第八十一話「ぼこすぞ」
でっかい斧にでっかい背丈。
ちょっとボサボサの黒い髪と、精気ゼロな茶色の瞳。
どの世界における私にも、馴染みのあるその姿は、
どこか狂気と違和感を孕み、壊れたように笑みを浮かべていた。
「……、!」
その壊れっぷりといったら、思わず圧されてしまうくらい――だけど。
「先手必勝だってばっ!!」
夢みたいに錯覚してるうちに、と、
私は両手を握りしめて突っ込んだ。
でも、いざ当てようとした瞬間、
彼の周りに謎のバリアでも張ってあるかのように阻まれ、
逆に勢い良く吹っ飛ばされる。
「い、ッ――」
そのまま迫ってきた黒い手みたいな何かが、首元までぱっと迫ってきたとき、
「馬鹿っ! 突っ込むだけじゃ勝てないわよ――」
飛んできた細い銀色の剣が、その手をすべて綺麗に両断する。
「わかってるつもりだよ! でもどうすりゃ――っ」
「二人とも!! それっ、たぶん呪いみたいな物で……っ」
「呪い――」
ふと飛んできたクリスの声に、
飛んでくる幾つもの手が斬られて行くのを横目に見ながら考える。
「昔おねーちゃんが言ってた……攻撃する瞬間には、それ――――――」
「――――え、」
風の音が、
それに揺られていた草の音が、
話し声も、少しだけ荒れた呼吸も、
――消えた。
やな予感。
予感、っていうより理解のほうが近いかもしれない。
「そ、っか――」
すっかり失念してたけど、コイツの能力。
時間停止――だった、はず――。
「――!」
「え、あ、ちょい待っ――」
一気に飛んできた手が、まるで黒く染まった壁みたいに見える。
それと同時に、何故かいきなり堰を切ったみたいに『現実味』が溢れだしてきて、
パニックに陥りそうになりながら、ひとまずライズを守ろうと、
動かない彼女の前に立って、両手をぐっとそれに向けて伸ばした。
(――あれ、)
――いま私、何しようと……?
無意識の行動に、違和感を覚えるのが少し先だった。
幾重にも腕から飛び出た魔方陣が、白い光の壁になって、
黒色を一瞬で掻き消し、眩く輝きながら、
「――へ、?」
――消えた。
戸惑っている暇もなく、忙し~く迫ってくる幾重にもなった黒色。
が、それすらすべて謎の光が消してしまって、
『攻撃する瞬間には、それ――』
慌ててその言葉を思い出し、
光の間をかいくぐりながら、懐までぐっと潜り込んだ。
虚ろな目で光に向かい、その黒い手のような何かを飛ばし続けるジェイドの顔が、
ちょっとだけ記憶と重なって、殴りづらかったのも事実だけど、
正直、正面から堂々と殴り飛ばせる機会を待ち望んでいたのもまた事実。
それに、ここで手を止めれば、
たぶん私は――。
「はあぁあぁぁぁ――ッ!!」
彼が私に気付いたのは、ちょうど直撃の一秒ほど前。
鈍い音をたてて、拳が顔にめり込んで、
その身体が吹っ飛んでいくと同時に、また世界が動き出した音がした。
「……っしゃ、やりぃ!」
この調子でいけば、たぶん――。
「――え、アリア……さっき止まってた、よね……?」
「止まって――、……そっか」
一応二人にもさっき私が残した功績は、なんとなく伝わってた様子で、
「だったら体勢崩れてるうちにっ!」
「っし、ボコすぞライズ!」
「ええ!」
これは勝ち確かな、って思った瞬間に、
異常な頭痛に襲われて、意識が揺らぐのをどこかで感じた。




