様に心配掛けて」


「いや、良い選択だったと思うよ。ミノル殿が女王を捕らえてくれなかったら、まだ大混乱の最中だったと思う」


「あの女王さんがドレッチェルさんを狙っていたのですか?」


「違うのです。あれの部下が勝手に女王の次にドレッチェルを擁立しようと考えたらしくて」


「私は叔母様が大好きでしたが、私が魔国に居ると面倒が起きそうだったのでホフマブルグに来ました」


「そこを弱味につけ込んだ悪い日本人が暗躍した訳ですね」


「ミノル君それは無いよ」


 全員が大笑いだった。


「俺が一番助かるよ。両方の家宰すると公平を保つのに苦労するのよ」


 フェン兄さんが言うのも分かる。魔国との決済が凄く増えている。


「ラルドさんとホフマン家で決済銀行を作って、貿易決済と冒険者ギルド決済も引き受ければ良いのですけどね」


 俺の提案にラルドさんとフェン兄さんが乗り気だった。


「決済だけなら、そんなに難しく無いですよ。陸奥銀行も預金高さえ下がらなければ喜びますよ。人手不足ですから」


 箕輪さんが、やる気みたいだ。話が珍しく明るい方向に進んでいる。


 サキバさんが途中から来て、より盛り上がって行った。楽しい時は進むのが早い。


「カニでーす」


 夜番のお姉さんがカニとエールを配膳し出した。全員の大歓声で宴会が進んで行った。




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