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歌う坊さん、踊る悪魔  作者: 里山 マサル
第一章『約束』
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2曲目『歌う少年』

「おお~い、宗一郎~」

 

どこからか情けない声が聞こえた。

 寺の正面に回ってみると石段を登ってくる姿が見えた。


「よかった、居たぁ」


 この冴えない顔をした、気の弱そうな男は、中島信也。俺たちのもう一人のバンドメンバーである。担当はドラムだ

 普段は気が弱く、自分の考えもまともに言えない奴だが、ひとたびスティックを握れば人が変わる。

 どんな激しい曲でも俺たちのギターやベースに合わせてくるし、リードもしてくれる。頼りになる男だ。

 ただし、今はスティックを握っていない。 


「宗一郎~、助けてぇ」


 今にも泣きそうな顔で俺にすがり寄る。



「どうしたのよ信也、また何かあったの?」


 双葉が呆れ顔で近寄る。

 そう、またである。いつもこうやって俺や双葉に泣きつてくる。この間は近所の犬が怖くて家に帰れなかった、だったな。


「あのね、実は……。あっ、こっちです、こっち」


 後ろを振り返り手を振った。

なんだ? 誰かを呼んでいるみたいだが。

 信也の視線の先には運送会社の人が二人、息を切らしながら石段を登ってくるのが見えた。何か大きな物を抱えているようだが運送会社の人、ご苦労様です。

 その大きなものとは長さ150センチ位の長方形の板状の物で、ダンボールでグルグル巻にされていた。


「実はあれなんだけど……」


 何だか面倒なことになったな……。



現在我が家の居間には妙な物体が場を支配していた。

 大きな鏡である。姿見と言えばいいだろうか。

 人ひとりの全身を写し出すそれは趣味の悪い装飾が施されていて、奇妙な雰囲気を醸し出している。


「で、これがどうしたって?」


 俺は頼むからこんな物早く持って帰ってくれと言わんばかりに嫌な顔をして訪ねた。


「あのね、実はね」


 ゴニョゴニョと、要領を得ない感じで呟いている。


「なによ! ハッキリしないわね、言いたいことあるならちゃっちゃと言いなさいよ!」

 

 双葉が怒鳴りながら蹴りを入れる。

 いや、気持ちは分かるが暴力は反対だ。ついでに俺に対する暴力もやめてくれたら助かる。


「実はね、……聞こえるんだ」


 気が付いたら信也が語り始めていた。


「聞こえるって何がよ?」


 双葉はまだイラついているらしく部屋の隅にあった孫の手で自分の掌をポンポン叩いている。あの日か? あの日なのか?


「……ふんっ!」


 考えていた事が分かったらしく、孫の手で頭を殴られた。


「声が、するんだ。昨日の夜から」


 おっと再び信也が語り出したようだ。

 で? 何が何処から聞こえるって?


「その鏡から声が聞こえるの……」


 信也が指さす先にはあの奇妙な鏡だ。


「ぶふっ」


 双葉が吹き出した。


「ちょ、ちょっとあんた今何歳よ? 鏡が喋るぅ? まさか呪いの鏡とか言いたいの?」


 腹を抱えながらもう片方の手で信也の背中を叩く双葉。

 何もそこまで言ってやることないだろうに、信也は真剣なんだ、笑ってはいけない。

 …………はい、限界です。

 笑ってはいけないと思ったが、これは笑わずにはいられない。


「信也お前ばっかだなー、鏡が喋るわけないだろ。コンコン入ってますかー?」


 ふざけ半分に鏡面をノックしてみた。


『こらぁ! 叩くでない、ビックリするではないか!!』

「うあああああ!!!!!」


 こっちがビックリしたわ!


「おい信也、お前いつの間に腹話術なんか練習したんだ!?」

「腹話術じゃないよぉ。本当に鏡が喋ってるんだよぉ」


 そんな馬鹿なことがあってたまるか。もう一度ノックしてみた。


『だから叩くなと言っておろう!』


 やばい、これはモノホンだ。


「ねっ? ねっ? ホントでしょっ? 本当に喋ったでしょ?」


 勝ち誇ったように言うな、ぶん殴るぞ。……双葉が。

 

 その双葉はというと、部屋の隅で漫画を読んでいた。


「おい、現実逃避してんじゃねーよ」

「え、何? 信也帰ったの?」


 帰ってねーよ、それどころか新たな珍客が増えたよ。


『おおっ!? おいそこの女、そなたの持っておる物は漫画というものか? わらわ知っておるぞ、人間界の娯楽であろう? どれ、わらわにみせてみろ』

「はぁ? 女ですって? そんな言い方する人には見せてあげませーん」


 漫画を読みたがる鏡の中の住人と、それと低レベルな喧嘩をする幼馴染、我が家はこれから一体どうなるんだろう。


「で? 信也はこれをウチに持って来てどうしたいわけだよ?」


 元の元凶はこいつである。このカオスな状態をどうしてくれるんだ。


「えっと、宗一郎のおじさんお坊さんでしょ? この悪霊? をお祓いしてくれないかなー、って」

『おい、そなた今、わらわのことを悪霊と申したな!?』


激怒する鏡。


「ごめんなさい」


 謝る友人。

 

 お祓いして欲しいと言われてもうちの寺はそんなことやっていないんだが、さてどうしたものか。


「おい、さっきから騒がしいぞ、何やってる?」


 親父が居間に入ってきた。


「ん? なんだそれは?」


 居間に鎮座する鏡に気付き、怪訝な顔をしながら近寄る。

 よしっ、喋る鏡にビビって腰を抜かせ。それを指差して笑ってやる。


『なんじゃ、また人が増えたの。わらわを一体どうするつもりじゃ?』

 

  さあ、腰を抜かせ!


「ほう、喋る鏡?」


 全然驚いてないし!


「すごいなこれは」


すごいのはあんただよ。


「なるほどな、わしにこれをお祓いしてほしいと」


 事情は説明してみたが、これはさすがの親父も困ってるだろ。


「無理して引き受けることねーんだぜ?」

「いや、出来ないこともない」


 おいおい、安請け合いしていいのかよ。俺知らねえぞ。


「よし、お祓いをするからその悪霊とやらを鏡から追い出してくれ!」

「一休さんか!」


 と、まあ、俺たち親子のちんけなコントは置いといて、ホントにどうしようか。


「ねえ、いっそのことテレビ局に売っちゃう? この悪霊」


 はいー、来ました、双葉のトンデモ発言。


『だから悪霊でないと言っておろう!?』

「ごめんなさい」


 再び謝る信也。


「信也も謝ってんじゃないわよ。いい? こういうのは信用しちゃダメよ。相手を油断させていきなり襲いかかるんだからね」


 まあ確かに映画や漫画ではよくあるパターンだよな。


『ううっ、ひっく、えっぐ』


 え?


『ひ、ひどいのじゃ。さっきからわらわのことを悪霊、悪霊って』


 マジか、泣き出したぞ。


『わ、わらわはそなた達に何かしたか? な、何もしてないであろう』


 さっきから気にはなっていたが、どうも声が小さな女の子っぽいな。

 もしかして俺たち悪いことしちゃったかな。


「ね、ねえ宗一郎、どうしようこの子泣いちゃったわよ」

 

 普段強気な双葉がオロオロするのは珍しい。小さな子供には弱いからな~。今のうちに写メでも撮っておきたいが後が怖いのでやめておこう。

 とにかく今はこの泣いている子供をどうにかしなくては。


「えっと、ごめんな? ひどいこと言って」


 努めて優しい声で話しかけてみる。本来ならこういうのは女の双葉が適任なのだが、あいつはすぐキレるので俺があやす。

 実はこういうのは得意だったりする。伊達に家が寺で庭が近所のガキんちょ共の遊び場になっていない。


「俺たちはただ、どうしてお前がそこにいるのか知りたいだけなんだ。そこから出られなくなったのか?」

『そうなのじゃ、出られなくなったのじゃ。わらわはここから出たいのじゃ』


「そうか」と、言ってみたものの正直どうする事も出来ない。


『わらわにもう少し力があればここを開けられるのじゃが……』

「ちからか……」


 親父が何か言ったような気がした。


「親父?」

「よし、宗一郎、歌ってやれ!」


 はぁ? この親父今なんて言った?


「お前の歌には不思議な力が宿っているんだろ? 元気の出る歌を唄ってやれ」


 なんで今その話を持ち出すんだ? 茶化すのもいい加減に……


「歌ってやるんだ……」


 親父の顔は茶化してなどいなかった。


「分かったよ、歌えばいいんだろ」



 



 自分の部屋からギターを持って来て鏡の前に立った。

 元気の出る曲だったよな。ゆっくりとギターを鳴らす。そして徐々にリズミカルになっていく。不思議だ身体が温かい。

 その時だった、目の前の鏡が強く発光しだした。

 その光はさらに強くなり、俺たちの視界を奪う。


「礼を言うぞ宗一郎とやら!」

 

 やがて光は収まり、視界が晴れる。


 鏡の前に小さな女の子がいた。


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