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第8章03話 出直し


 ホフマン家も徐々に正常化してきた。館の改装もほぼ終わり、ミリーさんもフェン兄さんの屋敷から館に帰っている。新しい執事と召使いと女中もミリーさんが選び館の機能は回復してきている。家族が住んで居ないのでコックはまだ居ない。

 館の2階で昔のまま残っているのは俺の部屋と兄貴達が使っていた部屋だけとなり、ダニエルの部屋もアデルさんの部屋も無くなり区割りまで変えた部屋となった。

 アデルさんの部屋は自分で返上されたそうで、壊される前に見に行くと壁に俺が小学生の時に描いたアデルさんの絵がポツンと3枚飾ってあった。

 俺は自分の部屋に絵を持ち帰ってアデルさん用のマジックバッグにアデルさんの剣や髪飾りなどと一緒にしまった。

 凄く寂しかった。


 3階は客人用の部屋や舞踏会も開ける大広間など、昔の機能を取り返している。


「フェン兄さんはどの執務室を使うの」


「ここを使うよ。ノアは辺境伯執務室を使うだろうし」


「俺は当分使わないよ」


「フェン兄さんの辺境伯任命は、王様とこっちの都合の良い時にやって貰う約束はして有るから」


「済まんなミノル、何から何まで」


「任命されるまでノア兄さんもフェン兄さんも余り王様関係に関わらないで、公式会談になっちゃうから」


「だよな。親父の死に方からして最低1年か2年は喪に服しているように見せ掛けないと評判悪いよ」


「暫くミノルに頼るしか無いよな」


 ノア兄さんが最近弱気だ。


「絶対に兄さん達から何か頼んだり頼まれたりしたら駄目だよ」


「分かっているよう」


「ミノル。聞きづらい事と言いづらい事が有るんだが」


 ノア兄さんが真面目に話し出した。


「何?」


「そろそろ3月だろう。日本に帰るのか?」


「帰れる状況とは思えない。戦争の確率だって下がった訳じゃ無いし、司令部のお姉さん達にも責任有るし。言いづらい事は?」


「……セリちゃんが逃げて行方不明になっている」


「いつから?」


「もう1週間くらい前から。窓から逃げ出した。治療師まで付けて薬物は抜けたんだけど、ぶり返しとか言って記憶で中毒と同じになるんだよ」


「そうなると、どうにもならないよ。嘘ばかり言って自分を壊す人達が自分を救うと思っているから」


「アデルさんも?」


「ぶり返しを押さえるポーションを開発して抑えているけど、永遠にポーションを飲ます訳にはいかないし。テリッチさんが可哀想で、1日中アデルさんに時間を取られて…」


「そうだよな、良かれとした事を逆に恨まれるしな」


「兄さんはセリちゃん、諦めなよ。もう無理だよ」


「俺、もう自信が無いよ」


「お嫁さん貰えば?」


「俺もそう思うよ、兄さんは辺境伯になるんだから」


「……」


「貴族の娘なら余っているよ」


「そうだよな、売買されているくらいだから。兄貴に相応しいのが居るのかな?」


「家宰も雇わないと。一般歳入と支出を任せて、3人で特別歳入を管理すれば良いのだから」


「適任者を探さないとね」


 問題は山積みになっている。出来る事からやって行かないと。

 帰りにラルドさんに会いに行った。


「決心しましたか。こちらはいつでも」


「申し訳有りません。これから」


「放っておけば、あのままです。良い決断だと思いますぞ」


 洞窟の池に帰った。


「ミノルさんお帰りなさない」


「ミノルお帰り」


 テリッチさんとマネさんが迎えてくれた。


 アデルさんは黙って膝を抱えて居る。ポーションが切れると逃げ出そうとするようになっている。仕方ないので魔壁を切り開いてある。アデルさんが逃げて、取り返しに行く度に何百人か犠牲が出る。


「アデルさん」


「もう放っておいてくれ、何も聞きたく無い」


「そうするよアデルさん」


 再生魔法で3ヶ所の印を消してあげ、メダルを外し俺のポケットに入れた。身に付いている物は無くなった。アデルさんが驚いたような顔をしている。


「ミノル。私が悪かった! 待ってくれ!」


 嘘は聞き飽きていた。10年くらいで治る可能性が有るとラルドさんが言っている。メダルの保護が、かえって邪魔になるらしい。

 お母さんの場所にワープした。中隊長さんにアデルさんを預け村の中に置いて貰った。お母さんの側になっている。お母さんと目が合ったので手を振ると、一瞬微笑んだような気がした。


 真っ直ぐ洞窟に帰るとテリッチさんが抱きしめてくれた。


「ミノル、良い決断だった」


 マネさんの言葉で助かったような気になった。

マネさん、テリッチさんと森の精霊様に報告に行った。


「ミノル、やっと決心したか。それで良いのだ。メダルはお前が預かっておけ、そのうち帰って来るだろう」


 森の精霊様の実に寛大な措置だった。


 我々は洞窟に帰った。


「また三人家族になっちゃいましたね」


「そうだな、でもアデルが居ても3人家族だったからな」


「アデルさんは自分から孤立してましたから」


「早く6人家族になるようにしないとな」


「なりますよ、だんだん」


「僕は基本は、この三人だと思います。我々がちゃんとしないと人数が多くなるとバラバラになります」


「そうだな」


「これを機会にここも解放します?」


 テリッチさんの提案は良いような、都合が悪いような。


「ミノル、思い切って解放しよう。多少開発や読書の邪魔になるが信頼関係が大切だぞ」


 マネさんの一言で決まった。

 他のお姉さん達に説明に温泉の池に行った。皆さん思い思いの事をしている。


「聞いてくれ。アデルは先程、治療の為魔国の施設に入った。ああなってしまうと10年とかの歳月を治療に要する。テリッチだけでは負担が大きく不可能となった。メダルはミノル預かりとなり治療が終わればアデルに返却される。森の精霊様の寛大な配慮だった。質問は?」


 マネさんが説明をしてくれた。とても有り難かった。質問は無かった。


「これに伴い洞窟の池は皆にも解放される。病人隔離の為とはいえ迷惑を掛けた。基本的には研究施設ではあるが、より暖かいと言うか暑い。これから案内するので寄ってくれ」


 マネさんが説明すると何でも簡潔になり早い。全員で洞窟の池にワープした。


「奥の部屋は乾燥している。物も置けるし広い。通路脇の部屋は研究室だ、危険なので立ち入らないでくれ。薬品と機材しか無い」


 皆、実験部屋の中を見て興味を失ったようだ。人数が増えたので幅1メートル高さ1.5メートルくらいの棚を割り振って個人の持ち物を置けるようにした。


「何で暑い所に居るのです?」


「慣れると風邪もひかないし快適に感じるんです。それとミノルさんの趣味が汗をかいた女性なんです」


 ポニーさんの質問にテリッチさんが答えると笑われてしまった。

 お姉さん達が土手でゴロゴロしたり池に浸かったりしている。結構広いので6人なら十分過ぎる程の広さなので問題無い。

 お姉さん達が宿から着替えなんかを持って来て棚に入れ出した。作って良かった。


「ミノルちゃんアリガトーね」


 ミズリさんがそう言ってキスしてくれた。ミズリさんから凄く良い匂いがした。アデルさんには悪いが皆が明るくなったような気がする。

 池に戻るとミアさんが、いつの間にかエールと焼き肉を宿から運んで来ている。そう言えば昼飯を食べて無かった。


「ここ良いですね。夏みたいで。ミノルさん臭くないのですか? 私の汗の臭い」


「ミノルさんはその匂いが大好きなの。魔人の出す匂いだって喜んでいるんだから」


 ミアさんがポニーさんに教えてくれている。


「好きですね。サキバさんとかトメラさんみたいに、派手にポッポポッポ出してくれると嬉しくなります」


「そうなんだ。良かった」


 ミズリさんがしみじみと言っていた。この世界の人は芳香剤とか香を買わないから買わないから、仕方ないのかもしれない。


 お姉さん達と話したり食べたりしていると、草地でテリッチさんが寝てしまっている。ミアさんが毛布を掛けてあげている。アデルさんが居なくなって気が抜けたのだろう。


「パトリックから20枚程ふんだくって来たので使って下さい。棚に入れておきます」


 ミアさんは本当に気が利くし優しい人だ。だんだん皆さんが宿に帰らなくなるような気がして来た。


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