第7章19話 ローン伯爵
『北の国』を叩いたので原材料不足となりセントニアの流通量が減っているようだ。麻薬組織はホフマブルグやリヒトブルグに持って来て押収されるより、持ち込み易い場所で値上げして売っているようだ。
「やはりクラゲだったのですかね」
「流通と生産量から言って、そうではないか?」
テリッチさんとマネさんが話している。
「王家直轄領の港は噂に上がりませんね」
「王が国が傾くと必死に取り締まっているのですが、宰相と兄達が目先の金欲しさに邪魔している状態ですね」
珍しくステン王子が仮免許のアデルさんを入れたメダル持ち全員と一緒に、朝食を食べているので話が聞ける。
「王都にセントニアを持ち込んでいるのは、ソシル子爵ですか?」
「多少は入ってますけど、ローン伯爵の領地からが主らしいです。隣ですから」
「中間派でしたか? 風見鶏ですよ。ヘンドリックス辺境伯夫人の実家です」
「婦人は子供を連れてヘンドリックス辺境伯から逃げたと聞きましたが」
「あれは婦人が浮気してバレたんですよ」
流石にポニーさんが詳しい。簡単に教えてくれた。
「じゃ、王様はローン伯爵に怒っているの?」
「カンカンですよ。力と金が無いので何も出来無いから、ローン伯爵も頭に乗っているんです」
「ローン伯爵の館は行ってるぞ」
皆がシーンとしてしまう。
「アデルさん飛び込めます?」
「任せろ」
俺を見てニッコリした。ナンか嬉しい。
「大丈夫だ、お陰で体調も良いしな」
頭を撫でてくれた。
「ソシル子爵はトメル公爵とボロミア公爵の隣だから叩き辛いけどローン伯爵は叩き易いですね」
「そうなんですか?」
頭の回らない王子様だ。
「ローン伯爵を叩いてあげるから、王家直轄領にしません? 王家の金策も楽になりますよ」
「良いのですか? ホフマン家は何が望みです?」
「前から言っているように、ホフマン家は他領に興味が無いのです。アデルさんに手を出した者は誰であろうと報復します」
ステン王子が念話で話している。
「少し待って下さい」
ステン王子がワープして消えた。
「ミノル、王家が乗ってくれば良い手だな。暫く戦争を回避出来る」
マネさんが誉めてくれた。
ステン王子が派手なオッサンと現れた。
「父エイリッヒ国王です。こちらがミノル司令です」
「これは直接いらっしゃいましたか。光栄です」
「精霊の守護主様が何をおっしゃる。役立たずばかりなもので長居は出来ませんが」
なかなか良いオッサンだ。
「ステン王子が面白い話を聞かせてくれたので」
お姉さんがエールとカニのオムツを配っている。国王がチラチラ見てるのが可愛いらしい。
「王も食べたら如何です? 王宮の食事がゴミに感じますよ」
全員が食べ始めると王様も釣られて手を出した。
「美味い!」
「王が毒味役無しで食べるのを初めて見ました」
ステン王子が笑って言った。皆、大笑いだった。
「僕の提案はステン王子に説明した通りです。ここで脅しておけば、ソシル子爵・トメル公爵とボロミア公爵は暫く動かないので、王家もホフマン家も時間を稼げます」
「どの様にやります」
ステン王子が興味深々だ。
お姉さんが、お代わりエールを王様にも配っている。
「飛び込んで館内と兵士を掃除しますので、王家の騎士団がワープで入って交代で如何です?
くれぐれもウルス王子親衛隊隊長みたいなのを送らないで下さい。館の財産は全て置いておきますので王家の収入になりますよ」
「本当にそれで良いのですかな?」
「我々メダル持ちに手を出した者に報復するだけですし、セントニアが叩けるならホフマン領にも利益になります」
「アデルさんに手出しした貴族は絶滅させられる恐怖に震えるでしょうね」
ステン王子が楽しそうだ。
「ステンさんと親衛隊も参加します? 王家の立場も有るし親衛隊の皆さんもやりたいかも知れないですよ」
「言えば絶対に来ますよ。前回で味をしめてますから」
「ステン王子と親衛隊を『北の国』に連れて行って下さり、立場が保てました。感謝しますぞ」
「王宮は何も出来無いと舐めてますからね。ミノルさんには感謝です」
ステン王子が神妙に言った。
「まだ王子をするのだ、冒険者一筋は止めなのか?」
マネさんがからかう。
「一連の問題が片付いたら、冒険者一筋ですよ。楽しいし勉強出来てお金まで稼げます」
王様まで笑っている。
お姉さんが鳥の串焼きを配っている。王様がすぐに手を出した。
「美味しいですな。朝食なのに肉とエールが心地よいですな」
「家のお姉さん達は時間の関係無しで飲みますので、王様には失礼してます」
「いや、この時間ならエールが美味い事を知りました。でも王都に美味いエールが有るのか怪しいですが」
また大笑いになった。
「兄達を呼びますか?」
「いや、今朝はミノル殿との非公式の方が互いに都合が良いでしょう」
「ですね。いつやります?」
「そちらの都合で」
「アデルさん、奴等は何時頃集まるの?」
「毎日のように午後4時には始めておるぞ」
ドロン騎士団隊長とコロン情報隊隊長に来て貰って状況を説明する。
「今日4時に300人くらい出せます?」
「親衛隊込みなら300人出せます。制圧して国王騎士団に引き継ぐだけですから楽ですよ」
「では準備をお願いします。今日、奇襲します」
「了解しました」
二人は帰って行った。ドロン隊長は王宮嫌いだ。
「今日ですか?」
「今日です。情報漏れに注意して下さい」
「凄い機動力ですな」
「絶滅させるだけなら此処に居るメダル持ちだけで十分ですけど、王様に引き継ぐ物が有るので絶滅する訳にもいきません」
「そうですな。街を全て無くす方がミノル殿は楽ですな」
王様が呆れたように言った。
「アデル殿。第2王子は昨日断頭し王宮前広場に晒してあります。 ウルス王子親衛隊隊長もアデル殿の誘拐に関わった事が判明しましたので、同様に処刑した。決して複製では無い事は信頼して貰うしか無いのだが」
「いや。国王陛下を信頼しますぞ」
アデルさんが応えた。アデルさんとマネさんが話すと国王より偉そうだ。
長居出来ない筈の王様は2時間くらい飲み食いして帰って行った。
我々も15時30分騎士団訓練場に集合で解散した。
洞窟の池で浮いて疲れを取る。疲れる会談だった。
「アデルさん、3時には起きれるポーションを飲みなよ。必ず起こすから」
「そうだな。ミノル、必ず起こしてくれ」
アデルさんに魔法を禁じてポーションを飲ませた。そう言えばアデルさんは補助印を押し直したのに気付いて無いようだ。
「ミノルさんも少し寝ましょうね」
テリッチさんがキスしてから胸を吸わせてくれた。スーッと意識が無くなりフワフワと夢も見ない眠りについた。
「ミノル、そろそろ起きろ」
マネさんが起こしてくれた。俺に何時も優しくしてくれる。
「はい」
口を濯いでサッパリしていると、アデルさんも湯に浸かりに来た。
「ミノル。済まんな、私の不始末で迷惑ばかり掛けている」
「僕は迷惑なんて思ってませんよ」
アデルさんが笑ってくれた。
服を着て装備を付ける。今日はマネさんもアデルさんもフル装備だ。テリッチさんは何時の通り。剣を使わないので当然だ。
騎士団の訓練場に行くと既に全員揃っている。
「儂とミノル、アデル、テリッチ、で飛び込む。ステン王子、来たいか?」
「お願い出来れば」
「始まっていると余り気分の良い光景では無いぞ」
「覚悟しておきます」
「飛び込む部屋は大きい。ミノル、全員凍結してくれ。儂とアデルとステン王子は廊下と同じ階の者を殲滅し各階順に片付ける。
ミア、ポニー、ミズリは外の兵士を片付けてくれ。騎士は300名くらいという情報だ。粗方空から片付けてドロン隊長に任せろ。連絡はミアがやれ」
「了解です」
「警戒で赤いのは婦女子でも躊躇するな。ステン王子、お前が一番危ない。騎士道など気にするな、死ぬぞ」
「分かりました!」
「外を確保して、半数くらいは館に入れた方が良いか?」
ドロン隊長がマネさんに聞く。
「余裕があれば、そうしてくれ。セントニアを館で見つけたら運び出し燃やしたい。国王騎士団があてにならん。済まんなステン王子」
「いえ、仰る通りです。我々で燃やすべきでしょう」
「粗方燃やしたら国王騎士団をステン王子が呼べ。館の財産はそのままだが大丈夫か?」
「王も来ると言ってます」
「国王直々か凄いな」
マネさんが面白がっている。
「全員透明化。出陣だ」
ステン王子は透明化ローブを着て、ワープした。飛び込んだ部屋は100人くらいの客と吊された傷だらけの女が居た。即座に女以外を凍結すると、マネさん達が廊下に飛び出した。
一応女に治療魔法を掛けてから、俺とテリッチさんで捜索すると薬剤室が有った。テリッチさんの略奪が始まった。
俺は隣の部屋を開けると、裸で繋がれた女達が居た。国王騎士団に任せる事にする。
警戒で見ると、外も粗方片付いているようだ。アデルさんが戻って来た。
「これがローン伯爵だ。残酷な男だったが凍ったか」
ステン王子が戻って、吊された女を見てウンザリしている。
「その部屋を見てご覧なさい」
俺に言われて女達の居る部屋に入った。ステン王子が短時間で戻って来た。
「知人が何人か居ます」
「これが現実なんですよ」
ステン王子が涙目で頷いた。
「ミアが工場と倉庫を見付けたと言って来た」
アデルさんが伝えてくれた。皆で行ってみる。離れが工場と倉庫だった。テリッチさんが機材を物色している。
「ローン伯爵婦人とヘンドリックス辺境伯婦人、子供達は拘束したが、どうします?」
ドロン隊長が聞いて来た。
「縛っておいて王様に任せましょうよ。面倒です」
「そうですな」
王子親衛隊が館前広場を制圧して、セントニアを積み上げている。凄い量だ。積み終わるのに30分以上かかった。
「ステン王子、号令を」
ドロン隊長に即されステン王子が号令を掛けた。
「火を放て!」
周囲からファイヤーボールが飛ぶと、一気に燃え上がった。相変わらず凄い炎だ。
絶対消せないくらいに炎が回った時、王様と国王騎士団が来た。王様が俺に寄って来た。
「館にローン伯爵の財産と婦人達、誘拐されたと思える婦女子が居ます。後は頼みました」
「有り難う、ミノル司令」
「総員撤収!」
全員でワープして騎士団訓練場に帰った。
「ドロン隊長、マネさん有り難う御座いました」
「いや『北の国』も今回も楽しませて貰いましたぞ。ミノル司令になってから仕事が楽しいですわい」
ステン王子が落ち込んでいる。
「ステン王子、落ち込むな」
マネさんに言われて顔を上げた。
「幼なじみの貴族の娘まで居たのです」
「国政が乱れると、ああなるんですよ」
「そうですね、肝に銘じます」
「そうガッカリしないで、ギルドに行ってトトにでもヨシヨシして貰え」
マネさんが、からかう。
「そうします」
ステン王子がワープして行った。
「今、そうしますって言ったよね」
「言った」
俺とマネさんでニヤニヤしてしまった。




