第5章12話 俺の誕生日
ドロン隊長の噂によると、アデルさんの剣が出来たようだ。
「アデルさん、ドワーフさんの店に行ってみましょうか?」
「うん、行ってみたいな」
アデルさんがソワソワしている姿がとても可愛い。マネさんとテリッチさんも、野次で一緒に行く事になった。
「兄さんか。奥さんの剣なら出来ているよ」
ドワーフさんが中剣、短剣とダガーを持って来た。
「出来は最高だ。奥さんにも満足して貰えると思う」
アデルさんは中剣を手に取り眺めてから振った。
「凄い! こんな剣が世に有るなんて……素晴らしい」
「兄さんの剣に負けないように造ったつもりだ」
「姉さん、剣を見せてみな」
マネさんが鍛冶さんに言われ、全部を出した。
「これも良い剣だ。不思議な合金で造られている。相当良い鍛冶が打っているな。滅多に手に入らん。短剣もダガーも同じだな。時々手入れに持って来な」
マネさんが真剣な顔で頷いている。
「そのダガーも」
テリッチさんからダガーを受け取ると、暫く見ている。
「その姉さんのダガーと同じと思ったが違うな。ミスリルが多いようだ。魔人の作かな。魔法効果も大きい。貴重な作だ。大切にな」
テリッチさんも手入れに持って来るように言われていた。
「おいくらです?」
「3億でどうだ?」
「全部ミスリルの特注品で安くないですか?」
「兄さんの嫁の剣だ。気にするな」
値段を聞いてアデルさんがオロオロしている。
弓鍛冶さんとドルクさんは鉱山に行っているので、店を閉めてから銀行に行って代金を払った。
「こんなに高価な物と考えて無かった。済まない」
鍛冶さんと別れた後、アデルさんが困ったような青い顔で言って来た。
「値段なんて気にしないで使って下さい。何でも切れますよ」
我々は近くなのでトメラさんの店に立ち寄った。
「ミノルさん、いらっしゃい!」
トメラさんが良い匂いをポッポと撒き散らして寄って来た。
「また失敗仕入れですか?」
「失敗じゃないです! 売れないだけです。王都が不景気なんで売り物が多いんです。だから相場が崩れて……客の質は落ちるし」
「で、何を仕入れたんです?」
「これは600年程前の錬金術師が作った物で」
「また、それですか?」
俺は、つい笑ってしまった。
「笑わないで下さい! 私、これに弱いんです!」
「ゴメンね。はい説明を続けて」
トメラさんは奥に商品を取りに行って、何時ものように箱を持って帰って来た。
「これなんです。また髪留めですね。アデルさんが付けているのと同じ人の作と言われてます。精霊魔法を駆使した逸品!」
箱には透き通った藍色みたいな青い石と紫色みたいな青い石が入っている。金の枠が付いた楕円形の10センチ無いくらいの物だ
「凄い技術ですね。枠も一見金に見えますが合成された物です」
テリッチさんが、しげしげと眺めている。
「これもか?」
アデルさんが後ろを向いて、自分の髪留めをテリッチさんに見せている。
「同じですね。とても複雑な合成です。石はもっと複雑な合成です。良い力しか感じません」
「でしょう! テリッチさんまで認める本当の技術。
藍色が知恵と勇気を後押しする力、融和・正直・愛情・加護・行動という付加能力。
紫色みたいなのが全てを受け止める愛、融和・正直・勇気・加護・行動という付加能力。
どちらも付けているうちに所有者に融和し、周囲の人を幸福にすると言われ、精霊魔法を使える人が付けると効果倍増。盗まれる事は無いです」
「相変わらず魅力的だけど、無理に買わなくても良いような物でもありますよね」
「ミノルさん、それを言ったらダメ! 女性に対する夢が無い」
トメラさんが右手を前に出し、人差し指を立て左右に振っている。
「で、女性に対する夢はいくらなんです?」
「……両方とも同じ値段で……1億2000万デルなんです」
なんと値上がりしてる。アデルさんのは1億デルだったような気がする。
「高いんです……分かっているのですが、セットで出てくると値上がりしちゃうんですよ。何年も寝かせておけば儲かるのですが、私だとミイラになっちゃうし……ミノルさんどうしょう」
「はいはい、僕が両方とも買いますよ」
トメラさんの顔が明るくなって、抱きついて来た。
「ミノルさん大好き! アデルさんゴメン!」
トメラさんは相変わらずポッポと良い臭いを振り撒いている。
俺は箱を受け取り髪留めを手にし、眺めてみる。どちらもアデルさんのと同じで石の中を光の粉が動いている。
「藍色ぽい方がマネさんね。紫色ぽい方がテリッチさん。使って下さいね」
渡された2人が呆然としている。
「良いのですか? 屋敷が買えてしまう程の物を私なんかに」
「そうだぞミノル。儂などには高価過ぎるぞ」
「僕の大好きなマネさんとテリッチさんに貰って欲しいんです。値段は気にしないで下さい」
「2人とも付けて見せろ」
アデルさんが後押ししてくれた。マネさんもテリッチさんも付けると一瞬淡く青い光に包まれた。どちらも髪の色に合って良く似合う。
「有り難うごさいます。こんな心のこもった物を貰ったのは初めてです。しかも高価な……素直に嬉しいです」
「儂も必需品みたいな物しか貰った事が無かった。嬉しいぞ」
2人とも涙ぐんでいた。
トメラさんがモジモジしている。
「何かまだ有るんでしょう?」
「実はこれなんですけど」
トメラさんが瓶を出した。
「錬金術師なら泣いて喜ぶと言われる、万能効果安定の材料なんだそうです。錬金術師なんてテリッチさんしか知らないですし、国中探しても殆どいないし……困ってるんですよ」
テリッチさんが瓶を睨んで聞いた。
「これ、いくらなんです?」
「異常に高いんです。委託品で……1億デルなんです。売る人はタダみたいに安いと言うんですけど」
「確かに安いのですが、私には高価過ぎです。とても欲しいんです。もう買えない物ですから」
「貴重な物なんですか?」
「はい、例えばこの髪留めの精霊魔法を溶かし込んだりする時に使うんです。安定しない物を安定させる力が有ります。
1粒で何千デルみたいに売られる物で、滅多に売りに出ません」
「瓶全部で1億デル?」
「そうです。大粒の砂みたいな物に見えるんですけど」
テリッチさんが悔しそうに瓶を見ている。
「じゃ、これも買います」
「ダメですよミノルさん。私みたいな者にお金を使い過ぎです!」
「良いじゃないですか。もう買えないなら買っておけば」
テリッチさんが呆然と瓶を持っていて、トメラさんが大喜びだった。
銀行で3億4000万デルをトメラさんに払って宿に帰った。
この日は夜遅くまで皆で飲んでから露天風呂にアデルさんと入った。
「ミノル。今日は大散財だったな」
湯船で並んで湯に浸かり話をする。
「はい。今日、10月24日は歳を取った僕の最後の誕生日だったんです。もう歳を取らなくなりますから、記念で大事な人達に喜んで貰いたくて」
アデルさんが俺を睨んでいる。
「大馬鹿者! 何故、何故言わんかった! このマヌケのお人好しの阿呆! 祝うのはこっちだ!」
アデルさんが真剣に怒って俺を追いまわし殴られた。余りの大騒ぎにマネさんとテリッチさんが飛んで来て間に入ってアデルさんを止める。
だって俺、そうしたかったんですよ。
裸でノックアウトされた俺をマネさんが抱えてくれ、遠くの方でマネさんが俺を呼んでいるような気がした。




