第6章22話 館の事情
日本に居ればそろそろクリスマスの季節に近いのだが、この異世界にはクリスマスの習慣が無い。それが不満かと言うと全然気にしない。
人は住む場所や環境で大きく変わってしまう。3月にダニエルと異世界に来た時は一人だった。それが、憧れのアデルさんと家族になり二人になった。アデルさんが、お母さんに引きずられアデルさんを失った時、マネさんとテリッチさんが家族になって三人になった。
マネさんとテリッチさんが力を貸してくれて、アデルさんを取り返して家族が4人になった。
3月に此処に来た時には考えもしなかった事が起きている。日本に居た時と比べると、あっという間に大人になってしまった。
変わったと言えばホフマン辺境伯領が大きく変わっている。ホフマブルグとリヒトブルグの大改造だ。凄い人手をかけて街の規模を2倍以上にしようとしている。
ホフマブルグは俺が来た時は落ちぶれて、2万人くらいになっていた。それが今では3万5000人を突破している。街をなんとかしないと、発展どころかスラム街だらけに成りかねない。
ノア兄さんとフェン兄さん、パトリックさんを呼んでホフマブルグの改造会議をしている。
「パトリックさん、工事は人を増やしてスピードを上げられません?」
「ミノルさんが言っているのは、ホフマブルグの城壁も始めろと言う意味ですよね?」
「そうです」
「無理やり増やすと、またスラム街の元を作る事になりますよ」
「ホフマブルグとリヒトブルグの建設工事が終わった後、リリアドルフとヘフナドルフの改造を考えてますけど」
「まあ、どちらも港町ですから発展もしますし港湾工事の人手が馬鹿にならないですからね」
「ミノルは何でそんなに急いでいるの」
フェン兄さんが呑気な事を言っている。
「例えば、労働者が来ても泊まる所が無いの。労働者の8割が女の娘なの。宿が足りないし高いから馬小屋に雑魚寝で寝るの。泥棒は出るし、性犯罪は起きるし誘拐して奴隷商に売るし。そうすると闇奴隷商は貴族の奥さんや娘を無理やり奴隷にして売買するの」
「分かったよミノル。悪かったよ」
「早くベッドハウスを増やさないと、でも建設予定地が今のスラム街なんで、スラムの人達に渡す共同住宅を建てないと。そのためには壁を早く作らないと不味いのですよ」
「そう言えば先週だけで2奴隷組織を潰してますよね。汚染のスピードが速いですね」
「頭が痛いのですよ。人手不足でどうにもなりません」
「なんとか人員を増やして工事を進めますよ」
「流石パトリックさん。助かります」
「並行して出来るならワンルームかベッドハウスの建設も」
「パトリックさんは返事をしないで帰って行った。」
「叔父さんもう出て来たら?」
「バレとったか」
叔父さんか透明化を解いて出て来た。
「ミノルに聞くが、儂は貴族や王にどのように対応すれば良いと考えておる?」
「そうですね。言える事は、今までの貴族の多数派工作は無駄です」
「無駄か?」
「はい、貴族院は開かれる事は当分無いでしょう。王家が元の力を取り戻すまで、やっても無駄ですよ。
今しなければならない外交は、安全で有利な貿易相手を探し進めて行く事ですね」
「そうかも知れんな」
「どんなに外交で頑張っても、相手がその気なら戦争だって起きるんです。お隣のボロミア公爵が軍を集めてますけど、1万人以上は軽く集めるでしょう。
その軍がホフマン領に来るのか王都に行くのかが転換点になるでしょう」
「来たら困るぞ、そんなに軍は居ないからな」
「勝てますよ。街道上で叩けます。相手もこっちが強いの知ってます。なら王都に向かった方が楽ですから」
「なる程」
「ボロミア公爵が僕のアデルさんに手を出したのも、魔術師の内部崩壊を狙ったのかもしれません。バカな話しです。どうせ、あいつには死んで貰いますけど」
叔父さんが黙ってしまった。
「奴が何故そんなフザケた態度に出たかと言えば、貴族院の多数派工作ですよ。叔父さんがボロミア公爵と問題を起こさないようにしているので好き放題するのです。前の家宰を使っていたのもボロミア公爵でしょう。そこまではまだ良いけどアデルさんの件は絶対許さない!」
「儂が止めても駄目か?」
「止めるくらいなら僕を殺した方が早いですよ」
それ以上話しが無かったようなので、館から帰って来た。
フェン兄さんから念話で宿の食堂で会おうと言うので食堂に行くとノア兄さんも来ていた。
「ミノル。先に言っておくけど、俺達はミノルを説得しょうとか止めようという気は無いから」
ノア兄さんが口火を切った。
「大分前から貴族院工作なんて無駄と言っていたんだけど、聞く耳持たなくてさ。アデルさんに手を出した連中が順番に消されて、参加した貴族が折角慌てているのに、止めさせるとか言い出して今日の結果さ。
親父は貴族工作の為なら家族も売ると、今日宣言した訳よ」
フェン兄さんがウンザリ顔でエールを飲んでいる。
「俺にも出て行けとか言い出したんで、親父に出て行くように勧めたんだけどね。領内で、あの人の命令聞く人いるのかな?」
「ノア兄さんに出て行けって? やらせて見れば。誰が叔父さん派か分かるから。ところで僕を解任してないの?」
「何故かしてないと言うか、出来ない。親父には権限が無い。今ホフマン領は家宰の俺とフェンとミノルの権限だけで運営している。
家宰はフェンとミノルの合意が無いと解任出来ない。だから親父は法的に何も出来ない。
歳入も歳出も俺とミノルが握っているし、俺が館を出されても住む場所が変わるだけなんだよな」
「叔父さんの事は、ノア兄さんとフェン兄さんに任せるよ。お母さんの時は僕が勝手にやったように、叔父さんはノア兄さんとフェン兄さんが好きにやって良いよ」
「ミノル、済まないな。ところでノア兄さんは何処に住ませる?」
「表向きはそのままで、取り敢えず僕の貸し屋敷が空いている筈だから、それ使って」
パトリックさんを呼んで、ノア兄さんは即日引っ越しとなった。




